前編
街を彩るイルミネーションが道行く人達の心を沸き立たせる。
海鳴の町の商店街でも、楽しげな音楽がスピーカーから流れていた。
「ハァ〜…」
そんな周りの喧騒を余所に、溜息をついている青年。
その男は見上げるほどの長身をしていた。
さらに、がっしりとした鍛えられた体躯をしており、明かに何か格闘技をしていそうな雰囲気を纏っていた。
にも関わらず纏う雰囲気は陽性のものであった。
明るく優しい…包み込むような雰囲気。
まるで、春の日差しのような温かさ。
そんな、人を安心させる何かを持っていた。
しかし、そんな男が珍しくトボトボと浮かれる街の雰囲気とは対照的な様子で歩いていた。
横で、その青年よりも頭2つ以上小柄な少女が元気付けようと慰めていた。
「お兄ちゃん、元気出してよ。
こんな記事、嘘に決まってるよ〜!!」
「ありがとうな、知佳…」
そう言って、少女の髪を優しく撫でる。
しかし、明かにその青年の顔は冴えなかった。
頭を撫でられた少女は、仁村知佳
頭を撫でた青年は槙原耕介
名前を見てわかるように二人は別に実の兄弟ではなかった。
「帰ってゆうひちゃんに電話してみようよ
そしたら、きっとこんな記事はデマだって言ってくれるよ」
そう、珍しく耕介を落ち込ませる原因になったのは、今耕介の手で丸められている一冊の写真週刊誌であった。
その見出しには
『密会!!!?
天使のソプラノ SEENA
人気俳優 窪塚拓也と親密デート』
と、書かれていた。
窪塚拓也は今、若い女性に絶大な人気を誇るトレンディー俳優だ。
以前、彼が司会するトーク番組にSEENAがゲスト出演してから何かと噂になっていた。
ゆうひを信じている
そんな事は有り得ない
頭ではそう納得している耕介であったが、ただでさえ忙しいゆうひとはなかなか会えない。
そこに来て、こんな感じで二人で写っている写真が目の前に付きつけられては落ち込みもするだろう。
結局、さざなみ寮に戻ってからゆうひの携帯に電話をかけたが、ゆうひは捕まらなかった。
その晩、真雪からの晩酌の誘いも断って耕介は早々にベットに横になった。
横になってもチラリチラリと例の写真週刊誌の記事が頭にちらつく。
なんと言っても、ゆうひは今や日本中で知らない人は居ないほどの有名人だ。
そんなゆうひと、ただの一般人である自分。
何となくゆうひが遠く感じた。
そんな自分の気持に耕介は軽い驚きと多分の嫌悪感を持った。
―――――そして耕介は夢を見た
はじめてゆうひに出会った日の事。
展望台で・・・帽子が飛ばされて・・・
海鳴公園での会話
そして始まった、さざなみ寮でのマブダチとしての付き合い
そして運命の夏の夜
夜の海を背にしたゆうひは・・・とても綺麗で・・・
いつだって一緒だった・・・
いつだって傍に居た・・・
そんな優しい日々の夢を・・・
窓から注しこむ光りで、耕介は目を覚ました。
「オイ!ゆうひ…。朝だぞ、とっとと起きろ!」
思わずこぼれた夢の続きの一言。
でも、横には誰も眠っていない。
最後にゆうひを起してあげたのはもう何ヶ月前だろう・・・
そして、耕介は顔を洗いに洗面所に向かった。
鏡に映る自分の顔は暗く…何処か沈んでいた…
冷たい水で顔を洗って気持を引き締める。
管理人として、暗い表情は見せられない。
そして、リビングに行ってテレビをつけた。
朝の番組のアナウンサーが、にっこり笑っていた。
『おはようございます!!今日のゲストは人気絶頂の歌手SEENAさんです…』
「直にゆうひを見るよりも…テレビでSEENAを見る事の方が多くなったな…」
耕介はそう寂しげな表情で呟くと、台所に入っていった。
『SEENAさんは、今度のクリスマスに全国生放送でTV LIVEを行うんですよね?』
『はい〜、皆さん、精一杯がんばりますからぜひともウチのLIVEを見に来てください』
誰も居ないリビングで、テレビの中でゆうひの声だけが、さざなみ寮に居たころと変わずに流れていた。
そう…、誰も聞くものが居ないリビングで・・・・・・
SEENAの楽しそうな声が流れていた・・・・・・
『ゆうひ』ではなく『SEENA』の声がブラウン管から・・・・・・
魔術師とキャラの勝手な座談会
魔「はい、初のゆうひ主演SSです」
ゆ「せっかくウチが主役やちゅ〜のに、なんで早くも耕介君と破局を迎えそうなんや!?」
魔「・・・・・・滅びの美学ってステキでしょ?」
ゆ「何いってんねん!!ウチと耕介君の愛は絶対無敵や!!」
魔「どうですかね〜?(チラリと耕介を見る)」
耕「はぁぁぁぁぁ〜(溜息をつきながら寂しそうに仕事をしている)」
ゆ「いやや!!!耕介君〜!!ウチを信じて!!」
魔「二人はどうなるのか?それは中編へのお楽しみに」