―――――空を眺めれば鮮やかに思い起こされる
あの戦いの後、幾度も幾度も繰り返し見た記憶(ゆめ)
聖杯戦争
あの苛烈な日々を生き抜いて私が手に入れた者
あの苛烈な日々で私からこぼれていった者
言峰、アーチャー、士郎、セイバー、慎二・・・・・・・・・・・・・・・そして、あの飄々とした蒼い騎士。
あの短い僅かな時間、一緒に居た時間は数時間でしかない。
戦ったこともあった、士郎なんてあいつに刺され、殺されかけた、というか実際殺された。
それでもどこか憎めない、飄々とした、でも強くて誇り高い、蒼い英雄。
「――――――――――英雄ってのはな、いつだって理不尽な命令で死ぬものなんだよ」
最後の瞬間まであいつは、悔しいくらいあいつのままだった。
心臓を自ら貫きながら、私を救い、士郎の傍へ行けと背中を押してくれたあいつ。
「お前のような女が相棒だったら言う事はなかったんだがな」
―――繰り返されるあの日の会話
「―――――さよならランサー。短い間だったけど・・・・・・」
そう本当に短い間だった。
「私、貴方みたいな人は好きよ」
―――私のために、アーチャーの裏切りを自分の事のように怒り
―――私のために、言峰(あるじ)に逆らい自らを貫いた
そう、ほんの僅かな時間だけの、仮初の味方でしかなかった私のために・・・
「―――――は、小娘が、もちっと歳をとってから出直して来い」
別れの、本当の最後の最後まで変わらないその態度。
許されるのならもう一度会いたい
もっと話がしたい、もっと良く知りたい
そう思うのは当然でしょう?
彼はあの赤い騎士と同じように、私を護ってくれた、もう一人の私の騎士だったのだから
「・・・・・・っは、いけない、いけない」
屋上で一人、想像に耽ってしまった。
聖杯戦争から2週間、私は今日は珍しく、一人で屋上にて昼食を取っていた。
いつもは士郎と一緒なのだが、さすがに毎回毎回士郎と昼食時に抜け出していれば、嫌でも目に付いてしまうだろうし。
いきなり、仲良くなっていると不自然だから、しばらく学校では以前のままで居よう
そう提案したのは私だった。
だけどこんな日はそれをちょっとだけ後悔する。
抜けるような青い空の下、誰も居ない屋上に一人で佇む
まるで、私だけ世界から切り離されてしまったよう
それをひどく寂しく思う自分が居る
少し前までそれは当たり前のことだったのに、今は一人がこんなにも寂しい
士郎が居て、セイバーが居て、そんな衛宮家のにぎやかな食卓
それに慣れてしまったからだろうか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ムム。そういえばセイバー、なんで私のサーヴァントなのに士郎の家に居るのかしら?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「あーーやめ、やめ!!なに考えてるのかしら私」
わかってることじゃないの、士郎とセイバーの間には特別な絆があるってことくらい。
あの、最後の戦いの前、士郎が最初に会いに行ったのはセイバー
あの、最後の戦いの後、士郎が目を醒まして最初に探しに行ったのもセイバー
そりゃあさ、士郎が私にベタ惚れなのはわかってるのよ。でもさ・・・・・・
・・・・・・・・・って、全然やめられてないじゃない。
「あんたのせいよ!」
思わず空にやつあたりする
相変わらず雲ひとつない空は、どこか飄々として見えて、あの蒼い騎士を思い起こさせた。
ざわめく教室。
授業が終わり、生徒達も思い思いの放課後を過ごしている。
足早に部活に向かう者、クラスに残り級友と話をしている者、千差万別だ。
さて、私はどうしようか?
いつもなら、士郎の家に行ってあいつで遊び、気が向いたら私が食事を作るなりして時を過ごすのだが・・・・・・。
「あの、遠坂さん・・・・・・」
相変わらず周りを幸せにするような、ほにゃっとした笑顔の三枝さんが、私におずおずと話しかけてきてくれる。
「よければその、一緒に帰りませんか?」
「あら、三枝さん。陸上部はいいの?」
「今日は私、用事があるから部活に出られないんです」
「そう、それではご一緒しましょうか」
ニコリと、笑みを浮かべる私、
うん、優等生を演じるのも楽じゃない。
いつもなら適当に理由をつけて断るのだが、昼食のときの物寂しさからか、何故か彼女と一緒に帰る気になった。
たしか、彼女の家は家とは逆方向だからどうせ校門までだし・・・。
そんな計算もあったかもしれない。
ザワザワザワザワ・・・・・・
あれ?いくら放課後でも、何だか今日は異常に学校がざわめいている気がする。
「三枝さん、今日って何かありましたっけ?なんか、学校中ザワザワしてると言うか、落ち着かない雰囲気な気がするんですけど」
―――――特に女子生徒が。
「ええ?言われてみれば・・・」
二人して首をかしげながら校舎を出る。
校門を遠巻きに見るようにして、故だか人だかりが出来ていた。
・・・・・・騒ぎの原因はどうやらあれか。
あれ?人だかりを押しのけるように出てきたショートカット。
あれは間違いない、クレープとタイヤキを同じ物だと感じられる、奇跡の舌の持ち主、蒔寺ではないだろうか?
向こうも私たちに気がついたのか、ブンブンと手を振りながら走ってくる。
「よう、珍しいねぇ、やっと思いが通じたのか?」
という、蒔寺の言葉に何故か三枝さんは顔を赤らめ抗議している。
「ところで蒔寺さん、あの人だかりは何?」
「おお〜、それがさ、美形の外人が校門のところで立ってるんだ、それも人待ち顔でさ」
美形の外人?
何だか嫌な予感がする。
「・・・・・・それって金髪で小柄な女の子?」
私の言葉に蒔寺はあんぐりと口をあける。
・・・・・・とてもじゃないが、和服を着たら美人になるとは思えない。
「何言ってるんだよ、全然違うよ。
第一、校門の前に集まってるの圧倒的に女が多いんだぜ」
「そう」と言いながら私は安堵の溜息をついた。
もっとも、次の言葉でせっかくついた息をすぐ戻すことになったが。
「なんか、青い髪した、背が高くてシャープな体つきの男だよ
何ていうのかな、動物でいうと『豹』ってイメージかな」
・・・・・・・・・何だかすご〜〜〜〜〜〜く、何処かでそんなイメージの人を見たことがある気がする。
ざわめきが一際大きくなった。
蒔寺は話に夢中で気がつかないらしい。
まるでモーゼのように、人の波が大きく掻き分けられた。
「そんでさ、普通あれだけ回りに人だかりが出来れば少しは気にするじゃん。
でもさ、そいつなんか飄々としてるんだよね」
蒔寺がいうとおり、周りの人間には気を払うこともなく、ざわめきの中心から姿を現した男。
「豹だけに飄々・・・どう、受けた?」
蒔寺の親父ギャグに突っ込む気にもなれない。
だって、もう会う筈がない男が、私の前まで歩いて来るんだから。
―――――しかも、そんな鎧とは打って変わった格好で。
細身の群青のジーパンに、同じく細身の黒いタートルネック、おかげでシャープだけど引き締まった、そいつの身体のラインを一層綺麗に引き立てていた。
首からはピアスとあわせたのか、シンプルなシルバーの首飾りをあしらっている。
そして、その上に今日の天気を切り取ったような鮮やかな青いダウンジャケット。
「よう、お嬢ちゃん。また会ったな」
片目をウインクさせて、その男は本当に変わらない、まるで昨日学校で分かれて翌朝通学途中で会ったかのような気安さで、本当に何事もなかったかのように、混乱する私を尻目に、軽く、軽く、軽く、水素よりも軽く挨拶をしてきやがった。
「あ、あ、あ、あ、あんた・・・」
「おいおい、お嬢ちゃん。言葉もなくしちゃって、俺に会えたのがそんなに嬉しいかい、そいつは光栄だな」
「おい、あの男遠坂さんの知り合いみたいだぜ」
「お嬢ちゃんて・・・」
ざわめく周りの声も気にならない、いや気が回らない。
今まで被っていた猫を取り繕う余裕も無い。
「あんた、なんでこんなとこいんのよ〜〜〜〜〜〜〜!!!?」
漫画だったら、絶対に効果音にドカーーーン!!とか、書かれていそうな喧騒で私は叫んでいた。
だってそうでしょ?
叫ばずには居られないじゃない!!
聖杯戦争は終わったのよ!?
それも、私の目の前で聖杯は完全に破壊されたのよ!?
私が契約していたセイバーは兎も角、マスターも死んで魔力の供給も完全に途絶えたはずのこいつが!!
しかも、自らの槍(ゲイ・ボルグ)で心臓を貫いたこいつがなんで、学校の校門の前に居るなんて想像できるわけよ!!?
「ハ、なんだよ、釣れないな。
別れの瞬間『貴方みたいな人は好きよ』って言ってたのによ」
私は口をパクパクさせてしまった。
きっと、顔も真っ赤になっているに違いない。
私、こういう予想外な事態って弱いのよ!!
「え・・・この人って遠坂さんの彼氏」
「それよりも何からしくないね、遠坂さん」
そんな、周りの声が耳に入り、ますます混乱していくのが自分でわかる。
しかも、腹が立つことにこの男、ランサーは明らかに私をからかって楽しんでます、って顔しているし。
「ハ、そう睨むなよ、悪かった。
どっかで腰を落ち着けて話をしようぜ、あんたも聞きたいことがある見たいだしな」
そして、自然に私の背中に手を添えた。
私は、思わずびっくりしてランサーを見つめてしまう。
私の視線を抗議と受け取ったのか、ランサーは背中から手を離すと頭の上でそれを組んだ。
でもそれは、こいつの勘違いだ。
私は何も抗議の意味でこいつを見たわけじゃない。
その仕草があまりにも自然で、そして思いのほかに洗練されていたから、ただ純粋に驚いたのだ。
そういやこいつ、こう見えてもアイルランドの光の御子だったんだ。
いわば、半分は神なんだから、洗練されていても高貴であっても不思議じゃないわけだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、私が知ってる半神半人の英雄ってろくなやつが居ないのよねー
バーサーカーは叫んでるだけだし、金ぴかなんて論外だし。
「おっとすまない、お嬢ちゃんをからかっても、馴れ馴れしくはしない約束だったな」
「フン、士郎(あいつ)に関係ないわ」
―――――やっぱ、こいつ良いやつよね
あの、アインツベルンの森での、士郎との同盟の条件を律儀に守ってるんだからさ。
「なんだ?まだ、お前ら収まってないのか?」
呆れたような楽しむような目で、私の顔をマジマジと見つめてくるランサー。
何よ!ちょっと照れるじゃない!
思わず、目をそらした私の耳に、良く聞き取れない声でこいつは何か呟いた。
「じゃあ、オレが本気になっても問題ないのかね」
「何よ?聞こえないわ」
「いや、なんでもないぜ、お嬢ちゃん。さ、行くか?」
そして、肩にそっと手を置く。
それは強引さと洗練さの絶妙なバランスのとれた行動。
やばい、こいつ本当にいい女と縁なかったのか?
びっくりしちゃうくらい、それこそたいていの女なら、思わずドキッとしちゃうくらいの扱いを心得てる気がするんだけど。
でもね、私は違うわよ!
パシッと、ランサーの手を払う。
「あいつ(士郎)には関係ないけどね、私に触れるのはそう簡単なことじゃないのよ」
半分は熱くなった頬の照れ隠しに、キッと睨んでそれだけ言うと、私は先に立って新都に向かい歩き出した。
「ハ、気が強い女」
呆れたような、楽しそうな、そんなランサーの声が私の耳に届いた。
追いついてきて、横を歩くランサーに思わず言った。
「それとね、私はお嬢ちゃんじゃないわ」
自分でも、拗ねたような、子供っぽい事を気にしていると思ったが、気になるものはどうしようもない。
私の言葉に、ランサーは例の飄々とした笑みを浮かべる。
「凛、オレもな、もうランサーじゃないんだけどな。
聖杯戦争はご存知の通り、もう終わっちまってるからな」
―――――さり気に呼び捨て!?
そりゃ、私が注意したんだけどさ。
それよりこいつ、何て呼ぼうか?
そう悩みながら歩いている私はようやく気がついた。
私歩幅に合わせてゆっくり、しかも自分が車道側を歩いてくれている、ランサーに。
そしてその顔は飄々としてるけど、かなり、かなり楽しそうなことに。
その顔を見たとき、何となくこのまま二人で歩くのもいいかな、とか思った。
―――――そう、たまにはこんな午後もいいだろう
この、憎めない飄々としたサーバントと町を歩く、そんな午後の一日も。
空を見上げれば、相変わらず雲ひとつ無い晴天。
青い青い空は、やっぱりこの横を歩く男みたいに、どこかとらえどころがないのに、包むような包容力に溢れて見えた。
後書き
FateSS第3段
いや、私ランサー大好きなんですよ。
こいつ、かっこよくて良いやつじゃないですか
凛ルートも当然メチャメチャいいですが、やっぱりセイバールートの突然ギル様に挑むところなんて鳥肌物ですよ。
いつか、ランサー主役の話を書きたいと思ってましたもので。
ちなみになんでランサーが居るのか?
その辺はご都合主義っぽいですが、後編でちゃんと語ります。
凛ルートの裏でランサーが大活躍!!
そう、そっと凛を見守ってたアーチャーよりもさらに影で働いてたのです!!
・・・・・・妄想だよ、わるかったな〜〜
ちなみに、これから執筆したいと思っているネタ
『ギル様とネロカオス』ギャグ
『征服王イスカンダル』中編シリアス
『魔術師なりの士郎→アーチャー物』ドシリアス
なんか、マニアックなねたばっかりだ。
さあ!全国のランサーファンの皆様!感想をください