「ひとりじゃないから」
ある夏の昼下がり、恭也は縁側で昼寝をしていた。
暦の上では秋とはいえ、まだまだ暑いのだろう、胸元には
うっすらと汗をかいていた。
そこに、
「恭也ー、お茶が入ったよー♪」
と、彼の妻であるフィアッセがやってきた。
「恭也? 恭、あ、お昼寝してたんだ・・・」
とつぶやくと、ふと何かを思いついたような顔をすると彼の傍らに座り
「よいしょっと♪」
彼の頭を、自分の膝に乗せてしまった。
「えへへ、恭也の寝顔を見るのも久し振り♪
相変わらず、かわいい寝顔だね♪」
そう言うと、そばにあった団扇で恭也を扇ぎだした。
「ずいぶん疲れているのかな?こんな事をしても起きないなんて・・・」
彼女はしばらくだまって扇いでいたが、ふと呟き出した。
「ねえ恭也。今私幸せだよー」
「ママと同じステージで歌えたし、こうして恭也と一緒になれたし」
「そのうえ2人も子供ができたし・・・」
そういうと子供が寝ている部屋の方に視線を移した。
「でもね」
視線を恭也の寝顔にもどすと
「だから怖いの。いつかこの幸せが壊れるんじゃないかって思うと」
「いつか私の羽がまた黒くなって恭也や子供たちが危ない目に
遭うんじゃないかって」
「もしそうなったら、私、私・・・」
と床に視線を落とす。
「心配いらない」
えっ、と声のするほうに視線を戻す。
「恭也、起きてたの?」
「フィアッセ気配が少し変わったからな」
恭也がフィアッセを見上げていた。
「さっきの話だけど、フィアッセは何も心配しなくていい」
「俺はちゃんとフィアッセのところに帰ってくるし、フィアッセと子供たちも
守ってみせる」
「俺がフィアッセの羽を黒くさせない」
恭也は静かに話している。
「うん、うん」
目を潤ませながらフィアッセは頷く。
「それに、フィアッセは一人じゃないんだ」
「俺もいるし、かーさんもいる」
「ちょっと頼りないけど美由希だっている」
「それになにより子供たちがいるじゃないか」
「だから、ひとりで苦しまなくてもいいんだ」
「うん、そうだね、恭也や桃子達、それに子供たちもいるんだもんね」
「私、やっぱり幸せだよー」
「ありがとう、恭也。愛してるよ」
フィアッセの顔が恭也に近づき、唇が触れようとしたその時、
「ふぇぇぇ」
「ふゎゎゎ」
赤ん坊のぐずる声が聞こえて来た。
恭也とフィアッセは苦笑いをする。
「我が家のプリンスとプリンセスが目を覚ましたみたいだねー」
「そのようだな」
そういうと恭也は立ち上がり、フィアッセの手を取り立たせる。
「なあ、フィアッセ。」
「うん?なに?」
「ゆっくりとでいいから、みんなで幸せになっていこう。」
「うん♪」
フィアッセは満面の笑みを浮かべながら恭也と手を繋ぐと、
本格的にぐずりだした子供たちが待つ部屋の奥へと消えていった。
〜Fin〜
(あとがき)
こんにちは〜、かんです〜。
性懲りもなくまた書いてしまいました。
しかも今回は初めてのト書き付のSS。(なんて無謀な)
私はト書きって苦手だから、ト書きを上手く書ける方がうらやましいです。
実は
「縁側で恭ちゃんを膝枕して団扇で扇ぐフィアッセさん」
というシチュエーションを書きたかったんです。
恭ちゃんとフィアッセさんの夏の1こまとしてぴったりだと
思うんですけど、いかがでしょう?
で、その時にどんな会話をするかなぁと考えてたら
こんなふうになってしまいました。
途中無理やりな所があったような・・・
う〜ん、まだまだ精進が足りませんね。
でわでわ♪
魔術師のお礼状
ということで、かんさんの初ト書SSです。
高町家の縁側という舞台も手伝ってか、純和風な夏の匂いを感じる作品です。
蜩の声
開け放たれた窓
風鈴
そして、フィアッセの膝枕
・・・物凄い幸せな絵だ。
過ぎてしまった夏への郷愁を感じつつ、涼やかな一品ですね。
幸せに慣れないフィアッセ。
それは間違いないのだけれど、実は恭也も人並みの幸せって奴はそれほど味わっていないのかもしれない。
だからこそ、最後の「ゆっくりとでいいから、みんなで幸せになっていこう。」という言葉は、
自分の大切な人と、その子供達はもとより、何よりも自分自身に向けた言葉かもしれないなと思ってしまいました。
これを読んで幸せになった人は感想をGO〜!!
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