《恭也の苦悩〜何故剣を握るのか?〜》
さざなみ寮で真雪と闘い、車で送ると言う真雪の誘いを断った恭也は今、自室に居た。
目を瞑り、布団に体を横たえてはいたが、未だ眠りにつけずにいる。
そんな恭也の脳裏に色々な事が浮かんでくる。
俺は…何故剣を握るのか?
何のために剣を振るうのか?
何度も繰り返した己への問い。
美由希に免許皆伝を果たすため…。
しかし、そのあとも俺は剣を捨てられない。
御神の剣を極めるため。
しかし、膝を壊したあの日からその日が来ないことを俺は知っている。
結局答えは出ないままに、思考の堂々巡りをまた繰り返す。
「ふぅ〜…」
ため息を吐き、右膝をさする。
今日の真雪との闘いに奥の手とも言える『神速』を発動したからか、右膝に僅かな違和感を憶える。
『そう言えば一対一の闘いで美由希以外の人間に神速を使うのは美沙斗さんとの闘い以来か…。』
恭也が驚くのも無理はないことだった。
御神の剣士以外の人間との一対一の剣の勝負において、神速を使ったのは恭也にとってここ数年全く覚えの無いことであったのだ。
幾度か経験した『実戦』ですら、十数人に囲まれ、相手が裏の世界のかなりの手練でも無い限りは神速を用いていない。
まして、今日の相手である真雪は『表』の人間である。
『真雪さんは強かった。
あの人の剣の腕ならその気になれば、『裏』の世界で生きることも可能だろう。
それなのにあの人は己の力をほとんど使わない。
人のために、自分の大切な人のためにのみ剣を振るう。』
「俺は何のために剣を振るうんだろう?」
繰り返されるいつもの問いに、答えを出せないままにいつしか恭也は眠りに落ちた…。
恭也は今、自分は夢の中にいる事を即座に理解した。
何故なら今目の前にいる人物は、本来二度と合うことができない人であったからだ。
今恭也の目の前にいる人物とは『高町士郎』その人であった。
夢である事はわかっている。
それでも恭也は叫ばずには居られなかった。
「父さん!!」
その声にこちらを振り向いた士郎の顔は笑っていた。
「恭也…。お前は何故剣を振るんだ?」
それは恭也が最近ずっと自問している問いそのものだった。
「俺にはわからない…。何故剣を握るのかがわからないんだよ!!父さん」
今の恭也の様子は平静の彼を知っている人間が見たら驚くであろうものだった。
明らかに混乱している。
そのためであろうか?士郎が自分を見ていない事に気が付かなかったのは…。
士郎の視線の先に居るのは……
「俺…か…?」
そう、まさに士郎の視線の先に居るのは幼いころの自分高町恭也であった。
いや、正確には当時の彼はまだ不破恭也か…。
父の質問に対する答えを一生懸命考えていた。
「父さん。僕はやっぱり父さんみたいな剣士になりたいよ…」
「俺のような?」
「うん…。どんな悪い奴や強い奴にも絶対に負けない、父さんみたいな御神の剣士になるよ…」
その言葉を聞いた大人の恭也は、溢れてくる涙を止める術はなかった。
『当時の俺は、父さんは絶対負けないと思ってた…。
でも、俺は知っているんだ。
この会話をした後に父さんが死んでしまうことを…』
士郎に抱き上げられた子供の恭也は、己の父が死ぬ事なんて全く考えていない…
ただただ父の強さを信じている、真摯な瞳で己の父を見ていた。
それが大人の恭也には哀しかった。
そんな未だ幼い我が子に、士郎は真剣な顔でかたって聞かせた。
「俺のような剣士では駄目だ…。
お前は剣の才能がある…。
俺よりも静馬よりも、他の御神の剣士の誰よりもだ…。
そして、優しい心の持ち主だ…。
強さだけを追いかけては駄目だ、恭也。
強さだけを極めんとしたものには、哀しい結末が待つだけだ…。
願わくはお前が…」
士郎はまだ幼い我が子に、何かを語って聞かせていたが、子供の恭也には難し過ぎるのだろう、
やがて父に抱かれたまま眠ってしまう。
そんな我が子に苦笑しながらも士郎は、我が子を起こさない様にそっと抱き直すと、そのまま何処へか歩いてしまった。
それをじっと聞いていた大人の恭也は、新たなる涙が頬を濡らしていた。
「父さん…。あなたの言うとうりでした。
強さだけを追い求めたものには哀しい結末が待っていました…」
恭屋は砕けた右膝に視線を落とし、静かに自嘲の言葉を呟いた。
どれくらいボーっとしていただろうか…。
『夢の中でどのくらいとか考えても無意味だな…』
そんな取りとめもないことを考えていた恭也の後ろに、人の気配が感じられた。
「久しぶりだな恭也…。大きくなったな…」
驚いて振り向いた先には士郎が居た。
慌てて周囲に目をやる恭也。
先ほどのように他の誰かに話しかけているに違いない…。しかし
「母さんや美由希、それになのはは元気か?」
明らかにその言葉は、その視線は自分に…高町恭也に向けられていた。
恭也は目頭が熱くなるのを感じた。
一体何度涙を流しただろうか…。
今日だけで、ここ二三年流した涙の総量を遥かに超えるだけの涙を流しているに違いなかった。
そんな我が子に士郎は優しく声をかけた。
「なんだ泣く奴があるか」
「ああ…」
「美由希は免許皆伝になったそうだな…」
「ああ…」
「美沙斗の事はお前にも礼を言わなければな…」
「ああ…」
恭也は何を言われても「ああ…」としか答えられなかった。
そんな恭也を優しく励ます様に頭を撫でる、幼いときから父、士郎は恭也が泣いている時に、黙って頭を撫でてくれた。
今はもはや恭也と士郎に身長差はほとんど無い。
そんな大人になった恭也の頭を、士郎はいつまでも撫で続けていた。
彼の息子が落ち着くまでずっと…。
それはまるで、傍に居られなかった日々の記憶を埋めるかのように…ずっとずっと…。
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お久しぶりです。今回の恭也は泣きっぱなしです。もう、某眼の中に炎が燃える人並みです。
ただ、恭也にとってそれくらい士郎は大切で重要な人なのではないだろうかという、私の気持ちを反映しています。
また、恭也はとらハの歴代の主人公の中でも、格段に感情を表に出さない(あくまで表に出さないだけで実際は以外と感情が豊かなんじゃないかと私は思ってますけど…)キャラで、特に泣いてるシーンなんてほとんど無い気がします。
まして、過去の回想シーン以外は絶無な気さえします。
そんな彼をこんなに泣かしてしまってはイメージが崩れるかもしれないですね…。
すいません!!『俺の恭也はこんなんじゃな〜い!!』怒り浸透なかた、メールで好きなだけ批判や意見を聞かせてください。
後、今回はなんと女性が一回も出ていません(笑)。
と言うか士郎と恭也の親子に乗っ取られております。
恭也なんて子供と大人と一人二役です。
大活躍、原作で影がちょっと薄いからって(笑)ここでこんなに張り切らなくてもいいのに…。
それでは今回はさよ〜おなら〜!!