『お花見』
ある春の午後、恭也はここクリステラ廊下の窓から外を眺めていた。
彼はこの春から警備主任としてここクリステラ・ソングスクールに常駐していた。
と、そこに
「恭也ーー♪」
ソングスクールの校長である、フィアッセ・クリステラがやってきた。
「何してたの?」
「ああ、桜を見ていた。イギリスで桜が見られるなんて思わなかったからな。」
「あれね。私が桜が好きだったから、このスクールを作るときにママに頼んで植えてもらったの♪
でも、さすがにソメイヨシノは持って来れなかったから、種類が違うけどね。」
「そうだったのか。それで、なにかあったのか?」
「む〜、なにかないと呼んじゃいけないの?」
「い、いや。そういうわけじゃないのだが。」
「くすっ、冗談よ。そろそろお茶の時間だから呼びに来たの。いいでしょ?」
「ん、もうそんな時間か。ああ、行こうか。」
「うん♪」
二人は校長室に入っていった。
「庭の桜は、今ちょうど見ごろだな。」
校長室のソファーでお茶を飲みながら、恭也が言った。
「そうね、スクールのみんなでお花見するのもいいかも♪」
「そうだな・・・」
「恭也?どうしたの?」
「ああ、日本を出る前にやった花見を思い出してな・・・」
「ふ〜ん。ねえ、その時の事聞かせてくれる?」
「ああ。」
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3月の下旬、高町家とその関係者一行は、九台桜隅に花見に来ていた。
「「「「「かんぱーーーい」」」」」
「く〜ん♪」
桃子と忍、それに赤星はお酒の入った紙コップを、恭也と他の娘たちはジュースの入った紙コップを掲げた。
(ちなみに久遠はお皿に入った甘酒を既に飲んでいた。)
「はい、お兄ちゃん♪」
「ああ、すまんな」
空になった恭也のコップになのはがジュースを注いでいると、忍が
「恭也は相変わらずジュース?」
と尋ねた。
「ああ、やっぱり酒は・・・」
と、恭也が答えていると、桃子が話に入ってきた。
「恭也!あんたまだジュースを飲んでるの?」
「しかたないだろう、どうしてもうまく感じないんだから。」
「でも恭也。もう大学卒業なんだから、これから付き合いとかで飲む機会増えるわよ?
そのたびにジュースってわけにはいかないでしょう?」
「それはそうだが・・・」
「それに・・・」
桃子は恭也に近づき、恭也だけに聞こえるように
「それに、あそこはスコッチの本場でしょ?飲めないと損よ♪」
といって、恭也から離れた。
「ああ、そうだな」
「でしょ?」
「わかった、努力する。」
「よろしい♪」
「そういえば高町、お前まったく就職活動していなかった様だけど、卒業したらどうするんだ?やっぱり翠屋か?」
「えーー! 恭也、就職決まってなかったの?」
「恭ちゃん(おししょー、師匠、恭也さん、お兄ちゃん)、そうだったの(そうだったんですか)?」
「そ、そういう月村も就活してなかたっだろう?」
「私は、ほら自分で会社起こそうかなあって思ってたから・・・。 で、恭也どうするの?」
「そ、それは・・・」
「ねえ恭也。もしよかったらさ〜、私と一緒に会社やらない? 私が会長、恭也が社長って感じで♪」
忍がそう言うと、那美が
「何言ってるんですが、忍さん。恭也さんは、わ、私や久遠と一緒に退魔の仕事をするんですよ、ね〜久遠?」
「く〜ん♪」
と言い、久遠も賛同した。すると今度は美由希が
「忍さんも那美さんも勝手なことを言わないでください。
だいたい忍さん、恭ちゃんが社長なんてできるわけないでしょう。
それに那美さんも。霊力のない恭ちゃんが何の役に・・・」
と言いかけだが、殺気を感じてそちらを向くと恭也が美由希のほうをにらんで
「美由希、今日は膝の調子がすこぶる良い。今夜の鍛錬が楽しみだな」
と言った。
「あの、あの。と、とにかく恭ちゃんは翠屋で働くんですよ、ね、なのは?」
「そうですよ〜。お兄ちゃんは翠屋で働くんです♪ ね〜晶ちゃん、レンちゃん?」
「そうです、師匠は翠屋です。」
「そうですね〜、うちも賛成です〜。」
なのは、晶、レンも参加し、わいわい言い始めた。
「す、すまん、高町。俺の一言で収拾がつかなくなってしまったみたいだ。」
「おい、お前たち。いいかげんに・・・・。」
止めようとした恭也だったが、
「恭ちゃん(恭也、恭也さん、お兄ちゃん、師匠、お師匠)、どうするの(どうするんですか)?」
「そ、それは・・・」
逆に追い詰められてしまった。
「ほら、恭也。あんたが言わないとみんな納得しないわよ。
それに、そろそろみんなに話さないといけないでしょ?いい機会だから話したら?」
「うむ、そうだな。」
桃子の言葉に、恭也はうなずくと娘たちのほうを向いて話し始めた。
「みんなには黙っていたんだが、俺の卒業後は決まっている。」
「「「「「えーーー!」」」」」
「本当なの、お兄ちゃん。」
「ああ、本当だ。第一嘘を言ってどうなる。」
「でもお兄ちゃん、よく真顔で嘘を付くから・・・。」
「うっ。こ、今度は本当だ。疑うんならかーさんに聞いていればいい。」
「うん♪ お母さん、お兄ちゃんが言ったことって本当なの?」
即座に桃子に確認するなのはをみて、恭也はがっくりと両手を突いた。
なのはをからかう為、時々(よく?)嘘を付いてきた恭也である。自業自得と言わざるを得ない。
「そうよ、今回は(・・・)本当よ。」
そんな恭也となのはをみて、苦笑しながら桃子は答えた。
「そうなんだ。お兄ちゃん、疑ってごめんなさい。」
なのはが恭也に謝ると
「いいよ、普段俺が嘘をつくのが悪いんだから。」
と恭也はなのはの頭をなでながら言った。
「えへへ〜♪ それでお兄ちゃん、どこに決まったの?」
「イギリスだ」
『イギリスーーーー?』
恭也、桃子、久遠以外は驚いた。
「イギリスって、あのヨーロッパの?」と、なのは。
「イギリスって、サッカーで有名な?」と、晶。
「イギリスって、ウィスキーの本場の?」と、忍。
「イギリスって、正式名称がグレートブリテンおよび北アイルランド連合王国の?」と、美由希。
「ああ、そうだがって、美由希よ、どうしてイギリスの正式名称を覚えているんだ。」
「そ、そんなことより、恭ちゃん。どうしてイギリスに・・・?
あっ、もしかして、フィアッセ?」
「ああ、4月からCSSに新設される警備部門の責任者としていくことになった。」
「でも、急な話ですよね、恭也さん」
「いや神咲さん。確かに決まったのは最近なんですが、話自体は前々からあったんですよ。」
「そうなんですか?」
「ええ、高校卒業前にティオレさんからお話をいただいていたんですが、保留にしてもらっていたんです。」
「じゃあ恭ちゃん、どうして今になってその話を受けたの?」
「理由は2つ。まず、やること、というか心配事かな。その大部分がなくなったことがひとつ」
「心配事?」
「まず、美由希。お前は免許皆伝したし、あとの技は美沙斗さんから教わればいい。」
「う、うん。」
「次に、晶。お前は御神流へのこだわりをやめ、空手に自分の道を見出しただろう?」
「は、はい。」
「次に、レン。レンは、ちゃんと手術を受け、病気を克服したしな。」
「は、はい。」
「そして、月村や神咲さんのごたごたも無事に解決しましたし・・・。」
「う、うん。」
「は、はい。」
「あと気がかりなのは、なのはなんだが・・・。なのはよ、お前も来年は高校生だ。
かーさんもいるし、兄がいなくてもやっていけるな?」
「う、うん・・・。」
うつむきながら答えるなのはの頭をなでながら、恭也は
「すまんな。今までろくに構ってやれなかったのに、今度からはそばにもいてやれなくて・・・。」
と言った。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。なのは、もう子供じゃないよ。」
「そうか。」
そう言うと、恭也はなのはの頭をなでていた手を下ろした。
「それに、なのはがパティシエの勉強でフランスに行ったら、ちょくちょく会えるようになるでしょ?」
「そうだな、なのははかーさんを目標にしてたものな?」
「うん♪」
恭也は再びなのはの頭をなで始めた。
それを他の娘たちがうらやましそうに見ていたが、ふと思い出したように美由希が恭也にたずねた。
「恭ちゃん。それでもうひとつの理由ってなんなの?」
「もうひとつの理由?」
「ほら、さっき話を受けた理由が2つあるって言ってたじゃない。」
「そうね。ひとつ目は聞いたから、もうひとつのほうも聞きたいわね。
ということで恭也、なんなの?」
「私も聞きたいです。」
「俺も。」
「うちも、です。」
「なのはも〜」
「俺も聞きたいな、高町」
娘たち、そして赤星は恭也に詰め寄った。
「も、黙秘権を行使する。」
「い〜じゃない、恭也〜」
「そうだよ、どうして教えてくれないの、恭ちゃん!」
「どうしてもだ!」
「恭ちゃん(恭也、恭也さん、師匠、おししょう、お兄ちゃん)!!!」
「う・・・」
「ほら、あなたたち、もういいでしょ?ちょっとは察してあげたら♪」
なおも詰め寄られた恭也に桃子がは助け舟を出した。
「ふ〜ん、そういうことか、恭也♪」
「俺もなんとなくわかりました〜」
「うちもです♪」
「なのはも〜」
「えっ?えっ?えっ?」
「あの〜、みなさん判ったんですか〜?」
どうやら美由希と那美以外はなんとなくわかったようだった。
そして、それを悟られた恭也はなんともいえない顔をしていた。
「ほ〜ら、恭也。そんな顔をしない。美由希と那美ちゃんにはあとでヒントをあげるから。
ということで、今度は恭也のために乾杯しましょう。みんなコップを持って♪」
桃子の言葉でがコップを持つ。
「では、恭也の前途を祝して、かんぱ〜い」
『かんぱ〜い』
「く〜ん♪」
(かーさん、みんな・・・・ありがとう)
桃子の音頭で赤星、娘たちそして久遠までもが乾杯をするのを聞きながら、恭也は心の中で感謝していた。
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「ふ〜ん、そんなことがあったんだ〜」
フィアッセと恭也は校長室を出て廊下を並んで歩いていた。
「それで、もうひとつの理由って何なの?」
「フィアッセもか?」
「だって気になるじゃない〜。それとも私にも内緒なの?」
フィアッセは上目遣いに恭也を見ながら尋ねた。
「うっ」
「ね♪いいでしょ、恭也♪」
「わ、わかった。言うよ。もうひとつの理由は・・・」
「もうひとつの理由は?」
「もうフィアッセと離れたくなかったからだ。」
フィアッセの上目遣い攻撃に負けた恭也は、あらぬ方向を向いて答えた。
「ねえ、恭也。もう一回言って♪」
「恥ずかしいからいやだ。」
「いいじゃない、恭也♪ もう一回、ね♪」
「む〜、もうフィアッセと離れたくなかったからだ。」
「うれし〜。わたしも、もう恭也と離れたくない♪」
そう言うとフィアッセは恭也の腕に抱きついた。
そこに外から二人を呼ぶ声がした。
「フィアッセ〜」
「恭也〜」
「ゆうひ!?」
「アイリーンさん!?」
それはCSSの講師をしている、SEENAこと椎名ゆうひとアイリーン・ノアだった。
「二人ともどうしたの?」
「いや〜、桜があんまりきれいやからね〜」
「みんなでお花見しようってゆうひが・・・」
「ということで、二人ともはよ来て名な〜」
そう言うとゆうひとアイリーンは、桜の木のほうに行ってしまった。
「もう、ゆうひったら〜。それで警備主任さん、かまいませんか?」
「できれば避けてほしいのですが、しょうがないですね。暗くならないうちならいいでしょう、フィアッセ校長。」
「うふふふ」
「あははは」
形式ばった言い方に二人は思わず笑い出したが、
「じゃあ、俺たちも行こうか?」
「うん♪」
手をつないでゆうひやアイリーン達が待つ、桜の元に歩いていった。
おしまい
(あとがき)
え〜、恭也×フィアッセ応援SSです。
今回は、なかなか筆(?)が進まなくてこれだけです。しかも相変わらず文章が稚拙だし・・・・。
そのうえモチーフとして時期はずれになってしまったし・・・。
このお話では、恭ちゃんはすべてのイベントを通っています。
登場人物が多いと本当に大変ですね。
でわ〜。
魔術師のお礼状
恭也君は全てのルートを通ってるって・・・ハーレム!?
なんて、冗談はともかくとして、フィアッセと恭也が鴛鴦な感じで良いですね。
日本に残してきたレディース全員に、二人の関係を億尾にも出さずに好意を寄せられてるなんてプレイボーイですねw
きっとこの桜はCSSの名物になるのでしょうね。
遠く日本を想う時、必ずこの桜の木の下に佇む警備主任さん。
毎年春には新入生歓迎会をかねたお花見が催されることでしょう。
でも、とらハはホントに人物が多くて大変ですよね。
私も一書き手としては、あのお花見の喋るシーンは大変だろうなと、余計な感想をw
そして、美由希好きとして、扱いのあれさにちょっぴり涙。
かんさんらしいほのぼのした、可愛らしいお話ありがとうございました〜〜