《修羅の邂逅》
二人の闘いは、静かな立ち上りだった。
様子を見るように、恭也が放った数本の針を、薫は最小限の動きで避けると、それと同時に恭也に向かって、一気に間合いを詰め、横薙ぎに一閃、鋭い斬撃をくりだした。
恭也はその斬撃を左の小太刀で防ぎ、同時に右の小太刀で、がら空きの胴に攻撃を仕掛ける。
しかし、薫はすばやい身のこなしで紙一重でかわすと、鋭い突きを恭也を牽制するように突き出した。
ガッ…
恭也は右の小太刀でそれを防ぐ。
『突き』、剣を用いる攻撃方法の中でも最も殺傷力が高い攻撃。
薫の突きは正確に恭也の喉元を狙っていた。
『どうやら、薫さんは本気で闘ってくれているみたいだな…』
薫の突きが次々と繰り出される。
ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒュ、。
一撃一撃が空気を切り裂き、夜の闇の衣を切断していく。
薫の放つ高速の突きの連激。
恐らく達人の剣道家ですら、最早眼で追う事さえもできないであろう。
そんな突きが連続で叩きこまれていた。
しかし恭也にとっては
『へ〜、予想以上に早いな…』
ガガガガガガガッ!!
左右の小太刀で難なく防いでいる。
『思っていたよりも数段早い…が、俺が防げないレベルじゃないな』
しかし恭也は己の誤算に気が付いた。
一体薫の突きをどれだけ受けていただろう…突然…
ガキ――――ン…
夜の静寂に木魂する金属音…恭也の小太刀、無銘の左の小太刀が薫の突きに耐えきれずに砕け散る。
『しまったこれが狙いか!!!!わざと防がされていたなんて…』
初めから薫の狙いは相手の刀を砕く事に在ったのだ。
霊剣十六夜は名刀。
それに今は薫の霊力を充填して、硬度はただの刀とは比べ物にならない。
しかし完全に薫の狙いどうりであった訳ではない。
『どげんことじゃ…、ウチが重点的に狙ったのは『右の』小太刀だったのに…』
薫のとどめの突きが唸りを上げて迫ってくる…、狙いは恭也の左肩。
そのスピードたるや今までの比ではない。
『さっきまでの突きとは比べ物にならない…。
やはり俺に防がせるために敢えて速度を押さえていたのか…』
恭也は薫の方が駆け引きが一枚上手であった事を素直に認めた。
己に向かってくる薫の突きを、右の小太刀で思いっきり払う。
「まさか…そげん事が!!」
薫は思わず声を上げた。
己の最速の突き。
しかも右の小太刀から最も遠い位置にある左肩を狙ったのに…。
その一撃を恭也が防げるなんて思えなかった。
しかし、それを難無くやってしまったということは、恭也のスピードは薫の想像をはるかに超えるという事だ。
『あの真雪さんと闘っていた時のスピードさえ本気じゃなかったと言う事か…』
しかし、薫が本当に驚いたのはスピードの事ではなかった。
『恭也君には、真雪さんの居合を避けた瞬間移動のような不思議な体術がある…』
だから避けられる事は多少は考えてはいた。
本当に驚いたのは、薫の突きを『払った』事であった。
突きを防いでる時から、砕けた左の小太刀よりも遥かに衝撃を受けていたにも関わらず、今まで以上に霊気の篭った一撃を払ったのだから…
『とうに砕けて当然なのに…恭也君の右の小太刀は刃こぼれ一つしていないなんて…』
全体重を乗せた突きを払われ、バランスを崩した薫に替わって、右の小太刀―『八景』の白刃を煌かせて、恭也が攻勢に出た。
『予備の小太刀を懐から取り出している余裕はないな…』
右手の小太刀を中心に体術を交えて薫に攻勢をかける。
最早完全に恭也にも余裕はない。
今まで多少、様子見も兼ねて敢えて薫の攻勢を受けていたが、それが己の慢心であった事に気が付いた。
「わかっていた事のはずだ…。薫さんの剣が実戦向きであることくらい…」
薫が海鳴に来た初日、勇吾との手合わせを見た後で神社で話し合った時、確かに恭也はこう言った。
「あなたの剣が道場で振るうための物でないことくらい解っていました。
先ほどの勇吾との打ち合いの時、気迫は有っても殺気が全くこもっていなかったから…。ただ貴方は…」
あの時言ったように殺気と霊気が篭った薫は最強の相手だった。
そして言いよどんだ言葉の続き。
それを薫に伝えるためにも、恭也は薫に勝たなければいけなかった。
薫の左腕に向かって5番鋼糸を絡める。
ちなみに今回の闘いにおいて恭也は、肉眼で把握しずらい0〜4番鋼糸は、薫の身体には使わない事にしていた。
鋼糸で首や腕を切断してしまったら、いくら十六夜でも助ける事はできないだろうという配慮であった。
『殺すつもりで…』とは言っても、と言う事である。
薫は絡められた鋼糸を外すために左手を剣からはなす。
そこに恭也が飛び出し、鋭い一撃で切りつける。
十六夜のような長刀を、女の薫が片手で扱うのは不可能だ、そこを突いた作戦であった。
薫は何とか恭也の一撃を後ろに飛んで避けようとする。
しかし、
「遅い!!!」
スピードでは、やはり恭也の方に分がある。
あっさりと恭也に追い詰められ、恭也の一撃を避けきれない間合いに入ってしまった。
「もらった!!!!」
恭也のスピードに乗った一撃
…なんとか身体をひねり受けるダメージを逸らす。
しかし逸らしきれずに、恭也の八景は薫の右肩をかすり、薫の式服を紅く染め上げた。
なんとか左手の鋼糸を外し改めて恭也と対峙する薫。
恭也もその隙に懐から小太刀を取りだし構えを取る。
先ほどと違い、恭也から一気に間合いを詰め、左右の小太刀の斬撃に蹴りを加えた攻撃で圧倒していく。
斬撃の速度、身体のこなしの速度、反応速度。
その全てが、恭也に劣る薫は、防戦一方になっていた。
じりじりと後退しながら、ひたすら恭也の猛攻に耐える薫。
その身体には浅い物ながら、おびただしい傷跡がつき、衣服もあちこちが破れて薫の白い肌が露出している。
何度目かの苦し紛れの攻撃、そして恭也の間合いから離れようとするかのように距離を取ろうとする。
「薫さん、まだ解らないんですか?薫さんのスピードじゃ俺を振り切る事などできないと…」
薫が離れようと、常人には消えた様に見えるほどに早い体捌きで取った間合い。
しかし、御神の剣士である恭也には、薫の動きすらも遅く見える。
また一気に距離を詰め恭也の猛攻が始まる……はずだった。
恭也は考えるべきであった。
何故薫ほどの剣士が何度も、
恭也の猛攻→薫の苦し紛れの攻撃→後退→再び恭也の猛攻にあう
のパターンを繰り返していたのかを…。
一気に間合いを詰めた恭也が、不意にバランスを崩した。
足元には木の根が張り出していた。
薫に木の根が張り出している所まで誘導されたことに気付き、思わず舌打ちをする。
「神気発勝…」
一方薫はこの機会を見逃すはずも無く技をくりだす。
「神咲一刀流 真威楓陣刃!!!」
霊剣十六夜の刀身がボウッと燃えるように光を放ち始め、それが恭屋に叩きつけるように放たれた。
恭也はそれを大きくバックステップでかわし、飛針を放つ。
それを刀で弾きながら、鋭い踏み込みから薫の剣が上段から振り下ろされる。
恭也は二本の小太刀を交差する形でそれを受け止めた。
ガキ―――ンッ…
闇夜に響く無機質な衝突音
恐らく小太刀一本では防ぎきれずに刀を弾かれていたであろうほどの一撃。
鋭い踏み込みからの強力な一撃…
これこそが薫の使う神咲一刀流の真髄である。
「先の先」を取る剣。
「後の先」の真雪のような無限のバリエーションや、状況による変化を持つ柔軟性は皆無。
全ての敵を一刀のもとに切り伏せる、作戦も妥協も無い。
純粋なほどに一途な剣があった。
恭也が牽制に放った鋼糸を嫌う様に、一端距離を取るようにはなれ、闇にとけこむ薫。
そんな薫を見て恭也は驚いた。
確かに薫の剣の腕は一流だ。
それは日常の、まったく隙の無い雰囲気ですぐにわかった。
しかし、ここまでのものだとは正直思わなかったのだ。
剣の威力という点では女性としては凄まじい物であるが勇吾よりも劣る。
また、斬撃の鋭さという点では御神の剣を振るい、すでに免許皆伝の腕前を誇る美由希に劣る。
一流の腕を持ってはいるが、超一流の剣の腕を持つ恭也が薫に押されることは有り得ないはずであった。
しかし、それはあくまで道場でする試合での話であるらしい。
今現在行っているような『死合い』では、勇吾はもとより、時に恭也すら凌ぐ美由希でも勝てるかどうか…。
「圧倒的に実戦経験に差がある…」
間合いの取り方外し方、障害物の利用の仕方。
まさに闘いの駆け引きと言う点で、遥かに薫に劣る事を恭也は痛感せずに入られなかった。
そして駆け引きは全て実戦で自然に身に付ける物である。
恭也は、多少は実戦の経験がある。
しかし、10にも満たないころから、霊障と呼ばれる人に仇を為すものと命がけで闘ってきた薫とは、比べ物にならない。
「まさか実戦で御神の剣士の上を行くとは…」
まさに実戦のための剣術、それも裏社会やSPなどの世界でその名を轟かす御神の剣。
しかも、その達人である恭也が実戦の駆け引きでここまで追い詰められるとは…。
「恐るべきは一灯流か…」
『薫ちゃんは本当は優しい人なの。
だけど持って生まれたその霊力の巨大さから、一灯流の当代として闘う運命を持たされてしまって…。
神咲の歴史上最速の十六夜の継承、『当代』と呼ばれているけど、きっと優しい薫ちゃんは辛い事が一杯あったと思うの…』
那美の言葉が脳裏に浮かぶ。
本当に嬉しそうに微笑んだ時の薫の笑顔は、年齢以上に幼く見えて可愛かった。
「恐ろしいのは一灯流じゃなくて…神咲薫…か…」
そんなことを考えながらも、四方を警戒しながら構えを取り続ける恭也。
一分、二分、と全く物音もせず気配も感じられない。
恭也が痺れを切らし、微かに精神が弛緩したその刹那の瞬間に、恭也の後背から凄まじい一撃が唸りを上げて迫りくる。
完全に虚を突かれた!!!。
『避けきれない』
恭也がそう思った瞬間に、世界は色を失いスローモーションになる。
御神流奥義の歩法『神速』の発動である。
ゼリーの海を泳ぐような不思議な感覚の世界で、恭也は薫の攻撃を避けて一度距離を取り気配を殺す。
一方薫の方は、
「何ッ…?」
ブンッ
完全に決まるはずだった渾身の一撃は、ほんの一瞬前まで確かに恭也が居たはずの空間を空しく通過した。
「どういう事だ?」
『あの時、真雪さんの居合を外した時と全く同じ現象だ…
まるで瞬間移動の様に空間から消える』
「御神の剣を極めし者はまさにと刻を支配するものなり…か」
真雪に聞いた、御神についての伝承の一説を思い浮かべる。
瞬間移動……薫が困惑するのも無理の無いことだった。
恭也の実力を持ってすれば、あの会心の一撃とて思わず薫が発した殺気を敏感に察知すれば、かわす事ぐらいは可能かもしれない。
しかし、バランスを崩すことは確実で、そこを自分がしとめる。
それが薫の描いたシナリオであった。
本来、今の一撃は、普通ならよけられた場合を想定する必要など無いくらいに完璧な一撃だった。
にも関わらず、恭也はバランスを崩すどころか、薫にまったく気付かれないまま姿を消した。
そして今は気配すら感じられない。
薫は自分が今戦っている相手が、20歳にも満たない高校生だと思うと苦笑してしまう。
「全く…末恐ろしい子だな…」
薫は自分を中心に半径3メートルくらいの霊力の結界を張った。
例え真後ろでも死角でも、この結果以内に入れば、たちどころに薫は反応することが出来る。
薫は次に恭也が現れた時に残る全ての力をぶつける事に決めた。
もともと、体力では男に敵うわけが無い。
となれば、長期戦になればジリ貧になるのは目に見えている。
薫は持てる全ての力と霊力を『霊剣・十六夜』に注ぎ込んだ。
退魔の道を行くことを決めた時から、自分と共に在る、最も信頼のおける『家族』を握る手に知らず知らずのうちに力がこもった。
一方の恭也もまた短期決戦を望んでいた。
恭也の耳にフィリスの言葉が響く。
「いいですか、恭也さん。あなたが本気で闘えるのは30分間。それ以上は右膝がもちません。」
子供のような外見とは裏腹に、医者として超一級の彼女の診察なら間違いは無いだろう。
現に先程の神速の負担も手伝って、恭也の膝は激痛と言う形で脳に向かって、「限界が近い」というシグナルを送り続けている。
「もう少しだけ…耐えてくれよ」
恭也は自分の右膝にむけて呟いた。
この右膝は『証』。
幼い自分の愚かさの証、
二度と諦めないと誓った証、
諦めないことを教えてくれた女の子との出会いの証、
その女の子のお姉さんの手の温もりが夢じゃなかったことの証。
「30分まであと10分…神速はあと2回が限度か…。よし、行くか」
恭也は右手の『八景』を握りなおすと初恋の女性の許へと急いだ。
最後の攻防に出るために…。
完全に気配を殺し薫の後ろを取る。
こと気配を殺す事に賭けては、恭也は薫よりも遥かに優れている。
御神の剣は暗殺なども請け負っていたのだから当然の話である。
薫は自分の後ろに恭也が居ることに少しも気付いていない。
しかし薫まであと3mの位置に立った時、恭也は背中の毛が全て逆立つのを感じた。
『ヤバイ…これ以上の接近はヤバイ。
何故かはわからないがそれは確かだ…』
恭也は紛れも無く天才だったのだろう。
恐らく歴代の御神の剣士の中でも、開祖と並ぶほどに…。
生まれ持った闘いの直感とも言えるような、危機察知能力がヤバイと警告を送っている。
ここが勝負の分かれ目であった事は間違い無い。
もし恭也が後ろを取った事に安心して、無策のまま薫を背後から襲ったなら、恐らくは結界によって察知され、練りに練った薫の霊力全てを込めた必殺の一撃が、恭也を打ち砕いたであろう。
恭也が一計を図った事により、再び勝負はどちらに転ぶかわからずに迷走していった。
クン…
恭也が腕を引いた…
すると薫の周りの木々が、時間差で薫に向かって次々と倒れていく。
今恭也が引いたのは0番鋼糸。
0番鋼糸で回りの木々を切断して、その気配に紛れて薫に攻撃すると言う作戦であった。
実際向かってくる巨木に気を取られ僅かに…それは、1秒にも満たないほどに僅かな時間であったが、恭也への反応が送れる。
しかし、超達人レベルの闘いではそれすらも命取りであった。
「神気発勝…真威・楓陣刃」
一瞬の遅れが無ければ、恭也は神速の領域に入ることもできずに敗北していただろう…。
しかし、刹那のタイミングで辛うじて神速の領域に入る。
薫の剣は先の先を取る超攻撃的な剣術。
同じ薩摩の示現流のように、最強の初太刀を避ければ隙が生じる…。
その隙をつく…。
これが恭也の作戦であった。
そして実際に最強の初太刀を避けたところで神速から抜け出して、攻撃を決めようとしたのだが…。
ここで再び恭也は神咲薫と言う人間の、凄まじさを見せつけられた。
闇に煌きながら薫の刀が唸る
「追の太刀・疾」
出てくるとは思えない…
一撃に全ての力を込めるからこそ…
その後のことは省みずに、全能力を注ぐからこそ、あれだけの威力を誇る、最強の初太刀を放てるはずなのに…
「ありえない…何故連続で二撃目が出る!!!!?」
ガキッ…
驚きながらも辛うじて追の太刀を防ぐ。
しかし全く予想外の一撃であったために、完全にバランスを崩している。
…そこへ
「閃の太刀・弧月」
バランスが崩れきって片膝を付いた体勢のために、神速に入ることはできない。
なんとか本能で左の小太刀で防ごうとするが、無銘の小太刀など薫の霊力が漲っている霊剣十六夜の前では、枯れ枝も同じであった。
バキッ!!!
再び砕かれた小太刀の破片が、月の光を浴びて輝きを放つ中で、恭也の身体は十六夜の刃を受けていた。
致命傷ではない…。
砕けた小太刀のおかげで、多少斬撃が鈍ったためである。
しかし、滴り落ちる血の量が傷の深さを物語っていた。
「一灯流の敵は人間じゃない…。
一撃で倒せる保証なんて無い。
だから数々の追撃が可能な様になっているのは当然か…」
自分の考えの甘さを自嘲気味に口にする恭也。
しかしもう一つ不可解な点があった。
『何故、神速から抜ける場所がわかっていたかのように、あの位置に追の太刀が来たんだ…』
恭也の疑問を見越したように薫が答える。
「十六夜は君と同じように動く事はできない…しかし気配を感知する事くらいはできる…」
作戦を破られ、頼みの神速すら見破られた…。
もはや恭也に勝ち目など無い…。
しかし負けるわけにはいかなかった。
御神の理は『闘えば勝つ』
しかし、それ以上に恭也はこの闘いだけは、勝たねばならなかった。
神咲薫にだけは負けるわけには行かなかった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
森に恭也の声が木霊する…。
最後の力を振り絞り、恭也は薫に真正面から向かっていく。
薫の剣が上段から振り下ろされる。
それを掻い潜るように神速に入る…。
「無駄だ…!!恭也君。それは十六夜の前には通用しない」
恭也は未だ神速の世界に居るだけ…
神速の世界を極めてはいない…。
本当に『極めた御神の剣士』は神速を『支配』する…。
『御神の剣を極めし者は刻の支配者なり』
その言葉の真の意味は………神速の二段掛け。
一瞬フィリス先生の言葉が蘇える
「いいですか。恭也君、君の膝は限界にきています。3回以上神速を使った時には、あなたの膝は、恐らく取り返しのつかないことになります」
神速の世界の中で再度神速を使う。
本日『4回目』の神速…。
モノクロームの世界はさらに色を失い、対象以外の物は全て視界から消え去った。
そんな不思議な感覚の中で、全身に一トンずつ重りを付けられたような鈍い動きでゆっくりと薫の背後に回る。
ゴキン……
右膝で静かに、恭也の剣士の寿命の終わりを告げるベルが鳴った。
「薫!!突然恭也様の気配が完全に消えました」
「えっ?」
「十六夜…」どういうことと、言葉を続けることはできなかった。
薫の喉元で恭也の『八景』が鈍い光を放っていた。
「俺の勝ちです…薫さん」
そう言った時に、恭也の意識は暗黒の淵に落ちていった。