「残るライダーのサーヴァントに遭遇したぜ」

デスマスクの発言に、衛宮家の居間は、水を打ったような静けさに包まれる。

「で、誰だったんだ?
どうせ、俺たちの関係者だったんだろ?」

「ああ、恐らくはな」

シュラの質問に曖昧に頷く。

「恐らく?」

「正確にはな、ライダーのサーヴァントの
小宇宙(コスモ)を感じたと言ったところか」

「じゃあ、勿論ライダーのサーヴァントをアンタが倒したなんて事は・・・」

「すまねえな、ソイツに直接会ったわけじゃねぇんだよ」

凛の期待に満ちた言葉に、デスマスクは苦笑気味に首を振る。

「それにな、正直ライダーのサーヴァントが俺の予想通りあいつなら・・・」

そこで一度言葉を切るデスマスク。
この人を喰った男が、見れば額に冷や汗を浮かべている。

「悪いけどな、俺は、一目散に逃げるぜ

水を打った静けさは、さらに暗く重く静まりこむ。
擬音で言うならば、シーンから、ドヨーンという感じだろうか。

士郎は息を呑んで、救いを求めるように周囲を見渡す。
見れば遠坂も、その発言がもつ意味を感じて、唇を噛締めている。
それはそうだろう。
アサシンのサーヴァントにして、88の聖闘士の頂点に立つ12人の黄金聖闘士の一人が、一目散に逃げると言っているんだ。

「アンタが逃げる?
ハハハ、相手は一体誰だって言うんだ?」

士郎の呟きは、乾いて、酷く掠れた物だった。
デスマスクは眼を閉じて、士郎の言葉に何も返さない。
沈黙が支配する居間に、デスマスクの溜息が嫌に大きな音に聞こえた。
覚悟を決めたのか、ゆっくりとデスマスクは、ライダーに遭遇した時の話を始めた。

「今日の午前中の話なんだけどよ、俺は街をぶらついてたんだよ」

いきなり緊迫感が音を発てて崩れたのは言うまでもない。

「アンタ門番だろ!?」

「堅い事いうなよ、良いだろ、ちょっとくらい散歩したって」

「いや、なんか門番(アサシンのサーヴァント)はあの門から動いちゃいけない・・・というか、動けない気がするんだけど」

「はぁ?何言ってんだ、二人とも」

何でもないところで、怪訝そうに話の腰を折られて、デスマスクは不思議そうに首を傾げながらも、続きを話し始めた。


聖闘士Fate

人馬宮篇



☆☆☆☆☆数時間前☆☆☆☆☆



「っち、今日はイマイチだな」

ブツブツ言いながら、新都から山門に向かう道を歩く。

「おっ!!」

帰る道すがら、山門と洋館が立ち並ぶ地区を隔てる十字路で、思わず声が出る存在と遭遇した。

藍色の髪はさらりと長く、伏目がちな瞳は憂いを帯びて目が離せない、艶っぽい色香と清楚な空気は相反する雰囲気。

「よう、お姉ちゃん」

明るく爽やかに声をかけ、にこやかに笑いかける。
しかし、少女は反応も見せずに黙々と道を歩いている。

「よ、美人のお姉ちゃん」

ポンと肩に手を置き、改めて笑いかける。

「・・・私のことですか?」

周囲を見渡し、不思議そうに首を傾げる。

「あんたより、美人はこの周りに居ないだろうが」

その初々しい反応に、微笑ましくなって笑みを見せる。

「私が美人ですか?そんな・・・」

それは惚けてるとか、謙遜してるとかではない。
その靄がかかったような、遠くを見ている瞳は、自分自身をまったく見えていない。
この少女ほどの美人なら、本人に自覚が無くても周りが放って置かないはずだ。

それなのに、この反応。
これは、己を咎人と感じている者の反応だと直感したのは、デスマスクに近しい物があるからだろうか。

「アンタは美人だよ、間違いなく」

それはいつの間にか、ナンパというよりは諭すような真摯な言葉で、何かを伝えるような真剣さだった。

「アンタほどの美人、この町ではあと一人くらいしか知らないぜ」

言ってみて気がついたが、この少女には、何処か昨晩山門に乗り込んできたそのもう一人の少女の面影がある。
髪も瞳も表情も性格も
胸も、何もかも似通っていないのに、何故か面影を感じる。

「笑ってみろよ」

「え?」

あの快活な少女の面影を持った少女の、暗く俯いた奥に覗く瞳が虚無に囚われた表情なのが、痛々しくて見ていられない。

「いきなり、笑ってみろって言われても、そりゃ難しいよな。
よし、今から俺とデートに行くか。
見てろよ、このデスマスク様の手にかかれば、
女神(アテナ) 以外は皆笑い出すぜ」

「あの・・・」

弱々しい、何処か戸惑ったような声と共に、俯き、その絹のような髪に隠された顔が僅かに上がる。

「さ、行こうぜ」

勇気付けるように、安心させるように、優しい声音と表情と共に、手を差し出す。

「まるで、腐肉に群がる餓鬼のようだな、君は」

「は?」

予想だにしなかった辛らつな言葉に、思わず眼が点になる。

「この少女は、君などが気安く声をかけていい人間ではないのだよ」

先程までの弱々しい少女とは思えない程の威圧感で、デスマスクの差し出した手を強く弾く。

「ましてや、のりP語痛々しすぎるから止め給え

「お嬢ちゃん・・・じゃねえな、テメエ何者だ!?」

「私かね?」

睨みつけるデスマスク、殺気が迸り、
小宇宙(コスモ)は臨戦態勢に高められている。

「あの世でこの俺と対峙した事を後悔しな!!
このマンモス哀れな奴め!!」

それに、怯むどころか、
嘲るように薄い笑いを、髪から僅かに除く口元に貼り付けていた。
というか、
のりP語に対する当然の反応だろう。
だが、それは通常の場合ならだろう。
今この場には、デスマスクの小宇宙と殺気が溢れている。
常人ならば、蛇に睨まれた蛙の如く凍りついてしまいかねない圧力の中で、猶も不適に笑う目の前の相手。
その正体は間違いない・・・きっと・・・

「残されたライダーのサーヴァント!!
その面、拝ませやがれ!!」

光速の拳が放たれ、先程少女が立っていた空間を切り裂く。
その光速拳を、相変わらず嘲弄の表情を浮かべたまま、紙一重で交わす少女。
その衝撃が、彼女の髪を掻き揚げ、その顔を白日の下に曝しだした。

「その、その顔は・・・
仏陀
じゃあ、残るライダーの正体はまさか・・・」

「この私に拳を向けるとは、が鋏を振り下ろすくらい愚かな行為だと知り給え。
少々おいたが過ぎるぞ、デスマスク。
次元の狭間で反省するといい」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」











「これが、俺がライダーらしきサーヴァントと接触した顛末だ」

あまりの事に言葉が出ない。

デスマスクの話に何を言ったらいいのか、そのあまりにも日常から掛け離れた現実を突きつけられ、士郎と凛のマスター二人は身を堅くしていた。
居間は再び重苦しい沈黙に包まれるかと思った時

「デスマスク・・・」

シュラが貴重な情報を齎してくれた友の名を呟いた。

今時のりP語は痛々しいぞ

「うるせぇよ!!」


「ホント痛々しいわ」

「ていうか、突然ノリP語って・・・」

サーヴァントという、通常の常識からは掛け離れた能力を誇るデスマスクが一方的に偶われた。
その事実すら霞むくらい、突然出てきたのりP語は衝撃的だった

「お前ら、俺がせっかく持ってきてやった情報を、何だと思ってるんだ!」

「「「のりP語」」」

「・・・もういい、帰るわ、俺」

「デスマスク」

背中が煤けているデスマスクを流石に可愛そうに思ったのか、アイオロスがポンとデスマスクの肩に手を置く。
振り向いたデスマスクの瞳に映ったのは、アイオロスの弟を見守るような優しい微笑、次いでデスマスクの銀の髪をワシャワシャと、少し乱暴に撫でる力強い掌の感触。
それは、まだ幼かった頃、自分やシュラが新しい技を身に着けるたびに、アイオロスが与えてくれた温もりだった。

「アイオロス・・・」

あの大きかった掌が、今は自分の掌よりも小さい。
あれほど大きく見えたアイオロスは、今は自分よりも年下だ。
イロイロな感情が胸に蘇る。
切なさ、嬉しさ、恥ずかしさ・・・

「デスマスク、貴重な情報をありがとうな」

その言葉に向ける、照れ臭そうな微笑を、頬を掻きながら必至でごまかそうとするデスマスクは、少し可愛らしくさえ見えた。
この人の前では、俺たちはいつでも子供に戻ってしまうのかもしれない。
シュラの述懐はもとより、凛や士郎も、アイオロスが何故教皇に選ばれたのか、理解できた気がした。

「ところで、デスマスク」

アイオロスのおかげで気を取り直したのか、士郎が入れてくれたお茶を啜りながら、相変わらず居間に居るデスマスクだった。


「随分とあっさり負けたなぁ」


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完全に沈黙、というか、空白に包まれる。

アイオロスには全く悪気は無い。
思ったことを素直に口にしただけだろう。

だから、余計失言なのだが。

そして、多分誰もが思っていたのだろう。
気まずそうにデスマスクから視線を逸らす。

デスマスク的には、もしここにがあったら迷わず、どっかに移動するだろう。

「お前ら、俺の話し聞いてたか!?
聖衣着けてなかったんだから仕方ねーだろ!!」

「なんだ、お前クロス着けてなかったのか?」

「俺は、ナンパに行ってたんだよ!
あの格好でついてくる女なんて居るわけねーーーーだろ!!!」

「アンタは聖杯戦争を何だと思ってるのよ!!」

凛の叫びを他所に、士郎が苦笑している。

「むしろ、遠坂は、あの格好ならついていく気がする」

「「は!?」」

リンは黄金とか好きだからな

士郎の言葉にアイオロスが同意を重ねる。

「サーヴァントが、全員神闘士とかだと、もっと拙いんじゃないか?」

「ああ、
オーディンサファイア
一人で、全員倒して、ヒルダの指輪ごと奪ってきかねないな。
リン一人で聖杯戦争を終結させそうだ」

「あんた達、いい加減にしなさい!!」

「・・・嬢ちゃん、
困ってるのか、可愛そうに

凛の速射砲めいたガンドの嵐を、難なく避ける3人。

その士郎の動きを見て、シュラは微笑む。
わずか、半日の指導で士郎の動きが格段に進歩しているからだ。

「しかし、ライダーのサーヴァントの正体があの男だとすると、士郎の特訓のピッチを上げなければならないか」

彼の脳裏には、何とか3日で音速動きを身につけてもらう予定になっていた。




「それに、よく考えたら、シュラだって3人がかりでズタボロにされたじゃないかよ」

ガンドの後片付けを終え、再びお茶を飲み始めたその場で、デスマスクが思い出したように呟いた。

「・・・本当か、それ?」

「ああ、カミュとシュラともう一人で、恐らくライダーのサーヴァントと戦った事があるんだよ」

流石に士郎も凛も息を呑む。
黄金聖闘士が3人。
それも、シュラもカミュもその実力は良く知っている。

「シュラとカミュを敵に回して、ズタボロにする・・・って、どれだけ化物なんだよ」

「例え、あと一人が足を引っ張ったにしても・・・」

「違うぜ、嬢ちゃん」

「え?」

「3人目の男は双子座のサガ。
そこに居るアイオロスと教皇の座を争ったほどの男だ」

ゴクリと息を呑む。
アイオロスと教皇の座を争った男。
間違いなく、黄金聖闘士の中でも最強の男に違いないからだ。

「すぐにカミュを呼びましょう」

「リン?」

「だってそうでしょう?
そんな化物相手にするんでしょ!?
でも、4対1ならば、もしかしたら・・・」

「それは駄目だ」

アイオロスが厳しい眼で己が主を射抜いた。

「俺たちアテナの聖闘士は、如何なる時でも武器を使わず己の肉体のみで闘う。
その戦いは常に一対一だ。
多人数で一人を囲むような戦いは、このアイオロスは絶対に認めん」

アルゴルとかカペラとか・・・」

凛が何人か武器を使っている白銀聖闘士の名前を出そうとしたが、神の見えざる手によって口を封じられた。

「アイオロス、それでも相手は強力なんだ。
カミュも呼んで皆で対策を考えるのは悪い案じゃない」

シロウがとりなすように、弓の主従の間に入る。

「そうだな、シロウ。
じゃあ、俺がテレパシーでカミュに呼びかけよう」

「いや、止めてくれ!!!」

前回、何も無い空間にブツブツ言いながら、自分に
シベリアンジョークをかましてきたのがトラウマなのか。
士郎は、己のサーヴァントの提案を全力で否定する。

「幸い、柳洞寺には友人が居るから、連絡先はわかる。
俺が電話してくるよ」

そう言って、電話に向かう士郎を尻目に、デスマスクは盛大な溜息をついた。

「止めた方が良いと思うぜ」

「何がだ?」

「電話。
・・・・・・ま、すぐにわかるさ」


『はい、柳洞寺ですが?』

『もしもし一成か?』

『おお、衛宮か。どうした、ここ2日ほど、学校を休んでいるわりには元気そうだが?』


居間まで、電話の内容が聞こえてくる。


『それで、ちょっと電話繋いでもらいたいんだけど、いいか?』

『それはかまわんが、誰にだ?』

『あ、そっか、その・・・カミュさん?』

『カミュさん?衛宮、すまないがその人物には心当たりが無いんだが・・・
あ、もしかして、キャスターさんのことか?』

『そうそう、キャスターさんだ。
キャスターさんに繋いでもらえるかな。衛宮と言ってくれれば恐らくは通じるはずだから』

『ああ、かまわんよ。しかし、いつ、彼女と知り合いになったんだ?』

『ああ、この間だよ・・・その、急ぎなんで、よろしく頼む』

・・・え?彼女?

『あ、宗一郎兄、ちょうど良いところへ。
奥方様はどちらへ?』


「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!?
お、奥方
!!?」」」

「・・・だから、止めた方が良いって言ったんだよ、俺は」

唯一事情を知っているデスマスク以外、居間で全員固まっていた







数分後

「待たせたな」

カミュが、衛宮家に到着した、ハートのエプロンを着けたままで。

「お前、何やってるんだ!?」
「てか、葛木先生の奥さんて、どういった状況なのよ?」
「そのエプロン外せ!」

混乱している、シュラと士郎と凛が、3人で捲くし立てるように叫んでいるのを、アイオロスが宥めている。

「3人とも落ち着け、一度に聞かれてもカミュも困るだろう」

「・・・あんた、もしかして女?」

綺麗な顔立ちは、確かに女性に見える、というか美人だ、間違いなく。二つに別れている
眉毛以外
今まで見てきた聖闘士がたまたま男だっただけで、女の聖闘士も居るのかもしれない。

「いや、正真正銘男だが?」

「じゃあ、何。
もしかして、あんた男しか愛せない人?」

「馬鹿な、私は弟子の氷河アイザックも等しく愛している!!」

「おい、それどっちも男じゃないか」

シュラが頭を抱えている。

「じゃあ、やっぱり葛木とはそういう関係なんだ・・・」

「違うぜ、お嬢ちゃん」

なんだかとんでもない方向に納得しそうな凛に、デスマスクからフォローが入る。

「なんでもな、こいつのマスターがあの葛木とかいう男なんだけどな、ほら、カミュって女顔だろ。
黙ってたら女にしか見えない上に、コイツ無口だからな。
いつのまにか、葛木ってやつの女房だと勘違いされちまってるわけだ」

その言葉に、3人がほっと安堵の溜息をつく。

「なんだ、そんな事で呼び出されたのか私は」

忙しかったのか、不機嫌そうな口調で、溜息をつく。

「いや、そういうわけでもないんだけど、済まなかったな。
忙しかったのか?」

エプロンを締めているところを見ると、夕食の準備でもしていたのかもしれない。
士郎は、とりあえずカミュに頭を下げ詫びた。
それでとりあえずカミュも気を取り直したのか、士郎に向き直る。

「ああ、頭を上げてくれ。
氷河とアイザックの成長記録のビデオを、DVDに保存しなおし、編集で忙しかったので、つい腹を立ててしまったが」

「「「お前、もう帰れ!!!」」」




何はともあれ、カミュにもライダーの話を伝え、意見を聞いてみたが、かえってきた言葉は同じだった。
重苦しい空気と、それ以上に重苦しい現実に息が詰まりそうになる。

「カミュたち3人と戦い、5感を剥奪し、瀕死までダメージを与えた男・・・」

凛の独白に士郎は、自分の常識が粉々にされるのを感じた。
だって、いくらなんでも考えられない。
この人並み外れた猛者たちを相手取り、たった一人で戦い抜いた男。

「そいつ、もう人間じゃない。
もしかしたら、あいては神様かよ・・・」

笑えない冗談に、ああそうだ、と己のサーヴァントが真面目な顔で深く頷いた。

「デスマスクの話から考えるに、ライダーのサーヴァントは奴しかいない。
乙女座(バルゴ)のシャカ、その通称は・・・『最も神に近い男』


魔術師の戯言

という事で、7騎のサーヴァントの最後の一人が判明。
最も神に近い男です。
感想とかで、シャカはギル役じゃね?って送ってくれた方がけっこう多かったですね。
まあ、最も神に近いとか、傲慢とか、うっかりとかけっこうギル様属性もありますからね。
え、カミュのうっかりですか?
冥界篇でアテナ見失ったり、嘆きの壁で無駄死にしそうになったり、けっこううっかりさんでしたよ。
今回の拍手で一人だけ、ライダーの予想あてた方が居ますね。
そうすると、ギル様は誰なんでしょうね。
ふるって予想しちゃってください。

あと、蟹が主役じゃね?
とか、
カミュ完全にギャグキャラじゃね?
とか言わない。

シュラ無口だしギャグパート回しづらいんですよw