背中には壁
目の前に佇むはランサー
突きつけられた紅の槍からは、絶対的な死の気配


・・・・・・・・・・ふざけてる。
そんなのは認められない。こんなとこで意味なく死ぬわけにはいかない。
助けてもらったのだ。なら、助けてもらったからには簡単には死ねない。
俺は生きて義務を果たさなければいけないのに、死んでは義務が果たせない。


それでも槍が胸に突き刺さる

穂先は肉を切り裂き、肋を穿ち、心臓を破るだろう。


頭に来た。
そんな簡単に人を殺すなんてふざけてる。
そんな簡単に俺が死ぬなんてふざけてる。
一日に二度も殺されるなんて、そんな馬鹿な話もふざけてる。


本当に何もかもがふざけていておとなしく怯えている事すらしていられず、



「ふざけるな、俺は―――」

こんなところで意味もなく
お前みたいなやつに
殺されてやるものか――――!!!!


Fateの拳!?


「え―――――?」



目映い光の中、それは、本当に、魔法のように俺の背後から現れた。


思考が停止している。
現れたそれがおかしな格好をしていることしか判らない。


ぎいいいん、という音。


それは現れるなり、俺の胸を貫こうとした槍を打ち弾き、とまどうことなく男へと踏み込んだ


「―――――正気か?七人目のサーバントだと・・・!?」


弾かれた槍を構える男に、拳を一閃するそいつ。
不気味と感じたのか、男は獣のような俊敏さで土蔵の外へ飛び出した。


退避する男を筋肉で威嚇しながら、そいつは静かに、こちらへ振り返った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

そいつは何も言わず、静かに俺を見つめてくる。
―――――その姿を何と言えばいいのか

この状況、外ではあの男が隙あらば襲いかかってくる状況を忘れてしまうほどに、目の前の相手はいろんな意味で特別だった。
自分だけが思考が・・・いや、時間が止まったような。
先ほどまで体を占めていた死の恐怖はどこぞに消えて、今はただ目の前のそいつだけが視界にある。




「サーヴァント・セイバー、召還に従い参上しました、マスター指示を」

「帰れ!!」


頭に走った痛みに比べれば、左手の痛みなど瑣末。
いきなり金属バットで殴られたような、そんな痛み。
思わず両手で顔を覆った。と言うか泣きたい気分だ。
それが合図だったのか、そいつは静かに、濃ゆい、明らかに世界観から浮いているほどに、濃ゆい顔を頷かせた。



「―――――これより我が拳は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。
―――――ここに契約は完了した」



風の強い日だ。
雲が流れ僅かな時間だけ月が出ていた。
土蔵に差し込む銀色の月光が、騎士のコスプレをしたそいつを照らしあげる。


「―――――」

声が出ない。

って言うか、帰れって指示はさり気に無視かよ!!?

突然の出来事に混乱していたわけでもない。

ただ、目前のそいつの姿があまりにも気持ち悪くて言葉を失った。


だって、身長190オーバーのムキムキマッチョな男が、セイバーの格好してるんだぞ!?
月明かりに照らしあげられた中で、大胸筋がピクピクしてるんだぞ!?



「――――――――――」



そいつはなぜか宝石のような瞳で、何の感情もなく俺を見据えた後


「―――――問おう、貴方が私のマスターか?」


ボイス、神谷明でそうのたまわった。


「違う!!!」


問われた言葉に即答するだけ。
そいつが何を言ってるのか、何者なのかわからない
・・・・・・というか、わかりたくもない

今の自分に判る事と言えば―――この原哲○氏が描いた、大きなマッチョな兄貴は、俺のセイバーではないということだけ。
そう、俺のセイバーじゃない、断じて違う!!違うはずだ!!!


「第一セイバーって、お前剣もってないじゃん」

「私の剣は不可視の剣ですから」

「剣じゃなくて拳だろ!?」


だが、そいつは俺の問いなどには答えず、頷いた時と同じマッチョさで顔を背けた。

―――――向いた先には外への扉
その奥には、未だ槍を構えた男の姿がある。


まさか、と思うよりも早かった。
騎士風コスプレマッチョは、躊躇うことなく土蔵の外へと身を躍らせる。


体の痛みも忘れて、立ち上がってそいつの後を追う。
あのマッチョが俺のセイバーのわけがない。
俺の知ってるセイバーは、小柄で華奢な美少女のはずだ!


「やめ―――」

ろ、と叫ぼうとした声は拳戟の音で封じられた。

「な・・・・・」

我が目を疑う、今度こそ何も考えられなくなるくらい頭の中が空っぽになる。


「なんだ・・・あいつ・・・」


土蔵から飛び出したあいつに男は無言で槍を振るう。
そいつは槍を拳で払いのけ、さらに繰り出される槍を全て拳で対抗している。


信じられない


ランサーの高速の槍を拳で圧倒している。


速度が上がり、高速はやがて神速に至った。
にも拘らずそいつの拳はさらに回転数が上がる。


北斗百烈拳!!アタタタタタタタタタタタタタ!!!!!!!」


絶対あいつ、セイバーじゃない。





ちゃわば!
あべし!!
アタタタタタタ!!




闇夜の庭に響き渡るランサーとセイバー(仮)の奇声!

ランサーも相当やりづらそうだ、正直同情に値する。


一気に距離を取るランサー

「どうしたランサー、止まっていては槍兵の名が泣くぞ」

ランサーの前に俺が泣きそうだがな。

「その前に一つだけ聞かせてくれ、頼むから聞かせてくれ
―――――お前、本当に、本当にセイバーか?」



チラリと、現実逃避気味の視線を向ける。


いい質問だ、ランサー!
さすが英雄ッス、兄貴ッス!!!



「当然だ!私がセイバーだと、見ればわかるだろうがッ!!」


うわーーー、言い切ったよこの人。


「・・・・・・納得がいかねぇ」


まったくッスよ、兄貴!!



「おい、お互いここは初見だし一旦退かねえか?」


「否!!お前は既に死んでいる!!」


どっかで聞いた決め台詞だぁ!!!


「もういいや、ココに長居したくないから、とっとと切り上げるぜ」


ランサーが槍を水平に構える。
大気中のマナを全て吸い尽くし、空気が凍ったような錯覚。


間違いない、あれは校庭での戦いの最後を飾るはずだった必殺の一撃。



「じゃあな、その心臓貰い受ける」


獣が地を蹴る。
まるでコマ送り、ランサーはそれこそ瞬間移動のようにそいつの目前に現れ



その槍を足下めがけて繰り出した。



「―――――刺し穿つ」

それ自体が強力な魔力を帯びる言葉と共に

「―――死棘の槍―――!!」

下段に放たれた槍はそいつの心臓にひるがえっていた。



「―――――!?」



驚愕に歪むセイバー(仮)の顔
浮く体。
僅かに放物線をえがき地面に着地する。





「なかなかやるな」

ニヤリ、とマッチョな微笑を浮かべるセイバー(仮)
胸に、ほんの僅か、子供が転んで出来た擦り傷程度の傷が見える。

って、かすり傷かよ



「ありえねぇ!!?」


あ、ゲイ・ボルグが曲がってる。


「見たか、これが宝具「北斗の大胸筋」だ」


これ見よがしに、またも胸をピクピクさせている
マジで気持ち悪いからやめて欲しい。


ゲイ・ボルグが曲がってしまって半泣きのランサーに、そいつは容赦なく拳を放つ。

「アチャア!!」

「ひでぶっっ!!」


あ〜あ〜、ランサー飛んでっちゃったよ・・・。






〜ランサーが星になる数分前〜


衛宮家、門外にて

「・・・・・・いる、確かにこれ、ランサーの気配だ」

アーチャーに突入の合図を出そうとしたその瞬間!

ピカァ、、、っと、眩い白光が、屋敷の中から迸った。

気配が気配を打ち消す。
ランサーの力の波が、更に大きい力の前に消されていく。
瞬間的に爆発した第五要素は、幽体であるそれに肉を与え、
実体化したソレは、ランサーを圧倒するモノとして顕現する!


「凛、私はひどく嫌な予感がする」

「奇遇ね、私もよ」





「アチャア!!」


屋敷から怪鳥のような叫びが聞こえる。

 
「―――嘘」

呟くことしか出来ない。
だって、その証拠にほら。
塀を飛び越えてきたランサーは、そのまま逃げ去っていく。


「凛、私の目には、どう見てもぶっ飛ばされたようにしか見えないんだが」


「・・・・・・同感」


あのランサーの凄さは骨身に染みて判っている。
少なくともあんなに簡単に、それこそボールみたいに吹っ飛ばされるやつじゃない。

「凛、このまま帰ろう」

あのアーチャーが冷や汗かいている。

「そうね、私もこのままここに居ると、世界観が台無しになる気がする」




「!!凛!!下がれ!」

塀の上から襲撃してきたそいつから私を庇う様にアーチャーが叫んだ。





「北斗経絡秘孔!」



「チャワバァ!!」


「何だ、お前!?」


あのアーチャーが頭から道路にめり込んでいる・・・。


「ア、アーチャー!?―――――喰らえ!!」


「―――――ハッ!!」


私の数年分の魔力を溜め込んだ、この辺り一帯を吹き飛ばせるほどの魔力を持つ宝石を受けたのに、かすり傷しか着いてない・・・。こいつ、どう考えても対魔力Eなのに、筋力だけで耐え切ったわけ?


「・・・やるな」


にやり、と、笑うそいつ。迫り来る筋肉の砦。
気圧される様に私はその場に尻餅をついた。

月を後ろに控え、私を射すくめるそのサーヴァント
私は、その正体が何となくわかった・・・って言うか、昔マンガで読んだ気がする
でも、そんな事は無意味
遠坂凛はここで死ぬ。
聖杯戦争が始まる前に、こんな所で不様に無意味に死ぬんだ
不思議とそれを受け入れた
悔しさとかはあまりない


だって、目の前に立つこいつの存在が、あまりにも
――――――――――暑苦しかったから


私は胡乱な頭で考えた
この無茶苦茶な闘い方、それに筋力・・・こいつはきっとバーサーカーなのだと。


私に止めを刺そうと振り上げた拳が唸りを上げる
その拳が遠坂凛の顔面にヒットする直前

「ヤメロ!セイバー(仮)!!」

なんて、良く知った声が飛び込んできた


「なんですって!!?」


これがセイバー?
私が欲しがってた最優のサーヴァント?
嘘でしょ〜〜〜〜?

「You は Shock!!!」


「愛で空が落ちてくる」


死なないですんだことよりも、このマッチョマンがセイバーであることに驚いた私の叫びに衛宮君が相槌?を入れる


「どういうことよ、衛宮君?」


「そんな事より、遠坂、大事な話がある」


「何よ?」


「アーチャーは無事か?無事だろ?無事って言え!!」


・・・なんで、今の段階で私のサーヴァントがアーチャーって知ってるのよ、こいつ。


「取り合えず、衛宮くんちで話をしましょ」


半泣きで、アーチャーの心配をする衛宮君を宥めながら彼の家に入る。
一体こいつに何があったんだろう?






取り合えず、居間に座り助けてもらったお礼に窓ガラスを直す私。
台本的にはそこから衛宮君がそこで未熟な魔術師だと知っていくはず、
なのに・・・


「んで、アーチャーは無事なんだな?」


って、しつこく質問してくる
なんで、こいつはこんなにアーチャーの心配をしているんだろう


「・・・なんで、衛宮君が私のサーヴァントの心配をするのよ」


私の質問に彼は血の涙を流しながら応えた


「・・・あれが、セイバーなんだ、納得いかないけど」


確かに、あのどう見ても世界観から浮いてる筋肉男がセイバーなんて私も納得いかないけど、それとアーチャーの心配することが、私の中でどうしてもつながらない


「あれが、セイバーって事はセイバールートに行くと俺はあれと・・・・・・」


「セイバールートとか言うな!!」


世界観台無しな発言は兎も角、彼がアーチャーの無事を気にする理由は、よーーーくわかった
確かに、ここでアーチャーが無事なら話は『Fate』ではなく、『Unlimited Blade works』に進むことになる。
つまり、あのセイバー(仮)と、Hしないですむことになるわけだ。


「ふふふ、必至ね」


気の毒だけど、ちょっとからかってやろうとする私に、彼はとんでもない事を言ってきた。


「・・・そんなこと言っていいのか、遠坂」


「何がよ?」


「セイバールートだと、お前もセイバーとの濡れ場があるんだぞ」


・・・・・・・・・忘れてた



青い顔でダラダラ脂汗を流す凛を見て、士郎は確信した
こいつなら、きっと力になってくれると


「了解、どんな手を使ってでも、令呪でも宝石でも、最悪人間襲わせてでもアーチャーには強制的に回復してもらうわ」


「さすが!頼もしいッス!遠坂様!!」


「まずは、アーチャーの怪我の確認ね!アーチャーどうなの?」


あれ?なんて、首を傾げる


「どうした、遠坂・・・まさか、怪我して動けないとか?」


このまま、『Fate』ルート決定か?と、冷や汗が流れる


「ううん、応答しないの、あいつ」


「なんでさ?」


「わからないわ・・・」




「・・・あんなのセイバーじゃない、俺が愛したセイバーじゃない」


遠坂の屋敷の地下で脅えるアーチャーが居た



・・・・・・・・・・・・・・・・・・この聖杯戦争、もうダメかもしれない


続く・・・のか?


魔術師の戯言

はい、何故かこんなネタです
さあ、このセイバーの正体は誰なんでしょうか?(白々しい)
無論この後もう少し話が続きます
いやぁ。本当に正体は誰なんでしょうね?