泥のように眠る士郎。
疲れた身体は、外界の如何なる異常も気がつかないほどに深い眠りについている。
おかげで、ここんところ毎晩来てた麻呂の人が今日は夢に介入出来ないほどだ。

この戦争中に何たる油断かと、誰かは笑うかもしれない。
けれど、これは油断ではない。
腹を割り、語り合った自らのサーヴァントを。
自分の理想を笑うことなく、むしろ励ましてくれた仲間を。
己を守ると誓ってくれた一振りの(エクスカリバー)を。
そう、黄金聖闘士カプリコーンのシュラを信じているからこその安眠。
彼が側に居てくれる限り、自分を守ってくれると言う最大限の信頼が為せる業。









だが、士郎は知るよしもなかった。
シュラが柳洞寺に相談に行ってしまい、寝てる時間の大半は自分一人だった事等。

ちなみに、真剣にカミュに師事を受けているシュラは、

「しかし、アイオロスに感謝しねーとな。
あの人が居るおかげで、のんびりこんな所に居られるんだから」

というデスマスクの一言で、色を失い慌てて帰ってきた事を、彼に信頼を寄せるマスターは知るよしもなかった


聖闘士Fate

天蠍宮篇


冬の日は短い、士郎が眼を覚ましたとき、既に空は茜色に染まっていた。
深い眠りから眼を覚まし、身体も心もすっきりとリフレッシュされた士郎は、先程のセイバーとのやり取りを反芻する。

眠る直前のシュラの言葉。
『俺が鍛えてやってもいい』
眠る前は、さして魅力的とも思えなかった案だが、と言うか女神が信用出来なさ過ぎて断ったんだけど。
だが、聖闘士になる云々は置いておいて、冷静に考えれば、それは魅力的な誘いのように思えた。

勿論、自分で言ったように今回の聖杯戦争に役に立つとは思えないが、
切嗣が死んでからは、独学でずっとやってきた。
正直、その独学の鍛錬に、さして効果が無かった事は、此度の戦争で痛感しているところだ。
ならば、聖闘士(セイバー)の鍛錬の仕方を知れるだけでもありがたい。
すぐには無理でも、それを継続していく事で、十年後にセイバーの実力の十分の一でも身につけば、それは自分の理想への大きな足がかりになる。
というか、十分の一でも多分音速は超える

夜には遠坂達も来るって言ってたし、早速夕飯前に稽古を着けて貰おうと探してみるが、何処にも居ない。
あとは、探してないところと言えば・・・

「セイバー、ここか?」

「あ、ああ、士郎、目を覚ましたのか」

道場に佇むセイバーに、タオルを投げて渡す。

「凄い汗だな、もしかしてあの後ずっと訓練をしてたのか?」

「せ、聖闘士として、当然の事だ」

なるほどと、頷く士郎の憧憬の視線が照れ臭いのか、避けるように背を向けたセイバーの身体からは益々汗が流れ落ちる。
ただし、冷や汗だが。

実際は、慌てて柳洞寺から戻ってきた時、既に士郎はセイバーを探して屋敷の各部屋を見て周っていた。
そこで、気配を殺し、見えないように光速で、そーっと道場に駆け込んだのと士郎が、冒頭の声をかけたのがほぼ同時だったりする。
ちなみに、日常生活で光速の動きを用いたのはシュラもさすがに初めてだ。

「セイバー、そのさっきの話だが、お願いできないだろうか。
俺を鍛えて欲しいんだ」

「・・・・・・・・・本気か?」

背を向けて静かに、まるで士郎の決意を測るように呟いたその言葉に、士郎は強く頷きを返す。

「士郎、おまえはなんのために聖闘士になりたいのだ?

「いや、別に聖闘士にはなりたくないし、ってか、さっきあんたが誘ったんじゃないか」

突っ込みは、軽く無視され、士郎は仕方なく「正義の味方になるために」と、言い直した。
勿論、これも先程伝えたはずなんだけどな、と、疑問に思いながらだ。

「死ぬな」

「え?」

いきなり、何言い出してんだろ、コイツ?という反応を、己のサーヴァントに返してしまう士郎だった。

「そういうあまい考えがある限り、聖闘士になったとしてもいつか死ぬと言う事だ」

「いや、だから聖闘士にはならないって・・・」

「聞け、士郎よ。
あれらの氷山は、永久氷壁といって、何万年も融けた事の無い、永遠の強さを持っているのだ」

「おまえこそ、俺の話を聞け!!」

「いいか、どんな強敵を前にしても常にクールでいろ」

「おまえこそ、ちょっとクールになれ!!
ちょっと、落ち着いて俺の話を聞け!!」

「あのシベリア永久氷壁に真の強さを学ぶのだ、士郎」

「あのって、シベリアも永久氷壁も見たこともねーよ!!!


その当たり前と言えば当たり前の士郎の言葉に、カミュのくれたカンニングペーパーに不安を覚えるシュラだった。


『柳洞寺に居るカミュよ、今の士郎の(突っ込み)が聞こえたか?
おまえの教育方針本当に大丈夫か!?

『何を言う、 私の教育方針に間違いなんてあるわけがない
私の愛弟子、氷河もアイザックも、最初はこの『永久氷壁とクールの相関関係』の講義から入ったのだ。
大丈夫だ!


「大丈夫なわけあるかぁーーーーー!!!!」

「デ、デスマスク!?おまえ、何やってる!?」

「お前こそ、何をやってるんだシュラ!!?」

何故か、いきなり道場に入ってきて、光速のツッコミを入れるデスマスク。
そして、それに安堵の笑みを見せる士郎だった。

「お前、カミュに何を吹き込まれてんだ!?
訳わからねぇ、永久氷壁の話を突然始めた挙句、何も無い空間にブツブツ話し始めるから、坊主が、完全に退いてるぞ!」

クイッと指差したデスマスクの顎の先には、いつの間にか道場の出口にまで後ずさってる、マインマスターの姿があった。

「あー、坊主、とりあえずそんなに怯えんな。
シュラは狂ったんでも壊れたんでも、ましてや呆けたわけでもないから、安心しろや」

デスマスクは、めんどくさくて仕方ないと言わんばかりの態度ではあったが、壁に向かって話していたのはテレパシーであり、
意味がわからない氷山等のシベリアンジョークは、カミュの得意のネタであると、シュラに代わり士郎に説明してくれた。

「そ、そういうことか。
なるほど、ようやく安心できた」

とりあえず、居間に移動し、デスマスクの分と3人分お茶を入れて一息ついて、それで漸く安心して自分のサーヴァントの方を見れた士郎だった。

「ったく、いくら弟子を取ったこと無いからって、あれはないだろ」

「面目ない、いや、俺も少しおかしいなとは思ったんだが・・・」

「少しって、アサシンが来るのがあと5分遅かったら、俺は恐怖のあまり、令呪で『自害しろ』って、命令するところだったんだが」

「ったく、俺様に感謝しろよ、シュラ」

「ああ、出会って初めてお前の存在が俺にプラスに作用したよ」

「おい!!!



賑やかな居間に、少し険を含んだ少女の声が響く。

「随分賑やかね衛宮君、その様子じゃ私の心配なんて、取り越し苦労だったみたいね」

「よお、美人のお嬢ちゃん」

シレっとした反応のアサシンと違い、驚きを隠せない士郎だった。

「と、遠坂、いつの間に!?」

「今来たところよ」

「いや、遠坂、勝手に上がってきた上に不機嫌なのは、どうかと思うんだが・・・」

一応抗議を口にするも、ギロリとあくまの一瞥に尻すぼみになるあたり、涙を誘う。

「士郎、許してやってくれ、あれも一種の照れ隠しなんだ。
そう、今流行のツンドラというやつだ」

「いや、アイオロス、それ違う」

蟹の力ないツッコミをよそに、
士郎は自分が知らない間に、シベリアンジョークブームが来てるのか、真剣に悩み始めて居た。

「まあ、それは置いておいて」

さらっと流すあたり、やっぱりアイオロスは大物だ。

「別れ際の君とシュラの様子がおかしかっただろ?
加えて、凍死しそうになったりと、士郎は肉体的にもギリギリだった。
あれで、リンは一日君の心配をしていたんだ」

「アーチャー、余計な事は言わないで!」

シベリアンジョークとかね。

スマンスマンなんて言いながら、姿を消すアーチャーを睨みつける凛だったが、その顔は真っ赤になっていた。

「遠坂、心配かけたな」

「フン、一応同盟中だしね、アンタが体調不良だと私の負担も増えるから・・・」

主に、ツッコミ

「うん、それでも心配してくれてありがとうな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なんだ、お前ら、できてたのか」

真っ赤になって俯く凛と、嬉しそうな士郎をからかうようなアサシンの声。
っち、残念。なんて呟きが聞こえたのもご愛嬌だ。

「そ、そんなんじゃないわよーーーーー!!!」

「はっはっはっは、照れるな照れるな」

ドゴン、ドゴンと機関銃めいた一斉掃射が居間を蹂躙していく。
諦め顔で、庭に避難するセイバーと士郎だった。

「リン、ほら、いい加減にしないと士郎の家が壊れるだろう」

からかうアサシンに、渾身のガンドを打ち込むリンとひらりとかわすアサシンの間に立ち、じゃれあいを止めるアーチャー。

「なんというか、アイオロス随分リンの扱いが上手くなってるな」

「正直、一番年下とは思えないな」

黙って後片付けを開始した、剣の主従の呟きが、瓦礫の山に木霊していた。





「何とか部屋の後片付けも終わったな、作戦会議に入るか」

「その前にちと良いか?」

仕切りなおすようなセイバーの言葉に、アサシンが待ったをかける。

「どうした、デスマスク?」

「いや、作戦会議に入る前に俺の用事を済まさせてくれよ」

「用事?」

首を傾げる士郎に、人が悪戯っぽい顔を向けニヤリと笑みを作る。

「当たり前だろ、シュラに突っ込みを入れるために、ここまで来たとでも思ってんのかよ」

うっ、と呻くセイバーに、ニヤニヤと「貸し一つだからな、なんか奢れよ」と茶々を入れながらもデスマスクだが、
その続きのように軽い口調で告げられた言葉の価値は、比較にならないほどに重い。

「残るライダーのサーヴァントに遭遇したぜ」






続く


魔術師の後書き


前回シリアス偏重だったんで、今回は思いっきりギャグの回になりました。
デスマスクとカミュが出てきてから話が転がる転がる。

次回あたり、いよいよライダーのサーヴァントが登場。
年内にあと一回更新できれば上々だと思ってます。

昨年度に較べて今年はかなり更新がんばったつもりです。
これも、皆様が感想などをくれるからです。
ありがとうございます。


さて、全然関係ないけど、今チャンピオンで連載中の冥王神話ロストキャンパスの話でも。

蟹が大活躍!!
しかも、教皇も前蟹座とか!
マジでビックリ。
蟹座は絶対に教皇になれない星座なのかと思ってたよ。

しかも、タナトスに喧嘩売っちゃってます。
かっこいい!!

この恨みでも、きっとタナトスは、デス様を復活させる時、肉体を通常の100分の一くらいにしたんだよ。
だって、じゃあないと冥界篇のデス様弱すぎだったもん。
いくらなんでも、ありえないくらい弱かったもん。
ちなみに、こっちのアテナは、素直に愛と平和のために闘ってくれてる美しく儚い女神ですね。
城戸沙織嬢とは偉い違いじゃ。