『紅い・・・』



「はぁ・・・来て、くれるかな・・・」

もう何度目かも分からないため息とともに、士郎は不安を吐き出していた
夜、かつて焼け野原となった公園のベンチで士郎は待ち人が来るのを待っていた

「士郎!」

どこか非難めいた声が士郎に向かって投げられた
振り向いた先には、いつものように赤い服に身を包んだ待ち人、遠坂凛

「ちょっと、こんな時間に呼び出していったい何の用?」

「ん・・・まぁ、座ってくれ」

ぱしぱし、と自分の隣を叩く士郎

「仕方ないわね」

凛は本当に仕方ないといった様子で士郎の隣に腰を下ろす

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ざわざわ

まばらに立つ木々を夜風が抜けていく

「・・・空が、星がきれいだな」

「ええ、そうね」

満点の夜空を埋め尽くす星々と、太陽の光を反射し輝く月が二人を見下ろしている

「・・・・・・」

「・・・・・・」


沈黙
しかし、気まずい空気があるわけではなく、言葉などという無粋なものがいらないだけ

「・・・なぁ遠坂」

「何?」

「これはお前の10年分の魔力が籠められてたんだよな?」

そういう士郎の手にあるのは紅いペンダント

「誰かさんを生き返らせるのに使っちゃったけどね」

『誰かさん』の部分が殊更に強調されている

「うっ・・・」

凛の皮肉に言葉に詰まる士郎だが、両手を握り締めると立ち上がった

「その、落ち着いて聞いてほしい。そして嫌なら嫌だってはっきりと言ってほしい」

さながら王にかしずく騎士のように膝を折り、凛を見つめる士郎

「俺はまだ魔術師として半人前で、頼りなくて、いつも遠坂に迷惑を掛けていると思う」

凛は黙って士郎の目を見つめ返す

「この紅い宝石には10年分の魔力が籠められていた」

ペンダントを握り締める手を開く

「残念ながら俺にそれだけの魔力は無い・・・」

ペンダントを仕舞うと、もう片方の手でポケットから何かを取り出す

「だから、こいつに俺と一緒に思い出を刻んでほしい」

士郎の手に乗るそれは、小さなリング
ただ、ペンダントには及びもつかないような小さな小さな、紅い石が鎮座している

「どう、かな?」

不安げな目で凛を見る士郎を

「却下」

そのたった一言で士郎の想いは切り捨てられた

「・・・そうか、残念だ・・・」

そう、力なく俯いた士郎の手を凛の手がやさしく包み込む

「そんな回りくどい言い方じゃなくて、もっとはっきり言ってほしいな?」

顔を上げた士郎は、ただ自分の心に従った真っ直ぐな言葉で告げた

「そ、その・・・俺と、俺と結婚してくれ、凛」

凛の左手をとり、その薬指にリングを通す
そのあまりにも気障ったらしい士郎の動作と、名前で呼ばれたことのせいで、凛は自分の指で輝く紅よりも赤く頬を染めた

「うん、えっと、喜んで」

ぎこちない動作で左手を胸の前まで持ってくると、右手で包み込むようにリングを嵌められた左手を抱いた

「ほんとか? 夢じゃないよな?」

あまりにもあっさりと受け入れてもらえたことに、ちょっぴり拍子抜けの士郎

「あら、『衛宮君』は夢の方が良かった?」

一転、あかいあくまと化した凜に『衛宮君』と呼ばれた士郎が表情を硬くする

「ばっ! そんなわけないだろ。ふん、やっと俺がお前のこと凜って名前で呼べるようになったのに凜は衛宮くんかよ」

ちぇ、と立ち上がると凜に背を向ける

「もう、士郎ってば今更そんなことでいじけないでよね」

自分の方を向いている士郎の背中に凜は抱きついた

「士郎のプロポーズ、本当に嬉しい」

「・・・・・・」

士郎の体に回された凜の手に、一言も言葉を発そうとしない士郎の手が重ねられる

「ね、お願い、こっち向いて士郎の顔見せて」

凜の言葉にゆっくりと士郎が体の向きを変える

「あ・・・」

士郎の顔を見た凜は声を漏らすとみるみるうちにその瞳に涙を浮かべた

「お、おい。凜、どうした? 俺、何か凜を泣かすようなことしたのか?」

突然涙を流し始めた凜に士郎は困惑を隠せない

「ひっく・・・ううん、なんでも、ない・・・ぐす・・・うれし、くて・・・」

ぐすぐすとしゃくり上げ、言葉に詰まりながら答える凜を士郎は自分の胸に抱き寄せる

「凜・・・俺、凜を幸せにできるよう頑張る」

「うん。わたしも士郎をきっと幸せにしてあげる」

顔を上げた凜の頬を涙が伝わって、雫となり落ちる
ぽたり、と指の紅い石にその涙が流れ落ち、月の光を紅く反射した



後書き

初めての方、はじめまして。
そうでない方、お久しぶりです、須木透と申す者です。
この度は遠坂凛嬢の応援SSと相成りました。
『凛嬢、プロポーズされる』の巻であります。
凛嬢と言えば赤、紅(あか)にしましたけどね。
タイトルは気にしないでくださいね、いいのが思いつかなかったんです。
さて、初めてのFateSSは如何でしたでしょうか。
こんなのは士郎や凛嬢じゃない、と言う方がいましたら、遠慮なく文句をください。
それが次へと繋がりますから。


魔術師の戯言

凛嬢応援SSありがとうございます
個人的に思ったのは、実は凛×士郎のSSで、士郎が『凛』と、呼ぶものは珍しいなぁということです
やはり、凛を『凛』と呼ぶ士郎は、衛宮士郎ではなく『エミヤシロウ』だというイメージがあるからかも。
しかもこのSSの凛は自分もしっかりと幸せになりながら、士郎をシロウにしないですんだようです。
うん、良い感じですね

10年分の魔力が篭ったペンダントの代りには成れないけれど、10年分かそれ以上の幸せを貴女に・・・

みたいな、話ですね
凛が幸せになるためには、士郎が士郎自信の幸せを得なければ成らない
故に、凛の幸せを祈る限り、士郎は『シロウ』に至らない。
同じペンダントを媒介にして衛宮士郎とエミヤシロウの差を浮き彫りにした感じですね


さて、さて、いつもどおり感想をどしどしだしませう
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