瓦礫を掻き分け、大地に臥すセイバーを助け起こす。

「大丈夫か!?セイバー」

「ああ・・・シロウが声をかけてくれたお陰で何とかガードが間に合ったからな。
もっとも、自慢の聖剣は粉々だけどな」

「でもその聖衣には傷一つついてないんだな」

「ああ、この黄金聖衣は神話の時代よりただの一度も破壊されたことが無い、究極の聖衣だからな」

住民の様子を見に行った遠坂も戻ってきた。

「良かった、とりあえず無事みたいね」

「俺のことより、ここの住民は無事か!?」

「大丈夫、怪我は無いわ。
けど、サーヴァントはマスターに似るって言うのは本当ね、自分のことよりも他人が気になるって言うんだから」

遠坂も呆れたように苦笑する。

「しかし、どうやって誤魔化すんだ?」

魔術も聖闘士も本来一般人の目に触れさせてはいけないものだ。
見世物なんかにしたら、聖域(サンクチュアリ)から刺客の白銀聖闘士が来かねない。
何故か 大抵の奴は青銅聖闘士より弱いような奴ばっかりだけど。
でも、全裸になられたら大変だ!


仮装大賞の練習中って言っておいたから」

「オイ!!なんだ、その強引極まりない言い訳は!」

「何よ!?夏コミに向けたコスプレ特訓の方がよかったって言うわけ!?」

「アレもある意味聖杯戦争だけど、それは、もっと嫌だ!!」

「でしょ!?いいのよ、どうせ明日には教会が全部誤魔化してくれるんだから。
それより、はやく逃げるわよ、アーチャーがバーサーカーを押さえてくれてる間に」

「アイオロスが闘ってるのか?」

「そうよ、足止めを引き受けてもらったの」

悲痛な表情をする凛。
気持ちはわかる、アーチャーもまた半死半生の状態だ、しかも味方の 聖剣で。

「早く戻らなきゃ」

「大丈夫、そんなに焦ることは無い、リン」

焦る二人のマスターとは対照的に、セイバーは心底安心しきった顔をしていた。

「アイオロスは本来教皇になるはずだった男だ。
その実力は聖闘士の頂点を極めてるといっても過言ではない」

10歳児に半殺しにされたのに!?』

『そもそも技無いじゃん!!』

不安を隠しきれないマスター二人だった。


聖闘士Fate

双児篇


街灯の下、煌く黄金の鎧を纏った二人の聖闘士が対峙している。
アーチャーことサジタリアスのアイオロスとバーサーカーことタウラスのアルデバランだ。

「どういうことよ!!」

バーサーカーのマスター、イリヤの困惑気味の叫びが夜に木霊する。

「アーチャー!!まさか、やられちゃったの!?」



っていうか、遠坂はアーチャーの実力を全く信用してないのがこの第一声からもわかる。
まあ、今までアーチャーについて知った情報を考えるとしかたがない気もするけど。

なんていっても
1、技が無い
2、実は、まだ10歳だったセイバーに一度半殺しにされてる
3、幼女誘拐犯人
4、14歳とは思えないくらい老けてる

と、信用できる要素が全く無いからな。







ところが、戻ってきた凛と士郎は驚きのあまり声を失う。

凛と士郎がセイバーの許に向かってから、時間にして未だ10分くらいの時間しか経っていない。
立ち位置もほとんど変化が無く、何事もなかったかのように見える。
崩れ落ちている壁や、抉れたアスファルトが無ければ、だが。

「良かった、アーチャー、あんた無事だったのね」

「む、凛、君は何処まで俺を信用していないのだ」

憮然とした表情でアイオロスが振り向く。
恐らく周囲の破壊の爪痕は全て目の前の狂戦士が刻んで物であろう。
だが、目の前にはその黄金の野牛が居るにも関わらず、アーチャーは余裕を見せる。
それもそのはずだ、バーサーカーは肩で大きく息をつき相当疲弊している。
対するアーチャーは汗一つかいていないのだから。

「もうやめておけ、バーサーカーのマスターよ」

「何よ!バーサーカーは無敵なんだから!!」

そんな己がマスターの矜持を護るため、バーサーカーは小宇宙を高め突進を繰り出す。
バーサーカーの光速の突進は、衝撃波を撒き散らし相対するもの全てを呑み込む破壊神そのものだ。

まさに 『全てを粉砕する破壊の渦』 ハリケーンミキサーだ。

「これなら、将軍様にも勝てる!!」

って別にアルデバランは悪魔超人じゃないから!!

でもとりあえず、グレートホーンより強そうだ
正直、ニオベ戦で見せた遅効性の技って意味あるのか!?





そんな突っ込みどころ満載の野牛の突進を、背中の翼をひるがえし華麗に中空に舞うアイオロス。

おお!かっこいいぞ!!

そのまま先ほどセイバーが折った、アルデバランの黄金の角を拾い投げつける。

「さあ、ここで諦めて退かねば、残されたもう片方もへし折るぞ」

「強い、おい遠坂、本当に強いじゃないかアーチャー!」

「当然よ、私のサーヴァントだもの!」


遠坂さん、変わり身早!!






・・・・・・ん?

「おい、セイバー」

「なんだ」

「バーサーカーも黄金聖闘士だよな」

「ああ、アルデバランは黄金聖闘士の中でも並ぶ者なき剛の者だ」

「黄金聖衣って神話の時代から一度も破壊されたこと無いんじゃないのか?」

霊体化しているにもかかわらずセイバーが脂汗かいてるのがわかる。



カーン



へし折られた黄金の角が、自己主張するように音を発てて地面に堕ちる。

「・・・あの角はでも金メッキか何かか?」

「いや、あそこだけ白銀なのかもしれないじゃない」

士郎と凛の疑問を他所にセイバーの呟きは風に流された。

「ムウの奴、修理の手を抜いてアロンアルファでくっつけやがったな・・・。
天翔ける黄金の羊の如く微笑みながら、けっこう腹黒い奴だったからなぁ。」



暢気な外野は放っておいて、緊迫した戦闘を繰り広げているイリヤとアーチャー。

「有り得ない!なんで、バーサーカーの攻撃が効かないのよ!!」

「ふ、その技は一度見せてもらった、聖闘士に同じ技は二度と通じん、今やそれは常識!!

なにぃ〜!!?

「って、なんで士郎がショック受けるのよ」

「だって俺たち、今後はジャンピングストーンだけで勝ち抜かなきゃいけないんだぞ!!?」

「アイオロス発言はハッタリだから安心しろ」

そもそも例の発言した『来てくれたんだね、兄さん!!』自身が、の一つ覚えだったしね。

「なるほど!!」

何かに納得したように凛が掌をポンと叩く。

「どうした、遠坂?」

「どうしてアーチャーが最強かわかったわ、セイバー」

「なに?」

「聖闘士に同じ技が通じない、これは常識なんでしょ」

「いや、だからそれは一輝のハッタリだって・・・」

「逆に言えば、技が無いアーチャーはまさに無敵!!」

そんなわけあるかぁ!

ガクリとアーチャーが膝を突く。
そういえば忘れてたけど、アーチャーも左手千切れかけてるんだったじゃんけんで。

「あら、アーチャーも万全じゃないみたいね。
いいわ、バーサーカーも疲れてるみたいだし、今回はお互い痛み分ってことで退いてあげる」

そう言って、来た時と同じくバーサーカーの背中に乗るとイリヤは闇の中に消えていった。


魔術師の後書

金牛宮篇に引き続きアルデバランが大活躍?
例の一輝の「聖闘士には一度見た技は〜」と「黄金聖衣は一度も破壊されたことがない〜」は、大人になってから聖闘士星矢を読んだ人は誰もが突っ込んだであろうポイントだと思います。
今回は短いですが好い加減バーサーカーで回すのは限界でした。
とっとと次のサーヴァントに移すためにもここで、いったんアルデバランには退いてもらいましょう。
角も折られたことだし。
イリヤの余裕の態度を見ればわかると思いますが、バーサーカー@アルデバランはまだ余力があります。
当然再登場の予定です。

久々なんで切れも無く短めですいません。
こういった作品は書き始めた勢いがなくなると再開し難いんで、また、なるべく一気に行きたいと思いますので応援よろしくです。

ちなみに、黄金聖闘士は12人、サーヴァントは七人、真アサシンとアンリマユ入れても九人しかいないんでどうしても出てこない黄金聖闘士が居ます。
なるべく皆に出番作りたいですけどね。

ちなみに、イリヤをハーデス十二宮篇で出てきたアルデバランに花を渡した少女と重ねてます。