過去と未来の狭間で・・・


《13話》

清涼な朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、身体の隅々まで行渡らせる。
呼吸を整えるように、二度、三度と意識的に大きく息を吸い込むと、額の汗を軽く拭う。


「大丈夫ですか?」


肩で息を吐きながら、いづみがコクコクと首を縦に振る。
苦笑した表情を気が付かれない様に引き締める。


「少し座りませんか?」

「私は・・・まだ・・・全然平気・・・ですから・・・」


『う〜ん、負けず嫌いと言うか意地っ張りというか』


息も絶え絶えな口調は、どう贔屓目に見ても平気とは思えない。


「でも、今日街の何処を案内してもらえるのかとか、少々話したいことも有るので」

「そうですか・・・じゃあ・・・仕方ないですね」


恭也の横に腰を下ろし呼吸を整える。



手渡されたミネラルウォーターに白い咽喉を鳴らし、額にかかる艶やかな黒髪を払う。
朝日に照らされて、汗がキラキラと輝き「美味しい」とニッコリと微笑み恭也に礼を言ういづみ。







「どうしました?」

「え!?あ、その、ごめん。少しボーっとしてしまって」

いづみの言葉に恭也はハッとした。


見惚れる、これ以上にこの言葉が似合う状況など、そうそう無いに違いない。


それほど今のいづみは綺麗だった。



「ところで気になってたんですけど、高町さんは千堂先輩と同じクラスということは、先輩ですよね?」

「そうですが、それが何か?」

「ほら今も。私に対して何で敬語で話すのかなって?」

「ああ、それは最初にお会いした時にそうだったんで何となく、何か問題がありますか?」

「いえ、別に問題は無いですけれど、落ち着かないなぁ、と思いまして。良ければ『いづみ』でかまいませんから」

「落ち着かない・・・そうですか。では善処してみますね」



善処も何も、全く変わっていない恭也の口調に、いづみは一人苦笑した。


「はい、では善処してくださいね。
で、今日はどうしますか?海鳴の街を案内すると言っても漠然としていますが・・・」


そうですね、と呟き、指を形のよい顎に当てて黙考する恭也をいづみは鋭い目で観察する。

厳しい日ごろの鍛錬をこなしている自分。
その自分と比較しようも無いほど、恭也のロードワークは激しかった。


『信じられない』


忍者とは、無論、護衛や警護など、その訓練された体術などを駆使し戦闘も行う。
そして、その戦闘能力は、剣術家や格闘家に劣る物ではない事も自負している

それでも忍者の一番大きな役割は、戦闘ではない。
情報活動、それは諜報にしろ伝達にしろ、それこそが忍者を、ただの戦闘者とは一線を画す存在とし、国家から資格をもって認定される理由でも有る。

そしてその情報活動に求められる物。
それは、優れた平衡感覚や目や耳などの五感、そして過酷な状況でも変わらず活動できるための体力である。

だからいづみも体力づくりには特に余念が無かった。
その自分すらもあっさり凌駕して見せるほどの尋常じゃない恭也の体力。

瞳と自分、二人を圧倒した戦闘力共々、謎が多い人間であることは間違いない。



『あの人は只者じゃない、そして3年のこんな時期に転校してきた理由や不可思議な言動を含め、多くの秘密を抱えています。
正直言って得体が知れない怪しい人間です、御剣さんもあまり近づかないようにしてください』


昨日の別れ際の瞳の言葉が脳裏に浮かぶ。
『怪しい人間』、そんな自分の着想を打ち消すように首を振る。

怪しい、と言うか不思議な部分も含めて、自分は高町恭也という人間を危険が無いと感じた。
今日一日を通して恭也の人となりを判断することに決めた。
なら、今日一日は先入観を持たずに、事実に基づき彼を判断するべきだ。


もう一度そう自分の中で結論付けて、自分の思考から恭也へと意識を戻す。



恭也の整った横顔と大人びた容姿


「そんなに悩まなくてもいいと思いますけど」

苦笑気味のいづみの言葉。しかし恭也に言わせればそうはいかない。
そもそも恭也が街を案内してもらいたかった最大の理由。
それは、未来の海鳴と過去の海鳴の違いを明確に把握しておきたかった、と言うことだ。
自分だけならそれほど重要じゃないかもしれない情報、戦闘に向く場所、逃走経路の確保、裏路地のチェック。
何かあった時のために、それらを知らなければ忍や那美を護りきれないかもしれない。
過去に来てしまった理由も、未来に戻れる保証も、頼るべき味方もほとんど居ない現在(世界)世界

それをそのまま説明する訳にはいかない。
そもそも恭也は口下手なのだ。
だからこそ言葉にならず黙考を重ねることになる


「じゃあ、私に任せてもらってもいいですか?」


さらに十分が過ぎ、固まってしまった恭也を見かねていづみが出した提案に従うことになった。

「では、今から一時間後にこの神社に集合と言うことで一旦解散しましょう」

何で一時間後?と言う恭也の疑問に、いづみは苦笑気味だ。

「私、一応女なんですよ、こんな汗でべたついた格好で街を歩けと?」

一転、少しだけ俯き、頬をほんのりと朱に染めて照れたような仕草を見せる。
日ごろ、少年のような印象の御剣いづみが見せた、少女の表情
忍者と言うには、その感情の豊かさが、果たして適しているかは恭也にはわからない。
しかし、一人の少女としていづみを見た時、それは間違いなく彼女の快活な魅力を際立たせる。

真直ぐな、芯の通った真直ぐな性根と、少年と少女という相反する二つの表情。

自然、自分の顔が熱くなるのを感じ、彼女に背を向ける。

「わかりました、では一時間後にまたココで」

そう言い残すと返事も待たず走り去った恭也。
一人取り残されたいづみは、不思議そうに首をかしげたまま、その背中を眺めていた。
























日曜の午前中、しかもサンサンと輝く冬の太陽の恵みが、程よく街を暖める。
絶好の行楽日和の海鳴公園は、恭也やいづみと同い年くらいの少年少女で溢れていた。

そんな公園を、恭也といづみは、たこ焼きを片手にのんびりと歩いていた。

黒いシャツに黒いパンツと言う、相変わらずの黒一色の恭也と、白いトレーナーにジーパンと言う、至ってラフな格好のいづみ。
お世辞にもデートには見えない二人だが、本人達は楽しそうだ。

「午前中は商店街を中心に回りましたがどうですか?」

「いや、井関さんの店は相変わらず、本当に丁寧な仕上げをしてくれるな」

「そうでしょう?品揃えもいいですしね」

「確かに。まさか本物の備前長船が拝めるとは思いませんでした」


・・・・・・会話の内容は置いておいて、本当に楽しそうな二人。


「いづみさん、タイヤキ食べますか?」

「え?いや、そんなに気を使ってくれなくても・・・」

「いやいや、今日は俺のために時間を割いてもらってるんだから、気にしないで」

「じゃあ、餡子で・・・いや、やっぱりクリーム。いや、餡子かな」


悩むいづみに「はい」と、タイヤキが収まった袋を渡す。

「悩んでたみたいだから両方買いましたよ」

「え・・・、その、ありがとうございます。
ちょっとみっともないですね・・・って!!?」

と、苦笑しながら恭也にお礼をいう。
しかし、その顔が突然強張る。
何か?と、不思議そうな恭也の手には、タイヤキカレー味が。

「高町さん、それは邪道です」

「そうですか?でも美味しいですよ」

まだ何か言いたげないづみの口に、カレー味のタイヤキを放り込む。

「・・・美味しい」

不覚にも口にしてしまった自分の言葉

「でも、邪道なことには・・・」

と、口ごもるが語気は弱い。


すれ違う人の何人かは、男女問わず二人を振り返る。


ベンチに座り、タイヤキを頬張りながら午後の予定を相談する。

「午後はどうします?」

「そうですね、学校の周りとかを案内してもらいたいと思ってるんですが・・・」

「わかりました、学校から駅前まで歩きましょうか」


勢い良くベンチから立ち上がるいづみ。
チリンと小気味良く鈴の音が鳴る。





















冬の短い太陽がやや傾き心なし気温が下がってきたようだ。
さっきまで快適だったが、今はやや肌寒さを恭也は感じていた。



最もそれは今立っている場所のせいも多分にあるかもしれない。


何か薄ら寒い空気、それはまるで日常から切り離された異界に迷い込んだような、言葉にし辛い、何かが居そうなそんな空気。
恭也はこんな空気を知っていた。
過去に来る前、那美の『裏』の仕事を初めて垣間見た、あの人に在らざりし者が巣くった建物の一室のような空気。

『何か』が確実に居る。
およそ霊力とは無縁の恭也にすら、そう感じさせるほどこの場所の空気は特別だった。



ただ、それだけじゃない。
午前中とは打って変わり、公園を出てから彼女はほとんど喋らない。
元々無口な恭也が、何とかして話しかけても、仕方なく相槌を返すだけで自分から喋ることは無い。
案内する道も裏路地など人気が無い場所ばかり。
最も恭也が最も知りたかったのはそういう部分。
人目につかない路地や、何かあった時のための逃走経路なのでその意味では理想的ですらある。
あとは、戦闘に適した、人目に附きにくく、ある程度の広さがある場所が見付かれば完璧だ。
しかし、恭也はその希望をいづみに伝えた憶えは無い。




「ここは旧校舎です、今はもうほとんど使われていないので、人が訪れることは稀です」




背中を向けたまま、いづみは呟いた。
感情も感じさせず、無表情な彼女。
後ろを向いているいづみ、それなのに恭也は、彼女のその表情すらも見えた気がした。


「何で、ここに俺を連れてきたんですか」


およそ彼女らしくない態度に、何かを感じながらも、恭也は訊ねずに居られなかった。
まさか!と言う肯定の感情と、まさか?という否定の感情
理性(肯定)肯定感情(否定)否定は奇しくも同じ言葉で表される。




「何故?ですか・・・」

答えは決まっている

「当然ですよ」

そう、いづみの態度が全てを物語っている

「私は貴方に頼まれたんですよ」

感情がいくら否定しようとも

「だったら、貴方が望む場所を紹介するのは、当然でしょう?」

理性は冷静にその事実を認識していた。

「ここなら死角ですからね、平日であろうとも、見つかることはそうそう無いと思います」



振り向いたいづみと恭也の視線が一瞬交差する。
空気を切り裂き、迫り来る九無
醒めた瞳、まるでこちらを観察するような視線。


「試してみますか?」


返事を待たず、既に次の九無が、正確に眉間と咽喉に向かって、真直ぐ放たれている。
確かに鋭い攻撃ではある。
恭也はそれを紙一重で躱す。
彼女が何を思って攻撃を仕掛けてきたのか、恭也にはわからない。
自分も刀を抜いて応戦すべきだろうか、一瞬頭に浮かぶ武芸者としては当然の思考。
しかし、恭也はいづみと戦いたくなかった。


「止めてください、何故突然こんな事を・・・」


敢えて刀を抜かず説得を試みる。
そんな恭也の言葉など聴こえて居ないかのように、再び投擲される九無。
狙いは眉間と咽喉に加え右足
その速度は先程よりもさらに速く、流石に今度は恭也にも紙一重で躱すほどの余裕は無い
左に躱した恭也の目に信じられないものが映った。

目前に迫るは3本の九無

『まさか左に避けることまで計算した上で、時間差で九無を放っていたとは・・・・・・』

不十分な体勢では避けることすら難しい。
恭也の頭とは無関係に、身体が反応し懐から小太刀を取り出し、迫り来る九無を全て叩き落とし、弓から放たれた矢のようにいづみに迫る。。


「脇差・・・にしては長いですね。
小太刀、それが貴方の武器ですか」


咽喉元に輝く白銀。
九無を捨て、降参とでも言うように、両腕を上げるいづみ。


「どうです?ここなら戦闘する場所として及第点だと思いますけど」

「まさか、本当にそれを証明する為に攻撃を仕掛けた・・・・・・何て言わないでしょうね?」

「まさかそんな事は言いませんよ」


未だ彼女の咽喉元には恭也の刃が当てられている。
にも拘らず彼女は顔色一つ変えない。恭也の問いに答える声には、僅かに苦笑の粒子すら見て取れる程だ。
それは恭也に対する完全なる信頼か、はたまた何か策でもあるのか。
油断無く辺りを探るも何も気配はない。


「私が気がついていないとでも思いましたか?」

驚愕に揺れる恭也とは対照的に、彼女の表情は真直ぐだった。

「貴方は私の案内中、路地や空き地、街の造りなどを注意深く覗っていたでしょう?
瞳さんに対する、私の襲撃をあっさりと撃退したことを考慮に入れると、貴方は普通を装いながらも何かしらの武力(ちから)ちからを持っている人です。それも恐ろしく強力な、ね」

真直ぐな瞳、真摯な表情。
今日だけで幾度も見た、恭也にとっては、最もいづみらしいと思える表情。
そのままいづみは恭也から視線を動かさずに、瞬きすら忘れたかのようにじっと恭也を見つめていた。

出会ってほんの僅かの時間、彼女の何がわかると言うのか?
むしろ知らないことの方が遥かに多い、そんな事は百も承知。
けれど、その表情を、その瞳を見るだけで彼女が信じるに足る人だと直感が告げる。


直感に身を委ねて良いのだろうか


僅かの逡巡









『私自身の直感が先輩は悪い人じゃないと感じています。』








彼女が忍者としての直感なら、恭也にだって今まで幾度か自分を救ってきた剣士としての直感がある。


恭也の決意が表情に浮かぶ。
下げようとした咽喉もとの刃を握る手を、いづみが包み込むように抱き微笑み静かに首を振る。



「言わなくてもいい、私は恭也さんを信じています。
今日一日を行動を共にして少しは貴方のことが見えた気がします。
何よりも、恭也さんほどの人が、あれほど入念に逃走経路などを調べつくす必要は無いでしょう。恭也さんなら、実力だけで十分に切り抜けられる。
では、何故地理を把握する必要があるのか?
答えは簡単、誰か自分のほかに護るべき人が居るから・・・でしょう?」




頷く恭也をみて微笑むいづみ



「なら、私も一緒です。牙無き人の牙となる。それが忍者としての私ですから
だから、私が持っている情報をお見せしました、最後の戦闘はちょっとした意地悪です」



口調とは裏腹に、寂しげに微笑むいづみ
最後の闘いは、いづみを信じようとしない恭也に対する無言の訴えだろう。
秘密だらけの自分に、そこまで曝してくれた彼女に答えるように恭也もゆっくりと口を開いた。



「申し訳ないけど、全てを話すことは出来ません」



そう、と言う、寂しそうないづみの口調は、恭也の胸を激しく痛めた。



「いづみさんを信じていないからじゃない、ただ、事は俺一人の問題じゃないんだ。
だからここで全てを語ることは出来ない。
でも、俺のことなら話すことが出来ることは全て話すつもりだ」





「何やってるの、貴方たち!」


いづみが口を開く前に、第三者の驚愕の叫びが、否応無く二人の視線を奪った。

何処かで聞いた事がある

記憶は最悪の結論を残酷に突きつけた。


誰も来ないような旧校舎の裏
誰も来ないからこそ、いづみはここを戦闘可能の地として恭也に紹介したわけだ。
ましてや、今日は日曜日
ここに彼女が居ることは、運命の悪戯と開き直るには、少々ヘビーな状況過ぎた。


いづみの咽喉元に輝く白銀

恭也の刃を握る手を押さえるいづみの手

そして、その事態を判断するのは、昨日恭也の得体の知れなさを、まざまざと体験した少女。


「高町君・・・貴方、その刀は・・・」


昨晩、彼女は、夢に堕ちるその直前まで、彼の事を考えていた
只者でない、得体の知れない、だけど心の何処かで彼を、高町恭也を信じようとして、眠りについた。
にも拘らず、今、目の前の光景は決定打。


やはり、高町恭也は危険な人物だと認識されて然るべき


「違うんです、千堂先輩」


刀を下ろした恭也を、庇うように立ち塞がる、いづみの姿が理解できない。
そもそも何で彼女が恭也と一緒に居るのだろう?
昨日、自分があれだけ、恭也には近づかないほうが良いと、伝えたはずなのに


「私が先に攻撃をしたんです」


いっている意味がわからない


「そもそも、何で二人でこんなところに居るんですか?」


二人並ぶ姿が何故だか酷く気に障る


「私が街を案内する約束をしたからです」


それでは、今日は、ずっと二人で居たのだろうか


「私は、彼には近づかないようにと、危険だから近づかないようにと伝えたはずですが」


寂寥の瞳


「・・・はい、確かに昨日伝えていただきました」


昨晩、別れた時と同じ顔


「では何故?」


そんな目で私を見ないで


「私は忍者として、情報の取捨選択は自分の意志で行うことにしています。
千堂先輩の情報は情報として自分の目でみて、自ら感じた評価を・・・・・・」


高町恭也の寂寥の瞳、その目から目が離せない。
いづみの言葉は耳に入らず、ただ、二人で並んでたつその姿が妙に苛立たしかった。


だからかもしれない


およそ、千堂瞳らしくないこと

具体的には、いづみを睨み、二人を攻める言葉が口をついて溢れ出した
そして、益々深める恭也の寂寥と、かわらず真摯ないづみの瞳から逃げ出すように、その場所を離れた。






















一方の取り残された二人は呆然としていた。
先程の行動をらしくないと思ったのは、千堂瞳以上にこの場の二人の方が一入であった。


「千堂先輩に申し訳ない事をしてしまいました
私を心配して忠告してくれたのに、それを否定するような行動を取ってしまって」

「いや、むしろ、転校初日から気にかけてくれていた彼女を怒らせてしまった自分にこそ問題があるのでしょう」

弾まない足取りで、会話も少なげに駅までの道のりを歩く。


何となくタイミングを逸したと言うか、精神的にいろいろ有りすぎて疲労したのか、恭也の話は翌日と言うことでいづみとも別れ一人歩く。
交差点の端、華を添え俯いて熱心に祈る那美の姿に気がついた。

遠慮がちに声をかけた恭也に、振り向いて微笑みかける。

「・・・お仕事ですか?」

「ええ、まあ。随分と迷っている方だったので説得に苦労してしまいましたが、このまま放って置くと仲間を引き込みかねなかったので」

「説得に応じてくれてよかったですね」


以前、那美から聞いた話を思い出す。
那美は霊を切り払う除霊よりも、憂いを慰める鎮魂の方が得意であり、除霊はあまり好きな手段でないという事を。


並んで歩く二人


商店街のためか、この辺りの町並みは基本的には元の時代と変わらない。

それでも、ここは過去の世界であって二人が居るべき場所ではない。

今朝の様子が何となくおかしかった忍ちゃんに、那美は翠屋でシュークリームを購入した。
自分達が知っている桃子より、幾分若い桃子が笑顔で接客に応じている。


店を出ると、早退気味に冬の太陽は姿を消し、頼りない街灯に照らされて一人の少年が歩居ている。
身体を引きずる様によろよろと歩く姿は危なっかしい。
恐らく、極限を超えた、最早鍛錬ともいえないほどの、異常な運動に身体中が悲鳴を上げているのだろう。






少年は、あれでは、近い将来に確実に身体を壊すだろう。
それを知っているはずの恭也は淡々として見えた。


「早く帰りましょうか」


振り向いた恭也に那美が思わず、小さな声で口にした言葉


「未来を変えてみたいとは思いませんか?」


振り向いた恭也の先には、よろよろと歩く、昔の恭也の背中が見える。
那美はあの少年を救いたかった。


強い風が吹きすさぶ。
恭也が唇を動かしているのがわかるが、言っている事は全く聞き取れない。

気まずい沈黙と重い空気。

那美の独白もまた、風に消されたのか、それとも今の恭也の言葉は、那美の言葉への返答なのか。
その答えもまた風の中に紛れて消えてしまった。


戯言


すいません、前回の更新から日がたってしまいました
前回もなかなか感想をいただけてやる気はあったのですが話をどう流すのか、細かなところでどうしても考えがまとまらなかったり、時間が無かったり忙しかったりでこんなに時間がたってしまいました。
その代わりと言っては何ですが今回はなかなかボリュームがある話だと思います
さあ!次回の更新や話の充実度を決めるのは画面の前の皆だ!!
感想よろしく
どーしても面倒くさい人は噂のWEB拍手もつけたからよろしくね〜。