《神咲の名を持つもの》
恭也対神咲家最強の3人との闘い。
その事実は、恭也に奇妙な興奮を与えていた。
身体の内側から沸き立つような喜びが、恭也の身体を奮えさせる。
そんな恭也の傍らに立つ薫の瞳には、確かに映っていた。
爛々と輝き少年のような光を瞳に宿す恋人の姿を…。
「最初は私だ」
そう言って、神咲一樹が一歩前に進み出てきた。
「私は君が気に入っている…。
父親としては薫もそれを望んでいるのなら、君の願いを叶えてあげたいとも思う。
しかし、一介の剣士としての私が君ほどの強者との闘いを心底欲している様だ…」
そう言いながら、木刀を平青眼に構える。
『隙の無い良い型だ…。一朝一夕にできる型ではないな…』
構えを見て、恭也は瞬時に一樹の実力を察した。
恭也は軽くフットワークを踏み始めた。
「薫さん…開始の合図を…」
恭也の言葉に薫は慌てて合図を送る。
「ただいまより、高町恭也対神咲一樹無制限一本勝負をはじめます」
そう言って薫の右手が上げられる。
シ――――――――ン
道場内の全ての人間の注意が、二人に注がれている。
「始め!!!!」
薫の言葉と共に右腕が振り下ろされて戦いは始まった。
シュッ・・・
開始の合図と共に恭也が一直線に一樹に向かっていく。
「は…早い!!!」
一刀流当代の一樹ですら驚愕するほどのスピード
道場にいた人間のほとんどには、消えた様にしか見えなかった。
「こ、これがあの伝説の神速と言うやつか…」
和音が思わず感嘆の声を上げる。
「違うよばあちゃん…。神速は見ることも反応する事もできない。
これは、恭也君が普通に移動しているだけだよ…」
「な…、これが普通の移動速度だと…」
恭也は始まって一瞬で一樹の懐に飛びこんだ。
しかし、さすがに一樹も一流の腕の持ち主である。
驚愕しながらもきっちり恭也の飛びこみに合せて、上段から袈裟斬りに斬り降ろした。
それを、敢えて紙一重のギリギリまで見極めて恭也は軽く避けてみせた。
そして、また懐に飛びこもうとする。
「もらった!!追の太刀!!!」
昨日の北斗やかつての薫よりも遥かにすばやく、無駄の無い身のこなしから鋭く左切上に一閃を放った。
「っち!!」
今度は恭也も、大きく一度距離を取らざるを得なかった。
かつて恭也と闘った時、薫は右薙ぎに、北斗は刺突に追の太刀を放ってきた。
どちらも左肩から切り下ろす一撃目から繋ぎやすい二撃目だった。
しかし今一樹は、最も変化しずらい左切上を二撃目に持ってきた。
『薫さんや北斗君と違って追の太刀が自由自在に変化するのか…
少し厄介だな…』
「戦いの最中に考え事は良くないな…」
「なっ!!!」
恭也には劣るとはいえ、物凄い速度で一樹は距離を詰めていた。
そして、一刀流特異の剣先を肩に載せるくらいに倒した例の型から、最強の一撃が振り下ろされる。
『避ければ変幻自在の追の太刀が待ってる…
しかし、あの一撃を受けたら木刀なんて簡単に砕かれかねない…
となればこれしかない!!!』
頭上に右の小太刀をかざす恭也。
「甘いぞ!!恭也君。我が一刀流の初撃を片手で受けとめられるはずがあるまい!!!」
一樹の最速最強の初撃が恭也がかざした右の小太刀を枯れ枝の様に砕く…
道場内の誰もがそう思っていた。
しかし・・・・・・
「ええ…止められないでしょうね…右の小太刀一本じゃ」
その言葉と共に恭也は右の小太刀と一樹の刀が重なる刹那の瞬間に合わせて、左の小太刀で自らの右の小太刀を打った。
ガァァァ――――――――――――――――ン
そんな物凄い衝撃音と共に、ちょうど道場の中心部分で恭也の右の小太刀と一樹の刀が砕けていた。
「何故…私の刀が…砕かれたんだ…?」
有り得ない事態に茫然自失になっていた一樹の首筋に、恭也は左の小太刀を突き付けて一言呟いた。
「勝負の最中に考え事は良くないですよ…」
目の前で起こった事態が信じられないのは、見ていた人間も同じだった。
ボーッとしていた和音は、ハッとして慌てて恭也の勝利を宣言した。
「勝負あり…高町恭也一人勝ちぬき…じゃ…」
薫は以前真雪と恭也が闘った時に似たような光景を見たことがあった。
「あれは確か…」
「御神流『貫』か…」
薫が思い出す前に背後でその技の名を呟く男がいた。
「和真!!なんであんたが恭也君のあの技の名を知ってるとね!!!?」
姉の質問に答える変わりに和真はかつて見たこともないほどに真剣な表情になって薫を見つめた。
「父さんは剣道家として一流だけどね…それじゃあ駄目なんだ」
「和真、何が言いたい?」
「彼はあの時既に超一流の剣術家だったからね…、一流じゃあ…勝てないんだ…」
「あの時?和真お前…」
姉の言葉を途中で遮り、和真は恭也に向かって歩き始めた。
一度だけ振り向き薫に向けてはっきりと言った。
「薫姉には悪いけど…、俺は彼に負ける訳には行かないんだ…。もう二度とね…」
そしてもう振りかえらずに真直ぐ恭也に向かって歩いて行った。
その手に握られているのは破魔刀『無月』。
鉛より重く鋼より硬い鉄刀…
「和真…。本気で、恭也君を殺すくらいに本気でこの闘いに臨んでいるなんて…
いったい、どういう訳があるんだ…?」
和真は未だ、呆然とする父の元に行き肩を叩いた。
「父さん、お疲れ様です。後は俺と耕介さんに任してください…
それと恭也君、俺はきみと屋外戦をしたいんだが…、もちろん刀も鋼鉄製の物を使って…」
そう言って、和真は恭也と対峙した。
『強いな…この人…』
向かい合い、視線を合わせただけで和真の強さと殺気が恭也に伝わってくる。
『昨日や朝と同一人物とは思えない…。薫さんとほぼ互角…。
いや、下手をすると今日のこの気迫と殺気なら薫さんを凌ぐかもしれない…』
恭也はまたして強者と対峙する、今この時に沸き立つような歓喜を感じていた。
『修羅でなくても、剣士にはきっとこのような救い難い願望があるのかもしれないな…』
そんな事を、薫は恋人と弟を見ながら考えていた。
恭也は一樹との一戦が終わったばかりにも関わらず、息一つ乱していない。
静かに構えを取る恭也と和真という強者二人を見て、密かに薫も胸が高鳴っていた。
『あの恭也君と闘った夜…。ウチも確かに強者との闘いに身を投じる喜びを感じた…』
救い難いな剣士の性は…
そんな感じの自嘲の笑みを洩らしながら薫は闘いの幕を上げた。
最愛の恋人と最愛の弟の闘いの幕を…
薫の開始の声と共に、恭也も和真も一度背後の森に姿を隠した。
そう、この和真対恭也の闘いは一定範囲内に区切られた野外戦、
そして武器はともに刃は付いていないが、鋼鉄姓の模造刀…
つまりより実戦に近い状態なのである。
ついでに言うと、結界内で行われているこの野外戦の様子は神咲一派の中でも、後方サポートを主とする楓月流の術によって、道場内の人間にも見ることが出きるようになっている。
戦闘の方は、この森を幼いころから庭として遊んでいるだけに、森の構造を熟知している和真が静かに恭也の背後を取る事に成功していた。
恭也の背後の木の上から、恭也の頭を狙って気配も殺気も消したまま霊力を込めた無月を叩きつけようとする。
「くっ!!!!」
微妙な空気の流れの変化から、和真の攻撃を察した恭也が地面を転がる様にして辛うじてそれを避ける。
すぐに立ちあがり体勢を整える恭也の視界に、既に恭也に向けて横薙ぎに一閃を放つ和真の姿が映った。
ガキ―――――ン
静かな森に響く無機質な金属音。
そして、………ギリギリギリ
と、お互いの刀を力一杯押し合っている両者の刀が擦れ合う音があたりの静寂を破壊していた。
ちなみに和真の剛刀を、いくら恭也といえども片手の小太刀で防ぎきれるはずも無く、両手の小太刀でガードした。
そのために刀の押し合いに負けて体勢を崩した方が、恐らく負けると言う構図になってしまっていた。
そのままの体勢で5分以上、お互い力をこめて刀を押し合っていたが、ピクリとも動かない…。
両者の力は全く互角であった。
「このままじゃ、埒があかないな…」
先に動きを見せたのは和真の方であった。
「神気発勝」
その言葉と共に無月の刀身が黄金の輝きを放ち始めた。
闘いの天才とも言うべき恭也の本能に警告が走った。
『ヤバイ!!!この体勢は…危険だ…』
そう思った矢先に恭也の小太刀からピキピキと耳障りな音が聞こえ始めた。
全く互角の力がかかっていたところに、新たに和真の霊気と言う圧力が加わった歪みで、恭也の小太刀にヒビが入り始めたのだ。
『このままでは小太刀が砕けて俺は負ける…、
しかしここで力を少しでも抜いたら、一気に和真さんに押し切られてしまう…』
八方塞。少なくとも常人にはそう思えた。
「くっ・・・」
恭也が和真の剣椀に押されるようにじりじりと後ろに下がっていく。
そして、和真は恭也を背後に樹齢100年は越える巨木まで追い詰めていた。
しかし、和真の顔には焦りが浮かんでいた。
『おかしい…』
実際に、和真の剣椀が恭也を圧倒しているのなら、恭也は後に退がる前に刀を砕かれ横薙ぎに切り払われているはずだ。
しかし、恭也の力は少しも衰えていない。
そこから導き出される結論は一つ
『恭也君は自発的に背後に巨木を背負った』
それ以外に考えられない。
しかし、それが和真には理解できなかった。
自ら逃げ道を塞ぐ事のメリットが見出せないのだ。
『何が狙いなんだ…?』
もし、恭也がこの状態から和真を圧倒する腕力で刀を押し返せるとしても、それは意味が無い事だった。
すでに先ほどの鍔迫り合いでヒビが入っている恭也の刀はこれ異常の衝撃には絶えられないはず…。
『何が狙いなんだ…?』
結局、結論が出ないまま和真の思考はメビウスの輪のように同じところに戻ってきてしまう。
『何が狙いでも構わないか…』
不意に不敵に笑う和真の顔を、恭也は怪訝な眼差しで見つめた。
「君が何を狙おうと、どんな策を弄しようと、それを全て一刀の下に切り伏せる!!
それがわが神咲の剣の極意だ!!!!!」
和真の刀に今まで以上の力と霊力が篭り、恭也は小太刀が砕かれる寸前まで追い詰められた。
その瞬間、恭也の視界はモノクロームに染まり世界は色を失っていく…
『御神流 奥義の歩法 神速』
和真の無月がゆくっりと迫り来る。
背後の巨木によって極端に移動の場が制限されている為、神速を用いても完全には避けきれずに、脇腹に傷を負う。
その痛みに顔をしかめながらも、一気に和真から距離を取った所で神速の世界が終わりを告げた。
「な、なに!!!!?」
和真は確かに自分の目の前に居たはずの恭也が、完全に視界から消えた事に驚愕した。
さらに勢いがついた斬撃は急に止める事も叶わず、目の前の巨木に刀を突き刺した。
一方、神速で間合いを取った恭也は和真の死角から数本の飛針を放ち懐から別の小太刀を取り出して一気に切りかかろうとしていた。
――――――――――――道場内―――――――――――――
「何じゃ!!!!?今の動きは!!!」
和音もまた和真と同じく恭也の不可解な動きに驚きの声を上げた。
「あれこそが…『神速』だよ…」
かつて、恭也と闘った時に経験した薫が和音に教える。
「なるほど、さすがだね…。
まさに『刻を支配し者なり』だ…」
傍らで、耕介がかつてさざなみ寮で真雪が薫に聞かした伝承の一節を揶揄する様に呟いた。
「それにしてもさ…薫」
「はい・・・・?」
「恭也君、また強くなったみたいだね…。
しっかり薫と戦った事が成長に作用してる…」
「…どういう事です?」
「和真との鍔迫り合いで、あのままだったらどう動いても恭也君の負けだった…。
例え、神速で間合いを取っても振り出しに戻るだけ…。
だから恭也君は傷を負うのを承知でわざと巨木を背負ったんだよ。
巨木を背負い神速を使えば、和真の刀は背後の巨木に突き刺さるだろ?
その隙に一気に勝負を決める…。いや〜、見事な闘いの駆け引きだよ…。
薫との闘いで、彼は闘いの駆け引きの方法を身体で学んだんだ…
そして、薫と同等のキャリアを誇る和真の上を行った。って事さ…」
「恭也君・・・」
薫は恋人の成長ぶりに頼もしさと…少しだけ嫉妬を覚えながら名前を呟いていた。
「でも・・・、甘い!!!!」
耕介がその呟きと共に指し示したように、和真は驚くべき行動に出ていた…。
「なるほど…、これが狙いだったのか…」
飛針の風切り音で方法はわからないが、恭也が自分の背後に居る事は和真も瞬時に理解した。
和真の刀『無月』は、斧ですら切り落とすのに苦労しそうな巨木に食いこんでいて
容易には取れそうも無い。
しかし…
「神気発勝」
言葉とともに刀身に霊気が宿る
「真威 楓陣刃!!!!」
メキメキメキメキ…
ゴオオオオオオオオオオオオオオオン
…………
轟音と共に、巨木はあっさりと切り倒され、和真はその勢いのままに己に向かって飛んでくる飛針を全て払い落とした。
「なっ!!!」
驚いたのは恭也である。
巨木にめり込んだ刀は、まずそう簡単には取れない…。
しかしそれでも、和真ほどの達人なら刀無しでも飛針をかわすのは確実だと思っていた。
しかし、そのためには刀から一瞬離れるしかない。
その一瞬こそ勝機!!
徒手空拳になった和真を一刀の下に切り伏せる。
それが恭也の考えたシナリオであったのだ…。
しかし、その策は根本から覆された。
まさか斧でも切り倒すのに難儀する、あの巨木を一瞬で切り倒すなんて想像もできなかった。
『和真さんが体勢を持ちなおす前に終わらせる!!!』
そう考え、真直ぐ一直線に和真に向かってくる恭也に、和真はカウンターで刺突を繰り出す。
和真の予想だにしない行動に対する驚愕で、一瞬反応が遅れてしまい、和真の刺突が右肩に突き刺さる。
『このままではやられる!!』
和真に牽制のために鋼糸を放ち、左手に巻き付ける。
バッと刀から手を離し、鋼糸から左手を抜く和真、その一瞬の間を利用して一度距離を取る恭也。
お互い構えを取り直し、呼吸を整える。
恭也の脇腹と、右肩からは鮮血が流れ出し、その服を赤黒く染めていた。
「恭也君!!」
緊張感はそのままに和真が声をかける。
「何です?」
「小太刀や鋼糸のほかに小刀も好きに使うといい。
本気の君を相手にしたいんだ…、『死合い』だと思ってやってくれてかまわないよ…」
何故、鋼糸や飛針の名を知っているのか?
何故、薫にすら一度も使っていない小刀の存在を知っているのか?
幾つかの疑問が恭也の頭を巡った。
『そんな事はどうでも良いか…。こんな強い人と本気で戦えるんだから』
そう思う自分に恭也は何故か苦笑していた。
「わかりました、和真さん。殺すくらいに本気で…行きます…」
そう言った恭也に、和真は一瞬圧倒的なまでに今までと違う何かを感じた…。
空気が今までのただピーンと張り詰めた物から、ピリピリとした一触即発の物に変わった。
フッと…恭也が闇に紛れる様にして気配を殺すと、そのまま和真の剣の間合いまで飛びこんできた。
正面から無策で飛びこんでくる…
その恭也の行動は多少以外ではあったが、和真ほどの歴戦の強者が反応できないほどでもない。
そのまま、恭也の飛込み際に会せて神咲一灯流の最強の一撃。
右肩へ袈裟斬りに斬り降ろす一撃を振り下ろす。
しかし、この斬撃に対する恭也の行動は予想の範疇を大きく越えていた。
防ぐでもかわすでも無く・・・・・・・・流す。
右の小太刀で和真の切っ先に横ベクトルの力を加えその剣閃を逸らす。
そして逸らされた切っ先が追の太刀に変化する前の刹那の時間。
具体的には和真の切っ先が振り下ろされるよりも僅かな時間に
恭也によって和真は4回も斬られていた。
一、二発目で左右のアバラを砕かれ、三発目で右腕を砕かれた。
そして4発目の最後の一撃は柄で和真の顎を跳ね上げていた。
一瞬後、地面に仰向けに倒された和真の喉下には恭也の小太刀が鈍い輝きを放っていた…。
「降参…してくれませんか…?」
恭也の声には圧倒的な冷たさが有った。
一度、死合いと言った以上降参を拒んだら喉もとの刃を振り下ろす意思が有るのが明確に伝えられた…。
「マイッタ…、また君には勝てなかった…」
そう言って身を起こそうとするが、折れたアバラが痛むのか、和真は顔を歪ませた…。
「和真〜〜!!」
闘いの終わりを見て取ったのか、和真の元に十六夜を持った薫が駆けて来た。
「十六夜!!和真の傷はどげな具合じゃ!!!!?」
十六夜は、そっと和真の身体を触診していき安堵の溜息をついた。
「安心してください、折れたアバラは全て臓器を傷付けない場所ですし、
折られた右腕も非常に綺麗に折ってあります。
私が癒しをかけて3日も安静にして居れば元どうりです」
「そうか・・・」
安心した薫は、恭也の方に向き直り肩と脇腹の応急処置をし始めた。
「あ、すいません薫さん」
薫には、それが怪我の治療に対する感謝の言葉なのか、弟を怪我させた贖罪の言葉なのか判断がつきかねた。
「あの最後の攻撃は…」
結局、関係無い話を切り出し話題を変える事にした。
「御神流奥義之六 薙旋 だろ?」
恭也が答えるよりも早くに和真の声が上がった。
「ええ…そのとうりですけど…和真さん何で…」
「御神の奥義についてまで知っているのか…、そう言いたいんだろ?」
薫と恭也はこくんと無言で頷いた。
「実際、俺が薙旋を食らったのは始めてじゃ無いんでね…」
「ど、何処で御神の剣士と戦ったんです!!!?」
「場所は俺が通ってた高校・・・。
相手は、まだ中学生くらいの少年だったよ…
全国を武者修業して歩いているって言っていたな」
恭也がピクンと反応した…。
「そう、思い出したかな?その少年は不破恭也…と名乗ったよ…」
「和真!!あんた恭也君にあった事があったの?」
「ああ…、あのころの俺は高一にしてI・H(インターハイ)で優勝して天狗になっていた時期だ。
すでに一灯流の剣士として退魔の道に身を置いていた俺は、竹刀でビシバシやってる剣道家を馬鹿にして居たんだよ…。
そんな俺の前に恭也君は現れた。
僅か一瞬で負けたよ…完膚無きまでにね…
そして、何度向かっていっても勝てなかった…」
「高一の時点ですでに一刀流免許皆伝だった和真に…」
「その時に最後に倒された技が、薙旋だったのさ。
そしてちょうど今の俺と同じように、仰向けに倒れて動けない俺に少年は言ったよ。
『生まれ持った才能があっても、磨かなければそれはただの可能性に過ぎない…。
噂で聞いていたよりもたいした事が無くてがっかりだよ…』ってね」
「和真さんが、あの時の人ですか…」
「ああ。やっと思い出して貰えたかな?
俺は、鹿児島駅で会った時から…いや薫姉から名前を聞いた時から、君だと思って居たんだがね…」
「すいません」
「気にする事は無い…。それよりも今日の俺との勝負も…つまらなかったかな?」
「いえ…こんなに楽しい闘いは久しぶりでした…」
その言葉に和真は嬉しそうに微笑み、担架で道場に運ばれていった。
最後に一言残して…
「傷が癒えたら…また再戦させてもらうよ…俺が勝つまでずっとね…。
何、時間はたっぷりあるさ…義兄さん…」
そして、少しの休憩をはさみ、最後の闘いに恭也は挑む。
それは生涯忘れられない闘いになる事を彼は未だ知らない…
後書き
いかがでしょう?恭也対神咲家の3人の1、2回戦は。
一樹は少しかわいそうなくらいあっさり負けてしまいましたが仕方ないでしょう…。
修羅の邂逅で恭也は薫に道場でなら絶対に不覚を取らない事を明言していました。
しかし苦戦したのは、薫の実戦における見事な闘い方があったからです。
いくら、薫よりも優れていても御神の剣士を相手に普通の剣道家じゃ勝てない…。
奇しくも和真がそう言っていましたね。
しかし、北斗、和真、薫と闘い、子供の頃に和真、薫、那美と出会い、
那美に愛され、薫と付合っている。
恭也と神咲4兄弟の縁の深さたるや前世で何か有ったんでしょうか?(笑)
それじゃあ、次回はいよいよ神咲家最強にしてイレギュラーな男耕介との闘いです。
さざなみ寮で薫や恭也をからかっていたときと違う雰囲気は、今回の話ですでに醸し出してはいますが、
次回戦いの果てに恭也が見るものは!!!!!?