Christmas music






 十二月も終わりが近づいた頃、町は凄い盛り上がりを見せる。

 夜遅くまでライトアップされた町並みは、例え深夜になろうとも静まる事はなく、様々な飾りつけをされた木々は様々なカップルたちに夢を与えてくれる。



 そう、今日はクリスマス。

 その日は世界中の人々に愛され、大人も子供も皆平等に夢を見させてくれる。



 年に一度のこの日、子供たちはサンタさんからのプレゼントを楽しみに早めにベッドに入り、大人たちはそんな子供たちの嬉しそうな笑顔を見て、彼らもまた夢のような夜にグラスを傾ける。

 そして、若者たちは街へ繰り出す。

 ある男はガールフレンドとの待ち合わせに心を躍らせ、ある女はこの日の為に全てを費やしてきた。



 その日は夢のような日。

 彼らもまた例外ではなく、その夜を――その夢のような夜を二人きりで過ごしていた。















 忍はすぐ隣にいる恭也に目をやった。

 彼は自分の目線に気づくと、やや不器用な笑みを浮かべてこちらを見つめ返してきた。

 その不器用な笑みが彼の精一杯の笑顔と言う事は承知している。だからこそ、私は不器用ながらも精一杯に答えてくれる彼が大好きだった。





「恭也、メリークリスマスだね」



「あぁ……メリークリスマスだな」





 私の言葉に沿って同じように恭也は返してくれた。そんな彼を私は目を逸らさず、じっと見つめ続けていた。

 すると彼は少し紅くなり、私から照れくさそうに目を逸らした。



 何時も無表情で凛々しい彼に、そんな可愛い部分がある事を知ったのはつい最近の事だ。

 私たちはほんの二ヶ月前、共通の親友二人のおかげでこうして大切な夜を過ごすような仲にまで進展した。彼らには幾ら感謝してもし尽くせないものがある。

 おかげでクラス公認のカップルとして認められたのだが、クラス中にバレていると言う事なのでとても恥ずかしくもあった。

 でもそれ以上に恭也とこういう仲になれたのはとても嬉しかった。





「これからどうするの?」



「そうだな、とりあえずは適当にぶらついて頃合になったらどこか店にでも入ろう」





 この日の為に、私は卸したての服を着ていた。

 髪のセットにも何時も以上に時間をかけ、何時も以上に気合を入れてメイクまでばっちり決めてきた。

 でも恭也はその事に気づいていないのか、一言も言ってこない。





 ――もう……少しくらい褒めてくれてもいいのに。





 今日と言う日をとても楽しみにしていたし、今も彼と一緒に歩いているのはとても嬉しい。嬉しさで胸がはちきれそうな程だ。

 でも、世界中のカップルが幸せに過ごす日にまで何時も通りの朴念仁ぶりを発揮する恭也に、内心私は少し腹を立てていたのだ。



 赤信号で私は立ち止まった。恭也も同じく私のすぐ隣で立ち止まった。

 周りを見回してみると、そこには私達と同じように今日を過ごす人たちで群れかえっていた。

 そこのカップルはとてもお洒落なレストランに、あそこのカップルは夜景の綺麗なホテルに今から向かうのだろうか。





 ――もしかして私たちも……でも、幾らなんでも二ヶ月じゃまだ早いよね。でも、それが普通なのかな……





 そう思い、私は隣を歩く恭也の顔を見つめる。

 その整った横顔を見ると、更に意識してしまい、自分の頬がとても熱くなっていくのを感じた。





 ――あー、ダメダメ。こんなんじゃ、恭也の顔見れないよ……





 熱くなった頬を両手で少し叩く。

 少しでも紅い頬を元に戻そうと必死になっていると、そんな私の行動に気づいた恭也がこちらを向いた。





「忍……? どうした、そんなに頬を叩いて」



「む……なんでもないですよーだ」



「―――ん?」





 少しでも私の苦労を伝える為に、少し怒っているという声で返した。

 それでも恭也は気づいてくれないのか、ハテナを描いたような顔をしている。

 恭也のそんな顔に珍しさのあまり私は堪えきれず笑い出してしまった。





「あはは、恭也、かわいいー。反則だよ、そんな顔」



「――むぅ」





 信号が青に変わり、私たちは再び並んで歩き出した。

 何時もより本当に長かったのか、青になるまでの時間がとても長く感じた。



 そんな時、有線だろうか、とても素敵なメロディが流れてきた。

 私はその曲に耳を奪われ、そこに立ち止まった。

 恭也は私が急に立ち止まったせいか、少し行き過ぎた。





「もう少しで君の♪ 想いに〜♪ 気づかないとこだった♪」





 流れてきた声は素敵で、聞き覚えのある女の声だった。





「僕は不器用だったから♪ 君を待たせてしまったね♪」





 その素敵な歌声に私はしばし心を預けた。

 恭也はそんな私をあの不器用な笑みで見つめている。





「窓際の席で♪ 座る〜♪ 君は綺麗だった♪」





 道の真ん中で立ち止まる私たちを避けるように、人々はクリスマスの街を歩いていく。





「勇気がなかったかから♪ 踏み出せずにいたよ♪」





 その歌詞はつい最近聞いたことのある歌詞だった。

 そう思って恭也を見ると、彼も心当たりがあったのか黙って頷き、今この場面で思いもしなかった言葉を彼は口にした。





「その服綺麗だな。忍にとても似合ってる」





 私は一瞬思考が停止した。

 そして何と言っていいかわからなかった。しばらく言葉を捜していたが見つからず、私は彼に抱きついた。

 彼は私の行動に最初驚いていたが、やがてゆっくりと抱きしめてくれた。





「青い青い月よ♪ 君を守る事が♪ 僕の精一杯の愛さ♪」





 甘い歌声と彼の胸で私の心は溶けてしまった。

 私はそのまま彼を見上げる。

 息のかかる距離で見つめ合う私たち。





「だから答えてくれよ♪ それだけが♪ 僕の精一杯の勇気♪」





 やがて私たちはどちらが先かわからぬまま顔を近づける。





「だから僕は言うから♪ 愛してる♪ クリスマスの日に♪」





 彼との何度目かの口づけは何時もより甘く、それがクリスマスの力だと私は気づいた。





 ――恭也……メリークリスマスだよ。



















――あとがき――

 思いつくままに第三段を書き終えてしまいました、霧城です。

 前回がバッドエンドだったので、今回は少し反省してハッピーエンド書いてみました。

 でも、時期はずれな所が私らしいというか何と言うか。

 では、こんな時期はずれのSSで宜しければその清き一票を恭也×忍に。






お礼状

はい、相変わらずのハイペースで応援SSを書いてくれている霧城さんです。
甘い雰囲気でお送りする真夏のクリスマスですね(笑

実は、今回の話は霧城さんのサイトで連載していた「Blue Moon」の未来の話とも読めるし、普通に読みきりとも読める技有な作品なんですね〜。

読んだ方は私の変わりにぜひぜひ感想を!




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