「うわああああ

ああああああああ〜」

ガバッとベットから起きあがり慌てて回りを見る…。

「…夢か…」

よほどの悪夢を見たのだろうか、真一郎の寝間着はぐっしょりと汗を含んでいた。

まだ、動揺している自分の気持ちを静めようと、洗面所にて冷水で顔を洗う。

冷たい水が真一郎の瑞々しい肌を濡らす。

真一郎はゆっくりと自分の動揺が収まっていくのを感じた。

「しかしひどい夢だったよな〜」

ひとり朝の身支度をしながら呟いている。

「でも、内容は全然思い出せないや…。

まっ、夢なんてそんな物かもな…」

そう言って、いつものように僅かに前髪を浮かせて髪型のセットも完了。

何処かおかしい所が無いか、最後にもう一度鏡の中の自分を見てチェックしている真一郎。

鏡に映るその姿は、客観的に見ても可愛らしい。

それこそ下手なアイドルなら、裸足で逃げ出すほどの爆発的な可愛さだ。

もっともそんな自分の容姿を、真一郎はかなり気にしていたりするわけで、

そんな理由にて彼は今、なめられたりしないように、多少不良っぽい格好をしているのであった。

「大丈夫だよ、真一郎〜。

そんな風に〜、何回も鏡を見て確認しなくても〜今日もすっごく可愛いから…」

突然居間から聞こえてくる思わず力が抜けそうなほどの、あま〜い声。

こんな声は真一郎が知る限り一人しかいない…。

って言うか、朝っぱらから勝手に家に上がりこんでくる人間なんてそうはいないだろうし…。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

エンドレス ナイトメア

―――――――――――――――――

「な〜に勝手に家に上がってきて失礼な事言ってるのかな〜?」

と、真一郎よりも十センチ以上も大きな少女に必殺の『うにゅ〜』をお見舞いする。

『突然だが説明しよう!!』

突然戦隊物の特撮に使われそうな安っぽい効果音と共に謎の言葉が頭に浮かんでくる。

『『うにゅ〜』とは真一郎の対小鳥アンド唯子用の必殺技である。

ほっぺの両端を掴み左右に引っ張ったりして変な顔をさせることで、

真一郎がその顔を見て笑うと言う、非常にばかばかしい攻撃技なのだ!!!』

「そう思うならツッコミなんて入れんな!!」

突然自分の頭に響く謎の解説に、ビシッと真一郎がツッコミ返しを決める。

「真一郎〜。何突然一人で騒いでるの?」

先ほどの『うにゅ〜』のせいでほっぺが痛むのか、

唯子は自分の顔を撫でながら真一郎に声をかける。

「いやなんでもない、それよりも唯子、朝から訪ねて来るなんて一体どうしたんだ?」

「うん、唯子ね…あのね…その…」

急に照れながら何かを言い淀む唯子。

その照れている様子は、真一郎が良く知っている幼馴染の唯子ではないように見えた。

良く見ると唯子は顔は、何時の間にか赤く染められている。

そんな唯子を見て迂闊にも真一郎は自分の胸が高鳴るのを聞いた。

『そうなんだよな…。

唯子はあの脳天気な性格のせいで日頃全然意識しないけど、実は凄く可愛い顔してるんだよな…』

そんな事を真一郎が考えている間に、唯子はどうやら決心がついたのか、じっと真一郎を見つめる。

「あのね…真一郎。唯子今日はね…」

真一郎は、相変わらず顔を朱に染めた唯子の可愛い顔を見ながら続きの言葉を待つ。


ドキドキドキドキ…


自分の鼓動音が唯子に聞こえるんじゃないだろうか、と思うほど高鳴っていた…。

突然唯子の懐から何かが取り出される…

「唯子ね、今日は真一郎に朝ご飯をご馳走になりに来たの〜〜!!」

予想だにしなかった言葉に真一郎はずっこけている…

そんな真一郎の様子を不思議な目で見ながら唯子は懐から出した物をテーブルに置く。

………それは………茶碗…

『…………』

『…………』

「唯子さん…、お茶碗持参ですか…?」

何故か敬語になる真一郎。

対して唯子は嬉しそうに頷く。

『今日の朝飯のメニュー、パンに決定…』

最早ゲッソリとした真一郎は、小声で一人そう呟いたそうな…。

 

昼休みの学校にて…

「真君〜。何かげっそりしてるけど大丈夫?」

心配そうに声をかける小鳥。

「ああ…ちょっと朝から疲れる事があってさ…」

「そうなんだ…。ところでお弁当一緒に食べない?」

「ああ…、助かるよ。学食を食いに行く体力も無い…」

「ちょ、ちょ、ちょっと真君。本当に平気?早退したら?」

「いや、小鳥の弁当食べて体力回復させれば大丈夫だよ…」

と、言って小鳥のくれた弁当に箸を伸ばす。

「相変わらず絶品…」

モグモグと真一郎は小鳥の弁当を賞味していく。

「これも美味いな、これ初めて見た料理だな。今度作り方教えてくれ」

「うん…。それよりそっちのキャロットグラッセ食べて見て。自信作なの…」

「ああ…」

と真一郎が箸を伸ばした瞬間に脇から何者かににんじんを奪われる。

犯人は言わずと知れた…

「唯子のにんじ〜ん…」

「俺のだろうが!!!」

と真一郎がツッコミを入れようと立ちあがった瞬間に唯子が突然倒れる。

慌てて抱きとめる真一郎。

「唯子!!唯子、一体突然どうしたんだ?」

「zzzzz…」

「寝…寝てる…」

「あらあら唯子ったら、突然寝むちゃって…、どうしたのかしらね…?」

『小鳥のにんじんを食った瞬間に眠った様に見えるんだが…』

「そんな事よりも今度こそ、自信作のにんじんを食べてみて…。真君」

お弁当箱の中でにんじんは、なんだか禍禍しいオーラさえ放っている様に見えるのは

真一郎の気のせいだろうか…。

「食べて見てくれないの真君?」

哀しそうに、目を伏せる小鳥…

その様子に何故だか罪悪感を覚える真一郎。

『なんだか小鳥を苛めてる気がして来た…』

『そうさ、小鳥のにんじが原因と決まった訳じゃないさ。

もしかしたら唯子は、ここのところ人間の限界にトライしていて、

もう連続4日間眠ってなかったから、突然眠ったのかもしれない…

いや、むしろそうに決まってるさ…』

かなり強引に自分に自己暗示をかけて意を決して、箸をにんじんにつける。

ゆっくりと口元に持っていく。
あと口まで4センチ…

3センチ…

『やっぱり無理だ〜!!!!』

強引に自分にかけた自己催眠は、防衛本能の前には完膚無きまでに叩きのめされていた。

ちょうどそんな時に…

ドンッ…

と、誰かが真一郎に体当たりをしてくれたおかげでにんじんは転がって床に落ちてしまった。

「誰だ!!?せっかくの小鳥のにんじが…」

『おいおい嬉しそうだな…真一郎』

「うるさい…」

とにかく真一郎に体当たりをかましたのは

「岡本?」

そう何故かロープで縛られていた岡本みなみその人であった。

「相川君、駄目だよそのにんじんには睡眠薬が入ってるんだよ…」

『やっぱり…』

真一郎は密かに心で納得していた。

「で、なんで岡本は縛られてるんだ?」

「3時間目の休み時間に小鳥ちゃんからもらったキャロットグラッセに

睡眠薬が入ってて…目を覚ましたら旧校舎の柱に縛られてて…」

「凄いね〜みなみちゃん。

あの薬ね、鯨とかを0・1rで3日間ほど眠らせ続けられるんだけど…」

「こ…小鳥さん…?」

「せっかく邪魔者が居ない間に真君と既成事実を作ろうと思ったのに…」

『こ…小鳥が壊れてる…』

「相川君、小鳥ちゃんが変だよ〜。逃げなくちゃ…」

「いや…、超強力睡眠薬を僅か数時間で克服できた岡本も変だろ…十分」

そんな真一郎の冷静アンド的確なツッコミには耳も貸さずに真一郎を軽々と担いで廊

下を疾走するみなみであった。

「はぁ〜はぁ〜、ここまで逃げればもう安心だね。相川君」

「…安心って…」

真一郎を担いでみなみは三階まで来ていた。

「ここなら誰も邪魔に来れないから安心して…」

そう言うとみなみはスッと瞼を閉じて真一郎の方に唇を向けた。

『おいおい…これって…やっぱキスして良いって事だよね…』

引きこまれるようにみなみの頬に手を当てる。

すべすべで触り心地の良い肌が真一郎を興奮させる。

そしてふわふわとしていそうな髪にそっと触れてみる。

予想していたよりもずっとふわふわのみなみの髪。

「相川君…ちょう・・くすぐったいわ〜」

何時の間にか、おっとりとした関西のアクセントに戻っていたみなみが

そう言って微笑む。

『可愛い…。岡本ってなんかリスとかの小動物系で可愛いかも…』

真一郎もクラリとした軽い目眩を感じて、ゆっくりとみなみの唇に己の唇を近づけていく…

しかし、

「危ない相川君!!!岡本から離れて!!」

「えっ?」

ビックリして思わずみなみから飛びのくと、それに合せて

「神咲一灯流、真威 楓陣刃!!!」

と、打ち下ろされた刀からの一撃がみなみを襲った。

「痛いで

すよおおお

とドップラー効果を残して窓の外に吹っ飛ばされて行ってしまった。

「大丈夫か?相川君」

何事も無かったかのように薫が真一郎に声をかける。

「か、か、か、神咲先輩…。大丈夫かって岡本窓の外にふっとんでますけど…」

「気にするな」

「しますよ!!!」

「岡本は丈夫だからきっと無傷だよ…」

爽やかに薫は笑いながら事も無げに言い放つ。

「神咲先輩…ここ3階ですよ…。丈夫とかそう言う問題じゃないんじゃ…」

「そんなに岡本の事が気になるの…?」

急に薫が寂しそうに、悲しそうに呟いた。

「え?」

「ウチだって岡本なんかに負けないくらい君のことが…」

そこまで一気に言って、急に恥ずかしげに視線を外した。

いつもの凛とした雰囲気の薫は美人でかっこいい。

学校でもファン倶楽部があるくらいに人気がある薫の雰囲気がいつもと違う。

何か手を胸の前でもじもじとさせていて…いつもの大人っぽい雰囲気は皆無だ。

そして薫は突然真一郎を抱きしめた。

『あ…、薫さんて思ったよりもずいぶん華奢なんだな…』

そんな不埒な事を真一郎が考えていると薫は

「うちは、君の回りに居る女の子のように女の子らしくなくて可愛くないかもしれんが…」

「そんなこと無いですよ!!薫さんは綺麗で可愛くて…すてきな人です」

「相川君は…優しいんだな…」

そう言ってフワリと微笑む薫は、薫自身の言葉とは裏腹に猛烈に可愛い。

『いつも、凛とした雰囲気だからかな?

こう言う仕草が普通の子の何倍も可愛らしく見えるんだよな…。

まあ、神咲先輩みたいに元が綺麗だからって言うのもあるけど…』

「真一郎君…君は好きな娘はいるのかな…?」

「え…。神咲先輩何を突然…」

「薫…」

「え?」

「薫でいいよ」

スッと人指し指を真一郎の唇に当ててにこりと笑う。

『可愛い!!!!!!!!!!』

真一郎の心…薫の前に陥落寸前…。

「薫…」

少し緊張しながら『薫』と呼んでみる。

「うん…」

嬉しそうに返事を返す薫…。

とってもいい雰囲気…。

はっきり言って真一郎は、なんで自分の横の窓ガラスが割れているかなんて、綺麗さっぱり

忘れていた。


ガラガラガラッ!!!


そんな二人の雰囲気を業と壊すかの用に、ものすごい音をたてて扉は開かれた。

「ひどいですよ〜、神咲先輩。痛かったんですよ〜」

とみなみが立っていた…、無論無傷で…。

『岡本…お前本当に人間か?』

真一郎は心の中でそう突っ込まずに居られなかった。

「ね、相川君。岡本は全然平気だったでしょ?」

「……はい」

「ひどいよ!!相川君まで…。無傷じゃないよ怪我してるんだからね!!!!」

「ほら」と言わんばかりに差し出された右膝には、ほんの僅かに血がにじんでいた。

『三階から落ちたのにバンドエイドもいらないほどの軽傷かよ…』

真一郎は最早ツッコミを入れる気力すらなかった。

「薫の言うとうりだったよ…」

「相川君、何時の間に神咲先輩の事薫って呼び捨てにするほどに仲良くなったの!!!?」

「…たった今」

その言葉にみなみはキッと薫を睨んだ。

「いくら神咲先輩でも…相川君は渡しませんよ…」

「ウチと戦う気か?岡本…」

「相川君を手に入れるためならば…」

「勝った方が相川君を手に入れるって事じゃね…?」

「…俺の人権は?」

さりげないツッコミ、しかし完全に無視された真一郎を尻目に、みなみが薫に向かって

突撃しようとしたまさにその時。

突然壁から何かがニュウッと入って来た。

「あ〜〜!!見つけた。あんたね旧校舎を壊したのは…」

それは旧校舎に住む幽霊、春原七瀬だった。

突然の幽霊来襲にビビリまくるみなみ。

それもそのはず、みなみは超が付くほどの怖がり、特に幽霊などは大の苦手なのだ。

そんなみなみの様子などは一切意に介さずに、七瀬はみなみに捲し立てた。

「あんたが柱を折ったせいで、旧校舎全壊しちゃったじゃないのよ!!どうしてくれるのよ…」

「…柱を折ったて…岡本…お前の怪力はすでに幽霊なんかよりもはるかに怖いぞ…」

真一郎のツッコミもパニックになっているみなみには届かない。

「あんたが、今すぐ旧校舎の再建に手を貸さないなら…呪ってあげるけど…」

「ひいぃぃぃぃぃぃぃ〜、何でもしますから許してください!!!」

「良し…、じゃあキビキビ働いてもらおうかな…」

こうしてみなみは半狂乱になりながら七瀬に売却されて行ってしまった。


「BGMはドナドナね」

七瀬が楽しそうにみなみをびびらせながら歩き去っていった。

「「はぁ〜」」

「静かになったね…薫」

「これでゆっくり二人きりになれるな」



しかしそうは問屋が卸さない。

「そうはさせないわよ…薫」


そう…遂に降臨したこの女性。


美しい面立ち…


「うんうん…」


豊かで艶やかな髪の毛


「うんうん…」


女性らしい豊かな身体


「当然…」


白いリボンで髪をキリリと結んだ…


この女性の正体は…


とらハ界の最狂にして最凶、そして最恐のお方…

千堂瞳さんで〜す!!!!


「あなた…よっぽど命はいらないみたいね…」

にっこりと微笑を湛えながら禍禍しい言葉を吐き捨てないで…。

私(作者)が怖いから…

「あの〜、瞳ちゃんは誰と喋ってるんですかね?薫さん…」

「わからん…、前から危ないとは思っていたが…」

「とにかく…薫!あんたを倒して私が真一郎を手に入れる」

「千堂・・・。

お前はウチの引きたて役に回されるのが、このSS業界ではお約束なんじゃ〜!!!」

「…人が気にしていることを!!」

学校の人気を二分する美女二人が、戦う様は美しささえ醸し出していた。

そして薫の剣道も瞳の護身道も、どちらも完全に全国トップクラスの腕前…。

そんなトップアスリートどうしの真剣勝負…。

全ての生徒がこの美しき女戦士達の闘いに今や完全に魅入っていた。

「薫、あんたには耕ちゃんでいいでしょ!!!」

「何でウチがロリコンジャイアントなんかと付き合わなきゃならんね!!!」


その頃さざなみ寮

「耕介〜」

「なんだいリスティ?」

「僕…耕介とこうしてる時が一番幸せかも…」

「俺だってこうしてリスティの体温と鼓動を感じている時が一番幸せさ…」

「耕介のスケベ!!」

と、新しく寮生になったリスティとラブラブモード全開な耕介でした。

まだ高校にも上がっていないリスティとなんてお前はロリコンか?耕介


ちなみにこの闘いに勝ち残った勝利者に与えられる賞品である真一郎は…気絶していた。

薫と瞳、真一郎を挟み込むような形で対峙していた。

そのために必然的に激戦の中心部に居た真一郎は、ぼろぼろだった…。

しかし、それもこれも全部何股も掛けてた真一郎が悪いんだし…

「掛けてね〜よ!!!」

気絶してるはずなのに全力のツッコミを入れるなって〜の。

真一郎などはほっておいて(ほっておくな!!BY真一郎)

瞳と薫の闘いに場面を戻そう。

瞳も薫もどちらも相手に致命傷を与えられないままに時間だけが過ぎていた。

二人の実力はまさに伯仲していて、一瞬たりとも気が抜けなかった。

「ふふふ、完全にお互いに集中しあっているな…」

「そうデすね…。コレで私タちが攻ゲきしてモ気がつカないデす」

「ああ…むしろ一瞬でも私達に注意を移したら、相手に確実に倒されるな…」

「正ニ中国の故事にアる、最強の矛と盾ノはなシみたイですね…」

忍者と凶手…正に闇討ちを行うのにこれほど適した人材はいないだろう…。

「で、あの化け物二人を退治した後に私達が戦う」

「かっタ方がシんいちろウを自由にデきる…」

「OK…行こう!!」

無防備の薫と瞳の背中に迫るいづみと弓華。

キラリと光る暗器とクナイ…

しかし

「「邪魔…」」

バコッ!!!

瞳と薫は無意識のうちに虫でも払うかのようにいづみと弓華をふっ飛ばしてしまった。

「私達の〜」

「出番ハこれダけですカ〜?」


うん


「「あんまりだ〜」」

仕方ないじゃん、人気の問題でしょ…

こうして二人は、空の彼方に飛んで行ってしまいました。

でも大丈夫でしょ…。弓華曰く「空は何処までも繋がってる…」から。


ちなみにあと千日争っても決着が付きそうもない瞳と薫の闘いの景品である真一郎君

は廊下を這いずっていました。

弓華達の攻撃でできた一瞬の空白を利用して何とか逃げて来って訳だ…。

凄いぞ真一郎…。

しかし服はもうボロボロ…。

身体はもっとボロボロで一人保健室に向かって這いずっている訳です。

全校生徒はほぼ全て、世紀の怪物対決を見に行っているので廊下には誰もいない…はずだった。

が、保健室にはさくらがいた。

「先輩…ボロボロですけど平気ですか?」

「さくらこそ…何でこんな所で寝てるんだ?」

「また、私倒れてしまって…」

「そっか…」

「先輩、ヘロヘロですね。動けますか?」

「かろうじで…、でもちょっとベットまで連れて行ってくれるとありがたいかも…」

「わかりました…」

さくらに肩を借りてなんとかベットに横になる。

「もう1歩も動けないかも…」

「本当にヘロヘロですもんね先輩」

「まったくだよ、今俺の横で余程の事が起こっても俺はもう動けないな…」

さくらが嬉しそうに笑っている。

「どうしたんださくら?」

今までのパターン的に嫌な予感が真一郎の脳裏を翳める。

「果報は寝て待てって諺…意外と当たるんですね」

「……はい?」

「いただきます…」

「さくら…止めて…今血まで吸われたら本当に逝くから…」

「フフフ…意外と何とかなるものですよ…」


30分後

「あ…一歩歩くごとに目眩と立ち眩みが…」

結局さくらには致死量ギリギリ極限までしっかり吸い尽くされてしまった。

「シクシクシク…俺本当に死ぬかも…」

しかしそこに現れた救いの天使…。

「真一郎…。お前なにやってるんだ?」

「大輔…大輔なのか?」

「ああ…、ってお前フラフラだし服はボロボロだし凄い事になってるぞ」

「大輔、後生だから俺を連れて学校から出てくれ…。

俺このままだと…死…ぬ…」

カクンと大輔に持たれかかったまま気絶した真一郎…。

「一体どうしたんだこいつ?まあ、仕方が無いから運んでやっか…」

 

 

「…………」

「おお、真一郎やっと目が覚めたみて〜だな…」

「大輔…ここは何処だ?」

「俺のアパートだよ。

お前が俺に学校から連れ出してくれっていって、ぶっ倒れやがるから仕方なく連れて

きてやったんだぞ…。

ったく、感謝しやがれ…」

「ありがとう大輔、お前こそは我が心の友だ…」

真一郎の感謝の仕方は尋常ではなかった。

それもそのはず、今日1日で何度死線をさ迷ったことだろう…。

その悪夢のような状況から救い出してくれた大輔に、感謝せずに居られるだろうか?

いやいられない(反語)。

「…何だか知らないがいつまでもそのボロボロの格好で居られやしないだろう?

服貸してやるから風呂にでも入ってこいよ…」

「ああ…何から何までありがとう我が心の友よ…」




「ふう〜、今日は一体なんだったんだろうな…」

風呂で手足を伸ばしながら一人呟く

「唯子が朝来た時からなんかおかしい気がしてたけど…」

「小鳥は睡眠薬だし…」

「岡本は人類の限界を超えたし…」

「薫さんは…ちょっと良かったけど…」

「それでもいつもと違うのには変わりないし…」

「瞳ちゃんは…あんまり変わらないかも…」

一瞬、今の発言を耳にした瞳が、例の絶対零度の微笑と共に自分を殺しに来るビジョンが

明確に真一郎の頭をなぞった。

「……命が惜しければ滅多な事は口にすべきじゃないかな…」

そんな事を考えてるうちに突然大輔が風呂に入ってきた…。

何だかイヤ〜ナ予感が、真一郎を捕らえて離さない。

「…大輔君…。なんのご用かな?」

とりあえず訊ねてみる。

「いや、たまには親友とスキンシップを謀ろうと思ってよ…」

「何で謀るの字が間違ってるのに、本質的にはそっちがしっくり来るんだよ…?」

「まあ、いいじゃね〜かそんな事…」

今真一郎の脳みそのスクリーンには先週の世界史の授業が再生されていた。

ある有名な歴史上の人物は信じていた男に風呂場で襲われたという…。

「ブルータス(大輔)…お前もか!!!?」

今、真一郎はシーザーの気持ちがちょっと分かった気がした。

襲われた後シーザーは絶命。

真一郎は今、絶体絶命…。

「大輔、来るな…」

「お願いだから来るなってば…」

じりじり無言で大輔が近づいてくる…。

「あ・・ヤメロって!!マジで…向こう行けって…」

「うわあああああああああああああ………」

『これが夢なら早く覚めてくれ〜〜!!』

「うわああああ

ああああああああ〜」

ガバッとベットから置きあがり慌てて回りを見る…。

「…夢か…」

余程の悪夢を見たのだろうか、真一郎の寝間着はぐっしょりと汗を含んでいた。

まだ、動揺している自分の気持ちを静めようと洗面所にて冷水で顔を洗う。

「しかしひどい夢っだたよな…」

「でも不思議と思い出せないな…」

ちょうどその頃唯子は真一郎の家に向かっていた…。

無論茶碗を持って…

真一郎の悪夢(ナイトメア)はまだまだ終わらない…。