とらいあんぐるハートSS  

『温もりの中で』   



3月某日   


高町家 恭也の部屋   

深夜、日付がそろそろ変る頃   

部屋の主、高町恭也はまだ起きていた。  

「…12時前………か」   

時計を見て、ふと呟いた。  

「さて…いい加減寝るか………」   

読んでいた本に栞を挟み、机の上に置き、敷いてある布団へ向かう  

「…ん………誰だ?」   

人の気配を感じて、縁側の方を見る………そこには…  

「あ……」   

寝間着姿の美由希が、見つかって少し動揺した顔をして、立っていた。  

「…美由希、どうした?」  

「あ、うん………一緒に寝ようかな…と思って」  

「……………は?」   

唐突な発言に恭也は、呆けた顔をした。  

「なんでまた…」  

「この前…膝枕した時、今度は恭ちゃんねって言ったでしょ?」  

「…ああ、そういえば………」   

つい先日、縁側で美由希を待って寝ていた時、起きない自分に美由希が膝枕をしてくれた事を思い出す。  

「と、言うわけで腕枕してね」  

「…わかった」   

そう言いながら、布団の上に横になり美由希を手招きする。   

嬉しそうな顔をしながら美由希は恭也の横にすべり込んだ。  

「じゃ、腕枕ね」  

「…ああ」   

そう言いながら、恭也は腕を伸ばし、美由希の頭を乗せる。  

「うん…いい感じだね」  

「そうか……む」   

恭也は、一旦腕から頭を降ろさせる  

「恭ちゃん、どしたの?」   

不思議そうな顔をした美由希の腰の辺りに手をまわし、自分の方へ引き寄せる。  

「あっ………」   

美由希は少し驚いたが、抵抗はせず、そのまま引き寄せられる。   

「3月とはいえ、まだ寒いからな…くっついていろ」   

そしてまた、腕を伸ばし頭を乗せさせる   

その言葉に、美由希は顔を少し赤らめながら  

「うん、ありがと………」   

そのままの状態で、暫くいると   

恭也が、微妙に頭を乗せている腕を何度か動かす。  

「恭ちゃん…辛い?」  

「ん………少しな…だが、大した事はない気にするな」   

そう返すが、美由希は少し目を閉じて何かを考えているようだ。  

「そうだ、こうしよっと♪」   

そう言いながら、美由希は腕を恭也の体にまわし、恭也の胸の辺りに顔を埋める体勢になる。  

「………これは…つまりどういう事になるんだ?」   

状況を掴みきれない恭也が、美由希に聞く  

「ん〜、腕じゃ辛そうだから、腕じゃなくて、恭ちゃん自体を枕にしようかなってね」  

「………俺は、抱き枕か?」  

「うん、抱き枕だね♪」   

少し呆れ気味の恭也に対して、美由希はご満悦の表情を浮かべている。  

「あのな………」   

恭也が何かを言おうとすると  

「でもね………」  

「…ん?」  

「普通の抱き枕じゃ、こんなに暖かくもないし、心も気持ちよくなれないよ…恭ちゃんだからこそ、この感じが味わえるんだよ」  

「………………」   

それを聞いた恭也は、黙って美由希を抱きしめた。  

「…恭ちゃん」  

「……何だ?」  

「今、顔赤いでしょう?」  

「………………」   

図星をつかれ、恭也は黙り込む  

(……美由希は…何でこういう時、勘が鋭いんだ?)   

美由希の言う通り、恭也は赤面していた、それを見られない様にするのもあって、美由希を抱きしめていた。  

「黙ってるって事は、そうなんだよね?」  

「……………聞くな………そう言うお前も顔赤いんだろ?」  

「そんなの当たり前だよ…恭ちゃんに抱きしめられてるんだもん………」  

「………………そうか」  

「…恭ちゃんは?」  

「……お前と同じだよ………」   

恥ずかしさもあってか、恭也はぶっきらぼうに答える。  

「そっか……」   

そう言って、美由希は抱きしめる力を少し強くする   

美由希の吐く息が、さっきよりも恭也の胸に当たる。   

少しくすぐったいが恭也はそれを我慢した。  

「そろそろ寝よっか…」   

抱きあったままの状態で、美由希が言うと…  

「そうだな…」  

「朝になったら、買い物に行くんだからね、今度は守ってよ?」  

「ああ、約束は守らないとな………」  

「うん……おやすみ、恭ちゃん」  

「ああ、おやすみ」   

そう言って、二人は抱きあったまま眠りについた。   


早朝   

何処からか鳥の泣き声が聞こえる。  

「ん………」   

恭也が、ゆっくりと目を開けると…傍に居た筈の美由希が居なかった。  

「………美由希?」   

ゆっくりと起き上がりながら、部屋を見渡すと、障子を開け朝の日差しを受けている美由希が居た。  

「あ、恭ちゃん、おはよ」   

起きた恭也に気づいた美由希が、振り向きながら言う   

恭也は、美由希を見て何かが違うと感じた。  

「………?」  

「…どしたの?」  

「いや、何かいつもの美由希と違う気が………」   

そう言われて、美由希も何か気づいた顔をする。  

「ああ、髪………かな、今解いてるから」   

そう言われて改めて見ると、いつも三つ編みになっている髪が解かれて、日の光を浴び所々が光っている様に見える。  

「変…かな?」  

「いや、たまにはいいんじゃないかと………思う」  

「そっか、ありがと、今日はこのままで行こうかな♪」   

そう言って、美由希は笑った。  

「さ、今日は買い物に付き合って貰うからね」  

「…わかったよ、幾らでも荷物持ちをしてやるよ………」  

「じゃ、起きて顔洗って、ご飯たべて早く出かけよっ、こんなに天気もいいしね」  

「ああ、そうだな、早く支度して、のんびり行くか」  

「うん♪」   

返事をした美由希は満面の笑みを浮かべていた。   

後日、街で恭也と美由希を遠目で見かけた赤星が、美由希の事が分からず   

花見の時、恭也に聞き、皆から追究を受け、その後二人がからからわれたのは、また別の話である。