一応、基本的には那美エンドのその後です…。が、恭也は那美とは結ばれておりません。
あと、美由希が免許皆伝になってます。(しかし、ストーリーには多分関係無い…(笑))。
あと、これは、補足って言えないかもしれないけど(当然過ぎて)久遠の事件の時に薫が持
ってきた剣は十六夜ってことで話を進めます。 以上 魔術師でした。
≪桜の思い出≫
久遠の事件から数ヶ月が過ぎた。
なのはと久遠はあいかわらず仲が良く、なのはは毎日のように神社に通っている。
そんななのはの付き合いで、恭也も頻繁に神社に訪れていた。
当然だが、必然的に那美と会話する回数も増えていた。
そして今日も、なのはは久遠と森の方に遊びに行ってしまったので、那美と二人でお茶を飲みながら会話をする。
どんな他愛の無い話にも、那美は楽しそうに微笑を浮かべて聞いてくれる…。
暖かな春の日差しのような微笑、初めて会った、あの幼い夜から少しも変わらない柔らかい微笑み。
それは恭也にイロイロなことを思い出させる。
尊敬し、憧れた父、高町士郎。
幼い自分はずっと父さんの背中を追いつづけていた。
他人に対する優しさと思いやり、どんな困難に直面しても、決して慌てることなく最善の手を打つ冷静さ。
それでいて、どこか他人を幸せにするような雰囲気を持ち、『闘えば勝つ』と言う、御神の教えの、正に生きた体現者であるような戦闘力。
それら全てをひっくるめた人間としての、『真実(ほんとう)の強さ』を持っていた父さんの、全てを超えたいと思っていたのに・・・。
俺は父さんが死んだときに、目指すべき背中を見失うまいとしてあせった俺は、ただひたすらに『強さ』を求めた。
我武者羅で非能率的な修行の結果、俺の戦闘力は上がった。
しかしそれに反比例するように父の背中は遠くなり、我武者羅な修行の代償に、膝を砕いた時に永遠に父の背中を見失っった。
そんな自暴自棄になっているときだった、那美さんと、そのお姉さんに出会ったのは。
「…也さん、恭也さん!」
「んっ!」
「もう、突然上の空になって…どうかしたんですか?」
「ちょっと、あなた達に初めて会った時のことを思い出しまして…」
「あなた『達』って、言うことは私と薫ちゃんですか?」
「ええ、そうです」
「ああ、そうだ、明後日薫ちゃんが遊びに来るんですが、恭也さんも一緒に駅まで迎えに行きませんか?」
「ええ、ぜひ行きたいです!!」
あまりの恭也の勢いに、少しビックリして那美は眼をパチパチしている。
そんな那美を見て、恭也は自分の態度が少しおかしいことに気付き慌てて言い訳を始めた。
「あの、その、ほら、お姉さんが次に海鳴を訪れたら、手合わせしてもらう約束だったじゃないですか…」
『なんで、俺こんなに慌ててるんだろ?』と、恭也は思わず自分に苦笑してしまった。
結局、那美とは13時に海鳴駅前で待ち合わせすることになった。
その日の夜、恭也は再び那美と薫に会った時のことを思い出していた。
膝を壊したショックのせいで、自分を気遣ってくれた優しい女の子に当たり散らした幼い自分。
そして膝に『おまじない』をしてもらったこと。
おまじないが効果があったのか、いつしか俺の膝は快方に向かっていた。
その子のおかげで俺は決して諦めないことを学んだ。
そして交わした再開の約束。
風邪をひいた自分の体を引きずって辿り着いたその場所。
……しかしその子は現れず、約束の場所に居たのは…その子の姉と名乗る一人の少女。
一目で只者ではないと解るほどの雰囲気を纏い、彼女は俺に言った。
「すまない…那美はここに来ることは出来ないんだ」
厳しい表情だったが、それが那美さんに対する限りない愛情の産物であることは、幼い俺にも理解できた。
「君も帰りなさい。今から私が送ってあげるから」
俺の手を引く彼女の掌は固かった。
更に幼いころ、まだ父さんと二人で旅していたころに、いつもつないでいた父さんの掌にそっくりだった。
彼女もまた子供らしからぬ俺の掌の豆に触れて
「君も…剣を握るの?」
と、問い掛けてきた。
俺は彼女の質問に答えずに、固いが、しかし温かい彼女の掌を強く握りながら
「少しだけ…、少しだけだけど、父さんに……死んだ父さんに似てる…」
今振り返ればそれは、同じ掌だとかそういう所ではなくて、もっと違う、言葉にはできない雰囲気のようなものが似ていたんだと思う。
そんな俺の言葉に、彼女は子供扱いするでもなく、慰めの言葉をかけるでもなく、ただ強く俺の手を握り返してくれたことを憶えている。
その後は、二人とも一言も喋らずにただ、歩き続けた。
どのくらい、ボーっと考え事をしていただろうか?ノックと共に美由希が深夜の鍛錬の迎えにやってきた。
「ボーっと、してるけど何かあったの?疲れてるなら私一人で行くから休んでてもいいよ」
美由希の優しい気遣いに、わざとぶっきらぼうに返事をする。
「世界中の誰よりも、お前にだけはボーっとしてると言われたくないな」
「あうう〜、ひどいよ、恭ちゃん」
「遊んでないで行くぞ」
翌日
海鳴に向かう電車の中
薫は手に持っている刀に小声で話し掛けていた。
「那美と久遠は仲良くやってるかな?」
「きっと、大丈夫ですよ、薫。あの二人は祟りすら乗り越えたんですから….」
「それよりも、今度はゆっくりとさざなみ寮の皆さんと過ごせますね。
耕介様や愛様達もお変わりなくお元気でしょうか…」
「この間、那美を訪ねた時に会ったじゃないか」
「しかしあの時は久遠や那美の事で頭が一杯でしたし…」
「大丈夫…、愛さんと耕介さんは相変わらずの万年新婚夫婦だって、真雪さんの手紙に書いてあったよ…」
耕介に薫が強く惹かれていたことは十六夜も知っていた。
ずっと、退魔の道を歩み続け、異性に興味を持つこともなく自分を支えてくれる人も、場所も、全てを拒絶して生きてきた薫。
そんな薫の閉じた心を開き、暖かい優しさを注いでくれた男性、槙原耕介。
そんな彼が、彼の年上の従兄弟である、さざなみ寮のオーナー槙原愛と結婚したのは、薫が高校3年になった頃であった。
誰にも知られないように薫は一人で涙を流した、祝福と悲しみの涙を….
「那美と久遠の話で思い出したのですが、あの時に協力してくれた男性、えっと…」
「高町恭也君?」
「そうです。あの恭也様と手合わせするのでしょう?」
「もしかしたらね…、しかし彼は強い。まさかあの時の少年があんなに強くなるなんてな…」
「あの時?」
「なんでもなかよ」
「私もお会いしたいですね、恭也様に」
「あっ!十六夜。人が来たから剣に戻って」
数時間後の海鳴駅
「薫ちゃ〜ん!こっちこっち。」
「ああ、那美元気か?それに恭也君、わざわざ君まで来てくれてありがとう」
「おひさしぶりです、神咲さん。長旅でお疲れでしょうし、喫茶店でお茶でも飲みながらお話しませんか?」
という、恭也の提案によって三人は翠屋に来ていた。
「いらっしゃいませ〜」
ウェイトレスをしている美由希に案内されて、三人はテーブルに着いた。
「恭ちゃん…、那美さんのお姉さん、只者じゃないね。
普通の身のこなしにまったくスキがない。」
「ああ…、神咲一刀流の師範代だそうだ。」
と、恭也は裏の一灯流の事にはあえて触れずに説明した。
一方の薫の方も那美に
「今のウェイトレスの子、恭也君の知り合い?かなりの達人みたいだけど…」
「美由希ちゃんは恭也さんの妹で、この間とうとう御神流の免許皆伝になったのよ」
しばらくして美由希が、オーダーを運んでくるとそのままテーブルに加わった。
「しかし、懐かしいな。
またここのシュークリームが食べられるなんて…。
まだ風芽丘に通ってたころには結構食べたな。
ここのシュークリームは本当に美味しいから、寮でも人気があったから…」
「それは、ありがとうございます」
「なんで恭也君がお礼を言うの?」
「薫ちゃん、翠屋は恭屋さんのお母さんが店長なんだよ。だから私も良くご馳走になってるの」
「あんまり甘えるんじゃなかよ、那美」
と、軽く那美の頭を小突きながら注意する薫と那美のやり取りを見て、美由希と恭也は笑い出し、和やかな雰囲気のまましばらく時を過ごした。
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しばらく翠屋で談笑した後で、急に仕事が入ったために薫を恭也に任せて、一足先にさざなみ寮に那美は帰ってきた。
「ただいま〜」
那美が扉を開けた瞬間に パンッ とクラッカーが弾ける音がした。
「きゃ〜!!」
那美がビックリして腰を抜かしていると、真雪が出てきた。
「あれ神咲は?」
「『あれ神咲は?』じゃないですよ真雪さん!ビックリするじゃないですか…。
あんな至近距離で突然クラッカーを鳴らされたら…」
「そんな事より質問に答えろ」
那美の注意など全く意に介さずに、ニッと笑ったまま真雪は再度同じ質問を繰り返した。
「薫ちゃんは、今恭也さんと海鳴の街を回ってます。」
「恭也って…、何度か寮に来た事もある全身真っ黒の兄ちゃんだよな?」
「はい、ってきゃ〜!もうこんな時間…。
仕事に遅れちゃう〜、真雪さんすみませんけど失礼します〜」
と言って、走り去る那美を尻目に、珍しくシリアスな顔で何かを思慮している真雪だけが玄関に残された。
魔術師の戯言
とうとう復活させちゃいました。
掲載するか迷ったんですが、未だに送ってくれとか、続きをとかってメールが来るものですから。
いや、一SS書きとして、そう言ってもらえるのはすごく嬉しいことです。
私自身も気に入って入る作品ですから。
感想よろしく〜