『姫!初め』後編



ひんやりとした冷たい感触が額に置かれている。
その手が頬に滑り落ちてきた。

いや・・・・・・、

頬から首筋、胸元、腹部とさらに滑り落ちていく。


「ん・・・・・・」


目を醒ました俺は、当然、暗い、いつもの地下室を予想していた。


「・・・今度はどうなってるんだろ?」


この前は、首輪を付けられていたし、その前は簀巻きで吊るされてたし・・・。
ああ、目を開けるのが怖い、そうは思ったがいつまでも目を閉じていれば、この悲しい現実から救われるとは思えないので、諦めて目を開いた。


「まあ、殺されはしないだろ・・・多分」


何だかんだで慣れている自分が悲しい。



しかし、目を開いた俺の前に広がるのは・・・・・・なんだろう?


青と白のストライプ模様が揺れている。
何だかわからないけど、マジでかなりやばいくらいに幸せな気分だ。


もしかして、琥珀さんにイケナイお薬でも打たれたのかな?

−−ああ、そうかもしれない

さっきから耳元でガチャガチャという音が離れない。


そんなことを考えながらも、俺はなぜかストライプから目が離せなかった。
目の前でフリフリと揺れているそれは、ひどく柔らかそうだ・・・

触りたい衝動に駆られて手を伸ばすがなぜか届かない。

相変わらず耳元ではガシャガシャと、不快な音が鳴る。


触れないとわかり、そのストライプを、満月時のアルクェイドの死線を発見するのと同じくらいの真剣さで凝視する。

耳元では耳障りな音と共に、何かしらの声が聞こえる気がするが、耳にも入らない。
それぐらい俺は真剣にその物体を見ていたのだ。


「ああ、どうしても外れませんね、志貴が目を醒ませば切ってもらえるんですが・・・」


不思議だ、なぜかストライプからシオンの声が聞こえる。
そういえば、柔らかそうなストライプからほんのわずかだけ視線をずらせば
−−もっともそのためにはネロの魔眼と対峙したとき以上の、強い意志の力が必要だったが−−
白い布や、白い肌が見える。


「な、なんてことでだ!」


ストライプにばっかり視線が言っていたために、こんな単純で重要なことに気がつかないとは・・・
遠野志貴、一生の不覚だ

なぜならストライプから伸びているのは雪のように白くきゅっと締まった、柔らかそうな太股だったのだ。


「志貴、目が覚めたのですか?」


シオンの声が頭上から降ってくる。
もしかしなくても、今まで見ていたのはシオン・・・の一部、だったらしい。


「シオン・・・俺の上で、そんなありがたい体勢で何やってるの?」


「志貴、タタリと戦っていた時と同じくらい真剣な顔で、鼻血と涎を濁流のように垂れ流しているのは何故ですか?」


シオンの冷ややかな視線が突き刺さる。


「これはこれで気持ち良い」


グシャ、というステキな音と共に、俺の顔面になぜかシオンの靴の底が見えた。


「貴方を他人と勘違いした」


グ〜〜〜リグリ


「琥珀の手によって」


グ〜〜リグリ


「あなたは『いつものように』地下室に閉じ込められていたのです」


グリグリグリ


「なるほど、で、シオンさん」


「何ですか、志貴?」


「私めが悪かったので、出来たら足をどかしてもらえないでしょうか?」


「すべて忘れますか?」


「シオンの白い太股も、かわいい青と白のストライプも綺麗に忘れますから」


ガンガン、ガシガシ、


「あは〜〜、シオンさん。それくらいにしてあげないと、いくらゴキブリ並みにシブトイ志貴様でも死んでしまうかもしれませんよ」


琥珀さんの言葉で、今までずっと接吻していた、シオンの靴の底が離れた。

あれあれで気持ちよかったことは忘れて、起き上がろうとするが、なぜか起き上がれない。

ガシャガシャと、いたるところで耳障りな、鉄が擦れ合う様な音がする。


「ああ、志貴ちょうどよかった、頭、首と右腕、それに腰の拘束具は何とかはずせたのですが、残りの鎖はどうしても取れないのです。
残りは自分で切ってください」


「そっか、サンキュー・・・・・・って、俺なんでそんな格好してんの!?」


「あは〜、今日は特別スペシャルな効き目の物を実験する気だったんで、全身16箇所を拘束させてもらったんです」


あは〜、じゃないですよ琥珀さん、マジで。
特別スペシャルって・・・
いや、考えるのはよそう、ただでさえさっきまで見てたよくわからない夢のせいで疲れてるんだし。

全身の拘束具を『殺し』て、俺は立ち上がり溜息をついた。


ポヨン

「いや、マジで変な夢を見たんですよ、俺がね・・・女になってしまう夢なんですが」


二人に向かって振り向いた。

ポヨヨヨヨン

あれ?


「!!!!?」


相変わらず俺の胸で高らかに存在を主張し、重力に逆らっている豊かなバスト



「いいくにつくろう、かまくらばくにゅう。
なくようぐいす、へいあんきょにゅう」


鶯だけでなく、志貴の瞳からも涙が出ていた。


「まあ、志貴、落ち着いてください」


「これが落ち着ける事態か!?」


「錬金術を志す者に一番必要なのは平常心ですよ」


「・・・・・・青と白の縞々ぱんつ」(ボソッと)


ピクッ

DOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNN!!!!!!!!!!!!


「私のようにですね、志貴も落ち着いて物事に対処してください。
だいたいですね、志貴は考え無しで行動しすぎるんです、志貴?聞いているんですか?」


「は・・・ひ・・・」


俺の頭が先ほどまであった場所は、バレルレプリカの威力で壁ごと消滅していた。


「第一、『混沌』『無限転生者』『ワラキアの夜』、あらゆる修羅場を体験している貴方にとって、一時的に性別が変わる事がそれほど問題ですか?」


「不通は大問題だと思いますが」


翡翠の冷たい視線と言葉がその場の雰囲気まで凍らせた。


「・・・・・・とにかく、私も琥珀や真祖、代行者と協力してなんとか治す手立てを見つけます。
恐らく長くても数日かからないでしょう、わずかな間です。我慢してください」


「す、数日間も!!!?無理だよシオン」


志貴は歯をガチガチ言わせながら慄(おのの)いた。


「数日どころか・・・明日の太陽すらも拝めないかもしれない」


エーテライトを通じ、志貴の恐怖がシオンにもダイレクトで伝わってくる。
それは、タタリの具現化よりも何倍もの恐ろしさを伴って、志貴の脳髄を焼いた。

いや、妬いた。

圧倒的な死のイメージ
それは『直死の魔眼』を持ち、神すらも殺し得る『蒼い死神』が抱くリアルな死の形(イメージ)。

死神を殺すもの・・・紅い鬼神

それは静かに、静かに歩み寄ってきた。


「・・・・・・・・・兄さん、そのお姿は?」


マグマのような激情を秘めた氷の剣を、『胸』元に突きつけるように、それでいてどこか夢見るような歩調で、秋葉は志貴の前に立った。


「・・・志貴、GOOD LUCK」


シオンはクリスチャンでもないのに、目の前で十字を描き、琥珀はビデオカメラを回し始めている。
翡翠だけが、ヤレヤレとでも言いたげに、溜息をつきながら居間から離れていった。


「にいさん、最後に言い残すことがあるなら・・・・・・聞いてあげてもよくってよ」


「ちがうんだ秋葉、話を・・・話を聞いてくれ。
日本経済再生計画が、正長の土一揆で、金融ビックバンは、徳政令が√になるんだ。
その結果、俺は男なのに胸が母乳で、はと麦、玄米、月見草などなど十六種類がブレンドされて・・・」


「つまり、志貴様は自分がなっちゃうくらい巨乳が好きなんですヨネ♪」


「そう、そうなんだ。琥珀さんが言うとおり」


思わず頷いた志貴に秋葉の髪が赤みを増した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・って、あんたなんか俺に恨みでもあるんどすか?」


「さよならです・・・兄さん。
秋葉は兄さんが、妹だけでは飽き足らず、仕えるメイド姉妹、私の後輩、ルームメイト、人外アーパー吸血鬼、年齢詐称なんちゃってカレー女子高生、ツインテール、ミニスカ錬金術師、黒猫幼女、馬型精霊、拳法幼女、義理の母親、憧れのお姉さんにまで手を出している、鬼畜絶倫ロリ熟女マニアでも兄さんが大好きでした」


「待て秋葉!!人をどんな目で見てるんだ、お前は!?
いくらなんでも、誰もそんなこと信じないぞ、普通」



「志貴、最低ですね」
「志貴さん最低です」


冷ややかな周りの視線が痛いほどに突き刺さる。

「Woooooo!!!?めっちゃめちゃ信じちゃってるYO!!?」


「えーと、上から順番に『秋葉様』『翡翠(わたし)』『姉さん』『瀬尾様』『羽居様』『蒼香様』『アルクェイド様』『カレー様』『弓塚様』『シオン様』『レン様』『第七聖典(ナナコ)様』『有馬都子様』『有馬啓子様』『時南様』ですね」


窓から顔だけ出して翡翠が指折りカウントする。


「うわ〜〜〜、義妹、義母、幼女、動物・・・手当たりしだいって感じですね、志貴さん♪」


琥珀の笑顔が歪んでいる。
というか、般若の面みたいになっている。


「・・・・・・・・・・・・ちなみに私は外しといてください。
こんな鬼畜王子に指一本触れさせていませんから」


頭に、『安全第一』とかかれたヘルメットをかぶった翡翠が、ペッと吐き捨てるように呟くと、窓から顔を引っ込めた。



「では兄さん・・・覚悟はよろしいかしら?」


「よろしくない!よろしくないから待ってくれ〜!!」


「・・・・・・なんて不様。兄さん、妹として兄の晩節を汚すわけには参りません」


紅いオーラが地面から漂う。


「すべてを・・・奪いつくして差し上げます」


秋葉が伸ばした手は何故かと言うべきか、当然というべきか、志貴の胸を掴んでいた。


『ああ、こんなことなら、最後にもう一度秋葉の洗濯板に顔を埋めたかった、さらに出来るならシエルの縞パンにも・・・」


「待ってください、秋葉
志貴は自ら望んでその姿になったわけではないと思います
つまり、その姿は志貴の望みを具現化したというよりも、もしかしたら志貴の嗜好とは反対の姿かもしれないといえると思われます」


ピクリ、と、秋葉の耳が反応する
シュウ〜〜、と、音を立てて紅い蒸気が薄れてきた。


「・・・・・・・・・つまり兄さんは『巨乳』マニアではないと?」


「でも、普通に考えたらやっぱり夢は欲望の投影でしょうね」


またも翡翠が頭だけ出してボソッと呟いた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴオッゴ
GOGOGOGOGOGOOOGOGOGOGGOOGOGOG


再び紅い蒸気が揺らめく。


「でも、確かに志貴さんの鬼畜リストには巨乳の方は少ないですね
せいぜいアルクェイドさんと、シエルさんと、朱鷺恵さんくらいですし」


「なるほど、確かにそうね!」


琥珀の言葉に強く嬉しそうに頷く秋葉
秋葉は再び手を緩めた。


『秋葉(様)は、無さ過ぎですけどね』


シオンと琥珀は密に、秋葉の胸を見て優越の笑みを浮かべた。


「でも、無いものねだりというか、身近に無い物を求めるというのは良く聞く話ですよね。
特に志貴様の今のバストは誰よりも立派ですし」


窓の外から再び投げ遣りな呟きが届いた


『翡翠(ちゃん)・・・・・・志貴(さん)に何か怨みでも・・・?」







「うう・・・ギブ!ギブアップだ、助けてくれ秋葉」


うなされる志貴の声で秋葉は我に帰った。


「・・・っつ。頭痛い」


いくら、忘年会&新年会でも調子に乗って飲みすぎたらしい


「にいさん?」


中空に向けて、救いを求めるように伸ばされる志貴の手
その手を秋葉はそっと握った。


「秋葉・・・秋葉・・・」


「もう♪兄さんたら夢の中出まで私のことを離してくれないんだからぁ♪」


嬉しそうな秋葉の姿を見ながら


「どう見ても魘(うな)されている様にしか見えませんが・・・」


翡翠がやっぱり冷たく呟いていた。



艦長の戯言


結局夢落ちかよ!
とかいわないで。
一応、ちゃんとした原因も考えてあったんだけど途中で悪乗りしすぎて長くなりすぎたんだもん

しかも、そのオチ使うとどうもせっかくここまで作ってきた勢いが消えそうだったんで敢えて夢オチにしました。

なんか翡翠が凄い事になってます

志貴に敵意持ちまくりです
あれも一種の愛情表現・・・・・・には見えない

これを見て不快になった翡翠ファンの人、どうもすいません

久々にかいたはっちゃけSSなんで、感想くれると嬉しいです