燦々と世界を照らす太陽。
暗雲たる深く厚い雲に閉ざされたこの街では、街を彩る緑以上に
人々が全身でその光を享受するように、家でカフェで、至る所で身体いっぱいに陽を浴びる。
そんな貴重な一日でも、陽を浴びるどころか、むしろ光が鮮烈になればなるほど深さを増していく闇に安息を見いだす
魔術師という生き方は文字通り不健康この上無いのかもしれない。
そんな不健康な魔術師の習性に漏れず、一際不健康そうに部屋に籠るロード・エルメロイU世の居室の扉が開かれた。
疲れきった表情の遠坂凛を見るに、昨日遅くまで聖杯戦争について語っていた自分の表情も想像がつき苦笑する、
そして彼女とともに入ってきたのは輝くように美しい金色の髪の少女。
この十年の間に起こった2度の聖杯戦争、奇跡の中の奇跡を巡る大儀式、聖杯を争う英雄たちの誇りをかけた戦戈の宴。
見目麗しいこの金色の少女こそが、そのどちらでも最後まで覇を競った大英雄アーサー王その人だと誰が知ろう。
そう、ここに役者は揃った。
空白の十年を埋め、二度の聖杯戦争の結果を、成果を、顛末をここに表そうではないか・・・。
教えて!
「士郎、四人分の紅茶を用意してくれ・・・って、おわ!!」
昨日よりも長くなるだろうからと、弟子に紅茶を頼もうとして思わず目を疑った。
落ち窪んだ目、力なく引きつる頬、歌舞伎の隈取かと疑うような目の下の黒。
尋常じゃない程の衰弱ぶりだ。
「・・・士郎、どうした?」
大丈夫と笑顔を返そうとしているのだろうが、むしろ一層やばい加減が伝わってくる、ブラッド・チップでも服用してるのか?
「士郎は昨日セイバーにこってり絞られたからね」
「あれは、私が待っているのに、食事も用意しないで12時を過ぎても帰ってこなかった、士郎たちが悪いんじゃないですか」
以前講義にかこつけて、三日間程ほぼ徹夜でアドミラブル大戦略Wをした時も、ココまでは衰弱しなかったのに一体どんな拷問をしたのかと冷や汗が流れる。
「ところで、騎士王のマスターはミス遠坂のはずだな?」
フラフラしながらも身体が家事を覚えているのか、全員分の紅茶を用意した士郎が椅子に座るのを待って、予てからの疑問をぶつける。
「お渡しした私の紹介文に書いてあったとおりですけど」
嫌味たっぷりの凛の言うとうり、適当に流し読みした紹介文には確かにセイバーのマスターと書いてあった。
「ならば、士郎は騎士王にとってマスターではないはずなのに、前回士郎を迎えに来た時も、昨晩もそうだが、
マスターであるミス遠坂よりも気を許しているように見えるのはどういうことだ?」
「もちろん、私のマスターはリンです。しかし、私は騎士として士郎の剣になると誓ったのです」
「いや、そういうことではなくだな・・・」
セイバーのまっすぐな瞳と言葉に嘘はないだろうが質問の回答にはかけらもならない。
『私の征服王』
そういえば、以前騎士王は士郎をそう表していた。
「・・・色仕掛けか?って、冗談だ、冗談。
だから、指先を向けるなミス遠坂」
「で、アンタたち何かコメントないわけ?」
慌てるエルメロイを尻目に、微妙な表情をしている二人にジト目を向ける。
「セイバーの最初のマスターは士郎だったのよ」
「・・・2度続けて騎士王を召喚だと?」
溜息とともに凛から発せられた言葉は、最初の疑問の回答となったが、同時に新たな疑問をいくつも生み出す。
「サーヴァントの変更か。
誇り高い騎士王が主の変更を受け入れたその経緯も気になるが、それ以上に気になるのはミス遠坂、君の最初のサーヴァントはどうした?」
脳裏に浮かぶのは赤い背中。
白銀の髪と褐色の肌をした、隣の少年の未来の可能性を思い起こす度に、3人はそれぞれ名状し難い感覚に襲われる。
黄金の騎士王は、戸惑いと焦燥感を。
赤髪の少年は、憧れと覚悟を。
そして黒髪の少女は、親愛と誓約を。
「ふむ、良いだろう。
それらも含めて、二度の聖杯戦争とその空白を埋めるために今日は集ったのだ。
ならば、私から話し始めるのが筋だろうからな」
「その前にメイガス。私は自分から過去の聖杯戦争の話をするつもりはない」
3人の表情から何かを察したか、話題の転換を図るエルメロイをセイバーがじっと見遣る。
「聞かれたことには答えよう、明らかな誤りがあればそれも正そう。
しかし、私から積極的にあの時の記憶を話す気はない」
もう一度繰り返されたその言葉に異論を唱える者はいない。
彼女以外の3人を代表する形でエルメロイが軽く頷きを返し、自らの記憶を擦るように目を閉じた。
「まずは第4次のサーヴァントとマスターを整理しよう、セイバーのクラスが騎士王、真のマスターは無論衛宮切嗣。
だが、アイリスフィール・フォン・アインツベルンと言った方がこの場合正しいだろうな」
「どういうこと?」
「騎士王と行動していたのは常に彼女だったからだ。
これは後で知ったことだが、衛宮切嗣はアインツベルンが聖杯戦争に勝ち抜くために雇った傭兵だ。
アイリスフィールの婿と言う形でな」
「・・・アインツベルン」
士郎の脳裏に浮かぶのは、バーサーカーを伴った白い少女。
そして、串刺しにされる鉛の巨人と、白い髪白い肌を赤色に染め上げたあの情景。
彼女は自分を兄と呼んだ、ならば彼女はもしかしたら切嗣と何か関係があったのかもしれない。
盗み見たセイバーの表情からは何も伺えない。
「そして、ランサーのクラスにディルムッド・オディナ。
マスターは先代のロードエルメロイ」
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