胸に聞こえる歯車の音…
私がイレインから忍お嬢様とねこさん、そしてあの方を護ってから3年もの月日が過ぎたそうです。
その間に、忍お嬢様とあの方の間には、雫お嬢様を始めとす3人のお子様がお生まれになりました。
私が眠っている間に、メイドをして下さっていた那美様は今でも時々お手伝いに来て下さいます。
私の大切な人である忍お嬢様は、今はとても幸せそうに笑われます。
………………………あの方の傍らで…
…キイィ…キイィ…キイィ…
目覚めてから不思議な事があるのです…
私の胸の歯車が突然おかしなリズムを刻むのです…。
まるで、誰も居ない公園で独り風に揺られるブランコのような音色で…
故障だろうか?
そう思い忍お嬢様に見ていただいたのですが、何処にも異常は無いそうです。
そう言えば、眠りにつく前も私の胸の歯車は不思議なリズムを刻んでおりました。
それは、今の音とは違います。
…カタン…カタン…カタン…
と、まるで機織気のように優しく暖かい音色でございました。
この音色は不思議なことに、あの方の傍らに居る時にのみ、奏でられるのです。
コンサートにご一緒させてもらった時はまだ微かな物でした。
それが少しづつ少しづつ大きくなっていきました…
……あの方に触れられる回数が増えれば増えるほど…
……そして、私に向けるあの方の笑顔が増えるたびに…
今、忍お嬢様の傍らで微笑んでいるあの方は、今も変わらない、不器用ではあるけれど、優しい瞳をしていらっしゃいます。
かつて、私に向けていたように…
「パパ〜〜〜!!ママ〜〜〜!!」
今日も雫お嬢様は、お元気で、楽しそうに庭を駆け回っておられます。
それを見て忍お嬢様は幸せそうに微笑むのです。
……………………あの方の傍らで…
…キイィ…キイィ…キイィ…
「ノエル…」
「はい…。何でしょうか、雫お嬢様」
「どこかイタイイタイなの…?」
忍お嬢様の幼いころに良く似た、優しい瞳が私を心配そうな眼で見守っていらっしゃいます。
「どうしてですか?雫お譲様…」
「だって…ノエルが……泣いてるんだもん…」
泣いている……?
私が…?
そっと手を自らの頬に当ててみる。
濡れている…
どうして私は泣いているのだろうか?
この涙は3年前に忍お嬢様を想い流せるようになった物…
なのに…
……どうして…
……………幸せそうなお譲様を見て…
………………………………………泣いているのだろう…?
…キイィ…キイィ…キイィ…
…………………………………今も…
…………………………私の胸は…
……………………軋んでいる…
変わらないあの方の微笑を見ると……
…キイィ…キイィ…キイィ…
と、不可思議な音色を刻むのです…
あの方の微笑が…忍お嬢様に向けられるたびに……
そして………涙が………止まらなくなるのです………
お嬢様の傍らに立つあの方は―恭也様は―今も変わらぬ笑みをなさるから…
……………私………では……無い……………違う…人に…………
キィキィキィキィキィキィキィ・・・・・・・・・・・
私は……………………………………
やはり………………………………
故障を……………………………
して…………………………
いる……………………
だって……歯車が…軋んでいるから…