非日常の中の日常


エピローグ

 

《幸せな日常へ》

 

恭也が一樹、和真そして耕介に勝った事で、薫の高町家への嫁入りが一族で認められた。

 

とは言っても

「まだウチたちは付き合い始めて日が浅い。

結婚とかはまだ速すぎる!!」

「俺はまだ高校生ですから…、生活力がありません。

ですから、結婚などはもう少し後で…」

と言う、本人達の意見がいくらかは尊重される形になった。

「なるほど、まだ高校生だからと言う恭也君の意見ももっともじゃ。

では、この度はとりあえず婚約だけを…」

和音が一族をみまわして、とんでもないことを結論付けた。

 

「待って待って待って〜〜!!!!!」

慌てて薫が顔を赤くしながら止めに入った。

「何を待つんじゃ?」

和音は不思議そうに薫を見た。

「だからウチラは付合い出して日が浅いし、恭也君はまだ高校生じゃから、そう言う形式的な事は後で良かよ」

しかし、和音は薫の意見に耳を貸さない。

「お前も恭也君も結婚の意志は当然ある。

ならば婚約をしても何の問題もあるまい…?」

和音の正論に薫は返す言葉も無く困っていた。

「それに、婚約の話で困ってるのは薫だけじゃぞ…。」

和音の言葉を聞き薫は恭也に話しかけた。

「いいのか?恭也君。このままでは婚約する事になってしまうんだよ?」

その薫の言葉に恭也は笑顔で答えた。

「俺は、婚約ならばかまわないと思っています。

かあさんも相手が薫さんなら、喜んで許してくれると思うし…。

とは言っても、薫さんが嫌ならばそれは後でもかまいませんが…。

おれは、少なくとも薫さんと結婚したいと思ってますから…」

恭也の言葉に薫の顔がほのかに赤くなる。

「恭也君はOKだそうですが…薫が嫌なら仕方ないんじゃ無いですか?」

耕介が、薫が嫌な訳が無いのを承知で、敢えてからかうためにそんな事を言い出す。

和音も耕介の言葉に乗って

「そうじゃな。

かわいい孫が嫌がる相手と無理に婚約させるのはわしも本意では無いし…」

そんな事を言いながら席を立とうとする。

 

薫は慌てて立ちあがり、立ち去ろうとしている和音に向けて言葉を投げかけた。

「待って!!ウチも恭也君と婚約したい!!

本当はずっと一緒に居たい!!

海鳴に帰らないでここに居て欲しい!!

帰るならウチもついて行きたい!!!」

と一族が見守る中で叫んでしまった。

「あの…薫さん?」

恭也が赤くなり、彼としては珍しいほどに照れくさそうな顔をして、

一族の真ん中でこぶしを握りながらプロポーズしてきた、恋人に声をかけた。

「あ…え…?ウチ…」

薫は自分の言った言葉を思い返し赤面した。

しかも、叫んだ場所は一族(+耕介)が集まる道場のど真ん中。

まさに今の薫の心境は『穴が在ったら入りたい』であった。

そんな薫を恭也は抱きしめていた。

大勢の人の前で恋人を抱きしめる。

恭也も照れくさくて適わない心境であったが、恥ずかしそうに周りの視線から逃げるように、小さくなり顔を隠す薫をそのままにしておきたくなかったのが一つ。

そしてもう一つの理由。

それは薫の先程の叫びの内容だった。

「本当はずっと一緒にいたい」

恭也にとって何よりも嬉しい言葉であった。

「ふむ、では婚約はOKじゃな…。

あとは、恭也君の親御さんに確認の連絡をしてこちらに来ていただこう」

そう言って抱き合う二人を残して、何時の間にか道場にいた人はみんな帰っていた。

 

「薫さん、みんな帰ったみたいですね」

「ごめん恭也君。思わずあんな事叫んで…」

「いえ、俺こそ薫さんを視線に曝さないように抱きしめたは良いけど、

その後どの面下げて周りの人に向き合おうとか考えたら動けなくなってしまって…」

 

何処まで、仲が進んでも相変わらず照れやな2人だった。

 

その後は、薫と恭也は二人そろって桃子に連絡を取った。

「かあさん、驚かないで聞いて欲しいんだけど…」

恭也がやや緊張気味に話を切り出す。

ちなみに照れくさすぎて、今まで30分以上意味の無い世間話をしてしまっていた。

「俺…俺…薫さんと…」

少し声が上ずっている自分に気が付き苦笑していた。

『緊張してるな…』

しかしそんな恭也の緊張を余所に

「薫ちゃんと婚約する事になったんでしょ?」

と、軽いノリで先に桃子に切り出されてしまった。

「ななななななな…」

恭也は言葉にならないほどに慌てている。

「『何で知っているか?』って聞きたいんでしょ?

耕介さんがあんたが鹿児島に行く日に、翠屋に来て、もしかしたらそう言う事もあるかも…

って説明してくれたから…」

それを聞いた薫と恭也の脳裏には、一杯の親切心と、ほんの少しの”いぢわる”を楽しむ、真雪にそっくりの笑顔で笑う耕介の姿が目に浮かんだ。

「恭也君。ウチと変わってくれる?」

と言って、恭也から受話器を受け取り、律儀にも電話だから見えるはずも無いのに、きちんと正座して桃子と話す薫に恭也は微笑ましい気がした。

「桃子さんですか?神咲薫です。

きちんとしたご挨拶もせずに、事後通達のような形になってしまった事をお詫びします」

そう言って、電話の前で更に三つ指を付いてきちんと挨拶する薫の几帳面さが、恭也にはたまらなくかわいく見えた。

「薫ちゃん、良いのよ、そんな事は気にしなくて。

真面目な薫ちゃんだから、電話の前なのに三つ指ついてお辞儀してるんじゃないかって桃子さん心配よ〜」

ピンポイントで言い当てた桃子の深い洞察力に、舌を巻いた息子の恭也であった…。

「そんな事よりも薫ちゃん。家の息子をよろしくお願いね。

それと、婚約したら一度家に泊まりにいらっしゃい。

さざなみ寮じゃなくて、あなたの婚約者である恭也の家に…ね」

あえて、婚約者を強調して、薫の赤面した顔を予想して楽しんでるのだから、桃子も耕介と同程度には人が悪い。

 

あれこれ、将来の嫁と姑は楽しそうに話をしながら電話を切った。

結局、恭也の婚約を祝う席には桃子、美由希、なのはの3人が来る事。

婚約の式(神咲家は旧家なので婚約と言えど式が行われる)は明後日行われる事などが決まった。

ちなみに桃子の薦めにしたがって、薫が高町家に泊まりに来るのは9月の半ば頃なのだが

それはまた別のお話。

 

 

そして3日後

 

 鹿児島駅に、桃子、美由希、なのはを迎えに恭也と薫、それに那美は耕介の運転する車で向かった。

「薫さん、那美さんお久し振りです…」

美由希が薫と那美にに挨拶をする。

「こんにちは、美由希ちゃん。

それになのはちゃんも…。久遠がなのはちゃんに会いたがってたよ…」

そう言って、薫はなのはに微笑みかける。

「私もくーちゃんに会いたかったです。薫お姉ちゃん」

なのはの言葉に一瞬その場にいる人間全員が唖然とした。

「そうか…、薫と恭也が婚約するんだから、なのはちゃんとは姉妹みたいなものか…」

耕介が、納得したように頷きながら呟く。

「私と美由希さんも親戚になるんですね…」

那美が美由希の方をみながら笑いかけた。

「そうですね…那美さんこれからもよろしくお願いします」

美由希もぺコンとお辞儀した。

「待て…!!まだ婚約だから義理の兄弟とかそう言うのは…」

赤くなりそうな顔で、恭也が薫と自分を置き去りにしたまま盛りあがる周りを、牽制しようと声を上げた。

「いいじゃないか、恭也」

しかし、そんな恭也をからかうように、耕介は肩を叩きながらニヤニヤしていた。

「しかしですね…」

なおも食い下がろうとする恭也に、今度は桃子がにっこり笑って止めを刺した。

「『まだ』婚約なんでしょ?近いうちにはそれ以上になるって事でしょ?」

恭也のさっきの言葉の、揚げ足を取るあたり桃子もやっぱり人が悪い。

恭也と薫、2人でこのまま耕介と桃子に散々からかわれている薫達を見て

「悪魔のツープラトン攻撃ですね…」

美由希は気の毒そうに兄と近い将来の義姉を眺めた。

「ここに真雪さんやリスティさんが居ない事が不幸中の幸いでしたね…」

那美は、さざなみ寮に居る桃子と耕介を上回る、悪戯好きのゴールデンコンビを思い浮かべて、引き攣った笑みを浮かべた。

 

そうして、婚約の儀式も滞り無く終わり、やがて季節は秋を迎えた。

 

「おっす!!高町」

「おはよう、高町君!!それで私と赤星君に話って何?」

始業式も終わり、勇吾と忍に夏の間に婚約した事を説明しようと翠屋に向けて歩く。

「うむそれがだな…」

気恥ずかしいのも手伝って、店につくまでに何も言い出せずに世間話をしてしまっていた。

 

「高町君、私達に話って世間話?」

忍がいいかげん、何かを言い出そうとしながら、結局話題を逸らす恭也の仕草に苦笑をしながら話を進めに来た。

「いや…その…報告したい事があって…」

「なんだよ、高町…報告って…?」

勇吾が顔に?マークを浮かべて恭也に話しかける。

対して忍は、恭也の仕草と照れようから薄々察していた。

「ハハーン…。あれね?ズバリ夏の間に薫さんと何か有ったわね…」

忍がニヤリとした表情で核心に触れた。

「な…なんんんんん…何を言ってるんだ!!!!」

恭也の物凄い慌てっぷりに、忍は自分の推理に確信を深めた。

対して、唯子曰く恭也と互角の朴念仁である勇吾には、さっぱりわからないらしい。

「誤魔化しても無駄よ、高町君。

鹿児島の薫さんの家で、ご両親に挨拶でもしてきたのかな?」

「そうなのか!!!!?高町!!!」

勇吾は、今頃物凄い驚き様を見せていた。

 

カラ――――ン



ドアベルが翠屋に客の来訪が告げる。

「あれ?恭ちゃんと忍さんと勇吾さん!!?」

それは美由希だった。

「あれ、美由希ちゃん。那美と一緒じゃ無いの?」

「那美さんならそろそろ…」

美由希の言葉が終わらないうちに、ドアベルを鳴らしながら那美が入ってきた。

そして、開口一番に

「あれ、忍さんと赤星先輩とお義兄さん…」

「「お義兄さん!!!!!!!!!!!!!!?」」

忍と勇吾が思わず叫ぶ。

「那美さん、まだお義兄さんじゃないですってば…」

美由希が慌ててたしなめるが後の祭りだ…。

「話ってまさか恭也お前…」

「まだ高校生なのに薫さんと結婚したの!!!?」

その質問は恭也の耳に届いていなかった。

もっと、穏便かつ婉曲的に、婚約の事を話そうとしていたのに、最悪の形でばれてしまった。

そう思うと、涙が流れてきそうになった。

鹿児島から帰っての晶とレン以上にからかわれる事を思うと、泣きたくもなるって物だ…。

 

ちなみに那美のこの悪気の無い嫌がらせは、校内でもたびたび行われ、そのたびに恭也に関する謎の噂が流れていくのである。

 

そうこうするうちに季節は更に流れていく。

薫も一月に一回の割合で、海鳴に恭也の膝の治療の名目で訪ねてきてくれていた。

そして、そのたびにさざなみ寮や高町家などでからかわれる事になるが、それもまたこそばゆいけれど心地良い。

恭也は悟りか自棄か、はたまた壊れたか、とにかくそう思うようになっていた。

 

そうして卒業も迫る3月。

勇吾と忍は無事に海鳴大に進学を決めた。

恭也は、結局父親の知り合いのつてで、SPに稽古をつける仕事をメインに、リスティや美沙斗の依頼、その他のボディーガードを副業にする事になっていた。

また、薫との結婚とともに、鹿児島に引越す事にもなっていた。

 

これは恭也から言い出した事だった。

「俺は仕事柄家を空ける事も多そうですし…、結婚しても薫さんは退魔師として活躍していくんでしたら、実家が近いほうが何かと都合が良いでしょう」

と言うことだった。

 

すでに正式な式は鹿児島の神咲家で、神咲家流の結婚式を上げてはいた二人では合ったが、海鳴の八束神社で、友人達の手による2度目の結婚式が行われる運びとなった。

恭也のお別れ会も兼ねているこの友人達の暖かい申し出を、2人は受ける事にしたのだ。

 

何故なら、神咲家のある鹿児島には、とてもじゃ無いが全員招待する事もできずに、耕介と愛、桃子、美由希、なのはだけが招かれた。

薫は、恭也に何も神咲家流の格式ばった結婚式を挙げなくてもかまわない、と言ってくれたのだが、一灯流の当代である薫を無理に家を出させてまで、自分の我侭を通そうとする恭也を認めてくれた神咲家の人への感謝も込めて、結婚までの運びは、全て神咲家の伝統に則って行う事に決めていたのだ。

当然、結婚式は純和風で行われ、恭也は紋付の袴、薫は古式ゆかしい十二単をまとっていた。

「まるで、お内裏様とお雛様だね」

と、目を輝かせているなのはが印象的であった。

 

 ちなみに、海鳴で行う式はそれならばドレスにしようと言う事になったのだが、真面目な薫が神社でドレスは良くないのではと言い出したが

「お嬢、大切なのは気持ちだよ。格好は問題じゃない…」

と言う、薫も尊敬する、八束神社の神主に言われたことも有り、その一言で薫は海鳴の方で行う結婚式はウエディング・ドレスにタキシードで行われる事になった。

なんだかんだ言いながらもウエディングドレスはやはり女性の憧れなのだろう。

嬉々としながらドレスを選ぶ薫の姿は、恭也にも、とても楽しそうに見えた。

 

 

「料理と仲人は任せてくれ!!」

と、胸を叩く耕介に、恭也と薫は笑顔で頷いた。

「でも、料理の方は耕介さんだけにお願いします」

と、「だけ」をいやに強調した薫に、耕介は苦笑しながらも頷いた。

当然、耕介ひとりで全ての料理を用意できるわけも無く、レンと晶も手伝う事となった。

耕介が洋食を、レンが中華を、晶が和食を、知佳がデザートをそれぞれ担当した。

料理の他にもドレスは忍が、司会は勇吾が、シナリオは真雪が、ケーキは桃子が・・・

と言う具合に、すべて恭也や薫の大切な人達の手によって行われる、まさに手作りの結婚式であった。

 

そして式の当日

純白のドレスに身を包み、白いヴェールで覆われた薫は、思わず父親役で、薫の腕をひいて歩く耕介すら、心奪われるほどに美しかった。

「薫〜!!綺麗よ〜〜」

「薫ちゃんホントに綺麗だよ」

瞳や知佳達の祝福の声が飛ぶ。

そして白いタキシードを身に纏った恭也が桃子とともに式場に現れる。

「お師匠、ステキです〜〜…」

「師匠カッコイイです!!…」

美由希やなのは、レン晶達の感嘆の声が響く。

招待客が見守る中で静かに中央に居る神主の前に進み出る。

そして、中央の神主の前に立ち見つめあう二人。

本来ならここで指輪の交換が行われるのだが、恭也と薫は正式な結婚式は鹿児島で済ましてきた為に、すでに指輪の交換は行われていた。

 

突然神主から薫に霊剣十六夜が、恭也に八景がそれぞれ手渡される。

会場中の招待客が不思議そうに見守る中で、神主は良く通る張りの有る声で

「それでは、お互いの剣士としての命に当たる、刀を交換して神の前で愛を誓ってください」

と、言った。

会場からはオオオオ〜〜〜〜と言うざわめきが起きた。

「良い案ですね真雪さん」

招待客の一人である真一郎が真雪に言う。

「ホントですね〜」

とみなみも続く。

「まあね、せっかくの式に指輪の交換も無しじゃ、つまらねーからな…」

薫と恭也はゆっくりとお互いの命を護ってきた愛刀を交換しあい、それを静かに抜刀する。

カシャ〜〜ン…

聞こえてくるのはわずかな金属音のみ…

会場内は水を打った様に静かになっていた。

そしてそれを互いにますっぐ伸ばし中間距離で重ねる。

 

「これから先にある人生のいかなる困難にも光栄にも

 

二人でそれを受け入れ

 

二人でそれを分かち合い

 

傍らにある人の幸せを

 

護り続けていく事を

 

神とこの刀にかけて誓う」

 

そう言って静かに口付けを交わす二人。

「カッコイイです〜〜!!真雪さんすごいですね〜〜」

しきりに感心するみなみの横で真雪は唖然としていた。

『オイオイオイオイ…そんなセリフ私は台本には書いてないぞ…

全くやってくれるじゃないか…薫、恭也…』

 

「それでは新郎新婦の友人である、SEENAこと椎名ゆうひさんからお言葉を頂きたいと思います」

勇吾が司会者らしく場の盛り上がりの波を見極めてプログラムを先に勧める。

 

壇上でゆうひが薫のことを真直ぐ見ながら話始める。

「薫ちゃん、恭也君。ほんまにおめでとう…。

薫ちゃん…昔ウチが薫ちゃんにゆうたよな?

『薫ちゃんは笑った顔が一番可愛いで〜』って…」

ゆうひは一度言葉を切り、回りの人をみまわしながら言葉を続けた。

「な?会場のみなさん嘘や無いやろ?今の薫ちゃんは最高に可愛い…。

こんなかわいい奥さんが貰える恭也君はめっちゃ幸せ者さんや〜」

そして今度は恭也の方に向き直る。

「恭也君は世界一の幸せ者として、どんな時でも薫ちゃんが笑顔でいられるように護ってあげなあかんよ。

薫ちゃんは強い子やけど…凄く繊細で優しい子やから傷づくことも大いに有るやろ…

そんな時は恭也君、君が護ってあげるんやで…」

その言葉に恭也は強く頷く。

 

恭也のその強い意思を込めた顔を見て、満足げに頷くと、ゆうひはいつもの明るいノリで

「よっしゃ、ウチとフィアッセとアイリーンからの特別プレゼントや。

作詞 天使のソプラノ SEENAことウチ

作曲 若き天才 アイリーン・ノア

そしてそれを歌うのは 光りの歌姫 フィアッセ・クリステラや」

とよく通る声で叫んだ。

会場中にざわめきが巻き起こる。

当然だ、世界的に有名な歌手3人の合作、それも世界初公開なのだから…。

「それでは、フィアッセ歌ってや〜〜!!」

 

パッとスッポト・ライトがゆうひからフィアッセに切り替わり、沢山のスッポトライトの中で佇むフィアッセはまさに光り輝くようだった。

「フィアッセ・クリステラ歌わせていただきます。

タイトルは

『アルバムの中の君へ』

です。聞いてください…」

 

フィアッセの歌声が会場に響く。

その歌声は切々と哀しくて、でも優しく包み込むような暖かさが胸に残る…

そんな歌声と歌詞だった。

『うんうん…、フィアッセ…。

悲しみを乗り越えて、優しい歌が歌えるあなたなら…きっと幸せになれる…。

これからも恭也の事をお姉さんとして見守ってあげてね…』

歌に込められたフィアッセの思いを知っている、桃子とアイリーン、ゆうひは人に気が付かれないようにそっと涙を拭った。

『フィアッセ、あんたがウチとアイリーンに語った言葉にできなかった恭也君への思いと…

忘れる事のできない宝物のような想い出を…

ウチとアイリーンは曲にしただけや…。

この哀しくて、でも優しい歌が歌えるのはきっと…あんただけなんやから…

哀しい気持ちを胸のアルバムに新たに加えたら、

笑って歌うんやで…まばゆいライトの下で…世紀の歌姫の歌を…』

ゆうひが、ライトのしたのフィアッセに無言のメッセージを口ずさみながら静かに伴奏を弾いていた。



かつての耕介への届かなかった想いを抱えて苦しんでいた自分を思い出しながら…。

 


フィアッセの歌も終わり、会場の雰囲気もクライマックスに近づいたころに

リスティは壇上に立って最後の言葉を語り始めた。

 

「以前、僕が恭也に好きな人のことを訪ねた時に恭也はただ一言

『桜の精』と答えた…。

 

それは、今恭也の横に座っている薫のことです…

 

二人が出会ったのは…こんな風に…」


リスティが力を使って転送した物は薫と恭也を包み込んだ…

「こんな風に…桜の花の中に佇んだ薫を、恭也は想い続けていたそうです…」

桜の花の中で、純白のドレスに身を包む薫は幻想的なまでに綺麗で…

「桜の季節に出会った二人に対して、沢山の桜の花を僕からのプレゼントとして送ります…」



桜が舞い散る中で二人は静かに掌を重ねた…

 

始まりは…

 

桜の花と…

 

掌の温もり…

 

 

 

最後に二人が投げたブーケは、やはり桜の花で作られていた…

 


幸せそうに未来へと歩き始めた二人…

 

修羅の剣を用いながらその理に反して、御“神”の名の下に人を護りし男と

 

哀しき運命(さだめ)の中で己の心を切り刻みながら、“神”咲の名の下で人を護りし女が

 

今…“神”の名の下に…夫婦となる…幸せになるために…

 

出会った日と同じ桜の花の舞う中で……

 

FIN

 


昔の後書き

 

長〜い、シリーズでしたがやっと第一部完です。

最後、話しが駆け足になってしまったのが少し残念でしたが

絶対に書きたかった結婚式は書けたので良かったです。

 

今までこれにお付き合いして下さった方ありがとうございます。

自分でも、想いで深い作品ですね、これは…

 

これを書きはじめなかったら自分のホームページを立ち上げる事も無かったと思います。

 

あ…、あくまで一部完だから続きはあります。

さあ!!番外編を気合を入れて書いたらしばらくはお休みですけどがんばります!!

 

連載再会しても変わらぬ愛顧をお願い致します。

 

2001・9・9


今の後書き

昔の後書きでも書いたように、良い意味でも悪い意味でも思いで深い作品です
この作品のおかげでサイトを開き、この作品が原因でサイトを閉じました

本当は復活させる気も無かったけど、多くの人が読みたいと言ってくれたので復活させました

最近、あんまり感想が無いです

出来れば感想くださいね

さて、上で言っている番外編を掲載したら、いよいよラストシリーズ『神々の黄昏』に移りたいと思います。

昔から読んでくれている人には未完でヤキモキさせています

最近読み始めてくれた人は、普通に続きが気になるでしょう


あと少しだけ、このシリーズにお付き合いください