教えて!
プロフェッサー・カリスマ、マスター・V、グレートビッグベン☆ロンドンスター、女生徒が選ぶ時計塔で一番抱かれたい男・・・等など。
彼に付けられた数々の異名が指し示すとおり、ここ時計塔で、彼を知らない者は居ない程、誰からも一目以上置かれている彼だが、
彼にも逆らえない相手と言う物は必ず存在する。
たった今彼が唯一の至福の時間である、これで通算38,693回目のアドミラブル大戦略Wのシングルプレイを中断させた、原因の要因となった女性等の事である。
ともかく、何となく弱味があって彼女に逆らえず、ありがた迷惑な『ロード・エルメロイU世』なる称号まで背負わされてしまっている彼なのだ。
今回の件だって始まりは当然彼女にある。
「今度来る日本人の後見役を頼みたい」
ある日彼女に呼び出され、話を聞きに行くと、前口上も無く決定事項を通達された。
それでも、未だ4階級に留まる私が、何故これ以上弟子やら何やら抱え込まなければならないのか、と抵抗を試みた。
「カリスマ講師と謳われるあなたならば、今更後見人の一人や二人、物の数ではないでしょう?
それに、今度来る日本人はとても優秀な魔術師だそうですから、大して手もかからないでしょう。
何と言っても、先日行われた5回目の聖杯戦争の優勝者だそうですもの。
同じく、聖杯戦争に参加したあなたですから、満更縁がないわけでもないでしょう?」
ニコリと笑って、最後に「ねえ、ロード・エルメロイ」と付け加えた。
聖杯戦争、ロード・エルメロイと引き合いに出されては、もう、グウの音も出ず引き下がるしかない。
多くの物を得て、それ以上に掛け替えのない物を失った冬木の地での、戦いを思い起こす。
私にとって自分の未熟さだけを突きつけられる、いずれ劣らぬ英雄豪傑達の邂逅した、現代の神話の夜たる戦争の記憶。
アイツを失った後に起こった惨劇を思い起こすと、未だに歯噛みする。
勝ち残ったのがアイツであれば、いや、あの場に彼が留まっていれば、きっとあんな事態は起こりえなかっただろうに。
挨拶に来る前に、渡された資料に眼を通す。
その魔術師を一目見て、言葉を失ってしまったわけだが。
優秀なのは言うまでもない。
現在のレベルは元より、潜在能力、血筋に至るまで非の打ち所がないと言っても過言ではない。
ただ、驚くほどに若い少女である事に面を食らってしまった。
今回の聖杯戦争において、時計塔から派遣されたのは、かの封印指定の執行者であるバゼット・フラガ・マクレミッツだと聞いていた。
直接の面識は無いが、こと戦闘に関して、今協会内で彼女に勝てるような魔術師は5人と居るまい。
その彼女すら退けた勝者が、まだハイスクールすら卒業していない少女だと言うのだから、驚くのは当然だろう。
もっとも、あれは単なる魔術戦ではなく、英雄と共に夜を翔ける戦いだ。
その意味では、いくらマスターが優れていても、引き当てた英雄次第。
どんな3流魔術師でも勝ち残る確率はあるわけだが。
「3流魔術師でも・・・か」
口から漏れたのは苦笑か、それとも自己への皮肉か。
3流魔術師でも、サーヴァント次第で勝てるというのなら、最強のカードを引き寄せながら足を引っ張り続けた自分は一体なんなんだろうかと。
コンコンと響く、遠慮がちなノックの音で、我に返る。
「失礼します」
優雅な一礼と共に、鈴が鳴るような声で少女が立っていた。
「初めまして、ロード・エルメロイ。
来春よりお世話になります、遠坂凛と申します。
よろしくお願いいたします」
流暢な英語も含めて非の打ち所がない。
資料で見た時、優れた魔術師だと予測が着いた。
しかし、実物にあって驚いた。
今まで数々の教え子を見てきた。
その全てが、今や自分を引き離し『王冠』以上の階級を持つ、一流の魔術師ばかりだ。
その誰の才能も、今目の前に居る少女と較べれば比較にならない。
『聖杯戦争の勝者・・・か』
3流でも英雄次第で・・・なんてとんでもない思い違いだ。
そう、一人ごちる。
あの戦いを勝ち抜く魔術師は、きっと何かが突き抜けているのだろう。
夢だったり、野心だったり、思想だったり、能力だったり、運だったり。
とにかく、聖杯に勝者として選ばれる、常人とは違う突き抜けた部分を持った人間だけが勝者足りえるのだろう。
それが、この少女の場合『才能』だったのだろう。
溜息が出る、これほどの素材に出会えたことはない。
それと同時に嫉妬を感じないわけがない。
彼女は何もかももっているのだから。
かつて自分が望んだ物。
魔術師としての才能も。
魔法使いを大師父に持つ名門の家柄も。
聖杯戦争の勝者と言う肩書きすらも。
「ああ、初めまして」
だが、今の彼はそれを僻んだりはしない。
余計な虚飾は既に無い。
自分は自分のベストを尽くすだけ。
あの人が
いつの日か、アイツに再びめぐり合ったとき、胸を張って真直ぐ彼の眼を見据えて、対等に話が出来る自分であるように生きるだけ。
『生きろ』
我が王の命は、未だこの胸の中に輝いているのだから。
「ロード・エルメロイ。
日本語がお出来になるんですね」
差し出された手を握りながら、問いに頷く。
「それで、君に一つ質問があるのだが・・・」
実は資料を見た時から聞きたかった事がひとつ。
彼女の才能に感動しながら、それと同じかそれ以上に聞きたかった事がある。
彼は日本人が嫌いである。
ほっカイロや栄養ドリンクなど、あの国に居ると必要以上に、魔術師としてのプライドをどうにも損なわれる物が多いからだ。
聖杯戦争は基より、その後の暫くの日本での生活で、坊主憎けりゃ何とやらで、すっかり日本人嫌いになってしまっていた。
だが、彼女が日本人と言うのなら、もしかしたら・・・。
いや、きっと。
チラリと彼女が来る前に一先ず中断した物に視線を送る。
「どうかしましたか、ロード・エルメロイ?」
「いや、そのな・・・」
ロード・エルメロイU世と呼ばれる、時計塔屈指の有名人が逡巡しているのだ。
凛でなくとも、思わず身を堅くして、固唾を飲んで次の言葉を待つしかない。
「君はアレかな。ほら、あの街には詳しいのかな。ウエノとかアサクサとか、そのあたりに近い街の話なんだが……」
「は?」
思わず耳を疑った。
日本語が上手いどころの騒ぎではなく、なんだか日本そのものに妙に詳しいらしい。
「だから、ウエノやアサクサに近くて、電化製品が安く手に入る街だ」
ここまで具体的に言われれば、凛にだって何処の街の事だかわかる。
が、わかるからこそ首を傾げずには居られない。
ここは、魔術の神秘を極めるための時計塔。
目の前で、何故か妙にソワソワと期待に満ちた目を向けてくるのは、その時計塔の中でも屈指の教師。
それなのに、何故魔術とは180度反対方向のあの街が話題になるのかわからない。
『もしかして、試されてるのかしら?』
そう思うのは仕方ない事だろう。
「あの街には、一度も行った事がありませんが」
魔術師と文明の利器はある意味相反する物であり、名門出身の凛は現代文明に堕落する事を好まない。
それを、はっきり告げる事で、魔術師としての矜持を示したつもりだった。
それに嘘ではない。
機械音痴の凛にとって、アキハバラはある意味、幻想種が跋扈する深く暗い死の国よりも、よっぽど魔境に近い。
その答えに、ワナワナと震えるプロフェッサー。
心なしか涙目なのが余計意味がわからなくなる。
「ファック! オマエは最悪の日本人だ!」
突然そう叫び、プロフェッサーは踵を返し、足音を高く踏み鳴らし去って行こうとする。
「ちょ、ちょっとなんですか、突然?」
「ああ、そうだ。
私は君に魔術など教える気は無い」
混乱するしかない凛に、振り向かずに吐き捨てるように追撃を送る。
「え!?ちょっと、プロフェッサー!?」
「まあ、紹介状くらいは何処にでも書いてやるから、それでいいだろう?」
それだけ伝えると、話は済んだとばかりに、、おもむろにテレビをつけて、ゲームをはじめてしまった。
「え?私、何か気に障るような事しました?」
と言っても、まったく身に憶えがない。
というか、意味不明の質問をされ、それに答えただけだなのだから、気に障りようがないと思う。
「お前なら、誰に教わっても大成するだろうから問題ない」
その後、凛が何を言っても取り合わず、うっすらと涙ぐみながらゲームに没頭している彼を見て、凛も何を言っても無駄だと思ったのか
「フンだ!こっちだってアンタなんかにもう教わらないわよ!」
と、叫び出て行った。
勿論、うっかりゲームのコンセントを抜いていったのは言うまでもない。
誰も居なくなった一室。
ウェィバーが涙ぐんでいたのは、何もゲーム中に電源を抜かれて、セーブデータが全部飛んでしまったのだけが原因ではない。
今まで誰も一緒にゲームをしてくれる人が居なかった。
おかげで通算38,693回目も一人でゲームをしてきた。
日本人と言う事で、今回こそはと期待していただけに、ショックが大きかったのだ。
「アイツは最悪の日本人だ」
彼の横に置いてある包みには、二人用のためのコントローラが出番を待っていた。
そう、十数年前、アイツが注文してからただの一度も使われた事のないコントローラが・・・。
魔術師の後書き
ZERO、最高でしたね。
ZERO出る前に書いたSSの後書きで、イスカンダル主役の第4次物書きたいって言ってましたが、結局間に合わなくてお蔵入りしちゃいました。
でも、本物がこんなに面白いんじゃ、ぐうの音もでないっすね。
私のイメージとは全然違ってたイスカンダルですが、『王の軍勢』だけ、自分の妄想とほぼ同じでちょっと嬉しかったです。
でも、他に書きようがないか。
ちなみに、あんなに愛嬌があって可愛いイスカンダルは想像してなかったです。
私のイメージは『銀河英雄伝説』のラインハルトみたいな容姿のイメージだったんですが。
(元々ラインハルトのモデルの一人がイスカンダルなんで、そのせいでしょうかね)
ZEROが完成するまで、書かないでいたんですが是非ZEROがらみのSS書きたくて第一作です。
こんな感じで、短編連作でいくつかエルメロイ先生とのロンドン篇を書きたいなと思います。
とりあえず、士郎との絡みとセイバーとの絡みは絶対書きたいですね。
それでは、本年度もよろしくお願いします。