「ちょっとアンタ、聞いてるの?」
目の前で腕を組み、半目でランサーを睨む少女
「私を誘っておいて呆っとするなんて、いい度胸ね」
「いや、凛に思わず見惚れてたのさ」
「なっ!!」
その言葉に真っ赤になる。
それを見て、くくくと噛殺したように笑う。
あんたねー!と、叫ぶ凛と、それを飄々とあしらうランサー、そんな二人は、実は似合いのカップルなのではないかとすら思えるのだ。
ここは、新都のカフェテラス
サンサンと差し込む、陽光の暖かい日溜りに春の訪れを感じながら、二人は向き合って座っていた
「で、改めて聞くけどね、ランサー、あんたどうして未だに現世に留まってるわけ?」
相変わらず、からかうような顔で凛を見る槍兵
「・・・また私の話を聞いてないの?」
自分の気持ちが見透かされているようなランサーの顔
「俺も改めて言うけどな。
もう、俺はランサーじゃないんだけどな」
「わかってるわよ、そんなの」
「じゃあ、ちゃんと名前で呼んで欲しいんだけどな、凛」
打って変って真面目な表情と、真摯な瞳を向ける
やはり、見透かされていたらしい
何と呼んだらいいのか?
クー・フーリン、それは彼の真名だが呼びづらい
ならば、セタンタだろうか
しかし、それは幼名だから不自然だろうか・・・
あれこれ理由を付けるのは、恐らく自分は目の前の槍兵を名前で呼ぶことに照れているからだろう
それを自覚している自分と、それを知覚している槍兵
しかも、ヤツは照れている遠坂凛をからかって楽しんでいるのだ、ガッデム!!
「どうした、凛、名前で呼んでくれないのか?」
真剣な表情の裏で、必死に緩む口元を引き締めているのがわかる。
思えば、初対面からこいつにはからかわれてばっかりだ
ムムと、負けん気が発動する遠坂凛
「クーちゃんは、どうして現界しているのかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ランサーが一瞬呆然とした顔になる
「あら、どうしたのクーちゃん?」
ここぞとばかりに畳み込む遠坂凛
「なあ、凛」
「なにかしら、クーちゃん?」
「・・・クーちゃんって、やっぱ俺のことか?」
きょろきょろと周りを見渡す
「私、目の前に人が座っているのに、空間に話しかける趣味はないけど」
ニッコリと最高の笑顔で、彼の疑問に肯定する
目の前の槍兵は、苦笑しながら頬を掻き、きょとんとした表情
そして、一転、腹を抱えて大笑いし始めた
「くくく、アンタやっぱり面白いな」
なんて、心底楽しそうに笑うクー・フーリン
この軽さと明るさ、こいつ本当に英雄かしら?と疑問になる
英雄と言うのはもっとこう、翳を背負っているというか、ある種窺い知れない様な苦悩を抱えている者じゃないのかしら?
セイバー然り、アーチャー然り
だって言うのに、こいつは飄々として、底抜けに明るくて、『今を楽しんでいます』って感じだ。
そもそもこいつだって他の英雄の例に洩れず、結構ハードな人生を送ってきたのに、なんでこいつはこんなに楽しそうなんだろう。
そんな遠坂凛の気持ちを知ってか知らずか、クーフーリンは笑顔のまま
「だってよ、空は抜ける様に青くて、日差しはこんなにも暖かい。
その上、俺の目の前には、こんなに良い女が居るんだぜ、楽しまなければ失礼じゃないかよ」
なんてのたまわった。
その言葉に、そして、その表情に思わず赤面する
士郎は、自然体で、真直ぐな好意を向けてくれるけど、それとは違う。
ランサーの言葉は、女性を喜ばせるつぼをついてる、アーチャーみたいな気障なのとも違って、そのオブラートに包まれた好意がひどく心地良い。
何よりも凶悪なのがその表情だ。
少年のような無邪気な、心の底から楽しんでますって言う、柔らかい微笑
「それで、あんたはどうして現界してるのよ!」
熱くなった頬を隠すように、語気を荒くして尋ねる
視線を逸らした凛には確かめる術も無いが、そんな自分の照れ隠しの仕草すら、ランサーにはお見通しなんじゃないかって気持ちになる。
「やれやれ、せっかくの二人きりに無粋な話題だとは思うけど、そんなに俺のことが知りたいなら聞かせてやるか」
―――――聖杯戦争時
狭い通路の中で、震える大地と、鳴り響く轟音
チラリと洞窟の低い天井を見上げる
「おい、桜。本当にいいのかよ?」
変わらず鳴動し続ける洞窟、それが地上での激闘を、嫌が応にも想像させる。
「はい、私達は私達にしか出来ない事をしましょう」
真直ぐな瞳で頷く少女
儚げな外見や仕草に反して、決意を秘めた強い瞳
「それが、先輩や・・・・・・姉さんのために私が・・・いや、私にしか出来ないことですから」
『姉さん』、その単語を呟く際に俄かに小さくなる声
未だにある二人の魔術師の姉妹の壁を感じさせる
狭い通路を抜けたとたん、急にポッカリと開けた空間
不安げなくせに、弱々しいくせに、キッと目の前の物を睨みつける少女
恐らくは、今もここを鳴動させる闘いに挑んでいる、少女の大切な人たちと同じ表情をする
其処にあるのは全ての始まり
7人のサーヴァントを呼び寄せた一つの器
かつては、3人の魔術師が力をあわせ、純粋な願いの具現として成した一つの奇跡
今は闇虫
「そんなわけでよ、二度と聖杯戦争は起きないぜ」、なんて言いながら紅茶を飲むランサー
こいつ、絶対わざと判り辛く話してる
「要するに、あんたとあんたのマスターは、聖杯の大元である大聖杯を破壊した、ってことね」
なるほど、そんな物があったのか
その話が本当なら、もう二度と聖杯戦争は起きないと言うことだ。
前回セイバーが聖杯を壊したにも拘らず、もう一度今回の聖杯戦争が起こった
ということは、いづれまた、こんな哀しい闘いが起こるのかと、私も士郎も不安に思っていたことが一つ片付いた訳だ
「で、誰よ?」
何がだ?、なんて、首を傾げてもわかる。
こいつ、絶対に私をからかっているってことが。
「顔が、にやけてるのよ、あんた」
「それは、凛とお茶しているのが楽しいからなんだけどな」
また不意打ち、不覚にも紅くなった顔を誤魔化すように叫ぶ私。
ああ、もし、学校の誰かに見られてたら、被っていた猫が台無しになること請け合いね。
「あんた!誰があんたのマスターなの!?
それをわざと、わからない様に話してたでしょ!?」
「なんだ、お嬢ちゃん、俺が誰と一緒に居たかがそんなに気になるのかい。
安心しなよ、俺は遠坂凛一筋だぜ」
―――――もう、頭来た
堪忍袋ははちきれて、怒りと混乱のボルテージはハードロックだ
ガントを打ち込んでやろうと魔術回路に魔力を流し、人差し指を向ける。
・・・もっとも、英雄に効くとは思えないけど
「わかった、わかった、マスターが誰だか教えるから物騒な物しまえよ」
方頬を吊り上げて、ニヤリと笑うランサー
あからさまに何か企んでる
「ほら、耳貸せよ。いくらなんでも、マスターの事を、大声で言うわけにはいかないからな」
疑惑の目を向けながらも、マスターのことは知っておきたい
遠坂の後継者である私ですら知らなかった、大聖杯の存在に気がついていた魔術師の正体だけに、疑惑より好奇心が勝ったのだ
渋々とテーブルの真ん中まで顔を近づける
同じように近づいてくるランサーの顔
ランサーの吐息が耳にかかる
くすぐったい
「あのな・・・」
小声だ、これだけ耳を近づけても良く聞こえない
自然、自分からよりランサーの口元に耳を近づける
――――――――――頬に、暖かい、濡れた感触
目の前には、ランサーの悪戯成功、と言いたげな微笑
―――――こいつ、まさか、いや、間違いなく・・・・・・
「何するのよ!!バカーーーーーー!!!!」
周りの目を気にする余裕も無く叫ぶ私は、
その顔は絶対に真っ赤で
なんで、こいつはこんな不意打ちをしたのか
そもそも、士郎だってなかなかしてくれないのに
誰かに見られていないかとか
なんて、混乱のドツボだった
魔術師の戯言
とりあえず、4ヶ月お待たせしました
いろいろ書きたい題材が多すぎて、でも、なんというか、中途のSSがいっぱいある
今、いきなり書き始めても困っちゃう、というかまとまらないだろうと思いまして
とっとと纏め上げて、ある程度すっきりしてから、Fateの長編SSを掲載しようと思いまして。
まずは、本人もずっと気になってたランさーのSSです
最近、というか結構最初からマイブームは槍凛です
何でも世の中には槍凛同盟なる者があるらしいので、仲間に入れてもらいたいなぁ
前編では、いちゃいちゃというかほのぼの槍凛
中編では、ランサーが現界している背景語るために桜との話になってしまいました
この後編では、半ば無理矢理と言うか、とにかく槍凛書けました
ちなみに、大聖杯破壊のところで、本当は未だに大聖杯の中心に収まる彼女の心臓を「刺し穿つ死棘の槍」で貫く設定でした
が!
あまりにも惨いので今の形になりました
今の形だと、別にランサーじゃなくても破壊できたんですけどね、大聖杯
まあ、あの段階で他に味方になってくれるサーヴァントは居ないので、話的には問題ないですが。
はい、後は短いエピローグでこの話は終わり
いつか、めんどくさい背景なしでもう一回槍凛書きたいな
PS,昨日(7/29)めでたく、このサイト50万超えました
感想ついでに、一言添えてくれると大変嬉しかったり