非日常の中の日常



《穏やかな(?)時間》

 

 

やがて夜の帳が下りてきて、世界を闇色の衣に染め上げていく。

海鳴公園から高町家への道すがら、二人は言葉少なげに歩いていた。

しかし、昔と違って『何を話したら良いかわからない』からではない。

しっかりと繋がれた指先から感じられる優しい温もり。

その確かな感触が二人の心を満たし、空疎な会話よりも何倍も心を近づけさせてくれていた。

「懐かしいな…」

恭也が空に浮かぶ三日月を眺めながら呟いた。

「昔も…初めて出会ったときもこうして手をつないで歩いた…」

「ああ…」

薫は嬉しそうに静かに頷いた。

薫もまたこうして二人歩いた日の事を考えていた。

「あの時にはウチが小さな手を引いて歩いていたっけ…

でも、今はもうこの大きな手がウチの手を引いて送ってくれる…

幸せな未来への旅路に…」

薫は恭也には聞こえないほどに小声でそんな事を呟いていた。

「俺は、貴女を幸せに導く事ができるほど大した人間じゃない…」

その言葉に薫は驚愕の顔で恭也の事をじっと見つめた.

聞こえない様に呟いたはずの薫の本音の言葉に、恭也から返事が帰ってきた恥ずかしさよりも次に続く恭也の返事の内容のほうに多分にショックを受けた。

「だから二人で歩いていこう…

幸せな未来への旅路は二人で切り開いていこう…

二人でなら…きっと…幸せになれるから…」

この言葉に薫は、涙が出そうになった。

恭也は、まだ二十歳にも満たない少年で、

自分はそんな少年にすべての選択を委ねて、他力本願に幸せにしてもらおうとしたのに…、

この高町恭也って人間は、共に歩もうと…

二人で悩んで迷って…それでも幸せになるために生きていこうと言ってくれて…

「君は…ウチよりもはるかに大人だな…」

そう言いながら流れそうになる嬉涙を必死で我慢しながら、微笑む薫はとても綺麗で…

恭也は無意識に繋いだ手を強く握り締めていた。

ツゥ―――…

一滴(ひとしずく)だけ隠しきれなかった涙が薫の頬を伝う。

きらきらと月の光を巻き取った様に輝く涙は真珠のようで、

恭也はその涙を掬うように、軽く口付けをするとまた空を眺めた。

しかし薫の目にははっきりと気付いていた。

この年若い、可愛い恋人の顔が、耳まで赤く染まっている事を…

そしてきっと自分の顔もまた同じくらい赤いことも…

空に浮かぶ三日月は、遠いあの日の様に優しく二人を照らしていた…

いつまでもいつまでも…

 

「ただいま…」

「おじゃまします…」

高町家の玄関

「お帰りなさい、お兄ちゃん」

恭也の帰宅の声を聞いたなのはが玄関まで迎えに出てくる。

「あ…那美さんのお姉さん、いらっしゃい…」

「こんにちは、なのはちゃん」

と、薫がなのはに挨拶して高町家の居間に上がる。

 

居間にいるのは桃子と恭也、薫、それになのはだけだった。

晶とレンは台所

美由希は自室にいるらしい。

 

「はじめまして、神咲薫と申します…」

やや緊張した面持ちで、薫はその几帳面な正確を思わせるきちんとした挨拶を桃子にした。

「はい、こんにちは、薫ちゃん。私が恭也の母の高町桃子です。よろしくお願いします」

反して桃子の挨拶は失礼に当たらない程度にくだけていた。

明るい笑顔と飾らない優しさ。

薫は一目見て、高町桃子という人間を好きになった。

「…なのは…」

挨拶が済んだところで久遠が二階から降りてきた。

「…カオル…」

眠っていたのだろうか、眠そうに目をこすりながらそれでも嬉しそうに薫に飛びついてきた。

「こら、久遠。あんまり人前でその姿になったらいかんと言っておろ〜が…」

しかし薫の小言等何処吹く風で、久遠は薫の膝の上でニコニコしている。

「あらあら、よっぽど薫ちゃんに会えたのが嬉しいのね、久遠ちゃんたら…」

桃子はニコニコ久遠に話しかける。

「久遠ちゃん、薫ちゃんの事好き?」

「かおる…だいすき…」

その言葉に薫も思わず嬉しそうな顔をする。

なのはが少し羨ましげに久遠を見てるのを見て、恭也はいつもの愛想の無い顔で

「なのは…俺の膝で良ければ…座るか?」

と、なのはに聞くと嬉しそうになのはは、恭也の膝に収まった。

「ぷっ…あはははははは…」

桃子の笑いに?と言う顔をする恭也と薫。

「なんか孫が出来たみたいだわ…」

「…?」

まだ桃子の言いたい事が良くわからない二人。

「お父さんとお母さんと二人の娘みたい…」

お父さんで恭也を指し、お母さんで薫を、そして久遠となのはを二人の子供に見立てているらしい。

見る見るうちに恭也と薫が赤くなる。

二階から降りて来た美由希と遊びに来ていた那美が見たのは

何故か久遠となのはを膝の上に乗せて真っ赤になっているそれぞれの兄と姉

そして笑い転げている桃子と言う、ほのぼの感の中にシュールな雰囲気を醸し出している謎の状況であった。

「美由希さん…一体何があったんでしょう…?」

「…さあ…何なんでしょう?」

と苦笑する二人であった。

 

その日の夕食はいつもにもまして賑やかな高町家であった。

晶、美由希、レン、桃子、なのは、恭也にお客の那美。

それに加えてスペシャルゲストの神咲薫

「薫さん、風芽丘出身なんだって?」

「はい、レンちゃんの担任の鷹城さんの一年先輩です」

「鷹城先生って高校生の頃どんな生徒でした?」

「う〜ん、一言で言うなら天才…かな」

「さすがやな〜無冠の女王と言われるだけはあるんですね〜」

「って事はそれよりも強いって言われてた先輩の人は一体何物なんでしょうね…?」

「瞳は、もちろん才能はあったけどそれ以上に努力も人一倍していたから…」

「薫ちゃんと瞳さんは親友で…今でも時々鹿児島まで尋ねて来たりするんですよ〜」

「でも、私的には鷹城さんが先生って事の方が驚きだよ。

昔は後輩とかに凄く甘くて放任的過ぎて、瞳があれで次の主将が勤まるか心配よってよく

言ってたから…」

「あははは…、今でも凄い甘いですよ〜。でも生徒から凄く信頼されてますけど…」

「あの子らしいな…」

 

 

そして楽しく夕食を食べ薫が高町家の面々と打ち解けた頃

「薫さん…少し食後に軽く運動でもしないか…?」

「…いいね…」

と言って道場に出ていった薫と恭也を見て桃子はにこにこしている。

「なんか師匠と薫さん似てるよな?」

「あんたもそう思ったか〜?雰囲気とかも含めて、良く似てるな〜と、うちもずっと思ってたんや」

「でも激しくお似合いでしょう?」

桃子は心なし嬉しそうに声が弾んでいた。

「桃子ちゃんごっつい嬉しそうやね?」

「うん…、恭也ったらあの年になるまで、ちっとも浮いた噂が無かったからお母さん、心配してたんだもん」

「そうですね〜、師匠結構モテルのにちっともそう言う噂無かったですもんね」

「うん、薫ちゃんもゆうひちゃんから聞いたんだけど、かなりもててたんだって…」

「そうでしょうね〜、あのとうりごっつい美人ですもんね〜」

「でも、全部興味なさげで剣の腕を磨いてたんだって…」

「そんな所までお師匠にそっくりなんですね」

「でも…あの二人の夫婦喧嘩って…想像しただけでも恐ろしいですね」

「ね〜」

「「「あははっはは…」」」

とリビングでは笑いが起こっていた…

 

「くしゅん」

「は〜くっしょい…」

恭也と薫から同時にくしゃみが…

 

まだ笑い続けている晶とレンの横で桃子は二人を眺めていた。

『晶ちゃんとレンちゃんは、まだ憧れていただけだから…今なら恭也の事は、良い思い出に変わるでしょうね…』

視線を2階の美由希の部屋がある辺りの天井に転じた。

『那美ちゃんはきっと大好きな薫ちゃんが相手だし、恭也への想いを家族への愛情に転じられるし

美由希は自分たちは兄弟と言い聞かせる事でなんとか忘れられると思う。

それに剣術の子弟と言う関係もある事だし…』

「ハァ〜」

溜息と共に窓の外を眺める

『きっと一番辛いのは…フィアッセ…ね

ゆうひちゃん…アイリーンちゃん、何とかあの子を慰めてあげてね…』

桃子は、今日はゆうひ達と約束があるから残念だけど薫に挨拶できないと言って翠屋から出ていった、フィアッセの顔が目に浮かんだ。

「恭也、薫ちゃん。あなた達幸せにならないと桃子さんちょっと怒っちゃうわよ…」

 

一方、今道場では美由希と薫が対峙していた。

美由希もたまには他流の一流の人間と剣を交えさせようと恭也が薫に頼んだのだった。

刀は木刀、場所は道場。薫が美由希に勝ち目が無いのは一目瞭然だった。

 

鋭い踏み込みから、袈裟懸けに剣を振り下ろす薫。

それをあっさりと避けて、左右の小太刀を変幻自在に薫に叩き付ける美由希。

一瞬の隙をついては時に薫が反撃をするが、美由希の動きの前に全てはかすり傷程度のダメージしか与えられずに、空しく空を切りつける。

美由希のスピードは、恭也すらも凌ぎ、神速を使わなくとも相当のスピードで動く事ができる。

さらに剣捌きも早くて、一撃一撃に重みは無くても徐々に相手を追い詰めていく。

結局当初の予想通りに薫の敗北に終わった。

 

打ち合いが終わった後で、薫は素直に驚きを口にしていた。

「凄いね美由希ちゃんは…。まだそんなに若いのに信じられないくらいに強いよ…」

「あはは、あ…ありがとうございます」

美由希は照れながらも嬉しそうだ…。

「でも,薫さんの一撃の重さは、本当に凄いです…。

恭ちゃんにいつも『お前は腕力がなさ過ぎる』って注意受けてる私には羨ましいですよ」

「そうだな…、手数で圧倒してるうちはまだまだだぞ…美由希。

理想は一撃で確実に…。さもないと大切な人を護れないかもしれないぞ…」

「ふふふふ…厳しいな,恭也君は…」

「ホントだよ…恭ちゃんは厳しすぎるよ」

美由希はブゥ〜と頬を膨らませて見せる。

「でも、美由希ちゃんは強いね。さっき戦った恭也君よりもほんの少しだけど…」

その言葉に急に顔を引き締めて美由希が

「でも…まだ正直かないません…。

恭ちゃんにも薫さんにもここ(道場)なら勝てるかもしれないけど…。

昨日の二人には正直まだまだ勝てる気がしません…」

「昨日は二人とも凄かったもんね〜」

那美も言葉を続ける。

「そんな事ないよ、美由希ちゃん…。後は実戦経験の差だけだよ。

美由希ちゃんが沢山経験を積んでいけば、恭也君はともかく、私には勝てるようになるさ…」

そう言って、美由希に微笑みかける薫は優しくて、綺麗で…

『この人なら、大丈夫だ…。

恭ちゃんを任せられるし…お義姉さんになってもきっと上手くやっていけるな…』

そう素直に思えて、美由希は笑顔を返していた…。

和やかな雰囲気の3人を嬉しそうに眺めていた恭也が、ハッとした顔をして美由希に話しかけた。

「ところで美由希…」

恭也は、相変わらず無愛想な顔に、やや憮然とした表情を浮かべていた。

「昨日の二人…って言うのは何の事だ?」

『昨日』を強調して発音する恭也の眼は笑っていない。

「えっ…あの…その…あははは…」

慌てて笑って誤魔化そうとしても、そんな物が通用する恭也ではない。

「すいません…。

昨日…、深夜に気配を消して刀をもって出て行く恭ちゃんが見えたので心配になって…」

「後をつけたと…」

「はい…ごめんなさい…」

恭也は、頭を掻きながら困ってしまった。

 

殺気を消しそこなったのは自分のミス。

尾行に気が付かなかったのは自分の迂闊。

これでは美由希を叱るわけにはいかない…。

「ところで美由希…。いつまで俺と薫さんの戦いを見ていた?」

婉曲的な聞き回しではあったが、美由希は即座に恭也が聞きたい事を把握した。

要するに『俺と薫さんが抱き合ったりしていた所を見たか否か』であろう。

「も…もちろん恭ちゃんが薫さんに勝ったところまで見て帰ったよ…」

恭也は大きく溜息をついた。

『嘘だな…。美由希の性格的に俺が気絶したのを見て、そのまま帰るわけが無い…』

「………全部見たんだな?」

「…うん、見ました」

嘘がばれてる事を悟った美由希は素直に認めた。

「…って事は那美さんも見たんですね?」

「え?え?なにをですか?」

「那美さん…あなたは嘘をついている…本当は昨日の夜あの場所にいましたね?」

「昨日の夜は早く寝てしまっていますけど…」

まだとぼける那美であったが恭也は騙されない。

「昨日早く寝てしまった人がどうして

『昨日の二人には正直まだまだ勝てる気がしません…』

と言う美由希の発言の後に

『昨日は二人とも凄かったもんね〜』

と言う相槌を入れる事が出来るのですか?」

那美は明らかにギクリと言う顔をしたが、まだなんとか言い逃れようとしている。

しかしここで逃がすほど恭也は詰めが甘くない…。

ビシッ!!と那美の顔を指しながら

「さらに、あなたの顔が真っ赤になっているのが何よりの証拠です…。

昨日の俺達の様子を思い出して、照れているんでしょう!!」

この言葉が、止めだった…。

「すいません…私も昨日の薫ちゃんの様子がおかしかったので…、

あとをつけて、一部始終を見てしまいました…」

 

パチパチパチパチ…

「凄いね〜、お兄ちゃん…」

「…恭也…カッコイイ…」

いつから居たのか、なのはと久遠が拍手しながら感心している。

「まあな、なのは。憶えておくと良い、御神の剣士は推理でも負けないという事を…」

そんな恭也を含めた道場に居る四人はそれぞれ顔が赤くなっていた。

那美と美由希は昨日の夜の薫と恭也の事を思い出して…

一方の薫と恭也は見られた事を恥ずかしがって…。

 

恭也は、勝負(推理)に勝って、魂的には引き分けな気分であった。

 

 

 

高町家から、さざなみ寮までの道を恭也と薫は歩いていた。

(ちなみに那美は今日、美由希の部屋に泊まり)

「しかしお互いに迂闊でしたね…。誰かに見られてたなんて…」

まだ少し顔を紅くしている薫。妹の那美に見られたのがよほど恥ずかしかったのだろう。

「…恥ずかしかね、恭也君」

「はい…」

「でも那美と美由希ちゃんで良かった…」

「え?どういう事ですか?」

「あの二人なら他言しないだろうから…」

「そうですね、それは有るかもしれませんね」

「それに那美はともかく、美由希ちゃんには剣士として、良い経験になったと思うし…」

確かに、昨日の二人の闘いを見て美由希は気を引き締めた様だ。

これで一層、剣に励むだろう。

そう思うと、薫との束の間の逢瀬を見られたのはかなり恥ずかしいが、

『まあ、良しとしよう…』

と恭也は思えたのだ。

 

綺麗な月が作り出す銀色のヴェールに包まれた夜道を歩く二人は、ギュッと手を繋いでいた。

 

手を繋ぐたびに思い出すのだろう…。

二人の現在(いま)はこの手の温もりから始まったと言う優しい事実を…。

 

 

「ただいま戻りました」

「お邪魔します」

 

今日もさざなみ寮のリビングからは賑やかな笑い声が響く。

「家も相当に賑やかですけど、ここも凄いですね」

「ああ、昔からの伝統だね…」

 

二人がリビングに入っていくと…

美緒、リスティ、舞、愛が一斉に今まで以上に笑い出した。

 

「「?」」

恭也も薫も良く現状が把握できないで呆然としていると…

リスティに膝枕してもらう形で美緒が横になっていた。

そして突然…

「心配かけちゃったみたいですね…」

「何で僕が自分から無理をして、愛を怒らせるようなバカの心配しないといけないんだい?」

「リスティ、ちょっと台本とセリフが違うのだ」

「まあ、アドリブと言うかアレンジと言うか…ね」

 

まだリスティと美緒が何をしているかわからない薫と恭也。

対照的に、楽しそうな顔でそんな様子を見守るさざなみ寮の面々。

 

「いつも泣かせてしまうんだな、私は…。

貴女を笑顔でいさせてあげたいと想ってるのに…」

美緒がおどけた口調で、リスティに言う。

「君の傍では安心して涙が見せられるから…。弱さも脆さも安心して晒せるから泣くんだよ」

リスティも笑いをこらえながら言葉を続ける。

「泣きたいだけ泣いて…また明日会った時には私の好きなリスティさんの笑顔を見せてくださいね…」

「もういいかげん、僕の事をリスティと呼んでくれると…嬉しい」

「リスティ…まだ伝えたい事はあるけれど、今はとりあえず一つだけ…好きだ…」

 

ここまで来て、ようやく薫と恭也は戦慄を覚えた…。

 

台所から出てきた耕介が意味ありげにウインクする。

もちろん顔は必死で堪えているつもりであろうが、しっかり笑っているのは言うまでも無い。

『まさか…』

そんな思いが等しく薫と恭也の心に沸き起こる。

 

耕介が指差すテレビの中ではよく見知った人が映っている…。

 

(テレビの中で)

「いつも泣かせてしまうんだな、俺は…。

貴女を笑顔でいさせてあげたいと想ってるのに…」

 

「君の傍では安心して涙が見せられるから…。弱さも脆さも安心して晒せるから泣くんだよ」

「泣きたいだけ泣いて…また明日会った時には俺の好きな薫さんの笑顔を見せてくださいね…」

「もういいかげん、ウチの事を薫と呼んでくれると…嬉しい」

「薫…まだ伝えたい事はあるけれど今はとりあえず一つだけ…好きだ…」

 

良く見知っているも何も薫と恭也本人であった…。

「「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」」

今まであまりの事に呆然としていた二人であったが、薫と恭也から同時に大声で叫び声が上がる。

 

何故ならブラウン感の中の二人の唇がゆっくり近づいていって…。

「「見ちゃ駄目!!!」」

恭也と薫がそろって、テレビの前に立ちふさがる…。

そして慌ててビデオを消してテープを回収する。

テープのラベルには

『特選!!真雪印のスペシャルAV第2弾『剣術少女の夜の鍛錬』』

と書かれていた。

「…………」

呆然とする恭也の手からテープを奪い取ると、薫は真雪に食って掛かった。

「なんですか?このビデオは!!!真雪さん!!!!」

「いや、私も剣術家として昨日のお前らの闘争を見て参考にしようかと思ってな…」

事も無げにニヤニヤと言い放つとは真雪恐るべし…。

「何処が闘争ですか!!!?何処が!!!」

薫の言うとうり、ビデオには薫と恭也の戦いは少しも映っておらず、

その後の二人のラブラブな様子がエンドレスで入っていた。

 

こうして昔からさざなみ寮にいる愛、耕介、美緒、リスティには懐かしい

木刀片手に真雪を追い掛ける薫の姿を久々に見る事になった…。

 

「しかし、第2弾って…1弾は…一体…?」

薫は真雪を追いかけて外に行ってしまい、独り呆然と佇みながら呟いた。

「第1弾の被害者は俺…」

そう言いながら、引き攣った笑顔を浮かべ耕介が話しかけてきた。

「耕介さんって事は…」

「ご名答…俺が愛さんに告白した時のやつ…。

タイトルは『槙原愛の愛の営み』だった…」

「…苦労してますね、耕介さんも…」

「君もがんばれよ。

真雪さん相手だから助けにはならないかもしれないけど、相談くらいなら乗るから…」

と、少し遠い目をしながら恭也は耕介と男の友情を育んでいた。

 

そしてようやく戻って来た薫ともども寮の人間に散々冷やかされたのは言うまでも無い。

もちろん耕介にも…。

 

「耕介さんの裏切りもの〜〜〜〜〜!!!!」

 

山々に木魂する恭也の絶叫が物悲しい…。