真っ白い清潔そうな部屋。
同じく、染み一つ無い清潔そうな白衣を身に着け、背中まであるプラチナブロンドが印象的な美人。
彼女の名はフィリス・矢沢
どう見ても、高校生にしか見えない外見とは裏腹に、優れた医師である彼女の前に相対する男が一人。
全身黒一色で整えられた服装を身にまとい、掌のコーヒーを思案するように弄びながらフィリスをじっと見つめていた。
壁にかけられた時計はすでに23時を過ぎ、外来の患者が訪れる時間ではなかった。
男の名は高町恭也、フィリスの患者でありそして意中の人だった。
恭也が時間外にフィリスの診察室を訪れることは、そう珍しいことではない。
しかし、今日の恭也は少し様子が違っていた。
思いつめたような表情で「フィリス先生」と、声をかけてはまた黙る。
そんなことを、もうずっと30分は続けていた。
恭也は何かを決意したかのようにカップを握り、真剣な瞳でフィリスを見つめた。
「フィリス先生」
「はい」
もう何度呼びかけられたか数え切れない、そのたびに一々フィリスは返事を返していた。
今日の恭也の様子を見て、フィリスは淡い期待を抱いていた。
友達以上恋人未満。
はっきりしない今の関係から、一歩踏み出す言葉を恭也が紡いでくれる事を。
・・・・・・また沈黙、先ほどまでの繰り返し
「フィリス」
今度はフィリスはすぐに返事が出来なかった。
病院外でも会うようになってしばらくたつが、恭也がフィリスの名を呼び捨てにしたのは初めてだった。
「俺は剣術しか取得が無く、貴女には釣合うとは思えない。しかし・・・」
恭也が必死の思いで紡ぐ言葉はフィリスにまるで聞こえていなかった。
朴念仁の恭也ならいざ知らず、ずっとこの日を夢見ていたフィリスには、恭也が言わんとしている事がもうわかっていた。
「学生である俺が、医者としてすでに仕事をしている貴女の助けにどれだけなれるかは正直疑問だが・・・」
「私もずっと恭也君が好きでした」
「俺としては真剣に考えた結果で決して・・・・・・え?」
自分の言葉に没頭していた恭也はフィリスの言葉が理解できなかった。
「私も恭也君が好きです」
そう言って、幸せそうに微笑むフィリスの顔を見て、恭也はようやく自分の気持ちがフィリスに伝わったことを理解した。
「でも、恭也君それでも剣士ですか?」
成就した想い人の腕に寄り添い、並んで歩くフィリスの言葉には笑いが含まれていた。
「なかなか間合いに入ってこないで、遠巻きに様子を見ている間に、私に一気に斬り込まれてどうするんです?」
いつまでもグチグチと言葉をつなげ、結局フィリスから告白されたことをからかっているのだ。
イタヅラっぽい微笑みは、やはりフィリスの姉のリスティに良く似ている。
このことで散々からかわれる事を思うと、さざなみ寮に向かう足取りが少し鈍くなる。
しかし、隣で嬉しそうにはしゃぐ、子供のようなフィリスを見ていると、それもまた良いかなと思ってしまう恭也だった。
さざなみ寮の門の前まで来て急にフィリスの顔が真剣なものに変わった。
「恭也君、私貴女が好きです」
月の光が、銀色の髪を輝かせ幻想的なまでにフィリスは美しかった。
フィリスの言葉に一瞬照れそうになる恭也だったが、いつに無く真剣なフィリスの表情から眼が離せなかった。
「だから、私あなたに秘密を持ったまま付合うのは嫌です。
でも私の秘密、受け止めてもらえるかわからない。
もしかしたらあなたが離れてしまうかもと思うとすごく怖いんです」
恭也の腕をすがる様にギュッと握った。
そして、夜のさざなみ寮のリビングに4人が向かい合って座っていた。
フィリスと恭也、そして向かいにフィリスの双子の姉であるリスティ、そしてその夫の槙原耕介。
フィリスの表情から、事情を察した二人は平素のからかう様な言葉も無く真剣な顔のまま恭也を見ていた。
息苦しいまでに重い空気、この寮に何度か尋ねたことがあるが、こんな空気は初めてだった。
フィリスは言葉を選ぶように、ゆっくりと自分のことについて話し始めた。
フィリスがリスティと同じく、HGSであることは知っていた。
しかし、フィリスの話は恭也にとって、想像もしていなかった内容だった
嘗てリスティを殺そうとしたこと
さざなみ寮を襲ったこと
心を閉ざし、兵器のように実験動物のように扱われていたこと
中でも恭也を驚愕させたのはフィリス生立ちそのものだった
「私とリスティは、基はまったく同じ人間なんです」
「双子なんだから・・・」
「違うよ恭也、僕たちは双子なんかじゃない」
リスティの言葉にフィリスが続く
「私はリスティの細胞から作られました」
一欠けらの細胞からまったく同じ人間を想像(つく)る。
『クローン』
まるで、一昔前のSFのような話。
普通なら絶対に信じられない。
聞くほうも出来の悪い冗談として笑い飛ばすような突飛の無い話。
しかし、フィリスも、恭也もまた、表情は真剣そのものだった。
「僕自体が、能力(ちから)が強い能力者を生み出すための、実験の過程で生まれた、モルモットなのさ」
リスティが自嘲気味に吐き捨てた。
そんなリスティの言葉を否定するように耕介はリスティの手を握った。
暖かい感触がリスティを愛してくれる確かな存在を伝えてくれた。
そんなリスティ達を羨望のまなざしで見るフィリス。
作られた自分達
人間としてみてくれる人がいる
必要としてくれる人がいる
愛してくれる人がいる
確かな温もりが、自分達を紛れも無い人間だと証明してくれるような気がする。
リスティはそれをしっかり手に入れている。
それが羨ましかった。
恭也君は受け入れてくれるかしら?
フィリスは傍らの恭也を恐る恐る見つめた。
恭也は真剣な面持ちで自分とフィリスを何度も見ていた。
ただ、視線は眼を見ていない。
いつものように優しいまなざしで自分を見つめてくれないそのことが不安だった。
「フィリス先生とリスティさんはまったく同じ人間・・・そういうことですか?」
「違うよ恭也君、基が同じでも、今はもうそれぞれに自我を持った全く別の人間だよ」
「俺もそう思います」
恭也の一言でフィリスは救われた気がした。
ちゃんと自分を一人の人間としてみてくれていることが嬉しかった。
「だってぜんぜん違いますよ」
恭也は比べるようにフィリスとリスティを見比べた。
恭也の視線は・・・
「リスティさんは巨乳ですけどフィリス先生は貧乳ですし・・・」
「な!何を考えているんです!!」
「恭也君、がんばればフィリスだって大きくなるよ。
俺がリスティを丹念に育てて今の大きさにしたように」
「「サンダーブレイク!!」」
さざなみの夜は今日も深けていく
魔術師の戯言
最後のあんまり似てないぞ、特に胸のサイズ!
って、ネタのSSだったんですがバランス悪い
落ちまでまじめにシリアスに書いて最後に乳かよ!!
って、尾割れする気だったんですがバランス悪い(汗
一応、フィリス先生応援SSです