『子守唄』


高町家の縁側、男――高町恭也――が座布団を枕に休日を満喫している。
庭にある大きめの石に腰掛けて、愛用のMAMAHA製電子ピアノに指を走らせるのはその妻のフィアッセ。
ここ、海鳴から始まったコンサートツアーは無事、大盛況のうちに終わった。
そして、このツアーをもって世界へと羽ばたいた彼女がその羽を休め英気を養うのは、やはり海鳴。
故郷英国から遠く離れた第二の故郷で、母と夫とその家族と平穏な日々を過ごしている。


「フィアッセは相変わらず練習熱心だな」

「え……? 恭也、起きてたの?」


恭也が昼寝を満喫していると思っていたフィアッセは声を掛けられて鍵盤の上を滑らせていた指を止めた。


「ああ、うつらうつらとはしていたんだがな。それよりも、練習の邪魔のしてしまったんじゃないか?」

「ううん。わたしこそ恭也起こしちゃったんじゃないの?」


お互いに相手の邪魔をしたのではないかと思ったらしい。
顔を見合わせてぷっと吹き出す。


「あはは、お互い様だね」

「ああ、お互い様だ」


声を上げて一頻り笑ったところでフィアッセは思いついたことを恭也に提案してみることにした。


「ね、恭也。久しぶりに子守唄歌ってあげようか?」

「子守唄……?」

「そうそう。恭也、お昼寝したいんでしょ? わたしは歌うことで練習になるから、一石二鳥。どうかな?」


歌ってあげようか、というよりも歌わせて、と言っているように思わせるファイッセの表情を読み取った恭也は彼女らしいと思いながら頷いた。


「うん、決まりだね」


立ち上がったフィアッセは一度部屋に向かい電子ピアノを片付けると恭也の横に腰を下ろした。


「恭也、膝枕してあげる」

「……それじゃ、遠慮なく」


逡巡したものの、あっさりと受け入れることにした恭也は少しだけ体をずらしてフィアッセの腿に頭を乗せた。


「ふふ……」


あっさりと受け入れはしたものの、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのか恭也は体を横にして目を逸らすように閉じてしまう。


「…………」


フィアッセは微笑を浮かべたままそっと恭也の髪を梳く。


「…♪………♪……♪…」


ぽんぽんと空いた手はリズムを取るように恭也の肩を優しく叩く。


「……すぅ……すぅ……」


然したる時間も掛かることなく恭也は規則正しい寝息を立て始めた。


「……♪………♪…………♪♪……」


穏やかな呼吸だが、まだ起きて聞いているかもしれない恭也を想い、幼い頃のように旋律をなぞる。


「………♪…♪……♪…………」


かつてのようにただ聞いたことがある歌を繋げてひとつの歌にしていく。


「………♪……♪…………」


コンサートで大勢の観客の前で歌うときよりも優しく、スタジオで収録するときよりも柔らかい音色。


「……♪…♪♪……」


不特定多数の誰かより、目の前で体を休めるたった一人の大切な貴方へ。
声に想いを乗せて、歌姫は今日も歌う。



後書きという名の言い訳〜そのに〜

恭也×フィアッセ・第四回他力本願寺入賞ご褒美SSです。
はっきりいって短いです。
フィアッセの子守唄は恭也を心休める深い眠りに誘うでしょう。
恭也は御神の剣士の性で眠りは浅いけど、フィアッセが子守唄を歌ってくれたときは別なんです、きっと。
短い中に上手くフィアッセの恭也への想いが込められているといいなぁ。
一言でもいいからコメントいただけたら嬉しいです。


魔術師のお礼状


ふと思った
フィアッセの歌声を子守唄にして育つティオレと士郎は世界一贅沢な子供だと。

確かに恭也程の剣士なら眠っててもちょっとした気配ですぐに目を覚ますだろうな。
でも、そんな剣士すら眠りに誘うフィアッセはヒュプノスの女神。
フィアッセの膝の上でなら確かに安眠間違いない。
最高級の子守唄と最高級の枕を用意してますものね。

それでは、お一人で2作も担当してくれてありがと〜〜〜〜です。




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