修羅の邂逅


《修羅の性》

 

結局さざなみ寮に着いた時には、時刻は22時になっていた。

インターホンを押すと、耕介の声。

「開いてるよ、入っておいで」

 

「「おじゃまします」」

玄関には耕介と愛、それに那美が迎えに出てきた。

「耕介さん、愛さんお久しぶりです」

「薫さん、お久しぶり…。お元気そうでなによりです」

「愛さんも…」

「薫…、まだ上がらせるわけにはいかないな〜」

「どうしてですか?」

「『おじゃまします』じゃなくて『ただいま』だろ?」

薫の瞳が少し潤む、そして嬉しそうな顔で言いなおした。

「ただいま…」

「はい、お帰り。長旅疲れたろ?あ…、恭也君も上がってくれよ」

「はい、お邪魔します」

「恭也さん、薫ちゃん…嬉しそうですね」

「そうですね…」

 

 すでにパーティの準備の出来ているリビングにて、美緒が一気にまくし立てる。

「薫は遅すぎるのだ、あちしはもう、お腹がペコペコなのだ!!」

「おお、すまなかったな陣内。
しかし相変わらずだな、お前ももういい年なんだから少しは落ち着かねば…」

「相変わらずは薫なのだ!
久しぶりの再会でいきなり小言とは、『妖怪小言ババア』は健在なのだ…」

「おいおい、バカ猫。それくらいにしてやれよ。何て言っても神咲は疲れてるんだからよ…。なぁ?」

「はぁ、まあ」

真雪の態度に訝しげな物を感じながらも薫は頷いた。
そこに恭也もリビングに入ってきた。

「お…、若いツバメの登場か」

「?」

当の恭也は真雪の言葉に?マークを浮かべていた。

「しかし…、あの堅物だった薫がなぁ、年下のツバメと遊ぶとは…。で、楽しかったか?デートはよ…」

その言葉に、真っ赤になって反論しようとする薫よりも先に、声を上げたものがいた。

「なんやて〜、薫ちゃんがデートやて?
ウチの可愛い薫ちゃんをたぶらかしたのは何処のアホや…」

と言いながら二階から降りてきた。

「し、椎名さん…。帰って来ていらしゃったんですか?」

「ああ、今日薫ちゃんがさざなみに帰ってくるって聞いてな。
ウチもそれに会わせて休暇をとったんや。
それよりも薫ちゃんの年下の恋人って言うのは何処におるんや?」

「だからそんなんじゃなかですってば!!」

「あれ、恭也君やん。どうしたん?そんなとこにつっ立って?」

「お久しぶりです、ゆうひさん。」

 

皆、どうしてゆうひと、恭也が知り合いなのか、興味をもったらしく質問攻めになった。

が、

耕介が先に乾杯してしまおうと、乾杯の音頭を取ったため(もちろん薫アンドゆうひのさざなみ寮帰還記念パーティーの)にしばし、皆耕介の料理に舌鼓を打った。

「ほんまに耕介君の料理は美味しいわ〜」

「はっはっはっは!当然当然!」

「愛に手伝わせなきゃ、そりゃ美味いさ…」

「酷いですよ〜、真雪さん」

しばらく楽しげに飲んで騒いで薫もゆうひも帰ってきたことを実感していた。

 

 

「で、恭也君とゆうひちゃんは、どういう知り合いなんですか〜?」

「実はな〜、恭也君とはクリステラ音楽スクールで知り合ったんよ…」

「えっ!でもあそこって女子しか入れないんじゃなかったけ?」

「そうなんよ〜、つまり特例が認められるほどに天才的な音楽センスの持ち主だったんよ…」

「ゆうひさん…、嘘は良くないですよ」

「も〜、恭也君は相変わらず真面目やわ〜、もう少し乗ってくれてボケで歌でも一曲歌ってくれれば良いのに…」

「もう、俺が自分で説明します。
俺の父である高町士郎はクリステラさんの旦那さんである、アルバート上院議員のSP兼親友だったんで、家族ぐるみの付き合いがあったんですよ。それでたまたま夏休みにフィアッセの所に遊びに行った時に、当時音楽スクールに通ってたゆうひさんとも親しくなったんです。」

「恭也君の話に補足説明を加えるとやな、今恭也君が言ったフィアッセは、クリステラ先生の娘さんや。
綺麗な金髪のごっつい美人さんやで〜。
ウチはな、フィアッセと仲が良くて、まだ子供の恭也君や美由希ちゃんと遊んだんや。
だから恭也君たちが海鳴に住んでるって聴いて、しかもうちが大好きな翠屋の子供やって知って世間の狭さを痛感したもんや」

「それで、子供のころの恭也さんはどんな感じだったんですか?」

「う〜ん、那美ちゃん良い質問やね。はっきり言って可愛い子やったで〜!
ウチを含めてクリステラ音楽スクールは美人さんばっかりやったからね。
恭也君は、皆に可愛がられてモテモテやった。
特にフィアッセは片時も恭也君の側を離れようとしないで終止ベッタリくっついてたもんや…」

ゆうひの発言に薫の顔がわずかに曇った。

「フィアッセは本当に綺麗だよ、お嬢様らしくおっとりとしてるけど、色々苦労もしてるから人の気持ちを考える優しい心の持ち主だし…」

と、病院で良く合うリスティも珍しく素直に誉める。
その言葉に薫は少しむっとした顔をした。

「ところで薫さん。十六夜さんにも挨拶したいんですけど?」

少し酔っ払って愛さんがとんでもない事を言い出した。

「愛!駄目だよ、恭也の前で十六夜の話をしちゃ…」

その場の雰囲気を読んで恭也は

「あの…、良くわからないけど俺、席を外しましょうか?」

「いや、良いよ恭也君。君は信用できる人物のようだし少し確かめたい事もあるから十六夜に会わせよう」

「?十六夜ってさっきの剣ですよね?もうさっき見せてもらいましたけど…?」

「まあ、見ててください。恭也さん」

と、那美に言われたので大人しく待つ。

「十六夜、出てきてよかよ」

薫の言葉に答えるかのように、刀身から煙のようなものが立ち上り、それはやがて人の形を取った。

「お久しぶりです…。みなさん」

しばし、さざなみ寮の面々と十六夜の間で会話が交わされている。

「相変わらずお幸せそうでなによりです…。耕介様、愛様」

耕介と愛は照れくさそうにしかし幸せそうに微笑んだ。
それを見た薫の胸の痛みが、以前ほどでは無いことに、未だ薫自身も気が付いてはいなかった。

「リスティ様も、真雪様も、お元気そうで…」

「ま…ね、僕はともかく真雪はそれだけが取り柄だし…」

何処から出したのか、リスティが真雪愛用のバットで殴られているのを尻目に

「那美…。その後久遠とは仲良くやっていますか?」

「うん…、仲良しだよ」

「そうですか」

と那美の頭を撫でる十六夜、撫でられる那美。双方供に幸せそうだ。

 一方、ただ一人状況が理解できない恭也を、薫が外に連れ出した。

「恭也君。ビックリさせて悪かったね。これが霊剣十六夜だ」

「どうも、はじめまして。神咲伝承の霊剣十六夜と申します。」

「はあ…、はじめまして。高町恭也です。」

「十六夜は霊剣の聖霊みたいなもので、代々の神咲の伝承者を見守り続けているんだ」

「恭也様、御顔に触れてもよろしいでしょうか?」

「十六夜は盲目なんだよ」

「ああ、かまいませんよ…」

「優しくて、意思の強そうなステキなお顔ですね。」

「はぁ…」

どう返答していいか困っている恭也には目もくれず薫は、最も聞きたい事を尋ねた。

「十六夜、恭也君の霊的な素質はどうとね?」

「確かに、一般の人間を凌駕するほどの素質を持ってはいます…」

「本当か?」

薫が勢いづいて十六夜に尋ねるのとは対照的に、恭也はなんの事かよく解らないのか、黙って話を聴いている。

「はい、確かに素質を持ってはいますが、薫や和真に匹敵するとは思えません」

「しかし、さっきあんなに見事に十六夜を扱ったのはどう言う事だ?」

「それは…」

「ちょっと待ってください、一体なんの話ですか?」

十六夜の説明に恭也が割り込んできた。
薫と十六夜は恭也に霊剣の理について説明した。

 

全ての説明が終わるのを見計らったかのように真雪が外に出てきた。

「真雪さん、皆はどうしたんですか?」

「中の連中は皆酔いつぶれて寝てるよ…」

恭也はさざなみ寮に何度か遊びに来て、そのたびに隙だらけに見えて、実は全く隙が無い真雪をただ物ではないと見抜いてはいた。
しかし、今夜の真雪は一風違っていた。

「恭也…。私と立ち会ってもらう」

今夜の真雪は、薫でさえ見たことも無いほどに闘気と気迫が高まっていた。

「わかりました…」

恭也は理由を聞こうとも思わなかった。
いかなる事情があるとしてもまずは一戦交えてから…。
真雪の闘気がそう言っていた。
それ以上に、剣士の性(さが)が疼いた。

『強い者と闘いたい…、例えそれが友人でも…。そして』

それはもはや修羅の世界。
まともな人間の思考ではないのかもしれない。
自分自身の事を恭也は自嘲気味に笑った。
そんな恭也の心を見透かしたかのように真雪が言葉を紡ぎ出す。

「剣士なんて、悲しいものだ…。敵も味方も無い。常に強者を求めてる。
強い者を見れば剣を交えたいと思う。
相手が例え親友だろうが、己の…愛しい人でも…。」

『愛しい人』…。

そう言われた時に恭也は、無意識に薫に一瞬だけ視線を送った。
恐らくそれに気がついたのは、真雪だけであろう。

「武器は?」

「好きに使って良い。蹴り、投げ技、締め技すべてありだ」

「真雪さん!いくらなんでも危険過ぎます」

「オメ―は黙ってろ!!」

止めようとする薫に一喝すると、真雪は静かに構えを取った。

 

二人から発される殺気を敏感に感知した、鳥達はざわめき、野生の動物は我先にと逃走した。
ただ見ているだけの薫の肌にも、突き刺さるような空気がまとわりつく。

二人の殺気は絡み合い、やがて、一つに収束すると、消えた。

星たちは何事も無かったかのように瞬き始め、夜は静寂の唄を紡ぐ。

 

夜の闇の中で二人の剣士は……、否!!修羅道に墜ちた二匹の剣鬼は赤い雫に彩られた、剣舞を舞い始めた。


後書き

前半は、ゆうひ。後半は真雪。それぞれのキャラに合った見せ場が用意できたかなと自分なりには思っております。

こっちばっかり更新しないで、他のSSを更新しろっていうんでもOKなんで感想よろしく

それでは、また4章でお会いしましょう…、って言うか会って下さいね。

真雪さんは恐らく次の章でも下手したら薫を食うぐらいの勢いで活躍してしまいます。

ゆうひは再登場します、しかし、まして勇吾は・・・(微笑)