真一郎といづみちゃん
「真一郎様〜〜」
そう言いながら彼女は走って俺の元までやってきた。
長く美しい髪を束ねる髪飾りの鈴がチリ〜ンと澄んだ音を鳴らす。
俺の右手を取り、自らの左手と絡ませる彼女の名前は御剣 一角(いづみ)。
俺、相川真一郎の最愛の人だ。
「真一郎様は風芽丘を卒業したらどうなさるのですか?」
二人腕を組み、下校している途中で突然いづみに言われた。
「俺…?俺は、実は何も考えてないんだよ…」
「まぁ…、もう高校3年の5月ですよ…。
進路指導の紙にはなんてお書きになったのですか?」
「あははは…、白紙で出しちゃった…」
「駄目ですよ、御自分のことじゃないですか…
真一郎様は楽天的過ぎますわ…」
「じゃあ、そう言ういづみは何て書いたんだよ…?」
「え…私ですか?」
そういって、いづみは一瞬困った顔をした。
『まさか、忍者だなんて書いた事を言うわけには行きませんよね…。
真一郎様には私が蔡雅御剣流の家元の娘だと言ってないし…。
真一郎様にばれたら嫌われてしまうかもしれないから…言えない…。
真一郎様は優しいから『そんな事気にしないよ』って言ってくれると思うけど…』
「ほら〜、答えられないじゃないか〜、いづみだって実は白紙で書いたんじゃないの〜〜?」
俺達は、そう言いながら俺のアパートに帰ってきた。
いづみと付き合い出してしばらく、俺がやや強引にいづみを説得して二人暮らしが始まった。
いづみの家は厳しくて学費と家賃以外はすべて自分でまかなわなければいけないので、
俺が提案したのだった。
どうせ、それまでだって週のうち4日は俺のうちにいづみは泊まりに来ていたんだし、
俺と住めば光熱費や家賃だって払わないで済む。
そうすればいづみもあのハードなアルバイト生活とおさらばできるってわけだ…。
何よりも、俺、相川真一郎自身が一緒に暮らしたかったからなんだが…。
「さあ、真一郎様!!今日もご教授よろしくお願いしますね」
そう言って藍色のエプロンを付けて、楽しそうに台所に立ついづみはいつ見ても可愛い。
俺は、そんないづみを後から包み込む様に抱きしめると
「じゃあ、真一郎先生が可愛いいづみに色々教えてあげようかな…」
男としては多少身長が伸びてもまだまだ小柄な俺が、いづみを抱きしめると
ちょうどいづみの耳のあたりに俺の口が来るので、わざと耳元に囁く様に話しかける。
「真一郎様…その言い方はちょっと…やらしいです」
耳まで真っ赤にして答えるいづみがあんまりにも可愛くて、もっといぢめたくなる。
「何でやらしいのかな〜?
俺には良くわからないんだけど、いづみ…教えてくれないかい?」
「えっ・・・!!!?」
耳までどころか身体中が紅く染まって照れている、あんまりからかっちゃ可哀想かな。
そう思った俺は、
「ごめんごめん、じゃあ今日も料理教室始めようか?」
と、いづみの頭を撫でながら優しく言った。
小鳥に仕込まれため、大抵の料理はそつ無くこなしてしまう俺と暮らす様になるまでは
自炊していただけあって、いづみは飲み込みも早い。
今もまな板からは軽快な音が聞こえてくる。
タタタタタタタタ……
うんうん、リズミカルで素晴らしい…
先生として生徒の成長を嬉しく思う俺だが一つだけ疑問が有る。
『何でいづみは包丁じゃなくてクナイや短刀で料理するんだろう…?』
そう思いつつ、いづみの千切りが終わるまで漫画でも読もうかと本棚に向かう。
『いづみの趣味って…偏ってるよな…』
いづみの本棚には
「忍者は○とりくん」「仮面○忍者赤影」「NARUT○」「烈○の炎」etc
の『忍者』漫画ばっかりだ…。
「真一郎様〜、野菜の千切り終わりました〜〜!!」
おっと、台所からいづみが呼んでる。行かなくちゃ。
そうして、今夜も夕食が出来あがった。
「どうですか?真一郎様、美味しいですか?」
「ああ…、でもこのロールキャベツは少しコショウが少ないかな…。
次はもう二振りくらい多めで作った方が良い…」
「はい…」
そう言ってシュンとした顔をする。
「そんながっかりしなくていいよ、いづみ。
上手くなってきたから要求も多くなるんだよ。
はじめに比べたらもう凄く美味しくなってる…。
今じゃ、俺は朝晩いづみが作ってくれるご飯が楽しみでしょうがないんだから…」
そう言っていづみを抱きしめる。
数日後
「しかし、最近真君の部屋の内装替わったよね…」
「うん〜〜、もう誰の部屋だかわからないよ〜〜」
そう言って、俺の部屋を物珍しげに眺め回す凸凹幼馴染コンビ。
「そうかな?いづみの趣味なんだけど…」
「見ればわかるよ〜、真一郎〜」
唯子が苦笑しながら答える。
「ねえ、あの『忍』って書いてある掛け軸や、
壁に飾ってある忍者刀、手裏剣、クナイ…。
全部真君の趣味じゃないでしょ…」
「まあな…、しかしいづみは忍者が大好きなんだな…」
その言葉に唯子と小鳥は汗を掻いた。
「唯子、もしかしなくても真君御剣さんが忍者だって事気が付いてないの?」
「信じられないよね〜〜…」
突然、窓がガラリと開いた。
「「きゃ!!!」」
真一郎の部屋は2階に有る。
窓が突然開けばそれは誰だって驚くだろう…。
しかし真一郎は平然と
「お帰り。いづみ…。」
と声をかけた。
『『何でいづみちゃん(御剣さん)窓から入ってくるの〜〜!!!?』』
「あれ、小鳥さん、唯子さんいらしてたんですか?こんばんわ…」
そう言いながら恐らく2階まで登るのに使用したのであろう、鈎ぎ爪が付いたロープをしまっている。
『『なんで、これで真一郎(真君)忍者だって気が付かないんだろう!!!!?』』
そう思う二人の上で壁に貼られている
『目指せ!!国家認定一級忍者!!!!』
と、かかれた紙がゆれていた…。
数日後
今日もまた、俺の部屋に遊びに来てる凸凹幼馴染コンビ。
「あれ〜〜、真一郎!!いづみちゃんは…?」
「うん、さっき突然電話で呼び出されてそれきっり…」
「どうしたんだろうね?心配だね真君…」
そんな会話をしていたらいづみがドアから帰ってきた…。
「珍しいね、唯子。御剣さんがドアから帰って来たなんて…」
「唯子初めて見たかも…」
そんな軽い会話はいづみが連れている人物が視界に入った瞬間に止まった。
いづみが肩を貸している行きも絶え絶えな男性。
真っ黒な忍び装束、真っ黒な頭巾、そして闇色に塗られた忍者刀…。
『『あ…妖しい…』』
これが唯子と小鳥の第一印象であった…。
しかし、その男性からは血が滴り落ちている。
「兄様…!!火影兄様大丈夫ですか?しっかりしてください!!」
「「「兄様!!!?その人はいづみ(御剣さん)(いづみちゃん)のお兄さんなの!!?」
「はい…そうです・・・」
「グハッ!!!」
火影さんは突然血を吐いた。
良く見ると体中が傷だらけだ。
3人が慌てて走り寄る
「あの、大丈夫ですか?とりあえず傷の手当てをしましょう!!」
「お水を持ってきてあげるね〜〜」
と、それぞれができる事をしようとする小鳥と唯子。
そして、真一郎は
「お義兄さん…、ぼくは相川真一郎と言います。
妹さんとは学生らしい清い交際を…」
「「そん事してる場合じゃないでしょ!!!!真君(真一郎)」」
スパーンとスリッパで二人から突っ込みが入る。
「そうです真一郎様!!!
まだ家族に自己紹介だなんて…。早過ぎですよ…
まだ心の準備が…」
イヤンイヤンと言いながら兄の首を掴んで振りまわすいづみ。
その横では、火影が三途の川を渡る一歩手前まで追いこまれていた…。
「火影さんはとりあえずベットに寝かせてきました…」
そう言って唯子と小鳥は真一郎といづみから少し離れた所から見守る様に二人を見ていた。
「いづみ…君のお兄さんの傷つき方は尋常じゃあなかった…」
「はい・・・」
「君のお兄さんは何をやっている人なの?」
『『嘘〜〜〜!!!真一郎(真君)まだ気が付いてないの!!!
あの火影さんの格好見たじゃん!!!』』
心の中で唯子と小鳥から突っ込みが入る。
「実は…兄さんは忍者なんです…」
「なっ・・・」
絶句する真一郎…。
「そして…私も…実は…」
いづみは、一言一言ゆっくりと切り出していった。
「そ、そんな…いづみまで忍者だったのか…一緒に暮らしていたのに少しも気が付けなかった…」
『『マジで!!!!?』』
唯子と小鳥に思わず冷や汗が流れる…。
「それはそうです、真一郎様。
私達忍者は、隠密行動をする時は完全に市井の人に紛れ込み、忍者だと悟られぬ様にしなければなりませんから…」
『『じゃあ、あんたは忍者失格!!!!!!』』
「それが、愛する者でも隠していなければならないって事か?
それとも、俺なんかを愛してはいないって…愛してる振りをして市井に溶け込んで居たって事か…」
『『普通気付くって!!!!!!』』
「そんな事ない…。
私は自分が忍者だってばれて、真一郎様に嫌われるのが怖かった…!!!
だから…その事を隠してて…。
真一郎様は私が忍者だって知ったくらいじゃ離れて行かないと思ってたけど…。
万が一の確率が怖くって…私…私…」
そう言って、泣き出すいづみの肩にそっと手を置いて自分のほうに引き寄せる俺。
そのまま涙に濡れる美しい顔を見つめて、安心させる様に微笑んだ。
「火影さんが追っていた敵を倒しに行く気なんだろう?
俺も行くよ…いづみ。
お前は俺が護る!!」
「でも、駄目です!!真一郎様!!!
相手はあの凄腕の火影兄さんを倒すような人なんです。
勝てる確率は万に一つ!そんな分の悪い闘いにあなたを連れて行く訳には行きません」
「そんなに分が悪いならなおさら俺も行くよ…。
貴女が帰ってこなかったら…俺も生きてる意味がないから…」
『『真君(真一郎)!!かっこいいよ…』』
「では、これをお持ち下さい真一郎様」
「これは…?」
「忍者にのみ聞こえる特殊な音波を発する笛です」
「わかった…」
そう言って二人が出て行った部屋に残された唯子と小鳥は呆然としていた。
「唯子〜〜。私の見間違いじゃなければさ〜」
「うん、あの笛はどう見ても…」
「「リコーダーだよね…」」
「もう真君もいづみちゃんも帰ってこない気がする…」
「って言うか、信じる真一郎も渡すいづみちゃんも有る意味凄いよね…」
そしてベットに寝かされている火影は
「う〜〜〜ん…、違うんだ俺は痴漢じゃない…。
ただ依頼で『龍』を追っているだけだったのに…
酷すぎる…」
と、うなされていた。
「ふう…さすが龍の名を冠する者…。下っ端とは言えかなりの強さだった…」
海鳴市の外れの廃墟ビルにて一人月を眺めながら、溜息をつく女性。
「見ていてくださいね、静馬さん、琴絵さん…。
私は必ず龍を根絶やしにして見せます…」
月に何かを誓う様に剣を向けて仰ぎ見る女性。
「それにしても、さっきの身体中黒ずくめの怪しい痴漢と思しき男…
痴漢をさせておくには惜しい体術だったな…。
まあ、所詮変態か…、とっとと忘れよう…」
「うっ・・・・・・・・」
その女性の傍らに倒れていた少女…
右腕には『龍』の刺青が有った…
「まだ生きていたか…、貴様も御神のみんなの居るあの世にすぐに送ってやろう…」
振りかざした剣を下ろそうとした瞬間に
ガサガサッ…
何者かの気配が女に近づいてくる…
「ち…。邪魔が入ったか…。
命拾いしたな伯龍…」
そして、女は闇に消えた。
「見つけた…、これがいづみの行っていたテロリストか…
すぐにいづみに知らせなくっちゃ…」
そして、闇夜に鳴り響くリコーダーの音
しかも吹いてる曲は『チャルメラ』…
海鳴の夜は今日も静かに吹けていく…
魔術師と登場キャラの座談会
魔術師(以下魔)「座談会!座談会!!!イエ〜〜!!」
唯子アンド小鳥(以下それぞれ唯と小)「イエ〜〜!!じゃない!!!!」
魔「おお!!突っ込みが上手くなってる…」
唯と小「当たり前でしょ!!このSSの間ずっと突っ込み入れてたんだから…」
真一郎(以下真)「って言うか、普通壊れSSってヒロインが壊れてるんだろ?
何で俺が壊れてて唯子と小鳥がまともなんだよ」
いづみ「真一郎様〜〜!!そんな事良いじゃないですか…。
二人で壊れるほど愛し合いましょうよ〜〜」
唯と小と魔と真「ちょっと待て!!!」
いづみ「え?」
火影(以下火)「妹よ…お兄ちゃんは情けないぞ…」
唯と小「あんたの方が情けない…(ボソッと)」
いづみと真「・・・・・・・・・・・・・・・(無言で白い眼)」
火「俺は痴漢じゃね〜〜〜〜〜〜〜!!!」
女「仕方ないじゃない、夜道でしかも顔まで黒い布で覆って息切らしてたら誰だって変態かな?って疑うわよ…」
火「だからって弁明の余地もなく突然『射抜』で攻撃すんな!!」
伯龍@弓華「私が一番貧乏籤(くじ)デす…(泣)」