太陽






 高町恭也――そう指で書いてみる。

 不思議な人だった。人見知りをするはずの私が、何故か自然に話すことができた。出会いが特別だった、ということもあるかもしれない。

 今日、私は初めて高町くんとまともに話した。

 三年間、何故か彼とは同じクラスだった。だけど、彼と話す機会は今日まで無かった。それは、これまで彼に対して無関心だった訳ではない。

 彼は私と雰囲気がどこか似ているような気がしていたのだ。

 彼のクラスでの立ち位置は、私とほとんど同じだった。唯一違うところあげれば、私は暗闇に立っていて、彼は日陰に立っていた、ということだ。

 つまり、彼には友達がいたのだ。

 私が見た感じ、彼らは正反対の人種だった。今でもあの二人が何故友達同士なのかがわからない。

 クラスの人気者で誰からも好かれている太陽のような存在の赤星くん。なるほど、彼の性格ならば誰が相手でも嫌うことなく付き合ってくれるはずだ。だけど、高町くんとの関係は他の人のそれとは違うように思えた。はっきりとした答えがある訳ではない。しいて言うならば、二人の間には信頼しあっているような、そんな雰囲気があったのだ。

 指で書いた名前を消すようにはらい、仰向けになるように寝返りを打った。

 点けたままの光が目に飛び込み、まぶしさに目を片手で覆った。

 今日の出来事を思い出す。

 きっかけは最悪の出来事だった。つまらない財産争いに巻き込まれた私は、後ろから突き落とされた。脅しのつもりなのだろう。

 だけど、それは悪い出来事ばかりではなかった。

 突き落とされた私は、その勢いでたまたま下にした高町くんを押し倒してしまった。その時のことを思い出し、自分の顔が熱くなるのを感じた。





「よく考えると……凄いカッコだったよね……」





 押し倒した時に感じたごつごつした男の子の体の感触――それを、はっきりと思い出すことができた。その度に、自分の顔が更に熱くなっていく。

 それは、今まで味わった事のない気持ちだった。





「うーん、まともに高町くんの顔……見れるかな」





 せっかく知り合いになることができたのだ。それも、私にとって初めての友達になってくれる相手かもしれなかった。

 自分の考えていたことに驚く。

 彼が友達に――それは、なんと言う矛盾だろう。彼と友達になることは彼に迷惑がかかるかもしれないのに、何故今まで通り、遠ざけようとしないのだろう。

 耳元にある枕を取り、抱きしめる。





「……ふぅ」





 しかし、自分の気持ちは彼と知り合いになれたことを喜んでいる。

 大丈夫、おはよう、という言葉だけでいいのだ。彼ならば返してくれるはずだ。

 もしかすると、彼が私の側に来ないかもしれない。その場合はこちらから行けばいいのだろうか。それとも、向こうから来るのを待つべきなのだろうか。

 それは不器用な私にとって、答えの導き出せない問題だった。





「どうしたらいいんだろう……」





 寝返りを打ち、体を横にする。

 私は思う。朝が来るのが怖い、と。

 そんなことを思うのは、とても久しぶりだった。











 朝、学校に着くと、私は神の導きを感じた。彼と私が友達になるということを、精一杯応援してくれているようだった。

 教室の前の黒板に席替えの表が描かれていた。私は窓際の席で――隣の席には<高町>という名前が書かれていた。

 内心、私は飛び上がりそうな気持ちになっていた。だけど、それを抑えて、自分の席に向かうことにした。一歩一歩踏み出す足が震えているように感じられる。心臓の音が周りに聞こえていないだろうか、と心配するほどに波打っている。

 自分の席に腰を下ろす。

 時計を見ると、まだ時間があった。隣の席は空いている。

 私は神に感謝をし、彼が来るのを待った。

 窓の外を見ると、四月の空は青々としていて、太陽は私を照らしていた。

 私は思う――高町くんに対する赤星くんのように、彼は私を照らしてくれるのだろうか。

 私は彼が来るのを、今か今かと待ち続けた。









 ――あとがき――

 どうも、お久しぶりです。

 約一年半ぶりの他力本願寺ですが、私のことを覚えていらっしゃる人はいるでしょうか。(笑)

 この一年半、今か今かと待ちわびてました。

 ですが、無事開催されたようで、何よりです。

 精一杯、盛り上げて行きましょう。

 これを読んで、少しでもいいな、と思われた方は、恭也×忍に一票を。











魔術師のお礼状


はい、一昨年以来ですがご参加いただけて幸いです。
最悪、自分で自分に投稿するしかないと、悲愴な気持ちを固めていただけに、感謝感激雨霰です。
忍の恭也と出会った直後の一幕ですね。

今まで周囲に友人らしい友人が居なかった忍らしい、人との関わりを恐れるような、求めるような繊細な雰囲気がしっとりとして良い感じです。
そして、こういう機会がないと、なかなか人様のSSを読みにいけない私には、久々の忍SSだったりします(笑

忍は、明るい雰囲気も切ない空気も出せる、書き手の味付けしだいによって表情を変えるキャラですので、こういった情緒的な話はステキですね。

ということで、今回の応援SS第一号は恭也×忍でしたー。
10票獲得ですねー。
これよんで、いいな!と思った人は、投票してあげてくださいねー。

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