ドクンドクンと胸の鼓動が煩い。
顔が熱い、呼吸が荒い。

何故?
当然、走ってきたからだ。

そうかもしれない。
でも、私はこのくらいで息が上がるほどに、柔な鍛え方しかしてなかったかしら。

そんな着想を首を振って頭から追い出す。

走ったから息が上がる、そんなことは当然だ。

決して、今目の前にある光景が原因だなんて、あるはずがない。


釣竿を垂らす、青く短い髪に一部だけ長く編みこんだ三つ編み、そして力強い笑顔が特徴の男がいる。
肩口までのショートカットに、男物のスーツ姿が印象的な、きりっとした美女が彼の前に相対している。

そして、それを物陰から隠れるようにして見ている私。


別に目の前の情景が原因で、胸の鼓動が煩いのでは決してない。
ただ、学校が終わってから一目散にここに走ってきたから、息が上がっているだけだ。


まあ、勿論。
そうやって己に言い聞かせる彼女、美綴綾子は、そもそも何故自分がここに走ってきたのかを考えることは、意識的に拒否していたわけだが。


それぞれのValentine

☆ランサー編☆


何処となく浮かれたような、少し浮ついた雰囲気の学校を歩く。
今日は年に一度の女の子の祭典、バレンタインなのだから、この雰囲気も仕方ないのかもしれない。

『女傑』なんて言われている美綴綾子だって、女の子。
鞄に入れたチョコレートを武器に、好きな男の子を射止めるために、あれこれ算段を立てたりする








――――――――――――――――――――――――――――――わけがない。


参加しないのも楽しくないので、毎年この日は、周りの連中、ここ最近で言えば弓道部の男連中に、義理チョコを贈ったりはしているが、肝心の本命チョコなる物は考えたことも無かった。

それが、今年は・・・

チラリと鞄の中にあるはずの物に視線をやり、たはー、なんて苦笑してみたりもする。

「このアタシがまさか、こんな物を用意する日がくるなんてね」

似合わないね、我ながら。なんて心で苦笑してしまう。

「こんな物って何だ?」

一人苦笑しているところに、突然声をかけられ思わず、飛びのいてしまうのは不可抗力だ。
なんだよ?なんて、不思議そうな顔をする男は、綾子が探していた男性、衛宮士郎その人だった。

「あのさ・・・」

気まずい。
独り言を聞かれていたことも勿論だが、探していた人間にいきなり声をかけられれば、誰だってそうだろう。

「今年はないのか?」

「はい?」

人が勇気を振り絞り、喋ろうとしているのに、それをサラッと邪魔する物だから、思わず間抜けな返答をしてしまった。

「チョコだよ、美綴は毎年くれてたじゃないか」

それを聞いて綾子の顔には、にたりとでも評すべきか、人が悪そうな笑みが浮かぶ。

「何言ってるのさ、今年は大量みたいじゃないか、学校外の人からも貰うなんてさ」

『学校外』を殊更に強調して返す言葉は、言外に「知ってるぞ」という意思を明確に伝える。

うっ!!なんて言葉を詰まらせて、下を俯く。

「だから、今年は私からのチョコなんていらないだろ」

間桐は元より、昼休みに丘の上のシスターがわざわざ学校までチョコを届けにきたこと、さらに、眼鏡をかけた外国人で長身の美人までもチョコを渡しに来たという噂は、既に学校を音速で駆け回り、噂には付き物の尾ひれがついて、収拾がつかない状態になっているのだ。
チョコの数を鼻にかける慎二ならともかく、士郎には、今更義理チョコなんて貰ったところでしょうがないだろうにと、綾子が考えるのも当然だといえる。

「いや、それとは関係ないぞ」

だから、その言葉には驚いた。

「美綴のチョコは美味いからさ、結構楽しみにしてたんだけどな」

料理が美味い、しかも、嘘やおべっかが言えそうも無い士郎からの言葉だけに、かなり嬉しかったし、何よりも鞄に忍ばせている物に自信が持てた。

「まあ、よく考えたら、弓道部を辞めちまった俺に、美綴がチョコをくれる理由も無いか」

「違う!!」

ははは、なんて少し寂しそうに笑う士郎は、急に大声を出した綾子に目を白黒させていた。

「今年はな、その、辞めたんだ・・・」

一転して、照れ臭そうにもじもじと恥らう綾子の姿を、士郎は物珍しい者を見るようにしている。
それはそうだろう、武道の達人で、いつもカラカラと快活な姉御肌というのが、士郎を含む穂群原の生徒の、美綴綾子への印象だ。
それが、まるで華も恥らう乙女のような仕草だ、じっと見てしまうのは仕方ないだろう。

「何を?」

「義理チョコを作って配るのを」

益々消え入りそうな小さな声で、ポツリと良くわからないことを呟く。

「何でさ?」

「あの、なんだ、その・・・」

とうとう顔まで真っ赤にして俯いてしまっている。

「今年は、特別にチョコを渡したい人がいてさ」

『なるほど。美綴くらい美人だと、印象とは違っても、こんな姿もなかなか絵になるな』

なんて場違いなことを考えていた士郎だが、次の綾子の言葉には耳を疑ってしまった。

「それで、衛宮を探してたんだ」

完全に機能をフリーズさせる必殺の一言。

「俺?」

なんて間抜けにも自分を指差しながら、意味もなく頬が引き攣る。
また、その言葉に、照れながらちょこんと頷く綾子に、過剰な情報が視神経を焼いていく。

「いやそれはまずいだろ?美綴は桜の先輩で遠坂の友達だしそもそも俺にとっても気が合う女友達だしいやだからっと言って美綴が嫌いって訳ではなくむしろ好きだがいや好きって言ってもそれは男女の好きではなく人間としての好きであって確かに今の美綴の意外な一面とか凄く綺麗に見えたし俺も悪い気はしないけれど」

「ランサーさんの居場所知らないか?」

「はへ?」

自分でも完全に混乱し、良くわからないことを捲くし立てていたシロウだが、さらに良くわからない綾子の言葉に、脳細胞が完全に焼き切れてしまったみたいだ。

「じゃあ、その美綴が好きな人って、そのなんだ・・・ランサー?」

俺じゃなくて、って言葉は必死に飲み込む。
安心したような、勘違いが照れ臭いような、少しがっかりしたような複雑な心境だ。

「いや、好きとかそういうのじゃなく、そのもっと話とかできたらいいなぁとか思ったりしてて・・・」

照れ臭さのあまり、顔の前で掌をブンブンと左右に振る綾子は、完全に人間扇風機と化していた。

「ランサーは多分、港に居るんじゃないか」

「そっか、ありがとうな、衛宮!」

聞くが早いか、魔術で強化でもしたのかと疑うほどの速さで、階下に移動していく綾子が、途中クルリとスカートを翻す。

「お礼に良い事教えてやるよ、衛宮。
校門の前に、イリヤちゃんと御付の二人のメイドさんが、誰かを探すように立ってたぞ」

それだけ叫んで寄越すと、再びスカートの裾を翻し走り出す。





―――――――――――――――そんな、綾子を追い抜かんばかりの勢いで校門に走る士郎であった。


























ドクンドクンと胸の鼓動が煩い。
顔が熱い、呼吸が荒い。

「居た・・・」

案の定というか、士郎の言うとおり、お目当ての青年が港で釣り糸を垂らしていた。

スーハー、と、自分の呼吸を整える。
できるだけ自然に、爽やかに声をかけたいじゃないか。
鍛えた心肺機能は、それだけのインターバルで呼吸が整う。
何故か、胸がドクドクと息が整う前よりも高鳴り、顔は爽やかな潮風に撫でられているにも拘らず熱いままだが。

「ランサーさん!!」
「やっと見つけました」

ビシッとスーツを着こなした、如何にもキャリアウーマンみたいな、赤髪の物凄い美人がランサーに歩み寄る。
喉まで出掛かった言葉は、綾子本人と供に物陰に隠れてしまった。

「おう、バゼットか。仕事がようやく見つかったか?」

「貴方に渡したい物があったので探していたんですよ」

からかうような口調と、苦笑するだけで、特に相手にしないで自分の用件を切り出す女性。
しかし、二人の表情や口調からは、深い信頼というか近しい関係であるのがヒシヒシと伝わってくる。

恋人だろうか。

そんな疑念に呼吸が荒くなる。

「で、渡したい物ってなんだよ?」

「今日が何の日か分かっているんでしょう?」

「聖ヴァレンティヌス司教が処刑された日だっけ?」

「違います」

「グラハム・ベルが電話の特許を取った日か」

「そんなわけないでしょう!!」

ククク、なんて笑いを含んだランサーの冗談に、一々真面目に反論する女性が面白いのか、怒らせるようなことばかり言って真面目に取り合おうとしない。
そして、真面目な性格なのだろう、その冗談にとうとう怒り出した女性が、ランサーに何かを投げて寄越す。

「士郎君から聞きました。この国では、今日は女性から日頃お世話になっている男性にチョコを贈る日だそうですね」

「いや、どっちかというと、最愛の男にチョコを贈る日なはずなんだが・・・」

間違っては居ないが、何処か意図的にずれた認識をさせられているのが、バゼットらしいといえばバゼットらしい。

「おいおい、これ、材料用のチョコじゃねーかよ」

言葉通り、ラッピングすらされていないスーパーの袋からは、味も素っ気も飾り気も無いチョコが出てきた。

「チョコはチョコです」

きっぱりと真顔で断言するバゼットに、苦笑と供に礼を返す。


「何だかんだで、あそこでの暮らしを楽しんでるみたいだな」

「そうですね、あそこでの生活は悪くはありません」

ですが、何故?
その疑問に向けられたランサーの表情に、思わず綾子は瞳奪われた。

親愛と優しさ、そして喜びに満ち溢れた表情。
それは、大切な人を見守る『大人の男性』の微笑み。

赤髪の女性は、綾子に背中を向けて居るので、その表情はわからない。
ただ、時折潮風が撫でていく髪から垣間見える耳朶は、赤く染まっていた。

「ちったぁ、余裕が出てきたみたいだからな」

すぐに、いつもの悪戯っぽい笑みに戻る。
けれど綾子は、そこに、ランサーの、彼女への隠し切れない親愛の情を垣間見てしまうのは何故だろう。

その後、二言三言彼女とランサーがじゃれあっている。
もう、会話の内容は綾子の耳に届かない。

そのまま、女性が踵を返す。
彼女の背中を微笑ましそうな表情で見送るランサー。
この僅かなやり取りを見ただけで、彼の中の、彼女の占める割合の高さを感じてしまう。




そうしてまた波止場にはランサーだけが残されていた。
彼以外誰も居ない波止場、チョコを渡すには絶好のシュチュエーションなのに、綾子は相変わらず物陰から出られずに居た。

繰り返し頭に浮かぶのは、先ほどあの女性に見せたランサーの表情。

あれだけ熱かった頬は熱を失い、激しかった鼓動はまるで止まってしまったよう。

彼女とランサーの間には、固い絆があり、深い親愛があったように見えた。
自分にはそれは無い物だ。

そもそも綾子は彼のことをほとんど知らない。
だからきっと彼への想いは勘違いだったのだ。

冷めてしまった頬と、凍ってしまった鼓動はそれが原因だ、そうだ、そうに違いない。


――――――ならば、なぜ、自分は、ここから、移動しないのだろう?


彼から目が離せない。
―――心臓が凍ってしまったのに?
あの笑顔が頭から離れない。
―――頬から熱が失われてしまったのに?


「お、綾子か、久しぶりだな」

無意識の内に一歩踏み出し、彼の視界に入っていたらしい綾子に、ニカッと笑いかける。
それは、まるで今日の青空を切り取ったように澄み切った笑顔だった。

「よく、私の名前を覚えてましたね」

何となくの脊髄反射で打った相槌に、はっとする。
そうだ、自分と目の前の青年は、その程度の付き合いしかないはずなのだ。
共通の知り合いが居るとはいえ、たった一度、店員と客として出会っただけの人間関係でしかないのだ。

「そりゃ、そうさ。
綾子みたいに武術やってて、義理堅くて、そのうえ美人とくればよ、俺は忘れてくれって言われても覚えてるぜ」

なんとなく自然な物腰で自分の横、すぐ側に綾子を座らせて話しかけてくる。
天気のこと、今日の釣果、いつもはここも賑やかなこと。
釣られて綾子も話し始める。
内容はやっぱりランサーと同じ、弓道部のこと、武術のこと、学校のこと、弟のこと、そんな他愛の無い日常のことばかり。
ランサーは話し上手で、聞き上手だからか、いつの間にか、自然に自分のことをたくさん話してしまっていた。
そんな優しい雰囲気のせいかも知れない。
ポロっと漏らしてしまった。
毎年この時期は義理チョコを配ってること、それがあの士郎も認めるくらい良い出来である事、そして・・・・・・・・・・・・・今年は、たった一つしかチョコを用意しなかったことも。
そうやって、もう旧知の仲だったかのように、人懐っこく笑うから、不用意に自分の心の内側を曝してしまう。
いつのまにか、また鼓動がドクンドクンと主張し始めていた。



「あ、いたー!!」

第三者の声に、胸の鼓動が一際高くなる。

「あれ、今日は一人じゃないんだぁ」

見ればまだ幼い女の子が、ランサーのところまで駆けて来る。

「よう、どうした?嬢ちゃん」

「どうしたじゃないよー、今日は何の日か知ってるでしょ?」

グシグシと少女の、太陽を一杯に吸った黒髪を撫でるランサーと、それを気持ちよさそうに受け入れる少女。
何だか微笑ましい二人のやり取りに、綾子は思わず笑みを零す。

「今日はバレンタインだから、チョコをもってきてあげたんだけど・・・お邪魔だったかな?」

チラッと窺うように綾子を見る少女と瞳が会う。

「そんな事無いよ、ここに座んな」

ニコリと笑みを返し、自分とランサーの間に、少女の座るスペースを確保する。

「ありがと、お姉ちゃん」

ニコリと少女も綾子に笑みを返すと、その間にストンと座り、ランサーに向き直る。

「はい、青いお兄ちゃん」

「おう、俺にもくれるのか。ありがとよ、嬢ちゃん。」

優しい笑みから、一転意地悪な顔を作り、からかうように笑いながら礼を返す。

「違うよ、お兄ちゃんにだけだよ」

無邪気な少女が言ったことは、つい先ほど綾子が漏らした言葉と同じ。

「一番あげたい人にチョコをあげる日なんだよ、今日は」

「なんだ、ギルにやんなくていいのかよ?」

ランサーのその言葉に、少女はプーッと頬を膨らませる。

「だって、ギル君は、ミミがあげなくても一杯貰ってるもん」

由美ちゃんでしょ、由香利ちゃんでしょ、聖子ちゃんでしょ、と指折り数えていく。

「だけど、お兄ちゃんはミミがあげないと、誰からも貰えないかなって思ったの」

「たはー、厳しいねぇ・・・」

苦笑するランサーを横目に、だけど、そんなことなかったかな?って目で、綾子を見ているミミちゃんと目が合う。
ランサーに自分のチョコを渡したい。
けれど、今年は一つしか作らなかったことを言ってしまった。
それを渡すということは・・・

冷めてしまった頬は再び火がついたように熱く、鼓動は激しく音を発てる。

「お姉ちゃんから貰えないんだったら、ミミの一番最初に食べて欲しいな」

ランサーと目が合う。
ニッと笑みを返された。
何となく見透かされてるのがわかる。

「あの・・・これ・・・私から・・・」

隠しても無意味だと観念して、鞄からチョコを差し出す。
ハート型ではなく、オーソドックスな形のチョコだった。
どうしても照れ臭くて、ハート型は抵抗があったのだ。

「綾子、ありがとうよ」

頬といわず、耳まで真っ赤になって照れている今の綾子を、もし穂群原の誰かが見たとしたら、我が目を疑うかもしれない。
それくらい、今の綾子の表情は、いつもの凛とした物というより、初心な少女その物の表情だった。



「じゃあね、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

「うん、バイバイ」

ランサーがチョコを食べ終え、その感想を聞き終えるとミミちゃんは嬉しそうに帰り支度を始めていた。
ちなみに、結局ランサーは、二人のチョコを交互に食べた。

「美味いチョコレートありがとな」

さすがにチョコ二個はかなり甘かっただろうに、それを億尾にも出さずに笑っているランサーの表情は、ついさっき見た物に酷似していた。
それは、親愛と優しさに溢れた表情。
それで気がついた。
ランサーは先ほどの女性にも、ミミちゃんにも、そして恐らくは自分にもだが、向けているのは力強く見守る、まるで父親のような優しさだということに。

ミミちゃんを送りがてら、ランサーの胸の甘さを解消するために、無糖のコーヒーを買って港に戻る。

「おう、サンキュ」

何となく、自分も再び彼の横に腰を下ろし、その横顔を眺める。
今はまだ、あの女性ほど、自分はランサーの心に踏み込めていない。
それを突きつけられたのがショックだった。
だからこその、鼓動の沈黙であり、頬から血の気が引いたのだ。
でも、それは仕方ない、自分とランサーはまだ出会ったばっかりだ。
少しずつ、二人の距離を縮めていくしかない。

「いつも、ここに居るんですか?」

「ああ、暇な時は大抵ここで釣りをしてるぜ」

キュッと唇を結ぶ。
弓を射るときのように、じっとランサーの顔を見つめる。

「また、ここに来てもいいですか」

矢を放つ。

「ああ、大歓迎だぜ」

彼の心を射止めるために矢を放つ。

「じゃあ、今度お弁当作ってきますね」

弓を引き絞り。

「そいつは嬉しいねぇ」

当るまで、何度も何度も弓を引こう。
いつか、この男の胸を射抜く日がくるまで。

「じゃあ、今日は帰りますね」

そんな決意を胸に、立ち上がり歩き出した綾子。
初めて弓を握ってから、今では全国区の実力になったように、今は的まで届かなくても、必ず射抜いてやると、決意を固める。

「ああ、そうだ、もらってばっかじゃ悪いよな」

ほれ、これをやるから遊びに来いよ。なんて、何かのチケットを投げて寄越す。

「今週の日曜はそこでバイトしてるからよ、好ければ遊びに来いよ。美味いアイリッシュティーをご馳走するぜ」

綾子に向けるランサーの瞳は相変わらず力強くて、笑う顔は惚れ惚れするような男っぷりを示していた。

「はい、喜んで」

ニコリとランサーに向けて微笑む綾子の顔は、凛としていて、ランサーが目を見張るほどの、覇気と生命力に溢れていた。



ひゅ〜♪と、誰も居ない港に口笛が木霊する。

「美綴綾子・・・か」

かみ締めるように彼女の名前を言の葉に乗せる。
真直ぐ前を見て、心の内側に踏み込んでくるような瞳。

「久しぶりに見たな」

生前出会った、大切な女性達の瞳と重なる。
記憶の中に今も生きる、我が師と我が妻の面影。

「相変わらず、良い女っぷりだな」

そんな、彼女達の空気を纏った少女が、この時代にも未だ居たかと思うと嬉しくなる。

『寄せては返す波のように、命も流転するという思想が、この国にはあったな』

最後に見せた綾子の表情を思い浮かべ、楽しそうに釣りに興じるランサーだった。


魔術師の戯言

・・・すいません、今頃バレンタインて俺って奴は・・・。
あと数日でホワイトデーじゃないですか。
先月ハイペースだっただけに今月はペース落ちてますね。

まあ、当初の予定通り無理が出ないように、一月に一本か二本のペースを堅守できれば、褒めてやってください。
時間が経っても読みたいといってくださった方、ご期待に添えたでしょうか?