金牛宮篇
セイバー対バーサーカーの対決は終始、というか徹頭徹尾セイバーが押し気味に進んでいる。
対ランサー戦の時にも感じたことだが、このセイバー、カプリコーンのシュラは強い。
「■■■■■■■■!!」
意味を成さない唸り声を上げて、それでも立ち上がる黄金の野牛。
「黄金聖闘士の中でも数少ない常識派のお前が狂化とはな・・・」
数少ないというか、唯一安定した人格をほこってる気がしないこともない。
「■■■■■■■■!!!」
繰り返される突進。
まるで、その様は興奮した闘牛そのもの。
「いかに、狂化して速度と威力を増していようとも、ただ闇雲に突進してくるだけでは黄金聖闘士は倒せん」
アイオロスの言葉を示すように、光速で突進してくるバーサーカーをひらりと、まるで闘牛士のように華麗にかわすシュラ。
「オレ!!」
両手をパンパンと叩いている。
まるでというか、闘牛士そのものになりきってる。
口にはバラまで咥えている。
そういえば、シュラはスペイン出身だった、小学校の文集には将来の夢は闘牛士と書いたに違いない。
というか、バラは止めろバラは、お前はアフロディーテか!?
「せめて苦しまぬよう、介錯してやろう」
再び突進してくるバーサーカーに向けて、研ぎ澄まされたエクスカリバーを高々と掲げる。
勝負をかける武人の雄々しさ。
友を手にかける悲痛な面持ち。
水に濡れた刃物のような鋭さ。
そしてシュラのバックに浮かび上がる黄金の山羊。
思わずゴクリと息を呑む士郎とイリヤ。
隣の遠坂やアーチャーも冷や汗をかいている。
「どうした、突っ込んでくるのは止めたか?」
狂化され理性を失ったバーサーカーですら、尻込みするほどの圧倒的な威圧感が今のセイバーのたたずまいにはあった。
もはや、それは理性ではなく本能が判断を下していた。
目の前の存在は危険である、と。
左右の腕は折れてる。
ならば、足に宿る刃を使わざるを得ないのも理解できる。
・・・いや、傷ついた理由がじゃんけんだってことは理解できないが。
エクスカリバーを天に翳すのが、技を出す初動作だってのもわかってる。
何もかも理解できる
が、渋い面持ちでバレリーナになっているセイバーの滑稽さは如何ともしがたい。
「マタドールからバレリーナか。華麗な転職だな」
「そういう問題じゃないわ!驚くべきはセイバーの身体の柔らかさよ!!」
確かに、爪先で身体を支えながら片足はピーンと見事なほどに上がっている。
「いや、凛、それも違うから」
大混乱の外野を他所に、とうとうバーサーカーが突進する。
最速最強の一撃。
狂化されてグレートホーンが使えないから仕方ないのかもしれない。
しかし、ただただ闇雲に頭から突っ込んでいく姿は、聖闘士というよりは某悪魔超人だ
「せめて苦しまずに逝け!!」
ハリケーンミキサー・・・いや、その突進から身を翻し、互いの身体が交差する瞬間に、まさに闘牛士よろしく、シュラによってエクスカリバーが突き刺される。
ちなみに、セイバーの攻撃に合わせて、遠坂が「アン、ドゥ、トロワ」と口ずさんでいたのは内緒だ。
まあ、片足を上げたままで、華麗なステップで移動するさまを見せられれば気持ちはわかる。
まるで、時間が止まったようだった。
セイバーの研ぎ澄まされたエクスカリバーは、見事にバーサーカーの首を刈り、それが宙に舞う様がゆっくりと目に映った。
あまりにもゆっくりとしたその様子は、光速の流星同士の激突から生まれた現実だとは思えない。
勢いの付いた胴は、首との永遠の別離を迎えて猶、敵を圧殺せんばかりの勢いでしばらく前に進み、徐々に勢いを失う。
・・・・・・・・・・・・そして、やがて止まった。
それは、永遠の静止。
この狂戦士は、もはや動き出すことはないだろう。
黄金の野牛の時間は止まり、冬木の町にも静寂が訪れた。
士郎は心配になり、この狂戦士のマスターである少女の横顔を盗み見た。
泣いているだろうか、それとも呆然としているだろうか。
己が最強と信じるサーヴァントを、己の身を護る盾であり剣を、己の夢を叶える為のパートナーを失ったのだ。
しかし、その現実は士郎の予想を遥かに超えていた。
笑っていたのだ。
その笑みは、少女のような無邪気さも、妖精のような儚さでもない。
無論、現状が理解できない忘我でもなく、壊れてしまった狂気でもない。
勝利を確信した魔術師の笑み。
カ――――ン
吹き飛ばされた頭部が、大地と接吻して乾いた音をたてる。
静寂の中で響き渡る乾いた、軽い金属音。
『・・・・・・おかしくないか?』
衛宮士郎の頭に浮かぶ疑問。
あまりにも軽すぎる金属音。
そして、少女の微笑。
「・・・・・・まさか!!セイバー!」
「やっちゃえ、バーサーカー!!」
士郎の声を圧して響く、イリヤの鈴を鳴らしたような可愛らしい声が、死の宣告を告げた。
その声に押されるように、突如首の無い筈のバーサーカーの身体が反転して、シュラの無防備な背中に突進する。
士郎の声に反応して咄嗟に両の腕を交差して直撃を避ける。
「グオォォォ!!」
アルデバランは黄金聖闘士の中でも随一の剛力を誇る男だ。
しかも、それが狂化され強化されているのだ。
如何に聖剣といえども防ぎきれない、ましてや、ヒビが入ってる今のエクスカリバーなら尚更だ。
むしろ、聖剣が、野牛の突進により粉々にされる。
それだけでは飽き足らずシュラの身体はまるでゴムボールのような勢いで吹っ飛び壁を4枚ほどぶち抜いた。
金牛宮ならともかく、深夜に民家を破壊するなんて近所迷惑甚だしい。
「なんで、そんな・・・いくら不死身でも首を飛ばされて死なないなんてありえない」
「誰の首が飛んだのよ、リン?」
そう、首が飛んだにしては軽すぎたんだ、さっきの金属音は。
「バーサーカー」
イリヤの声に合わせてバーサーカーの胴体からピョコンと首が飛び出す。
「あんたは、牛じゃなくて亀か!!?」
某海闘士と同じ突っ込み。
いや、それは誰だって驚くよな。
だけどそれ以上に気なることが実はある。
「なあ、イリヤ」
「何?」
「その鎧、どんな構造なんだ」
普通、あんなぴったりした構造の鎧に首を引っ込めるスペースはないはずだ。
・・・・・・ということは。
1、実はアルデバランは首長族で鎧の中には意外とスペースがある。
2、アルデバランは本当に亀みたいに胴の中に首を収納できる。
3、あの聖衣の中は4次元ポケットである
「・・・・・・私も考えてたら眠れなくなったわ」
そっか、イリヤでもわからないんだ。
聖衣分解装着図に加えて、牡牛座だけ聖衣の中身分解装着図もぜひ用意して欲しいもんだ。
いつまでも起き上がってこないセイバーもそんな事を考えているんだろうか。
「さてと、覚悟はいい?お兄ちゃん」
ゆっくりと迫る黄金の野亀。
そして、そんな俺の前に、庇うように立ちふさがるアーチャー。
「そこをどきなさいアーチャー」
「残念ながら退くわけにはいかん」
「アーチャー遠坂を護って逃げろ」
そんな士郎の声を無視して視線を己がマスターに向ける。
「何とかセイバーを助けてくる、それまで時間を稼いで」
「凛、別に時間を稼ぐのはかまわないが・・・あれを、倒してしまってもかまわないのだろう」
何でもないことみたいにさらっと、何の気負いもなく言い放つアーチャー。
「いや無理でしょ」
遠坂さん、台無しです。
「自分のサーヴァントが信じられないのか!?」
「うん、だってあんた必殺技ないし」
力強く断言する遠坂、なんだかアイオロスが哀れだ。
「でも、私がセイバー連れて戻ってくるまで足止めしておいてくれたら、貴方を信じてあげてもいいわ」
その言葉を残して、後ろを振り向かずに走り去る遠坂。
後ろからバーサーカーが追撃してくるなんて微塵も考えていない事がわかる。
そんな遠坂を追いかけて走り始めた士郎の耳に呟きが聞こえた。
振り向いた瞬間目が合う。
ニコリと微笑み、目の前のバーサーカーに対峙するために背中を向けた。
その背中が先ほどの呟きを鮮明に思い起こさせる。
「士郎、君達に
というか、思い起こさないと黄金の矢が飛んできて、心臓の側の壁を破壊しそうな気がした。
そして、走りながら思った。
遠坂は女神ではなくあくまだと。
魔術師の後書
金牛宮篇ということでアルデバランが大活躍?
前回でかなり落としたから、セイバーをぶっ飛ばすという原作通りの展開なのにビックリしてもらえたんじゃないでしょうか。
まあ、その分不条理ギャグは少なめですが。
でも、原作でのアルデバランて、必ず新シリーズの敵の強さを示すためにやられるっていう扱いだったからかわいそうですよね。
ソレントに負けたり、ニオベにやられたり・・・。
そう思ってたから、今日見たDVD版のハーデス12宮篇の少女と華のオリジナルエピソードは良かったです!
感想で書いてる方がいましたけど、アルデバランとバーサーカーって意外と共通点多いですよね。
パワーナンバーワンとか、周りと比較して規格外にデカイとか、段々強さのバロメーターにされるところとか。
バーサーカーも、Fateではあれだけ強かったのに、UBWではギル様にあっさりやられちゃって、HFではとうとう黒化ですし。
あ、ちなみに、最初はバーサーカーはアイオリアを予定してました。
でも、感想であっさり見破られて変更。
次いで、サガにしようかなと思いましたが、サガは別に使いたい役どころがあるので却下。
ということで、アルデバランに決定!
死んだと思ったら生きてたとか、けっこうはまり役じゃないですか。
・・・亀がないとアルデバランは語れないと信じてます。
追伸、アイオリア版のネタは捨てるのも惜しいので、見たいって奇特な人が居たらどっかでおまけみたいに発表します。
って、見たい乙女はいるうのでしょうかね(w