そこは寂しい場所だった。

  ただ荒れ果てた大地、人の墓、折れた剣、朽ち果てた防具・・・
 その孤独感をより強くする強い風、確かにそこは戦場だった。
 そんな場所に赤い外套の騎士と銀の少女が立っていた。

 「行ってしまわれるのですね?」
 「ああ、私は用無しのようだ。建前上から君の夫に推薦する者もいるが・・・彼らの本音はそうでないだろう」
 「そうですか・・・寂しくなります」
 銀の少女は本当に悲しく、顔を伏せた。
 「気にしなくていい。私はそのために来たのだから」
 「でも!・・・報われません!!必死になって、死にそうになって、それでも戦い続けたのに」
 「いいんだよ別に、私はそのために来たのではないのだから」
 そう続けたようとした赤い外套の騎士の唇を、銀の少女は自分の唇でその言葉を塞ぐ、
 少女は彼を逃さないように必死に抱きしめ、彼の唇に届くように必死に背伸びをして・・・
 少女は口を離してから、そのまま言葉を続けた。
 「嘘です。あなたは私を女にした時だって、何度も忠告してくれました『これ以上超えたら戻れなくなると言って』」
 「それだけじゃない。何度も私を助けてくれた。あなたの話は私が折れそうになった時の励ましとなった」
 「だから・・・だから・・・そんな事いわないでください。お願いします」
 少女は彼を抱きしめながらそのまま嗚咽しながら彼を抱きしめ続けた。
 「ありがとう・・・君のその言葉だけで十分だ」
 そう言って赤い外套の騎士は少女の涙を指で拭い、そして優しく抱きしめた。
 
 そして、私は目を覚ました。


 衛宮家 客室

 「ここは・・・」
 しっかり掃除されている客室だった。
 そして、ここは私がここに来て1番居たい場所。
 「・・・あの人は死なせない。・・・あの人には絶対にさせない」
 私は自分の銀碗を抱いて、誓うように呟いた。
 それこそが、私がここにいる1番の理由だから・・・


    「私のネガイ」
  「I Wish」中編


 客室の前


「ふぅ・・・」
俺は呼吸をしてから一息ついて、もう一度ドアと対峙する。
このドアの向こうにヌァサがいる。
結局昨日は彼女の乱入のせい(本人が望んだ物ではないだろうが)でお花見はお開きとなり、
遠坂は真剣な表情で家に帰っていった。
イリヤはイリヤで、城に戻って調べ物をしてくると言うし・・・
そう言った事情で今、遠坂とイリヤはいない。
桜は弓道部のことで随分と忙しくなるらしく、しばらくは家に寄れないらしい。
藤ねぇも同様だ。
つまり、この家には俺と彼女しかいないということだ。
怪我のほうは遠坂の魔術と、彼女自身の再生能力によって外見の傷はほぼ完治し、鎧も何時の間にか消えてしまった。
そして、俺は彼女に朝ご飯を作ってここにいる。
「えぇい、こうしていても埒が明かない」
そう思って俺はドアノブに手をかけようとしたときだった。

 ガチャリ

という音と共に、先にドアが開かれた。
「「あ・・・」」
そこには昨日の女性・・・ヌァサがあっけをとられて俺を見ていた。
ちなみに服は藤ねぇが用意していたのだが、心なしか胸の辺りがきつそうだ。
そして、俺は一つの事実を確認できた。
サーヴァントってやっぱり美人or美形が多いなと・・・
彼女の場合セイバーの少女という美しさではなく、落ち着いた雰囲気と大人の魅力と言うべきものが備わっていた。
どこぞやの虎にも見習わせたいぐらいだ。
むしろ、こんな人が姉貴分だったらよかったなーと思ってしまうぐらいだ。
「お、おはようございます」
「あ・・・ああ、おはよう」
なんかギクシャクとした雰囲気が流れる・・・
落ち着け俺・・・顔を赤くするな!
目とか逸らすな!
だぁ!どうしろってんだこんな状況!!
「とりあえず。食事ができたから呼ぼうとしたんですけど・・・動けます?」
「はい、派手に動く事はままなりませんが、普通の生活をするには問題ありません」
「そうですか、ではこっちに用意してるんでついてきてください」
「はい」


 食卓


「ご馳走様でした」
ヌァサは箸をおいてから静かに手を合わせた
「おそまつさま」
そう言って俺は、彼女にお茶を淹れて彼女の前においた。
「ありがとうございます」
「で、お茶を飲んだ後でいいですが、あなたに聞きたい事がある」
「なんですか?」
「なぜ、あなたはここにいる?」
そう・・・まず尋ねるべき質問なのだ。
3ヶ月前確かに、俺とセイバーが聖杯を破壊したはずだ。
そして、以前聞いた遠坂の話だと、サーヴァントの召喚は聖杯を通じて召喚されるはずなのに・・・
そう、この時点で矛盾は発生している。
サーヴァントが聖杯が破壊された後でも現れるという矛盾だ。
そのために遠坂は自宅で本を漁り、イリヤもアインツベルンの城で同じ事をしている。
「そうですね・・・それを話さなければなりませんね。私は何度目かは知りませんが、聖杯戦争に参加していたサーヴァントです」
「何度目か?」
「はい、その時の記憶は不鮮明なのであまり覚えていませんが、2世紀か3世紀前のだったような気がします」
「その時のクラスは?」
「セイバーですよ。わたしも不敗の剣を使いこなす英霊ですから」
「だからか・・・あんな大剣を片手で振り回せるのは」
「それもありますね。話を本題に戻しましょう。マスターと私は聖杯に届く事はありませんでしたが、
戦いの過程でお互いを想い合うようになり、その結果私とマスターは結ばれました。マスターは敗れ、殺されましたが、
その妹さんの子孫がこの冬木の街にいる事を知ってきたのです」
「・・・その子孫を探したいのですか?」
「はい。それが私の望みです」
まるで何かを懐かしむように彼女は答えた。
「そうですか、でもなぜあなたは存在できるんですか?」
「そうですね・・・それは私の持っている剣のお陰です」
「あの大剣が?」
「はい。あの剣は大気に存在するマナを吸収し、それを私の魔力に転換する力があります」
なるほど・・・つまり、彼女はそれでこの世界に存在し続けたと言う事だ。
だけど、それはとても、辛い事だと思えた。
彼女はそれだけ長い時を同じ背格好でこの世界で暮らしてきた。
あまり人と接することなく、噂になれば何もなかったかのように消える。
だれからも必要とされず、だれからも理解されない。
そんな事の連続だったんだろう。
「そんな顔をしなくてもいいですよ。シロウさん」
「え?」
「長く生きた分、沢山の思い出を貰いましたから、孤児院の院長をして沢山の子供たちの世話をしたり、いろんな事をしました。
その事すべてが大切な物であり、私にとってはかけがえのない物です。シロウさんもそういう思い出がありますよね?」
「ああ・・・親父の事とか、いろいろあるよ。あの別れとかな・・・」
あの忘れもしない、別れの時を思い出す。
聖杯戦争を勝ち残り、自らの間違いを見つけ、そして自分の時代に戻ったあの少女の別れを・・・
「そうですか・・・たしかに別れは辛い事ですね。ましてや、それが大切な人ならばなおさらです」
「なんで・・・その事が?」
「シロウさんの目が語っています」
「ここの世界にいない遠くにいるだれかを、見ているように話しますから、直ぐ分かります」
彼女はそう言って寂しげに微笑んだ。
そうだった・・・俺と比較にならないほど彼女は長くの時を生きて、そしてそれだけ多く出逢いと別れを繰りかえてして来た。
「すみません。おれヌァサさんに対して悪い事をした」
「いいんですよ。いくら多くの別れを経験しても同じことの繰り返しでしたから・・・」
そう言って彼女は俺の隣に座った。
「だけど俺は!!」
その次の言葉を塞ぐように、俺は彼女に抱きしめられていた。
まるで母親が自分の子供を抱きしめるように、そっとやさしく俺を抱きしめていた。
「そんなに自分を責めないでください。確かにあなたは永劫の別れをした。それは変えようのない事実です。
だからこそ、あなたはここで立ち止まってはいけないのです。それは別れを済ませた娘(こ)にも失礼です。
でも、泣きたい時には泣いてもいいと思います」
真剣に彼女は俺を諭すようにいった。
その言葉は、沢山の時を生きた女性ならではの確かな重みと説得力があった。
「・・・すいません。少しだけ胸を借ります」
不思議に遠慮や、恥かしさはなかった。
俺はやっぱりセイバーが側にいて欲しかったんだと思う。
でも、セイバーはあんなに、清清しい笑顔をしていたから止められなかったんだ。
その事をこの人は知っていた。
だから、俺はこの人に甘えられたんだ。
そう思って思いっきり泣いた。


 数十分後


「落ち着きましたか?」
「はい、・・・すいません話の途中に泣き出したりして」
俺は彼女から離れて軽く涙を拭いてから、そう言った。
「構いませんよ。誰でも泣きたい時とかはありますから」
そういって彼女は柔らかい笑みを浮かべた。
「それでこれからどうしますか?」
「そうですね、まずホテルに戻ろうと思います。借り物の服では少し窮屈な所もありますし」
「駅前のホテル?」
「ええ、という訳でシロウさん」
「はい?」
「護衛お願いします♪」
「へ?いや、いらないだろ?」
「必要です。だって今の私は無力な女性と変わりありませんもの♪」
うわっ、めちゃ楽しそうだよこの人
「・・・わかりました」
完敗だ。そんな楽しそうな顔をされちゃ、俺は断る事なんて出来ないじゃないか。


 ホテル ヌァサの部屋


「お待たせしました。シロウさん」
そう言って、ヌァサは衣裳部屋から出てきた。
「あ・・・ああ」
白を基調とし、細部に銀をあしらったややフォーマルな服装で、白という清潔感の中に、大人の魅力を微かに感じさせるアクセサリー
をつけており、はっきりいってデタラメなほど似合いすぎた。
「どうかしましたか?」
「あ・・・いやとても似合ってるなって」
「あ、あっ、そうですか、あ、ありがとうございます」
ヌァサも赤面してそう答えてくれる・・・
って不味いじゃないですか、この雰囲気は・・・
朝と同じじゃないか・・・
落ち着け俺、ここで固まってたら意味ないだろ!
と焦っていると・・・・

 グキュルルル

俺の腹が節操なく鳴った。
「ぷっ、あははははっ」
ほら、ヌァサだって笑ってんじゃないか!
くそ、恨むぞ俺の腹よ!
「おなかが空いているようですし、食事に行きますか?」
「あ、ああ別に構わないが」
「そうですか、では急ぎましょう」
そして俺は急かされるまま、ホテルの食事を取る事になった。


 ホテル 食堂


「ご馳走様でした」
「いえいえ、お粗末さまでした」
確かにホテルのバイキングの味としては十分、もしくはそれ以上の味だった。
油物はくどくなく、適度な揚げ方をしていたり、煮物にいたっては薄味かつ、出汁を効かせて素材のうまみを引き出していた。
ただ・・・俺は知っている。
ここのケーキはとてつもなく甘い。
それは、某商店街の麻婆豆腐の対極をなすと言っても過言ではない。
一度、俺も桜や藤ねぇと一緒に試したのだが・・・
生き残っていたのは藤ねぇだけだった。
「ではデザートを取りにいきますから」
ま、まずい・・・
「ヌァサ・・ここのケーキは不味いから他のフルーツ類にするんだ」
「え?あ、はい」
そうやって頷くと、ヌァサはデザートを取りにいった。
「衛宮士郎、それは作った人間に対して大変失礼な台詞だ」
「失礼も何も・・・って!なんでお前がここにいる!!」
「何でと言われてもだな、ただ単に食事を摂りに来ただけだ」
そう言って上品なスーツを着こんだブレスは、山盛りのケーキを食べながらそう答えた。
妙に絵になってるので少し悔しかったりする。
「飯なんてどこでも食えるだろ、なぜわざわざここに来た?」
「何、彼女との束の間の逢瀬を楽しんでいるかを見に来ただけだ」
一瞬、思考が止まった。
「なんだと・・・」
「分からないか?本来、英霊とは、この世界の『抑止力』その物だ。
 世界が滅亡に瀕した時のみに発動する排除システムのような物だ」
「そんなことは分かっている。俺が聞きたいのは」
「『何故存在できるか』か?簡単なことだ。彼女が『抑止力』なる時に出した条件がそれだったのだよ。
それぐらいは用意に想像がつく」
「なっ、なんでそこまでお前はヌァサの事を容易く想像できる?」
「其れもまたシンプルな答えだ。彼女と私は宿敵というの名の絆を持っているだからだ。お前にも分かるだろう?
今は亡きかの神父が貴様の宿敵であったように」
「何故、言峰の事をお前が知っている?」
「アレとの契約に反するが答えてやろう、アレとあの神父は繋がっていた。ただそれだけだ」
「ふざけるなよ。アレはアンリ・マンユはセイバーが倒したはずだ!」
「ああ、倒したさ。全ては死んでおらん。ただそれだけだ。お前たちのした事は無駄ではなかったが、全てを解決したわけではない。
だからこそ、彼女が冬木に現れ、そして俺が呼ばれた。ただ、それだけの事だ」
「まだ終わっていないのか」
「そう言うことだ。さて『正義の味方』のお前はどうする?」
「やる事なんて決まってる。アンリ・マンユをとめる」
「まぁ、精精頑張る事だな」
そう言って、ブレスは空になった皿を持ってテーブルを立とうとした。
「ブレス」
「なんだ?」
「何故、お前はこんな事を?」
「簡単な事だ、俺の望みは彼女と殺り合う事だ。それ以外はどうでもいい事だ」
そう言ってブレスは皿を従業員に返し、支払いを済ませた後ホテルを出て行った。
なんて律儀なサーヴァントだ。
「ってそんな事言ってる暇なんてない!」
俺は受付で金を払った後、俺は走り出した。
アンリ・マンユを今度こそ倒す為に・・・

 夜 橋

「どこにも居ないじゃないか・・・くそっ!」
柳洞寺に公園、俺が思いつく限りの場所を探したが何も見つからなかったし、何も感じる事もなかった。
あの戦いから2ヶ月、まるで何もなかったかのように魔力の欠片も見つからなかった。
そして、息絶え絶えでここにいたるわけだ。
「シロウさん・・・探しましたよ」
そこにはヌァサがいた。
小さいトランクを持ち白いストールを羽織って・・・
「どこまで知ってるんだ?」
「全部知ってます。シロウさんは何時もお人好しで人を信じすぎましたから」
とても悲しそうに微笑みながらヌァサはそう答えた。
「だったら、何故!」
「だからなんですよ。私はシロウさんにはこの事を知って欲しくなかった。私が去ったフリをすればよかったのですから」
「そんなの自己満足だ。ヌァサは救われない」
「分かっていますよ。私がやろうとしているのは自己満足です。
それに『抑止力』としてそれをやったとしても私は救われない事は分かっています」
「だったら!」
「でもいいんです。あの人になっていないシロウに逢えただけでも私は十分救われているんです。
それに私はシロウさんをあの人にさせたくないだけです。それが私の一番の願いですから・・・」
「あの人?」
「シロウさんには分からない方がいい。ソレになったらシロウさんはきっとソレを認めないし、私も教えるつもりは有りません」
カチンと来た・・・
俺の誰かにしないつもりだろうがなんだろうが、そいつになってしまうという事より、
ヌァサが俺が誰も救えないって事を遠まわしに言っている事が、一番頭に来た。
確かに俺には宝具もないし、剣を投影する事しかできない。
もし、アレともう一度対峙しても勝てる気はしない。
だけど、俺は正義の味方になると決めたんだ。
だから、ヌァサの言葉には従えないし、反抗する。
「そうかよ。だったら、力づくでも聞き出す。アンリ・マンユが居る場所を」
覚悟はできた。即座に干将と莫耶を投影した。
「投影ですか、断言します。シロウさん貴方は私を倒す事もできはしない。
なぜなら、貴方は自分の力を自らが許された事を理解していない。ですから私は右腕だけで対応できる」
そう言って、ヌァサはトランクを置いて、俺と対峙した。
「いくぞ!」
そう言って、ヌァサに近づく前に俺の脚に衝撃が走り、バランスが崩れた。
「だから言ったのです。私を倒す事はできはしないと」
その言葉と同時に俺は顔面を地面に叩きつけられた。
その言葉は俺を突き放すようには言っているけど、何かを必死に隠すのが精一杯で突き放すようには聞こえなかった。
「くそっ!」
「分かりましたか?シロウさんと私の差です。この程度で止まらない事は分かっています。
でも、わかって・・・ください。お願いします」
最後の言葉はもう泣き出しそうで言葉にもなっていなかった。
「すまない、それでも俺はヌァサの想いには答えられない」
「分かっていますよ。そう言うと確かに私は貴方に対して貴方の存在を否定する事を言っています!」
「茶番はそこまでにしてもらおうか?」


 ゾクリと・・・


激しく心臓が萎縮した。
奴の姿を見て、直ぐに理解できた。
この存在には人間は勝つ事も、対峙する事もできないと・・・
そして、あの閉じている眼はとてもまずいと・・・
ヌァサも恐怖を感じながらも、その男の前に立った。
その男は、黒を着込んでいた。
ブレスのような、黒い服を着ているのではなく、正に黒を着ていた。
「ブレスといい・・・アンリ・マンユは私と縁が深い者を呼ぶようですね。バロール」
「久しいな、ヌァサ。かの戦場以来か?」
「ええ、私としては最も会いたくない者でしたが・・・」
そう言ってヌァサは鎧を召喚しクラウ・ソナスを構えた。
だが、その剣は微かに震え、ヌァサがあの存在に恐怖している事は間違いなかった。
「ブリュンヒルデの胸当てか・・・確かに、よほどの神秘でなければ貫く事はできんか」
「ええ、無効にするとまではと言いませんが、十分な盾としては機能します」
「ふん、まぁ半端者のあの男は今は居ない。アレに使われるのは癪だが、お前をモノにするためにお前を打倒する」
バロールの周辺に禍々しくも強力な魔力が集まりだす。
「シロウさん、逃げてください」
「バ、バカ言うな!そんな事できる訳ないだろう!!」
「・・・盾にしかなれないんですよ」
「え?」
「あの者は世界最強の幻想種を呼び出します」
「まさか・・・」
「クロム・クルーワッハ・・・ドラゴンです」
「な・・・」
竜種・・・勝てるわけがない。
「だから、逃げてください」
それは儚いネガイを俺にしているようで一瞬頷きそうになった。
だけど・・・
それじゃダメなんだ。
衛宮士郎は正義の味方なんだから・・・
俺の為なんかに自分の命を平気で捨てようとする女性を助けない訳にはいかない。
「ふん、守りに徹するか、貴様の銀腕でどこまで防げるか食らうがいい」


 全て
「クロウ」


その言葉で一つで世界が震え始めた。
奴の前に解析できないような呪式が展開され、その顎が受肉した。


  食らう顎
  「クルームワッハ」


ヌァサの剣が震えていた。
それでも彼女は堪えるように剣を地に突き刺して右手をかざし、自らの宝具の真名を口にした。


  すべて
   「デュアン・ケヒト」


彼女の右腕が別のモノに変化していく、そしてその腕は盾になっていた。


  防ぐ銀腕
  「シルバーアーム!!

ギギと軋む音、それは彼女の盾が軋む音だった。
盾を口に突っ込み、竜の顎を防いでいた。
自らの恐怖を打ち払うように、そして自分の大切な者を殺させないように・・・
くそっ!
俺はお荷物なのか?
俺自身に何かできない事はないのか?
考えろ・・・
何かあるはずだ。
打開はできなくても、状況を少しぐらい変える物がある筈だ・・・
この竜をどうにかすればヌァサはどうにか戦えるかもしれない。
ならどうする?
竜を打倒できる物を俺が投影すればいい。
そうだ。
それをすればいいんだ。
あの剣だったらきっと投影できる。
あのカリバーンだったら。
「同調・・・開始」
「シロウさん!!そんなものを投影したら!!」
そんな事知った事か、前にも投影できたんだからできる。

 骨子を作り出し、

 想像を現実に変え、

 思想に共感し、

 経験を憑依にて代用する。

神経が悲鳴を上げている。
知った事か、こんな痛みより辛い思いしている人がいるんだ。
そんな女性が頑張ってるんだから、俺が頑張らないでどうする!
27の回路は撃鉄となり、それはガチリと下り、それを投影した。
「ガッ!」
視界が真っ赤に染まり、足元すらおぼつかない。
だが、それを投影した。
「カリバーンだと・・・馬鹿なそのような物を投影するなど!」
バロールはそれに驚き、一瞬の隙ができた。
このタイミングだ!!
「食らいやがれ!この野郎!!」
その隙を狙って、思いっきり投げつけた。

 グキリ

「え?」
カリバーンは飛ばなかった。
それどころか、それは俺の足元に落ちていた。
カラリと落ちる音を立てて、それは俺の目前に落ちていた・
「人間よくやった。だが我には魔眼がある」
その閉じていた魔眼が開いていた。
そして、その人ならざる魔王の目はなにかを、見つめていた。
そこには俺の右腕が地面に落ちていた。

 その右腕は捩じ切れていた。

「シロウさん!!」
ヌァサが声にならない悲鳴を上げる。
それと同時に、ミシリと銀の盾にヒビが入った。
「あ・・・」
盾は砕け、顎がヌァサを飲み込もうとしたときだった。

「人の戦うべき者を食らうな、愚か者が!!」

その言葉と同時に金色の閃光が当たりに迸った。


 勝利すべき
「エクス」



そして、その閃光はクロウ・クルームワッハに目掛けて撃ち放たれた。


  
 「カリバー!!」


「邪魔をするか?ブレスよ」
セイバーの技を持ってクロウ・クルームワッハを殺したのは漆黒の男、ブレスだった。
「ふん、俺はヌァサと殺し合いたいだけだ。それを邪魔するのならば誰であろうと邪魔されるわけにはいかんのでな、
それに、模造品といえど半端者に十分な剣を用意してくれたものには借りを返さなければならないだろ?」
バロールの魔眼を意に介せず、ブレスは言葉を続ける。
「ここで戦うか、バロール?必要ならば俺はお前を殺し尽くす。あの矢を盗み出してもな」
「ブレス・・・貴方は死ぬつもり?」
心配そうにヌァサはブレスに尋ねた。
「死にはせんさ、お前と殺しあうまではあの戦場の決着もついていないし、腕の返還が成されていないお前に勝っても面白くない」
「興ざめだ・・・今日の深夜、あの場所で待つ」
そう言ってバロールは去っていった。
「痛っ!」
バロールが去った途端、傷口が傷み始め、急にふらついて来た。
「シロウさん!!」
ヌァサは俺を抱きとめるとブレスを見た。
「という事だ。今宵逢おう、決着をつけるために」
「ええ、分かりました」
ブレスとヌァサ会話を俺は意識を失った。


続く

後書き
やっととこさできました。
というわけでケルトではメジャークラスの主神級サーヴァントが出てきました。
孫に射殺されましたが、普通にこの人は強いです。
てか・・・ノウヴルカラーの魔眼に竜種召喚技能、勝てる気がしませんなw
さて士郎君サイドは勝てるのでしょうか?
後個人的に・・・
ブレスがかっこよくなってるし、むしろ強くなりすぎ?!
んではタイガー道場をお楽しみください。
追記
当初の予定ではギル様でした。



タイガー道場@しるばーあーむないと

タイガー「という訳でまたまたやってきました。タイガー道場SAK2回目です」
イリヤ「随分と伏線ばらしまくってますしね」
タイガー「私の宿命のライバルであるヌァサの過去も大バレだったし」
イリヤ「そう思ってるのは師匠だけです」

すぱぁん!!

タイガー「よけいな突っ込みはいれんでよろしい」
イリヤ「お、押忍」
タイガー「なんで今更、Fateに殆ど存在しないお姉ちゃん属性がいきなり顕著するのよ」
イリヤ「しかも、ヌァサは王道だし本編でも・・・」
『落ち着いた雰囲気と大人の魅力と言うべきものが備わっていた。どこぞやの虎にも見習わせたいぐらいだ
むしろこんな人が姉貴分だったらよかったなーと思ってしまうぐらいだ。』
タイガー「・・・おねえちゃんは士郎恨むよ」
イリヤ「まぁ、シロウが言うのもっとも何だけどね、師匠に大人の色気や落ち着きなんて欠片も・・・」

スパァン!!

タイガー「弟子よ、何か言ったか?」
イリヤ「な、なんでもないっす。と、ところでヌァサは何故存在できたんでしょ?」
タイガー「ほら、本人が条件付で英霊になったとブレスは言ってたでしょ、つまり世界にとって不利ではなく、
むしろ自分にとって有利な条件だったら、少しぐらいの『歪み』すら認めてしまうでしょ?」
イリヤ「おぉー、なんか師匠がまともに見える」
タイガー「一言多い」
イリヤ「お、押忍」
タイガー「ということで本日のタイガー道場ここまで」
イリヤ「ではスタンプを押しておきますね〜」


サーヴァントの情報が更新されました。


 クラス   ???
 真名    バロール
 マスター  アンリ・マンユ
 性別   男性
 身長・体重 190/100kg
 
 筋力 A++  魔力 A++
 耐久 A++  幸運 A++
 敏捷 A++  宝具 A++

 クラス別能力
− 
     

 技能

 魔眼:EX
  魔眼:バロールを使いこなす事ができる。
  
 召喚:EX
  『月』や『現象の存在』を除くあらゆる存在を召喚できる。ただし、生物のみ召喚可能
  ただし、召喚した者のランクで現界できる時間は決まっている。

 支配:EX
  『月』を除くあらゆる存在を支配できる。ただし、生物のみ支配可能


 宝具

 すべて食らう顎(クロウ・クルームワッハ)
  ランク:−
  種別 :対人用宝具
  レンジ:1〜999
  対象 :1〜30
 解説
  竜種:クロウ・クルームワッハを召喚し、対象を食らい尽くす。
  単純な物理攻撃なうえ、幻想種の中でも最強といえる竜の攻撃を抗う事は非常に難しい。
  勿論『竜』属性の攻撃である。

 詳細
  ケルト神話に登場するダーナの魔王、竜を使役し魔眼を持つ、フェモールの族長であり、ルーの祖父でもある。
  ルーの『タスラム』にて眼を貫かれ射殺される。


 クラス   ???
 真名    ブレス
 マスター  アンリ・マンユ
 性別   男性
 身長・体重 175/75kg
 
 筋力 A   魔力 A
 耐久 A   幸運 B
 敏捷 B   宝具 EX

 クラス別能力
強奪:B 
     サーヴァント(所在関係なし)から宝具を奪い取る技能、その宝具をそれなりに(真名使用可能)まで使いこなす事ができる。

 技能

 直感:B
  セイバー(アルトリア)程ではないが、かなりのレベルで自分にとって最適な展開を感じ取る事ができる。

 魔力転化:A
  魔力を筋力や敏捷力に転化する技能、コレは武具にも行う事ができ、
  魔力によって強化された武具は従来の性能を超える物になる。
  彼にとっては小枝でさえ魔剣に等しい力を与える事ができる。

 宝具

 全てを貫く剣(アン・スエラー)
  ランク:−
  種別 :対人用宝具
  レンジ:1〜99
  対象 :1
 解説
  対人用の攻撃宝具、あらゆる防御効果を無視して対象にダメージを与える事ができる。
  ただし、ゲイ・ボルクのように必殺の宝具ではなく、回避や防御(もっとも防御は意味がないが)
  を行う事ができ、非情に使いづらい宝具になっている。
  ダメージの基本はSTRが基本となるがランダムでAGIの修正も加わる。
  ダメージ判定が行われる場合装甲値を無効とし、その判定に使用した防御効果を全て無効とする。(魔法も含む)

 勝利すべき剣(エクスカリバー)
  ランク:EX
  種別 :対要塞用宝具
  レンジ:1〜999
  対象 :1
 解説
  セイバー(アルトリア)と同等の技である。
  士郎からカリバーンを強奪し、一時的に自分のものにしているようだ。 

 詳細
  ケルト神話に登場するダーナの暴君、フェモールとの混血であり、ブリジットの夫である。
  フィモール族との戦闘で腕を失い。その事から王位をヌァサから奪う。
  後にヌァサに追放され、フェモール族に下る。



魔術師のあとがき

普通に有名どころですし、TYPE-MOON作品では、志貴っちの直死の魔眼をさしてアルクェイドがもらした一言でも登場する、バロールが登場しましたね。最近、きれいさっぱり忘れてたケルト神話を読み直しているのですが、銀腕のヌァサや、バロールは出てくるけどブレスはまだ思い出せないんですよね。
何はともあれ、赤い騎士とはやはり奴のことなんでしょうけど、どうストーリーに絡むか楽しみですね。