ある朝の出来事


 

 Pipipipi

目覚ましがなっている…。

『起きなくちゃ…』

もぞもぞもぞ…

ベットの中で一生懸命起きるべく全神経に命令を下す。

しかし、なかなか思う様に動いてくれない知佳の身体。

『う〜ん…まだ眠いよ〜…。私朝って苦手だからな…』

とりあえずコロンと寝返りをうつ。


ドン…


『ん?…何か堅い物に当たったような…』

まだ寝ぼけている神経は、ぶつかった者を見た瞬間に覚醒をはじめた。

そう、知佳の横で未だに安眠を貪っているのは…

『お兄ちゃん…だ…』

そう管理人兼知佳の恋人兼義兄弟の槙原耕介その人であった…。

『お兄ちゃんの寝顔…なんだか可愛い〜♪』

穏やかな顔で、明け方のまどろみの中にいる耕介の顔を見ていると

知佳はなんだかくすぐったい気持ちになった。

 

「お兄ちゃんはみんなの管理人さんだから…独占できないけど…。

この顔を見れるのは私だけだもんね…えへへ…」

と、小さな満足感と共に耕介を起こさない様に小声で呟く。

実は耕介の寝顔を見るために、わざわざ早朝4:00に目覚ましをかけたのだった。

「がんばって起きたかいがあったな〜、今はお兄ちゃんは私だけのものだもんね〜」

そして急に何かを思いついたのか、子悪魔チックな笑みを浮かべて寝ている耕介の頬を軽くつねる。すると、途端に

「う〜ん…知〜佳、止めなさい…」

と、呟きながら顔を逸らした。

知佳は一瞬だけ

『起きちゃったかな…?』

と、ビクッとしたが、かわらず耕介は寝息を立てている。

「ふぅ〜、ただの寝言か…ビックリしちゃったじゃない…も〜お兄ちゃんたら…」

と、寝ている耕介の鼻を軽く指でピンッと弾く。

「でも、お兄ちゃんたら、夢の中でも私と一緒なんだ…」

その事に気がつくと、嬉しそうな顔で耳まで紅くなった。

 

 日頃は意識しない(ようにしてるのかもしれないが)が、いくら一般の人間よりも優しい知佳でもやはり恋する女の子。

心の何処かで大好きな耕介を一人占めしたいと思っているわけで、

この寮の女の子の中で、ただ一人耕介の寝顔を見ることができると言うささやかな事で独占欲を満たしていた知佳にとっては、

例え夢の中でも耕介を独占できるのはやはり嬉しい事であった…。

自然と、口元にこぼれる笑顔で満たした表情は、そのまま切りとって写真にした時、十人いたら十人全員が『幸せ』と言うタイトルを付けるであろうほどに幸せそうに輝いていた。

窓から暖かな朝日が指し込み、初夏の爽やかな風が流れ込む早朝。

横には穏やかな寝顔で眠る大好きなお兄ちゃん…

幸せな一時を絵に書いたような優しい情景…。

「今日はきっと良い事が有りそうだな♪」

楽しげに、弾むような口調で眠っている耕介に囁きかけ

「ねっ♪お兄ちゃん」

と、ウインクしながらまたも耕介の鼻先を軽く指で弾く。

 

 

「……ん…?」

耕介が眠そうに瞼をこすりながら目を覚ました。

「おはよう…知佳…ずいぶんと早いんだな…?」

と知佳を見ると…

「………!!!」

一糸纏わない姿でシーツに包まって、自分に微笑みかける知佳の姿が目に入った。

『そうだった…昨日は確か…

 

「お兄〜ちゃん!!またまた夜這いに来ちゃった…」

と、知佳が部屋に入ってきて…

そんな知佳があんまり可愛くてしょうがないから

そのまま二人、じゃれあう様にしてるうちに何時の間にか眠っちゃったのか…』

と、昨日の事を脳で反芻する耕介。

「どうしたの?お兄ちゃん…」

知佳は、無邪気な微笑みでにこにこ話しかけてくる…。相変わらずの格好で…。

シーツの隙間からのぞく知佳の雪の様に白い太ももがまぶしい…

耕介はその辺に落ちている、自分のシャツを渡して着るように知佳に言う。

「どうしたの、お兄ちゃん顔が真っ赤っかだよ?」

自分が原因とは露ほどにも考えていない知佳が、相変わらずの無邪気な微笑で耕介を見つめながら話しかける。

「何でも無いよ…」

まさか理由を説明する訳にも行かず苦笑で誤魔化すしかなかった。

「それよりも…」

話題を変えるように違う話を切り出す。

「まだ4:30じゃないか…。こんなに早くになんで起きてるんだ、知佳?」

「えへへへ…、お兄ちゃんの寝顔を見たいな〜と思って…」

悪戯が見つかった少女の様にぺロッと舌をだして知佳は答える。

「俺の寝顔なんか見ても楽しくないだろうに…」

と言う耕介の言葉に、ブンブンと言う擬音が聞こえそうなほどに知佳は首を横に振った。

「だってね、お兄ちゃんはみんなの管理人さんでしょ…。

だからね、どんな些細な事でも良いから『私だけが知ってるお兄ちゃん』が欲

しかったの…」

『そっか…、俺は知佳に少し寂しい思いをさせてたのか…』

と、反省する耕介の視界に恥ずかしそうに両手で顔を覆い、

真っ赤になっている顔を隠している知佳の姿が映る。

この時の知佳は男の中でもかなり大柄な耕介のシャツを着ていた。

だぶだぶの男物のシャツを着て顔真っ赤にしている地価は可愛すぎて…

そして、そんな可愛い知佳に寂しい思いをさせた償いの意味も込めて…

耕介は知佳を優しく包み込む様に抱きしめた。

この自分よりも40cm以上小さい少女の身体はすっぽりと耕介の胸に収まった。

華奢な知佳の身体は少しでも力を込めてしまったら、

音も無く崩れ落ちてしまうガラス細工の様に繊細で…

耕介がそんな事を考えていたら、胸の中で知佳が幸せそうな表情で

「お兄ちゃん…。お兄ちゃんはみんなの管理人さんだけど…

ここだけは私のためだけの場所だよね?」

と、訪ねてきた。

「当たり前だろ…知佳。

ここはな、仁村知佳様に無利子無担保無催促で永久に貸し出ししてる物件なんだよ…」

耕介の答えに優しく微笑んだ後に知佳は一言呟いた。

それに対して耕介は…軽く

「そうだな…」

とだけ答えて

「さあ〜、もう一眠りして今日はデートにでも行こうか…」

「うん!!でも何処に行くの?」

「天気も良いし、ツーリングついでに町まで行ってくるか…。

寂しい思いもさせたし知佳にプレゼントでも買ってあげないとな…」

「お兄ちゃん…、このまま寝ても良い?」

「ああ、いいよ…」

こうして知佳は耕介の胸の中で一眠りして街までデーに出かけた。

 

耕介からプレゼントされた指輪に添えられたメッセージにはただ一言…

『お客様のご所望の物件は確かに売却いたしました。管理人より』

と…。

 

そして、耕介の胸の中で、知佳が呟いた言葉

『いつか、この胸の中を賃貸じゃなくて…本当に私のものにしても良い?』

 

こうして耕介の胸の中は、天使専用の羽休めの場所になったのである…。

 

FIN


後書き

 

うわ!!恥ずかしい!!
誰が書いたわけ?こんなSS。(お前だ)
いや、わかってるわかってるけど書かずには居られない。
恥ずかしすぎる・・・。

えー、この作品を掲載するに当たり、データーを抹消してしまった僕に救いの手を差し伸べてくれたメッセンジャーフレンド(なんだそりゃ>)、本当にありがと〜



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