Unexpected love






 ふと気づくと、私はいつの間にか彼の横顔を見ている。

 その無表情な顔を少しだけでも直せば、おそらくは赤星くんと同じくらいに女の子にもてるのではないだろうか。

 彼と知り合って約半年、短いながらも彼のいろんな所を見てきた。だから間違いはないと思う。



 私は彼に向けていた視線を窓の外に向けた。

 そこには青く澄み切った空と少しばかりの白い雲がその中を泳いでいた。その美しい空は私に何かを教えてくれているようだった。



 視線を黒板に向けた。

 しかし、今は授業ではない。いわゆるホームルームと言うヤツだ。何やら、学園祭でやる出し物を何にするか決めようではないか、との事だ。



 私はその学園祭が少し楽しみだった。

 何故なら、友達ができてからの初めての学園祭だったからだ。以前までは私は一人ぼっちだった。言われるがまま仕事をこなして、学園祭当日は適当に役目をこなして帰るだけ。そんな悲しくてつまらない日を私はずっと過ごしてきた。

 だけど今年は違う。彼がいるからだ。高町くんがいるからだ。





 ――高町くんと一緒に何かやれたらいいな





 次々に意見があがる。

 お化け屋敷、喫茶店、劇、と定番の出し物は当然のことで、他にも幾つか候補はあがっていた。

 私は何に決まるかとても楽しみだったが、隣の彼は関心がないご様子で、授業の頭からずっと机に顔を伏せている。

 少し私は悲しい気持ちになったが、彼の寝顔がこちらに向いていたのに気づいて、その気持ちはどこかに吹き飛んだ。我ながらよくわからない人間だと思う。





「それじゃ、劇になりましたのでその方向で皆さん頑張っていきましょう」





 どうやら学園祭の出し物は劇に決まったらしい。

 私はその事実に少し想像に頭を巡らせた。





 ――劇かぁ……高町くんが主役で、私がヒロイン……そして最後は……





 そこまで考えたところで、私は頬が凄い熱くなっているのに気が付いた。





 ―― 一体何を考えてるのよ、私は……でも、もしそうだったら……





 私はどこかのお姫様。

 ちょっとした好奇心から城下の町に興味が沸いて城を抜け出してしまう。そこで私は道に迷う。そして、乱暴な男たちに絡まれる。

 お姫様の最大のピンチ。

 そこに颯爽と現れる騎士。それは高町くん。

 私を拉致しようとした男たちと自分の危険を顧みずに戦ってくれる。

 何時も通りの無愛想な顔で、誰よりも綺麗な動きで剣を振るうその姿はまさに騎士。

 男たちを退治した後、地面に倒れて起き上がれない私を抱き上げてくれる。そう、俗に言うお姫様抱っこだ。

 そして私は彼の首に抱きつき、そのまま彼の顔が段々と近づいて……





 先ほど以上に熱くなった頬に気づいて私は妄想から抜け出した。





 ――もう……そんな事考えたらまともに高町くんの顔見れないよ……





 彼は今から戦場へと向かう。

 私は彼と離れるのが嫌でそれを止めようとする。

 しかし彼は、姫を、貴方を守る為に私は戦場へと向かうのです、と言う。

 私には彼を止める言葉が思いつかなかった。

 何を言っていいのか最良の言葉が思いつかず、私は今の気持ちを表現する為に彼に抱きついた。何時もよりも強く、強く――





「―――ら」





 姫、私をあまり困らせないでください、彼は私の背中に手を回し、そう言った。

 私は彼と離れ離れになると言う悲しい事実と、今彼の手が私の背中にあるという嬉しい事実に心を揺さぶられていた。





「――むら」





 必ず生きて帰ると約束しなさい、私はそう言った。

 その言葉に彼は目を伏せ、背中に回した手に少し力を加えた。

 私は彼の逞しい胸と手にうっとりしながら彼を見上げる。

 彼との距離が段々と近づいていく。

 それは少しばかりの神様からの贈り物だったのかもしれない。私はそんな事を考えながら、目を閉じた。





「月村、そろそろ離してくれると嬉しいのだが」





 ――え……?





 高町くんの言葉で我に返る。

 すぐ目の前に高町くんの顔があった。どうやら私は彼に抱きついているらしい。

 そのままの状態で顔だけを動かして周りを見渡すと、クラス中の人たちが私たちの方を見ていた。

 私は三度、自分の頬が熱くなるのを感じた。





「きゃー! 月村さん、可愛い!」



「前から思ってたけど、結構お似合いだよね」



「高町! 月村とお幸せにな!」





 私は彼の顔を見上げた。

 彼も恥ずかしいのか、少し紅い顔をしながらそっぽを向いていた。





 ――私みたいな子じゃ、高町くんに迷惑がかかるかな……でもこの気持ちだけは他の子には負けないつもりだよ。





 思い切って私は彼の胸に顔をうずめ、背に回している手に力を込めてみた。

 すると、クラス中から歓声があがった。





 ――高町くん。これが私の精一杯の気持ちだよ。





 この瞬間、おそらくは十秒にも満たない時間だったのだろう。しかし私にはこの瞬間がとても長く感じられた。それこそ、今まで生きてきた中で最も長く感じた時間だった。

 彼は受け入れてくれるのか、断られたらどうしよう、そしたら友達だったこの関係も壊れちゃうんじゃないのか、そんな気持ちが私の中で渦巻いていた。





 ――高町くん……これがもしかしたら恋だったんだね。





 彼の返事がどんな物であるかはわからない。

 彼の周りには私なんか足元にも及ばない程可愛い子や綺麗な人がいる。それに彼らには私なんかが一生手に出来そうにもない長い時を彼と歩んできている。

 敵う筈も無い、敵うと思ったこともない。

 だからと言って、勝機がない訳でもない。彼女たちは自分の気持ちに気づいているのだろうか。私はそれに偶然気づいた。

 それだけが私の武器。





 ――好きだよ……高町くん。





 この日、私にとって一生忘れられない日となった。



















――あとがき――

 どうも、霧城昂です。

 応援用SS第四弾ですが如何でしたでしょうか。

 レポートやらテストやら、で中々完成させることができませんでしたが、やっと完成しました。

 こんなSSでも良かったと思われたら、ぜひ恭也×忍に一票を。






魔術師のお礼状


毎回毎回、応援SSありがとうございます。いやぁ、相変わらずのハイペース、どっかの誰かに見習わせたいですね。
つ−か、見習え、俺!
では、感想ですが一言言うと、恋する乙女は夢見がちというか、けっこう大胆ですね。
騎士と姫・・・少女趣味全開です。

今回は、忍嬢の宣戦布告のお話ですね、周りの女性陣に対してではなく、恭也と、そして自分自身の気持ちに対しての宣戦布告。

そう、女の子はいつでも、小さな胸に(小さい胸ではない)一杯の勇気を武器に、愛する誰かとの戦いに挑むのですよ・・・。




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