背中には壁
目の前に佇むランサー
突きつけられた黄金の槍からは、絶対的な死の気配
・・・・・・・・・・ふざけてる。
そんなのは認められない。
こんなとこで意味なく死ぬわけにはいかない。
助けてもらったのだ。なら、助けてもらったからには簡単には死ねない。
俺は生きて義務を果たさなければいけないのに、死んでは義務が果たせない。
そんな士郎の思いを嘲笑うように迫り来る黄金の槍。
穂先は肉を切り裂き、肋を穿ち、心臓を破るだろう。
頭に来た。
そんな簡単に人を殺すなんてふざけてる。
そんな簡単に俺が死ぬなんてふざけてる。
一日に二度も殺されるなんて、そんな馬鹿な話もふざけてる。
しかも、俺を殺す奴がモヒカンだなんて、ふざけすぎてる。
本当に何もかもがふざけていて、おとなしく怯えている事すらしていられず、
「ふざけるな、俺は―――」
こんなところで意味もなく
お前みたいな『モヒカン』に
殺されてやるものか――――!!!!
「え―――――?」
目映い光の中、それは、本当に、魔法のように俺の背後から現れた。
思考が停止している。
現れたそれがおかしな格好をしていることしか判らない。
ぎいいいん、という音。
それは現れるなり、俺の胸を貫こうとした槍を打ち弾き、とまどうことなく男へと踏み込んだ
「―――――正気か?七人目のサーヴァントだと・・・!?」
弾かれた槍を構える男に、手刀を振りかざす。
不気味と感じたのか、男は獣のような俊敏さで土蔵の外へ飛び出した。
退避する男を威嚇しながら、そいつは静かに、こちらへ振り返った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そいつは何も言わず、静かに俺にガンつけてくる。
・・・三白眼でかなり怖い。
―――――その姿を何と言えばいいのか
輝く黄金の鎧をその身に纏った危険な男。
この状況、外ではあのモヒカン男が隙あらば襲いかかってくる状況を忘れてしまうほどに、目の前の男は特別だった。
自分だけが思考が止まったような。
先ほどまで体を占めていた死の恐怖はどこぞに消えて、今はもう既に死を覚悟していた。
抜き身の刃を突きつけられたような、そんな鋭い刃のような目付きの男だった。
「サーヴァント・セイバー、アテナのためにここに参上」
・・・アテナって誰だよ!?
そんな、突っ込みは入れられない。
目の前の男、明らかにその筋の男にしか見えない。
その筋の男・・・藤村組の若い衆か!?
「どうした?お前が俺を呼んだのではないのか」
そんなはずは無い。
こんな寡黙でシリアスでストイックな男があの組に居るわけない。
何だか良くわからないが取り合えず頷くしかない。
それが合図だったのか、そいつは静かに頷いた。
「―――――これよりオレの剣は貴様と共にあり、貴様の運命はオレと共にある。
―――――アテナの名の下に契約は完了した」
風の強い日だった。
雲が流れ、僅かな時間だけ月が出ていた。
土蔵に差し込む銀色の月光が、金色の鎧を着たそいつを照らしあげる。
「―――――」
声が出ない。
っていうか、アテナって誰?
俺は突然の出来事に、完全に混乱していた。
「――――――――――」
そいつは、黒曜石のような瞳で、何の感情もなく俺を見据えた後
「―――――問おう、貴様がオレの
「違うだろ!!」
問われた言葉に即答するだけ。
そいつが何を言ってるのか、何者なのかわからない
・・・・・・というか、女神って俺、男だしな。
今の自分に判る事と言えば―――この金の鎧を纏った男は、セイバーでもなければギルガメッシュでもないことだ。
「第一セイバーって、剣もってないじゃん」
「貴様の目は節穴か!!?
高めた小宇宙の力により、俺の両手両足はまさに聖剣と化している」
「小宇宙・・・って、何だ?」
「セブンセンシズに目覚めろ!!」
「セブンセンシズ・・・?」
だが、そいつは俺の問いなどには答えず、マントを翻し踵を返し前方を見据えた。。
―――――向いた先には外への扉
その奥には、未だ槍を構えた男の姿がある。
まさか、と思うよりも早かった。
この男は、武器も持たずに黄金の槍を持つ男に踊りかかった。
体の痛みも忘れて、立ち上がってそいつの後を追う。
そしつが、何者かは知らないがみすみす殺されるのを見ているわけにはいかない。
いくら、筋者だって、そんな事はできない。
「やめ―――」
ろ、と叫ぼうとした声は驚きのあまり息が止まった。
「な・・・・・」
我が目を疑う、今度こそ何も考えられなくなるくらい頭の中が空っぽになる。
「なんだ・・・あいつ・・・」
土蔵から飛び出したあいつに男は無言で槍を振るう。
それを、そいつは音も無くかわしている。
すぐに二人が見えなくなる。
「やるな、さすがは海闘士の中でも一、二を争う男だ」
「貴様もな」
「我々、黄金聖闘士はみな光速の動きを持っている。
それは、一秒間に地球を七周り半という速度だ」
「ありえないだろ!!
光速って、お前、そんなスピードで動いたら衝撃波とか凄いことになるから」
そんな、俺の突込みを無視して二人はまたも打ち合いをはじめた・・・ようだ。
実際、動きが早すぎて見えないので良くわからない。
不可視の剣どころか、動きそのものが既に不可視だ。
一気に距離を取るランサー
・・・なんで喋る時には二人とも止まってくれるんだろう。
「どうした、止まっていては海闘士七将軍の名が泣くぞ」
マリーナ七将軍て何ですか?
「貴様こそ噂に名高いエクスカリバーはどうした?」
互いをそれなりに認め合ったのか、ニヤリと笑う両雄。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、それを黙って見てられない俺。
「ちょっと待て!!!お前の武器はエクスカリバーか!?
じゃあ、お前がアーサー王!?」
「受けられるかな、このクリュサオルのクリシュナのこの技を!!」
「おい!!無視かよ!!」
しかも、さり気に真名明かしてるよ。
「喰らえ!!
――――――――――――
黄金の槍から無数の光が放たれる。
いや、恐らくは光速で槍を無限に突いているのだろうが、俺の目にはその残光の残像が見えるだけだ。
「大丈夫か!?」
「クククク」
自分のサーヴァントだと思われる、三白眼の筋者は思いっきり悪人臭い笑いをしている。
もう、今にも「力こそが正義だ」とか、言い出しそうだ。
「甘い!そんな子供だましの技がオレに通用するか!!」
光速で槍突いてきてるのが子供だましかよ!?
「そうら、自分の仕掛けた技の勢いで自分がすっとべ!!
ジャンピング・ストーン!!」
すごい勢いでランサーが壁の向こうに投げ飛ばされた。
「キャ!!」
壁の向こうで遠坂の声がする。
・・・・・・そうか、一応この辺は原作どおりか。
いや、だから原作とか言うなよ!!
〜壁の向こうにて〜
「・・・・・・いる、確かにこれは、ランサーの小宇宙だ」
金色の鎧を纏ったアーチャーが頷く。
ピカァ、、、っと、眩い白光が、屋敷の中から迸った。
気配が気配を打ち消す。
ランサーの力の波が、更に大きい力の前に消されていく。
瞬間的に爆発した第五要素は、幽体であるそれに肉を与え、
実体化したソレは、ランサーを圧倒するモノとして顕現する!
「これは、・・・まさか」
「知ってるの?」
「恐らくは・・・」
ドシャァァ!!!
壁の向こうから、いわゆる車田ぶっ飛びで落ちてきたモヒカン。
それに、瞳を奪われた一瞬。
それが、致命傷だったかもしれない。
「!!凛!!下がれ!」
その声に、反応して見上げた塀の上に佇む男。
私のサーヴァントと同じく黄金の鎧を身に纏ったヤ○ザ屋さんが、月明かりをバックに左手を空に掲げて立っていた。
その掲げた刃のような左手を今にも振り下ろそうとするそいつから私を庇う様にアーチャーが叫んだ。
キラっと左手が光った。
「シュラ、落ち着け!!」
「その声は!!」
シュラと呼ばれたその男は、アーチャーの声に驚いたのか攻撃を外した。
「そう、オレだ、アイオロスだ
相変わらずの威力だな、そのエクスカリバー」
相変わらず・・・って、地面が真っ二つに分かれて断層ができてるんですけど。
「待て、セイバーぁぁぁあ!!!?」
ようやく、衛宮君が家から出てきて、物凄い驚きを見せる。
それはそうでしょう、街が100メートル向こうまで真っ二つに割れてるんだから。
「何で、アーチャーまで変わってるんだよ!?」
驚くポイント違う!!
っていうか、また、聖杯戦争経験済みかよ!!
「まあ、いいや、遠坂取り合えず立ち話もなんだし、シナリオ通り家に上がれよ」
「だから、台本とか言うな!!」
衛宮家の茶の間に集まる4人の男女。
うち、二人は黄金の鎧を着ている外国人だ。
死ぬほど畳と日本茶が合わない。
しかも、何だかセイバーは部屋の隅で小さくなってる。
やっぱ、この男でも街を真っ二つにしたことには罪の意識を感じてるんだろうな。
と、一人ごちる士郎に凛が話しかけてきた。
「しかし、衛宮君が魔術師だったのも意外だけど、サーヴァントはアーサー王か」
「オレは、認めてないけどな」
「いや、オレはアーサー王じゃないぞ」
「は?だって、あんたの宝具エクスカリバーでしょ」
「オレはアテナの聖闘士、山羊座(カプリコーン)のシュラだ」
「いや、セイントって何よ?」
「遥か、神話の時代よりアテナと共に地上の愛と平和を護る男たちの事だ」
遠坂が「うわ!!こいつ、電波!?」みたいな表情をしている。
気持ちはわかるが、相手はヤク○さんだから、もう少し遠慮しろ。
「こら!!何、衛宮君お気の毒ね。って感じの哀れみの目で俺を見るな!!」
「そうか!シュラもやっと正義に目覚めたか」
そんな、マスターの反応に際して、遠坂のサーヴァントが嬉しそうにシュラの肩を抱いた。
「何?あんたら知り合いなの?」
風向きが変わってきたからか、遠坂は僅かに汗をにじませている。
「オレはアテナの聖闘士、射手座(サジタリアス)のアイオロスって自己紹介したはずだが・・・?」
「・・・そういえば」
「遠坂、うっかり忘れてたな?」
さっきの仕返しか、自然、士郎の視線が冷たくなる。
「仕方ないじゃない!
召還した時、金色の鎧着てるから、『ラッキー!ギルガメッシュGET!』って、浮かれてみたら違う金ぴかだったんだもん」
「一応、ギルガメッシュはラスボスだから、いきなり存在知ってるのはまずいだろ!!?」
『Fate』ルートでは、言峰が不自然に「アーチャー」って呼んでたくらいだし。
「「88の聖衣の中で頂点に立つ黄金聖衣を金ぴか扱いするな!!」」
英霊2人相手に真っ向から金ぴか理論をぶつける遠坂、コイツ大物だな。
それは、さておき、・・・・・・どんどん緊張感が無くなっていくな。
「・・・で、二人は知り合いなんだよな、どういう関係なんだ?」
3人の言い争い、最後の方では遠坂が一人で叫んでただけだったが、も一応の終止符を見た頃合で話を元に戻した。
「うっ・・・」
とたんに、気まずそうに俯くセイバー。
「オレは、シュラに殺されたんだ」
「そうなんだ、だから二人とも仲良かったのか・・・って、なんでやねん!!!!」
あっけらかんと語るアイオロスに、ニコニコ相槌打った後、ようやくその異様さに気が付いた。
「殺された?あんたら仲間じゃなかったの?」
遠坂がオレとセイバーに対し警戒した表情を作る。それは、つまり一瞬で魔術師遠坂凛に戻った、ということだ。
「昔、こいつがな、反逆者から赤子のアテナを護って逃走する俺を半殺しにしたんだよ」
「仲間じゃないじゃん!!欠片も仲間じゃないから、その関係!!」
「話せばたぶん理解してくれたと思うんだけどな、こいつ顔に似合わず、意外と昔からうっかりして、人の話を聞かないところがあったからな」
どこの通信簿だ、そのコメントは!!
「うっかり・・・で、人殺しかけるなんて、まったく・・・
って、何よ、衛宮君その目は」
「いや別に・・・」
自分を省みろなんて恐ろしくて言えないチキンなオレを許してくれ、切継。
「おまけに、オレ、その反逆した奴に逆賊扱いされてさ。あ、ちなみに、その反逆した奴ってオレの親友なんだけどな」
グサグサッ
「しかも、兄貴が反逆者だろ?弟は聖域(サンクチァリィ)で苛められてさ」
グサグサグサッ
「さっき、シュラが襲い掛かってきたとき、『また』半殺しにされるかと思ったよ」
相変わらず邪気がなく、あっけらかんという言葉だ。
アイオロス本人は欠片も気にしてないのが良くわかる。
・・・・・・だが
遠坂と二人、部屋の隅で壁に向かって正座しているセイバーを見る。
言葉のエクスカリバーでズタズタだ。
「介錯してくれ!!」
「おちつけ、セイバー!!
まだ、戦闘が始まってもないのにリタイアしないでくれ」
「どうした、シュラ?
さっきから言ってるように、半殺しにされたことも、反逆者扱いされたことも、弟が苛められて育ったことも全然気にしてないぞ」
「お前、本当はシュラに『死ね』って思ってるだろ!!?」
「いや、マスターがこう言ってシュラを慰めてやれって・・・」
「遠坂!!卑怯だぞ」
「ッチ」
「舌打ちすんな!!」
「こうなれば、今度は星となってマスター見守るか・」
「落ち着け、まだ抗龍覇喰らってないから!!」
こうして、幕が開く前から終わりそうになった衛宮士郎の聖杯戦争が始まった・・・。
魔術師の後書き
・・・・・・何これ?
まだ、Fateの拳書き終わってないのにこんなの書いてる場合じゃないから。
でも、hollowの前に復習としてFateやり直してたら書きたくなってしまって。
Fateの拳と違って今回は正体ばればれです。
ああ、いいかげんFateの拳の方もかかなければ。
一年くらい放置してる気がします。