先程から必死にアーチャーに呼びかける遠坂
そりゃ、必死にもなるだろ。
俺の横で正座しているのに、立っている遠坂よりも大きく見える、筋肉の塊みたいなセイバー(仮)とのアインツベルンでの濡れ場を回避するためならな。


「ダメ、あいつ余程ショックだったのか、いくら呼びかけても反応しないみたい」

「でも、取り合えずアーチャーが死んでいないなら最悪の事態(セイバールート)セイバールートは避けられたんじゃないか?」

「士郎は、甘いわ!アーチャーが闘えない=セイバールート確定よ」

・・・・・・セイバールート云々とか、アインツベルンでの濡れ場とか、散々言っといて何だが、士郎ってもう呼び捨てかよ。

「仕方ないから奥の手を使うわ」

そう言って、遠坂は懐から曰くありげな宝石を取り出した。
って、それ形見の宝石じゃんよ!!

「遠坂!その宝石は今出したら、流石に話が破綻しちゃうだろ」

だって、今まだ、(士郎)士郎は、自分の命の恩人のこと知らないはずなんだから
って言うか、まだ俺も宝石手元に持ってるし。
どのルートにしても、クライマックスまでその宝石出てこないはずだし。


だって言うのにこいつは―――――

「うるさい!!世界観なんてこれの時点でとっくに破綻してるじゃない!」

―――――セイバー(仮)を指差しドッカーンと、ギャク切れしやがった。

「今一番重要なことは!?」

「はい、セイバールートの回避であります」

思わず敬礼を返す俺

「だったら、細かいことは気にしないの!」


Fateの拳!!〜迷走編〜


アーチャーの心の傷を和らげるために、セイバー(仮)には別室に待機してもらっている。
遠坂はアーチャーの目の前にプラーンと、例の宝石を掲げる

俺も、アーチャーも首を傾げる

「遠坂、一体何を・・・」

「黙ってて、この魔術すごく難しいの」

あの、天才、遠坂凛をして難しいと謂わしめる魔術か・・・。
俺は自然とゴクリと咽喉を鳴らした
その嚥下の音ですら、大きく聴こえてしまう錯覚に陥るほどの静寂と緊迫感

手元の宝石をユラリと揺らしながら遠坂が何かを呟いている


カチカチカチカチ


かれこれ、3分は経過した、未だに遠坂は何かを唱えている
何と言う長い詠唱時間、一体どれほどの大魔術だと言うのか?


カチカチカチカチ


「―――――これは夢、これは夢・・・・・・・」


「って、ただの催眠術かよ!!!」


なら、宝石じゃなくて5円玉でよかったじゃないか!!


「さあ、凛、行こうか」


って、アーチャー復活してるよ!
まさか、催眠術にかかったのか?
こいつ、本当に英霊か?


「そろそろ教会に行きましょう」


さっきまで、別室に待機していたセイバーが出てきた。
しかし、そんなセイバーには目もくれないアーチャーの反応
良かった、催眠術が利いてるらしい
グッっと親指を立てる遠坂。
その魔術と言うか催眠術の成功に俺もほっと一息ついた。
―――――が!!



「大丈夫だよ遠坂。答えは得た。オレもこれから頑張っていくから」


すっげぇ良い笑顔で消えようとするアーチャー


「まだ、何にもしてないわよ!!」


「別にあれを倒してしまっても構わんだろう?」


「むしろ大歓迎だけど、100%返り討ちにあうから止めておきなさい」


・・・・・・ダメだ、アーチャー全然現実逃避から戻ってきてないし。




とにかく、壊れたアーチャーを引きずって教会に向かう。

しかし、すごい面子だ
チョウチョを追いかける子供のような足取りで、完全に精神が逝ってしまっている長身白髪な男
その男を半ば引きずるようにして、手を引いて歩くあかいあくま
そして、俺の後ろで黄色いレインコートを着て歩く大男
というか、鎧じゃ目立ちすぎると思ったんだが、筋肉ムキムキな大男が雨も降ってないのに、末期色な・・・じゃなくて、まっ黄色なレインコートは余計怪しいような気が・・・。


そうこうする内に、教会が見えてきた

「シロウ、私はここに残る」

引き止める気はさらさらない
と言うか、いつの間にか俺のこと呼び捨てだよ

「やだぁ!こいつと二人っきりは嫌だぁぁぁぁ!!」

と、泣いて嫌がるアーチャーを令呪で強制的に外に残す、悪魔遠坂


いつ来ても威圧感たっぷりの教会だ

「あれ、遠坂、鍵かかってる」

「え?・・・あ、張り紙があるわ、なになに―――」

『泰山にマーボー食いに行ってくる。
もう五回目だし、このシーンはスキップしてくれ
言峰綺礼』

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


何だか泣きたくなってきた。
誰か真面目に聖杯戦争する気があるヤツは居ないんだろうか?


「あれ、遠坂、下の方に追伸があるぞ」

「ほんとだ。えっと何々・・・」

『追伸 unlimited blade works だと、出番が少ないから、出来れば違うルートに行ってくれ』

無言でビリビリに伝言を破る俺
遠坂は横で綺麗な笑顔になっていた。

「衛宮君、ライターある?」

「いや、ないけど―――――」

ライターなんて何に使うんだ。と言う俺の言葉と、じゃあ仕方ないか。と言う遠坂の言葉が重なった

「ヤメロ、遠坂。燃やすな!魔術はまずいって!!」

「邪魔するとアンタも一緒に燃やすわよ!!」





「・・・・・・・・・・・・・」

無言で肩を落として歩く遠坂、無論俺もだが、骨折り損のくたびれ儲け、と言うのは、まさにこういう場合を指すのだろう
ちなみに教会は小火ですんだ。
正確には遠坂は真剣に燃やそうとしたのだが、あの教会の結界は大した物で魔術的な力ではそうそう燃えない様に出来ているらしい。


「どうしたの、おにいちゃん」


いつもの十字路で、イリヤがバーサーカーと立っていた。


本当ならここでバーサーカーに恐怖するんだけど、俺のセイバー(仮)は、バーサーカーよりもごつくて濃いから気にならない。むしろ、皆がおかしな今回の話の中で、不変のバーサーカーにちょっと癒されてる自分が哀しい。


「何で、お兄ちゃんも、リンも笑いながら泣いてるのよ・・・」


うむ、どうやら遠坂も同じ気持ちだったらしい。


「・・・気持ち悪いなぁ。ところで、セイバーは?」

「セイバーは私だ!!」

脱ぎ捨てるレインコート
って、何で鎧まで一緒に脱ぎ捨てるんだ!?
これ見よがしにバーサーカーに筋肉見せ付けてるし・・・。


「やっちゃえ!バーサーカー」


イリヤが確実に引いてる。


「■■■■■」


あ、バーサーカーが首横に振って嫌がってる
イリヤに説得されて、すっごい嫌そうに闘いに行ってるよ。


「■■■■■■!!!」


獣の咆哮を上げ、静寂を切り裂きセイバーに迫るバーサーカー
岩のような拳が唸りを上げてセイバーに迫る


「北斗百烈拳!!」

「■■■■■■!!!」


バーサーカーと互角以上に打ち合ってる。


「■■■■■■■■■■■ーーー!!!」


バーサーカーとがっぷり四つに組み合う。
ぎちぎちと音を立ててぶつかり会う筋肉と筋肉
見てるだけで暑苦しい

って言うか素手でバーサーカーと闘ってる時点で、絶対にセイバーじゃねぇ、いや、今更だけど。


「しっかりしなさい、バーサーカー」


自慢のバーサーカーが腕力で苦戦しているのがご立腹なのか、それとも、筋肉の競演を見てるのが嫌になっただけなのか、とにかく、イリヤの声に呼応してバーサーカーが距離を取り斧剣を振るう。


「北斗神拳究極奥義『無想転生』」


なんか、最近パチンコ屋で良く見かける奥義出たぁ!!
しかも、あの地面を砕く斧剣の一撃を良くわからないけどかわしてる・・・。


「無駄だ、お前は既に死んでいる」


って、バーサーカーここで殺しちゃダメだろう!!話の展開的に。


ぽかんとしてる遠坂と俺
そりゃそうだ、あのバーサーカーがとうとう素手で吹っ飛ばされたんだから


「え!!アーチャー、離れろってどういうこと?」

首を傾げる遠坂の声と、遥か遠くの殺気に気がついた


背後、何百メートルと離れた場所、屋根の上で弓を構える紅い騎士の姿を見た。

なんだ、あいつ逃げたんじゃなかったのか
俺はてっきり逃げたとばっかり・・・


吐き気か悪寒。
奴が構えているのは、弓だ
今までと何も変わらない弓
直撃したところでバーサーカーに傷一つ負わせられない物

なら、そんな物に脅える必要などーー


―――悪寒がする

奴が弓に添えているのはもっと別のもであり。
その殺気の標的はバーサーカーではない


遠くに居るアーチャーを見つめた
見える筈がない
見える筈がないというのに確かに見た
ヤツは口元を歪めていた
狙ったのはバーサーカーではないと、俺に訴える様に笑ったのだ

「セイーー」

足が動く

俺はーーー

「動くなセイバー(仮)」

気がつけば令呪まで使って、必死で大声を出していた

「っ、マスター―――――?」

きょとん、とした顔
制止の命令が聞こえたのか、セイバー(仮)の踏み込みが遅くなる
危ない、あと一秒遅かったら『北斗七死星点』で、バーサーカーの肋骨が大変なことになるところだった。

その命令から僅かに遅れて
ヤツから、その”矢”が放たれた

火花のように飛びのくバーサーカーと、対照的に令呪で縛られて動けないセイバー(仮)
両者の間、戦場の中心にアーチャーの矢が放たれる
今まで何の効果も出さなかった弓矢


令呪で動けないセイバーはそれに向かって仁王立ちし・・・・・・・・・直激した


―――――次の瞬間あらゆる音が消え、世界は白く染まった


「やった!流石にこれならあのセイバー(仮)も・・・」

「しかし、偽・螺旋剣五本も撃つなんてね」

「まあ、バーサーカーも無事みたいだし、良しとしよう」

「・・・士郎、・・・あれ、見て・・・」

俺の横で遠坂が呆然とソレを見ている
・・・・・・それは俺も同じだ
何が起きたのか判別できない
ただ、アーチャーが放った矢によって墓地が一瞬で炎上しただけ
爆心地であったろう地面は4つの大きなクレーター状になっている


それほどの破壊をアーチャーは巻き起こし
それほどの破壊を以ってしてもまだあのセイバー(仮)は無傷だった


「・・・セイバー(仮)、ランクAの宝具5発を受けて、なお無傷なんて」


「なかなかの攻撃、しかし、北斗神拳二指真空把の前には無意味だったな」


「信じられない・・・ブロークンファンタズムがあっさり返されるなんて・・・」


「士郎、アーチャーはしばらく戦闘不能みたい!!」


騒ぐ遠坂を尻目にゆっくりと炎をバックに近づくマッチョ


「無事でしたか?マスター」


ニヤリ、と濃ゆい顔で微笑むセイバー(仮)

こうして、また、一歩恐怖の筋肉男とのHシーンがある、セイバールートに近づいた夜だった。




―――――そのころ


「何考えてるのさ、いくらライダーだからって、馬になんて乗ってたら目立っちゃうじゃないか!!」

喚く己がマスターに、馬上より「黙れ、小僧」と睨みつけるライダー
ライダーが体を預けるはこれまた化物の様に巨大な黒馬

「我は聖杯などに興味は無い、ただ再びヤツと拳を交える事を望むのみよ」



冬木の夜は深けていく

続く・・・と良いな



魔術師の戯言


いや、感想に北斗の拳好きなんです、って人が多いこと多いこと
私も北斗の拳好きだけど、私にそんな子と言う理由がわからないあるよ
しかし、セイバーの正体も謎のままなのに、ライダーまで登場
ううん、一体正体は本当に誰なんでしょうね(白々しい)
ちなみに、本当は今回の話でセイバーの真名がわかるはずだったのに長引いてしまった
ちっと、バーサーカー戦引っ張りすぎたなぁ
軽く流す気だったのにセイバー(仮)に色々技使ってもらいたかったから