きっかけは偶然だった。
学生たちは遊びや学校行事、帰省などの事情が重なり寮を空け。
愛さんは研修だかなんだかでしばらく帰ってこれないという。
真雪さんは数日前から市内某所で監k…いや、缶詰にされている。
そんなこんなで、1週間ばかり俺以外寮に誰もいないという状況ができあがってしまったのだ。
そして…
「あ、耕介さん、スープの味付けどうしますか?」
何故か、真一郎君がここにいるのであった。
真くんと一緒
邂逅編
本当に偶然だったのだ。
先の事情で寮から人がいなくなり、そんな時に真一郎君から申し出があった。
人がいなくなっている間、泊まり込みさせてもらえないか、と。
何でも、真一郎君の住んでいるアパートが改装工事を行っているらしい。
その間追い出されるわけではないのが、とにかく工事の音がうるさい。
どこかいい避難場所は無いかと考えていた所、さざなみ寮の事情を知ったとのことだ。
まあ、俺としても真一郎君は知った仲だし、断る理由も特に無かったため、その提案を承諾した。
で、現状に至るわけだ。
「…耕介さん?」
気づけば、真一郎君が俺の方を不思議な顔で見つめている。
現在、場所はさざなみ寮のキッチン。
俺と真一郎君で今日の晩飯を調理している最中だ。
「ん? なんだい?」
「いえ、このスープの味付けを…」
「ああ、別に寮生たちに出すわけでもないし、真一郎君の好みでいいよ」
「そうですか?
それではお言葉に甘えて」
手馴れた手つきで調味料を加えていく。
うん、男手二人の割りには、何時もより家事の負担が少なくなっているのはどういうことだろう?
…………しかし、まあなんだ。
「ところで真一郎君、その服装は…」
「あ、わかります?
最近買ったおにゅーなんですよ」
そうか新しいやつか。
そんなことより妙に身体にフィットして線が出てるシャツや、太ももをさらけ出す程短いハーフパンツに俺は一言物申したいところなんだが本人は気にしてないか。
特に太ももは艶かしい。
「ってマテマテマテマテ」
頭を振って今の考えを否定する。
真一郎君は男である。
顔はどう見ても女の子だし、声も高いし、体つきが華奢だったとしても悲しい位性別・♂だ。
そして俺はノーマル。
うん、問題は何も無い。
「どうしたんですか?」
「っっっ!!?」
全理性をフル稼働させて声を抑える。
気づけば真一郎君の瞳が俺を覗き込んでいる。
顔は触れ合う寸前な程に近い。
「な、なにかな?」
「さっきからぼ〜っとしてたみたいですから」
「あ、ああ、寮生たちがいないから気が抜けちゃってたのかな、は、ハハハ」
あんなこと考えてたからか、心臓がばっくんばっくん止まりません。
……間近で見た真一郎君の顔が、やばい位可愛かったのも理由の一つかもしれない。
イヤイヤイヤイヤ、落ち着け俺。
「さ、さて。
あらかた作り終えたし、食事にしようか」
「そうですね」
…………
「ふぅ〜〜〜」
風呂に入って―――否、真一郎君から離れ、一人の空間になって―――ようやく俺は一息ついた。
一度意識しだしてからはなし崩しだった。
寮生と接するときだって、ここまで緊張することは無かったのに…
「真一郎君の仕草がなぁ…」
そう。
服装もさることながら、その仕草も要因なのだ。
恥じらいとかそういうものが無く、非常に無防備というか。
このアングルはまずいだろ!って格好も全然お構いなく無自覚にやってくださる。
そもそも真一郎君側に警戒する必要性はナッシングだからなのだろうが…
……だから真一郎君は男だっつうの。
「初日からこんなんで大丈夫なんか、俺…」
主に哺乳類的に。
まあしかし本気でやばいことにはならんだろう。
これでも、女子寮の管理人をやってのけてきた実績がある。
次第に慣れていくだろう、きっと。
―――と。
「耕介さーん、湯加減はどうですかー?」
脱衣場から真一郎君が呼びかけてきた。
「うん、いい温度だよー」
「そうですかー」
……?
僅かに聞こえる衣擦れの音。
ひょっとして、風呂に入ろうとしてる?
「ちょ、ちょっと真一郎君!?
今、俺が入ってるんだけど…!」
「え? でもここのお風呂って5,6人くらいいっぺんに入れましたよね」
的外れな返答を返してくる真一郎君。
ああそっかー…そりゃ男同士だもんねー。
一緒に入ってもおかしくないっていうか、そんな疑問そもそも抱かないよねー。
しかしこの状況、俺にとってはまずい!
客観的に見てなんら問題は無いはずなのだが心情的にまずい!
裸なんていきなり見ちゃったらどうなっちゃうよ、おい!?
脱衣場では順調に真一郎君が服を脱いでいる様子。
数分、いや、数十秒後には、入ってくるだろう。
「………よしっ」
俺は覚悟を決め―――風呂をあがった。
「あれ、耕介さん、もう出るんですか?」
「はは、俺って割と早くてね。
カラスの行水ってよく言われるよ」
言いながら、走って脱衣場を後にする。
「ってそのまま行くんですか? 服は?」
「自分の部屋で着る―――!」
真一郎君のもっともなつっこみに、大声で返す。
そして宣言通り、そのまま自室に直行する俺であった。
いや、その。
横目でちらっと真一郎君の下着姿を確認してしまったのは秘密だぞ?
…マジで自己嫌悪。
―――なぁに、まだ一週間もある。この後いくらでもチャンスは―――
何いまのナレーション!?
…………
どうにかこうにかで、就寝時間。
お風呂から出た後、真一郎君がさらにラフな格好になっており、それでまた(俺の心の中で)一悶着あったのだがそれはおいといて。
―――ていうかね。ランニングTシャツに短パンって格好はどうかと思うんですよ。ちょっとずれただけで見えそうなんですよ?(何がだ)
何はともあれ、ようやく長かった一日――正確には、真一郎君が着てからの半日足らずだが――が終わろうとしていた。
「はぁ…疲れた」
「お疲れ様です。
……やっぱり、気を使わせちゃいました?」
「違う違う、そんなわけじゃないって」
いや、根本的に君が原因であることは間違いないんだが、原因となった理由に対して、君と俺とで決定的に差異があると思う。
―――おや?
「真一郎君?」
「はい」
「どうして俺の部屋に?」
「だってさざなみ寮の他の部屋は全部女の子が入ってるじゃないですか。
いくらいないからって、女の子の部屋に入るわけにはいかないでしょ?」
「あ、ああ―――そっか」
それもそうだな。
え、ってことは何か。
俺はこれから一週間、真一郎君と同じ部屋で眠りにつかなければならないと。
そういうことですか?
……ど、どうしよう……?
「………待てよ?」
考えてみればどっちかがリビングで寝ればいいんじゃないか。
ふう、焦ってこんな簡単な解決策を見失いかけていたぜ。
「真一郎君」
「なんです?」
まあ、リビングで寝るのは俺かな。
客人である真一郎君にそんなこと頼むのはよくない。
「俺床で寝るから、ベッドは君が使うといい」
……何を口走ってますか俺!?
違うよ、リビングで寝るんだろ!!?
「え、悪いですよ。
俺が勝手に押しかけてきたわけですし」
「気にしなくていいよ。
仮にも真一郎君はお客さんなんだから」
「でも…」
「じゃあ、こうしようか。
今日は真一郎君がベッドで寝て、明日は俺がベッドで寝る。
そうやって交代していけば、二人とも平等な形になるよね」
「……まあ、それなら」
不承不承といった感じで真一郎君は頷いた。
―――よし! これで真一郎君使用済みのベッドで寝れるということに!!
じゃねぇぇえええよ!!!
なんなんだ!?
さっきから俺は何をやっている!?
何か…俺以外の意思が働いているとしか…!!
「それじゃ、おやすみなさい」
俺が悩んでいるうちに、真一郎君はベッドで眠り始めている。
「……大丈夫だ…現状、何も、問題は、起きて、ない…」
そしてこれからも起きない…はず。
自分に言い聞かせるようにそう呟く。
「…俺も寝るか」
床に敷いた布団に入り込む。
もうさっさと寝てしまおう。
明日になればまた状況も変わるさ。
「……すぅ……すぅ……」
真一郎君の寝息が聞こえる。
その声はどこか色っぽく……
寝ろ!!
早く寝ろ!!
耳を押さえて音聞けないようにして寝ろ!!
俺は高鳴る鼓動を無理やり抑え、眠ったのだった。
―――その時は、まだ予想していなかった。
―――俺たちが、あんな関係になるだなんて。
不吉なナレーションを入れるな!!
続く…?
あとがき
どうも、S&Gです。
SS書くのこれで何年ぶりになるんだろう…?
そんな久しぶりに書くSSの内容がコレ。
いやしかし後悔はしていません。
このSSを読んで何か思う所があった方は、是非耕介×真一郎に一票投じちゃってくださいませ。
魔術師のお礼状
ひさしぶりのSSらしいですが、全然錆付いてないじゃないですか。
軽快でリズム良く読める、その上、耕介の内なる突込みが、また良い乗り突込みです。
哺乳類としては間違いなく終わってますけどね(笑
さて、悪の化身のナレーションさん(内なるS&Gさんとでもよびますか、仮に、ですよ勿論w)
あんまり不吉なナレーションはやめなはれ!!
18歳以下お断りぃ!な、ズキューンドキューン、さすがS&Gさん、俺たちに出来ないことを平然とやってのける、そこにシビレるぅ、憧れるぅ!!な、展開は止めてね。
僕ちゃん、良い子だからわかんなーーい
これがきにいった、耕介氏ばりに哺乳類としてどうかと言う人は、ガンガン投票して仲間作るといいと思うんだ、僕。
拍手で感想を送る際は、『S&Gさん』か『真くんと一緒』と銘記してね。』